五十八話 初依頼
後ろを振り返ると、そこには俺が昨日追っかけた三人組がいた。
「ええと、まあ、はい。今日カードをもらったばっかりです」
「そうか!なら、俺たちと組まないか?」
おっと。いきなり誘われたぞ。
どうしようか。っつっても、ここで断ってもあれだしな。
それに、三十路くらいの人はなんかベテラン感があるし、この人からイロハを学んだほうが色々効率いいかもな。
「あ、じゃあお言葉に甘えて」
「よし、決まりだ!――俺はダグラス。んで、こっちがラルフで、こっちがエレンだ。……きみは?」
三十路くらいの人――ダグラスさんは、両脇の二人、革鎧を着た少年ラルフと、でっかい杖を持った少女エリーを紹介した。
「リオ・クライヴです。よろしくお願いします」
「リオ、だな!よぉし、まずは向こうに座ろうぜ。何ができるのかとか、もうちょっと詳しいことを聞きたい」
俺はダグラスさんに促されて窓口の隣の食堂の空き席に座った。
他の二人も後に続いて、四人でテーブルを囲む。
「んで、そうだな……。どのくらい体力あるんだ?ああ、それと戦えるか?」
ダグラスさんはそう聞いてきた。
体力は、ある方だろう。鍛えてるからな。
そして戦いはまさしく俺の一番得意なことだ。まあ、そこまで自信満々には言わないが。
「えっと、体力は自信あります。魔法が使えるので戦闘もできると思います」
「すごい、魔法が使えるんだ!私もちょっとだけど使えるよ!」
でっかい杖を持った女の子、エレンが大きく反応した。
やっぱりその杖は魔法の杖なのか。本人の身長くらいあるでかい杖だ。学院じゃそんなに大きい杖は見たことないが。
「じゃあ、あの赤いヤツは使えるの?」
革鎧の少年、ラルフがそう聞いてきた。
赤いヤツ?
「攻撃呪文!」
エレンがすかさず突っ込みを入れる。
ああ、攻撃呪文のことか。
「使えます」
「おお!そいつは頼りになるな、じゃあいきなり討伐依頼でいいか。……ちょっと待ってろ」
ダグラスさんはさっと立ち上がり、掲示板の方へ歩いて行った。
ふうむ、トントン拍子で話が進むな。あの人はこういうことに慣れてる感じがあるな。
「……ダグラスさんってどんな人なの?」
俺はちょっと聞いてみた。
「あの人はすごい人だよ!もうずっと冒険者をやっていて、ゴールドランクなんだ。この辺りの地形とか、どの辺にどのモンスターがいるとか全部知ってる。何年か前に怪我しちゃったらしいんだけど、その時から俺たちみたいな新米が一人前になるまで面倒を見る、ってことをするようになったんだ」
ラルフが若干興奮気味に言った。
ああ、なるほど。怪我して最前線でやっていけなくなった代わりに、後進を育成するベテランか。
「よし、依頼を受注してきたぞ。山ゴブリンの退治だ。目標は十五体以上!」
ダグラスさんが戻ってきた。
山ゴブリン、ねえ。まあ、ゴブリンっつうのは人間の半分くらいの身長の小人のモンスターだが、ゴブリンにも色々いるのか。
ダグラスさんは詳しい依頼内容を改めて俺たちに説明した。
そして俺たちは冒険者協会を出て、目的地に向かった。
「山ゴブリンは街道を通る人や馬車を襲う。だから、街道を歩いてりゃそのうち出てくる」
俺たちは城門から町を出て、街道を歩いていた。
普通に街道歩いてるだけで出くわすのか、意外と危険だな。
「奴らは普通十から二十の群れで襲ってくる。いきなりくるから、常に戦える準備をしておけよ」
しかも群れでやってくるらしい。
だが、今のところそのような気配はないな。
俺は一応、超聴覚の呪文を使っているが、何か群れが俺たちを狙っているような物音はない。
それからしばらくは特に何事もなく俺たちは街道を巡回していたが、ついに来た。
「――!!」
街道の両脇から、ガサゴソという物音が複数聞こえる。
音がする方に目をやるが、姿は見えない。
「ん?どうした」
ダグラスさんが聞いてきた。
「……たぶん囲まれてます。両脇から来ます」
「なんだと?――確かにいるな。ラルフ、エレン、構えろ!俺は左側に行く。三人は右側をやれ」
おお?見えるのか。
俺は言われた通りに街道の右側に移動した。
そして、続いてラルフとエレンがこっちにくると同時に、岩陰、茂みの中などから、一斉に小人が飛び出してきた。
「――≪ウフェンデ≫」
俺の放った攻撃呪文が、まっすぐゴブリンの胸を貫いた。
一拍遅れて俺の後ろからエレンの攻撃呪文が飛び、ラルフは剣を抜いて俺たちの前に出た。
今俺たちの側にいるゴブリンは七体。そのうち三体がラルフの方に襲いかかり、残りの四体がこっちに向かっている。
体格の割にはずっと素早い動きでこっちに来ているが、まあこの程度なら問題ない。
俺はまずラルフに向かっているゴブリンを一体、攻撃呪文で撃ち抜いた。
すぐさま風の呪文で砂埃を巻き上げて俺たちの方に向かっている二体を足止めし、他の二体を≪ウフェンデ≫を連発して倒す。
ラルフの方を一瞬伺うと、すでに一体を倒して残ったゴブリンと一対一になっている。
俺は砂埃で足止めした二体の方に杖を向けて攻撃呪文を放った。
同じくらいのタイミングで放たれたらしいエレンの攻撃呪文が、それぞれゴブリンを同時に撃ち抜く。こっちの側はだいたい片付いたか。
左サイド、ダグラスさんの方は残り三体だ。
俺はその内の一体をその場から攻撃。そしてダグラスさんが剣の一振りで二体を薙ぎ倒した。
ラルフも残ったゴブリンを倒したようだ。
周囲を見渡すと、右サイド八体、左サイド六体で十四体のゴブリンが転がっている。随分とあっけなかったな。
「え、えぇー……。もう終わっちゃった……」
エレンがぼそりと呟いた。
「リオだけで何体倒してるんだよ……」
まっ。魔法使いですから。
「こいつは驚いた!こんなに戦えるとは思わなかったぜ。……よし!もっといくぞ!依頼はあと一体で達成だが、倒せば倒すほど報酬は増える。今日は稼ぐぞ!」
ダグラスさんがそう号令をかけた。
なるほど、ノルマの超過分は報酬に上乗せされるのか。それは素晴らしい。
その後、俺たちは日が暮れるちょっと前までゴブリン退治を続け合計で百体近くを退治、最終的な報酬は最低限ノルマを達成した場合の数倍に上った。
「いよぉし!今日は俺のおごりだ、どんどん食え!たんまり報酬を貰ったからな!」
わあい。
「ねえねえねえ!どうしたらあんなに強い攻撃呪文を撃てるの?」
ええ?
うーん。
「……練習かな」
「全然新米の強さじゃないじゃん!エレンなんか最初の時は十回に一回くらいしか魔法が発動しなかったのに!」
「ちょ、ちょっと!そういうこと言わないでよ!……でも、わたしたちと同じくらいの年で、そんなに魔法が使えるなんて。ダグラスさんとどっちが強いかな?」
そういえば、ダグラスさんは剣一本の白兵戦スタイルだが、俺とそんなに違わないくらいゴブリンを倒していた。
というか、身体能力が結構すごい。たぶん俺が身体強化の魔法を使ってもダグラスさんの方が上だ。ちょっと人間を逸脱している感じがある。
「そういやリオは魔法学院の生徒だったか。あそこの生徒はみんなリオみたいに強いのか?」
「いや、まあ、俺は強い方だとは思いますよ。俺くらい戦えるのは結構いますけど」
「す、すごいところだね……」
俺は話しながら、ベルやマリー、そしてオークスやアレン、ルイス、ボーヴォラークのことを思い出した。
一緒に共闘したり、熱い戦いを繰り広げた、友だったり、腐れ縁だったり。
はあ、なんだかものすごい昔のことのように思えてくるな。つい何週間か前の話のはずなんだが。
冒険者協会での賑やかな食事を終えたあと、俺は三人と別れて高級宿に戻った。
ここも今日寝たらあと一日で引き払わないといけないからな、次を探さないと。
俺はあと一回しか味わえない、この部屋のベッドの感触を心に刻みつけながら眠った。




