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五十三話 馬車の旅

 夜にどっかで飯を食うまでヒマになってしまった俺は、タルバ村を適当にフラフラしていた。


 んー、なんとなく視線を感じるな。

 まあ、十二の見知らぬガキが一人で歩いてりゃ当然か。


 ゆったり散歩して二時間くらいが経った。

 もう村は全部巡ってしまった。そんなにおもろいもんはなかった。まだ日は暮れていない。


 ヒ、ヒマなんですけど。


 しょうがない、馬車に戻ってグダグダしてるか。くそ、日本でも割とそうだったがこっちの世界でもひどい出不精だからな。時間の潰し方がわかんねえ。


 馬車に戻った俺だったが、別にやることがあるわけでもない。アンナさんの本は一応持ってきているが、読むとこないしなあ。

 まあ、適当に魔法で遊んだり昼寝でもしていよう。


「――おや、お客さん。馬車にいらしたのですか」


 ぐでーっとしてるうちに日が暮れた。

 そろそろ飯でも食いに行くかな、と思ったら御者さんに声をかけられた。


「あ、どうも」


「わたしはこれから夕食なのですが、よかったら夕食をご一緒しませんか。一人にさせるのもなんだか忍びなくて」


 おお、超優しいぞ。

 ありがてえ。


「いいんですか?じゃあ、お言葉に甘えて」


 俺は御者さんについていって、素朴な面構えの宿屋に入った。


 中に入ると、すぐそこに不揃いな木のテーブルや椅子がいくつか並んだ食堂があった。宿屋に併設されてる感じか。


「ええと、居酒屋ですが。お酒は平気でしょうか?」


「まあ、弱くはないです」


 学院の夕食にも結構出てくるしな、すごい度数の低いワインみたいなの。

 それに、ぶっちゃけ魔法でどうにかなるしね。酔わないってだけで、肝臓へのダメージとかが大丈夫なのかはよくわからんが。そこんとこちょっと怖いので、俺はあんまりお酒を飲まないようにしている。


 俺たちは適当な席に座り、店員を呼んで料理を頼んだ。


 俺は居酒屋の中を見渡してみた。そんなに広くはない。多分定員は二十人くらいだろう。

 俺たちの他にも六人の客がいた。全員旅をしてる格好に見える。五人がおっさんで、一人が女の人だ。


「おまちどう」


 お、料理がきた。


 なんかのハーブの香りがついた肉と芋と玉ねぎのスープと、芋の卵とじ、そしてパンが何切れかと、これはビールか何かか?

 流石に学院の料理と比較しちゃいけないが、これはこれで美味そうだな。芋率の高さにびびるが。つか栄養バランス!カロリーは高そうだけど。


「お客さんはどこの寮ですか」


 ん?

 食べていると、御者さんが聞いてきた。


「えっと、“若草色のツバメ寮”です」


「おお、わたしもそうです!ラズール先生はまだ寮監をやっていますか?」


 うお、まじか。

 この人もツバメ寮だったのか。


「ええ、すっごい元気です」


「そうですか、それはよかった。あの先生は――」


 その後、俺たちは学院話に華を咲かせて食事を終えた後、馬車の方に戻ってきた。


「では、わたしはあそこの宿に泊まります。お客さんは馬車でお休みになられるということで。……また明日」


 御者さんは俺にそう言ってから、元来た方へ消えていった。

 

 俺は馬車の中に戻り、座席に寝転がった。

 ふう、俺も寝るか。


「――では早速出発しましょう。今日はまた夕方になる前くらいに村についてそこで一泊します。その次の日にヘルムトにつきますよ」


 夜が明けた。

 馬車の座席の寝心地は予想通りなかなかよかった。

 俺と御者さんは昨日と同じところで朝飯を食ってから村を出発した。

 今日入れて後二日か、まあ俺の三日くらいで着くという見立てはけっこう正確だったわけだ。


 次に着いた村もタルバ村と似たような感じだった。

 俺は御者さんと飯を食って、馬車で寝た。


 翌日、朝飯を食ってすぐに馬車は出発した。予定通りなら今日ヘルムトに着くはずだ。確か昼過ぎくらいだっけ。


 しばらくすると、馬車の窓から見える景色も少し変わってきて、なんとなく標高が上がってきた感じがあった。


「ここはもうセープラ山脈に入っています。結構な山道ですが、この子なら問題ありません」


 確かにぐねぐねとした道をどんどん登っていっているようだが、速度がそれほど落ちた感じはない。さすがはユニコーン、早いし疲れ知らずか。


「道が広くなったでしょう。町に通じる街道です。ヘルムトに着くまでもうしばらくですよ。山脈の中の盆地に造られた町ですから今はまるで見えませんが、そのうち一気にひらけますよ」


 へえ。

 馬車の窓から外を覗くと、もう結構登ってきている。コーヒーが育つくらいの高度はありそうだ。


 それからまたしばらくして、道は緩やかな長い下り坂になった。

 これまでもちょこちょこ登ったり下ったりはあったが、こんなに長く下ったことはないな。


「さあ、見えてきましたよ!前をご覧ください――あれがヘルムトの町です」


 御者さんの言葉に従って、俺は馬車の前の方に行って前方を見た。


 ……おお。


 なるほど、確かに視界が一気にひらけた。


 遥か遠くには、雪をかぶったかなり高い山々が連なっている。あのどれかが目的地のモンス・エルブスだろうか。

 眼下に目をやると、かなり広い盆地に造られた大きな町が見える。

 盆地の縁をなぞるように城壁が経ち、城壁の内側に町がある。

 全体的に赤っぽい建物が所狭しと建てられている。不規則な曲線を描く何本かの太い道や、いくつか広場みたいなのも見える。町の真ん中あたりにはちょっと大きいお屋敷があるな。町長の家か何かか?


 しばらく下っていき、町を見渡すことができなくなった頃、今度は城壁がだいぶ近づいて城門が見えるようになった。


「さて、そろそろ到着です。ここまでお疲れ様でした」


 馬車はすぐに城門について、しばらく検査か何かをやったあと門を通り、俺は御者さんに運賃を払って別れた。


――セープラ山脈中央部、竜の巣があるモンス・エルブス山にほど近い町、ヘルムトに到着だ。

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