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五十二話 旅立ち

 馬車の窓から見える景色が爆速で過ぎていく。

 電車を思い出すな。あれくらいの速さはある。


 俺は今、陸上の交通手段の中ではトップクラスの速さを誇るユニコーン馬車に乗っている。

 セープラ山脈中央部の麓、ヘルムトの町に向かう途中だ。


 アンナさんの本は、最初の数ページ以外全部白紙とかいうふざけた本だったが、残りの記述は世界各地の秘境に隠されているとのことだ。ったく、とんだお節介だ。


 というわけで俺の家から割と近く、アンナさん曰く最も簡単とのことだったので、俺は夏休みの残りの期間をセープラ山脈の探索に費やすことにした。

 竜の巣を探せ、とのことだが、セープラ山脈の最高峰、モンス・エルブスとかいう山にドラゴンがいる、というウワサはよく聞く。まあ、いるとしたらそこだろう。流石に嘘です、ってことはないよな?


 んで、旅に出ることを決めて、さっと身支度をしてユニコーン馬車を予約したのが昨日で、その翌日の今日に早速出発だ。我ながらすごい行動力!コーヒーが絡むとこうだ。


 ユニコーン馬車はものすごいスピードで走っているが、揺れはほとんどない。多分魔法か何かがかかってるんだろう。

 馬車の車内もラグジュアリーで居心地がいい。単純なスピードは学院の空飛ぶ馬車ほどじゃないがすごい馬車だ。その分お金かかるけど。

 今、この馬車に乗っているのは俺一人だ。

 高級馬車、独り占め!気分は貴族様だぜ。


「――わたしが言うのもなんですが、お客さんはずいぶんとお若いですねえ」


 御者の女の人が声をかけてきた。

 本人が言うように、御者さんもかなり若い女の人だ。あれか、ユニコーンだからか。こっちでもそう言う好みなのかもしれない。


「まあ、十二歳ですからね」


「なんと!親御さんは心配されたのでは?」


 心配、かあ。

 どうかな、そんなにされてない気がする。


「いやー……、あんまりしてない気がしますね。なんか出張でしばらく家にいないんですけど、家出る前に、これでどっか泊まってこい、ってお金渡されて」


「ひゃあ、豪快な親御さんですねえ。すると、ヘルムトの町には特にご親戚の方がおられるとかではなくて?」


「ああ、はいそうです」


「それは大変だ。――しかし、ヘルムトとはシブいチョイスですねえ。あそこは確かにセープラ山脈の麓で景色がきれいだし、特に今の時期は涼しくていいところですが。羽根を伸ばすにしても、いささか退屈してしまうのでは?」


「まあ、山、好きなんで」


 俺は適当を言った。

 何が、「山、好きなんで」だ!日本じゃ学校のイベントぐらいでしか登ったことないし。


「そうでしたか!ですが、登るのはお勧めしませんよ。あの山脈の奥、一番高い“モンス・エルブス”にドラゴンが住み着いていることは有名ですが、あの山脈にはドラゴン以外にも危険なモンスターがたくさんいますからねえ。最近では盗賊もうろついているとの噂です」


 へー。モンスターはともかく、盗賊なんてのもいるのか。


「いや、流石に眺めるだけですけど。まあ、一応魔法は使えるんですが」


 俺はまた適当なことを言った。

 うそです。がっつり登る気です。ドラゴンの巣に忍び込む気です。魔法は使えるけど。


「へえ、魔法が!するともしや、お客さんは王立魔法学院の生徒さんですか?」


「はい」


「おお!わたしもつい二年前にあそこを卒業したばかりでして。……なにやら今年は大変だったそうで。二度もワイバーンの群れに襲撃されたと聞きました」


 おおー、この人は学院の卒業生なのか。

 まあ、この馬車も魔法技術の賜物っぽいし、御者さんが魔法使いなのは当然か。


「ええ、まあ、大変でしたね」


 何しろ戦ったからな。俺。

 まあ、どころかその裏の陰謀にまで首突っ込んだんだが。


「なら、モンスターや盗賊のごときは恐るるに足らず、ですね!」


 そうかな?

 まあ、ドラゴン以外にも手も足も出ないようなやつがワラワラいても困るが。


「……おっと、着きましたよ。タルバ村です。今日はここで一晩泊まります」


 御者さんがそう言った。

 窓から外を見ると、素朴な家がぽつぽつと建っているのが見える。のどかそうな村だ。


「この村は大きな都市からも遠いですし、ご覧の通り周りも険しい地形ですが。馬車の中継地点としてなかなかいい位置にありますから、宿屋や食事処の類は意外と充実していますよ。夜にならないと開きませんけど」


 へえ。

 あ、でも。この馬車で寝れたりとかしないのかな?座席とかフカフカで大きいし普通に寝れるから、ここで寝れたら宿代ケチれるんだが。


「あ、すいません。今晩この馬車に泊まったりとかってできますか?」


「ん?この馬車にですか?ええ、構いませんよ。まあ、お客さん一人ですからねえ。確かに宿借りるよりコッチの方がいいかもしれません」


 やったー。


「ありがとうございます」


「いえいえ。……では、わたしはこの子を厩舎に連れて行きます。また明日よろしくお願いします」


 御者さんは馬車の御者台から降りて、ユニコーンを引いていった。


 俺も続いて馬車を降りて、ググッと伸びをした。

 季節は夏真っ盛りだが、そんなに暑くない。

 すでにちょっと標高が高いところに来ているのかもしれない。いや、なんか川が流れる音が聞こえるから、それのおかげか?


 辺りを見渡すと、なるほど確かに険しい地形だ。

 村がある場所はそうでもないが、ちょっと外はかなり起伏が激しい。木々がまばらに生えているのと、明るい灰色の岩肌が――ああ、あそこから水音が聞こえる。川のすぐ近くなのか。よく見ると水車もあるな。


 さて、正午はとっくに過ぎているが、日が暮れるには少し遠そうだな。

 まあ、夜になったら飯を食うとして、それまでヒマだな。適当にフラフラするか。

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