四十七話 正体
「……」
司書さんの顔は、レベッカさんの顔に変化した。
よく聞くと声も変わっている。
「魔法で姿と声を変えたのか……!」
「驚くようなことですか?魔法使いなら、その程度のことは造作もないでしょう」
「……いつからですか?おととい、試験前日に俺はあなたに会った。司書さんにお土産を渡した。だから――」
「――ッフ、フフフフフフフフ……!」
俺の言葉を聞いたレベッカさんは、心底おかしい様子で笑った。
「すると、あなたは私とミランダが昨日か今日入れ替わったとでも?……フフ、見当違いも甚だしい――表彰式の襲撃の時はすぐにやってきたというのに」
――なんだって?表彰式!?
「じゃあ、あの時!」
「ええ。私がちょうどミランダを気絶させて変身した直後でした。図書館の襲撃は思ったより上手くいきましたが、まさかあなたがやってくるとは思いもよりませんでしたよ。それに、存外に手厚く捜査された。あの時は流石にひやりとしました」
図書館の襲撃はあったのか。
そしてその犯人は、この人だったんだ。司書さんじゃなく!
「……なら、俺がおととい会ったレベッカさんは、何者ですか?」
「同じこと。私がミランダに化けたように、私の同志が私に化けていただけのことです」
そう言えば、バトルロイヤルの時、この人に連絡をしていた奴がいたな。やっぱり組織があるのか。闇の魔法使いたちの組織が。
「……“黒い冠団”ですか?」
「いいえ、我々は新たなる闇の魔法使いの集団です。あの組織は完全に壊滅しましたからね、グレンヴィル卿を残して。……ですが、復活の暁にはそう名乗る可能性はある」
じゃあ、特に“黒い冠団”は関係ないのか。闇の魔法使いの組織がポンポン生まれるとは、嫌な世の中だ。
「ど、どうして!」
ん?
マリーが叫んだ。
「どうして、こんなことをしたんですか!?」
「どうして?まあ、直接的には組織の命令を受けたからですが。……そうですね、私が組織に入ったのは――闇の魔法に傾倒したのはそこの妹が原因ですよ」
やはり、闇の魔法使いの組織か。
いや、それより。司書さんが原因だって?
「憎たらしい女です!私より一年遅く生まれたというのに、私の先をいっていた!全てにおいて!誰も彼もが百年に一度の天才、ミランダ・シーリーを褒めそやし、その陰にいる姉になど気づきもしない!……大臣だけは熱烈に私を勧誘してくれましたがね、ミランダの付属品として!」
いきなりものすごい剣幕で怒鳴り始めた。
しかも足元の司書さんをガンガン踏みつけながら、だ。
「私の足元にも及ばないような馬鹿共が“姉もそれなりに優秀”などと私を評する!赤の他人に過ぎない妹が優秀というだけで、私に勝ったような気でいる馬鹿共が!……卒業してこの女が司書になったことでもう比較されないかと思いましたが甘かった!どこへ行っても“ミランダの姉”!いつまでも呪いのようにこびりつく妹!到底我慢できるものではない!」
レベッカさんは般若のような表情で、決壊したダムのように怨念を吐き出していた。
しかし、急に穏やかな表情になり、落ち着いた声で語り始めた。
「ですが今は感謝していますよ。何しろ、この筆舌に尽くし難い憎悪の感情こそが、私の新たなる才能――闇の魔法の才能だったのですから」
猫なで声でそう言いながら、恍惚とした表情で杖を撫でるレベッカさん。
闇の魔法は、心の闇の発現。恨みや、憎しみ、嫉妬など、強い悪感情が源となると母さんや父さんから聞いた。
「なのでこうして、闇の魔法使いたちの組織に身を置いている訳です。そして私にはグレンヴィル卿の封印を捜索する中で、図書館を探す任務が与えられた。封印の有無に関わらず、あの図書館には何か秘密がある。ミランダ・シーリーに変装し潜入せよ、と。……私にしかできない任務です、外面だけは真似られても内面を真似られるわけではない。姉の私とて、あの気取った喋り方を真似するのは苦労しましたわ。ッフ、フフフフ……!」
レベッカさんは司書さんの話し方をわざとらしく強調して一人で笑っている。こ、こわっ。
しかし、お前にしかできないところ、とはそういうことだったのか。司書さんをもっともよく知る人物である、姉のレベッカさんしか、司書さんに成り代わることはできない。
「当然二つ返事で快諾しましたとも!――あの妹を、秘密を吐かせるために好きなだけ辱しめられる!まさしく私の悲願!」
今度は喜色満面の表情でそう言った。
だいぶキてるな。ちらっとマリーの様子を伺うがドン引きしてる様子だ。
「フフ、ミランダはよく耐えてくれましたとも。……ここを吐かせるのに何週間かかったことか!いじらしくも私のあらゆる呪いに抵抗し、辱めに抗う様は憎たらしいやら可笑しいやら――まあ今は腹立たしくて仕方ありませんがね、結局のところこの女はどの本にグレンヴィル卿が封印されているのかを知らなかった!」
やっぱり校長は司書さんにも教えてなかったのか。
「おかげでこの夥しい数の本の嵐の中から、たった一冊の本を見つけ出す羽目になっている。ですから――」
……なんだ?
レベッカさんは杖をこちらに向けた。
気味の悪い薄笑いを浮かべている。
「フフ、折角いらしていただいたのですから、憂さ晴らしに付き合ってもらいましょう。廃人同然の妹を蹴り飛ばすのにも飽きました。……何、すぐに殺しはしませんよ。多少は抵抗してくれないとつまらないですからね」




