四十四話 陰謀
いよいよ学年末試験当日がやってきた。
最初の科目はいきなり魔法理論基礎だ。重いわ!
「――全員静かに!筆記用具以外の物をカバンにしまってください。問題用紙と解答用紙を配布します」
おっと。
エインズウェル先生の登場だ。
エインズウェル先生は相変わらずキビキビとした動きでさっと問題用紙と解答用紙を配り、「不正行為には厳正に対処します」といった試験の注意事項の決まり文句を言った。
「それでは、解答始め」
んじゃ、始めるとしますか。
俺がペンを持ったその瞬間。
俺が持ったペンが突如としてカタカタと振動し始め、俺の手から飛び出すと、まっすぐエインズウェル先生の元へ飛んで行った。
え?なになになに?
「――これは、“思い違い探知ペン”!……クライヴ!!」
は?
エインズウェル先生は早足でズカズカと俺の元までやってくると、問題用紙と解答用紙を没収してしまった。
「まさかあなたがこのようなものを使うとは。なんと愚かしいことを」
「いや、あの」
「言い訳はあとで聞きます。出て行きなさい、今すぐ!」
俺はそのまま教室からつまみ出され、目の前でドアがぴしゃりと閉められた。
ええー?
何?心当たり、ないんですけど。なんですかそのペンは。
え、どうしよう。
いや、流石に教室に入り直して「妖精のいたずらです」とか訴える勇気はないぞ、正直。
はあ。
しょうがない。図書館にでも行くか。
あーあ、確か不正行為が発覚すると全科目ゼロ点なんだよなあ。
もしかしたら進級できない可能性もある。最初の試験でやらかしたらしいやつは普通に今もいるから、退学にはならないだろうが。
しかし、まあ、俺はそんなことしてないから誰かの仕業、ってことになるが、誰の仕業だ?
つっても、あの辺しかいないよなあ。アレンとかルイスとか、その辺の連中。
いやあ、マジ、ふざけないでくださいよ、本当に。流石に笑って済ませられることじゃないんですけど。
というか、エインズウェル先生もちょっとは俺の話聞いてくれたっていいんじゃないか?
あんな風に一も二もなく追い出されるとは。もう少し信頼されてると思ったんだが。
図書館についた俺は、どんな本を読もうか考えて、こういう時は飾らない文章で事実を淡々と述べている、図鑑のようなものが頭空っぽになっていいんじゃないのかしら、と思い、適当な図鑑を見繕って持ってきた。
ふんふん、なるほどなるほど。
へえ、そうなんだ。おもしろーい。
俺はハナクソをほじりながら図鑑を流し読みしていた。
内容を全く理解しないまま、一定のペースでページをめくる作業を繰り返しているうちに一種の瞑想状態に入り、だんだんと意識がふわふわしてきた。
……ふう、だいぶ精神が落ち着いた。
おっと、もう昼か。飯でも食いに行くかな。
その日の夜、俺は先生方に呼び出された。
俺はなんとか、「やってません」と主張しようとしたが、そもそも口を開かせてすらくれない有様で、話にならなかった。
結局、俺は今回の学年末試験全科目ゼロ点及び、特別課題の提出と夏休み中二週間の勤労奉仕を言い渡された。
「――先生たちはどうかしてる!一年間リオの何を見てきたんだ、そんなことをするやつじゃないなんて誰でも分かるだろ!」
珍しくベルが声を荒げている。
まあ、わざわざ夜遅くに迎えに来てくれたのと、怒ってくれるのは嬉しいが、ここ、普通の廊下なんだよなあ。
「やあベルハルト!そんなに声を荒げていてはみっともないな!」
ほうら、こういう奴がやってくる。
近年稀に見るにやけ面をした、アレン・マクヴァティだ。
「……ああ。ところでクライヴ。僕からのプレゼントは気に入ってくれたかな?」
こいつ。
やっぱりそうだったか。つうか隠す気がねえ。
「――この、アレン!!」
ベルが叫びながら杖をアレンに向けた。
おっと、そいつはまずいぞ。
「やめろベル!ここでそんなことしたらお前まで罰食らう」
「構うもんか!それに、こいつを突き出せば――」
「俺たちになんと言ってようが、先生たちにはしらばっくれるだけだ」
ベルは手を震わせながら杖をしまった。
俺たちをしばらく見守っていたアレンはつまらなそうな表情をした。
「……なんだ。意外と落ち着いてるじゃないか、クライヴ。それとも先生たちが自分の話を聞いてくれるとでも思ってるのか?」
まあ、ぶっちゃけ退学になんなきゃいいし。
それに、あまりにも叱り方が激しすぎて逆に冷静になっちゃったしな、なんか。
あ、この人なんかめっちゃ怒っとる、こわ。みたいな。
「別に俺はそこまで成績気にしてねえし」
「ふうん。大臣のお気に入りだからって余裕かい?でも、もし大臣の耳に入ったら――おっと、それでは失礼する。不正したバカと長話なんてしてたらバカがうつるからな!」
そう言ってアレンは早足で消えていった。
いやあ。いっそ清々しいな、ここまでやられると。
「……来年の決闘クラブは覚悟しておけよ。やっつけてやる」
ベルが重い声でそう呟いた。
もう結構遅い時間になっている。
呼び出されたのは夕食後だったし、無駄にガミガミ叱られて時間食ったからな。そういう意味では、ベルはともかく俺を煽るためにわざわざこんな遅くまで待機していたアレンには頭が下がるぜ、まったく。
俺たちはそのあと口を発することはなく寮の部屋に戻り、すぐに寝た。
次の日がやってきた。
本来なら試験二日目に臨むところだが、もう全科目ゼロ点が確定してるからな。俺の試験は昨日で終わりだ。
俺は暇なのでとりあえず図書館に行くことにした。
が、まあやることは特にない。昨日の今日で流石に勉強をする気にはなれないので、俺は昨日のようにハナクソをほじりながら図鑑を流し読みして瞑想することにした。
ゆったりとしたリズムを刻む、本のページをめくる音が俺の精神を瞑想状態へと誘う。やがて自分の思考が停止していき、ただ機械的に手だけが動く無我の境地へと――
突然、どたどたどた、と誰かが走っているような物音がして、俺の意識は現実へと引き戻された。
鼻の穴から指を引き抜いて、顔を上げると――なんと、なにやら泣き腫らしてぐちゃぐちゃの表情になっているマリーがいた。
「あ、あ……。リ、リオさん、わ、わたし。やってないのに……。魔法のペンなんて、持ってきてないのに……」
マリーは涙声でそういうと、泣きながらその場にうずくまってしまった。
こ、これは……。まさか第二の被害者、ということか?




