四十二話 疑惑
図書館に司書さんがいたか、だって?
「ああ、いたけど。特に変なことは――まさか」
司書さんを疑ってるのか?
「誰かが図書館を探索した、と仮定したらそう考えるしか……」
「いや、でもあの人は――そもそも本当に図書館にあったらとっくに見つかってないか?」
「まあ。そうだけどさ。……でも、仮に封印が図書館になかったとしても。司書さんが、その、やつらの側でない証拠にはならないけど……」
「た、確かに。……どうする?流石に先生に言ったほうがいいよな?」
「うん。先生たちもグレンヴィルの封印を狙ってることは知ってるはずだけど、リオが聞いたことは言ったほうがいい。それと、司書さんのことも一応」
「そうだな。……誰んとこ行く?ラズール先生でいいか?」
「それが一番だろうね。じゃあ、行こうか」
俺たちは寮監のラズール先生の部屋に向かった。
いやー、寮監がラズール先生で良かった。これがバーリスとかエインズウェル先生だったらちょっと二の足踏むぞ。ミセス・スクローザ先生は……どうなんだろうな?
コンコン。俺はドアをノックした。
そういやこの世界ってドアのノック回数のマナーとかあるのか?いや、今はどうでもいいか。
「失礼します。一年のクライヴと――」
「ライゼルです。ラズール先生はいらっしゃいますか?」
ちょっと間をおいて、「おお、クライヴ君とライゼル君か。今鍵を開ける、入りたまえ」と声が聞こえた。
鍵が開く音がしてから、俺たちはドアを開けて部屋に入った。
「こんばんは!クライヴ君、ライゼル君。何か用かな?」
隣に立っているベルが俺を肘で小突いた。
「あ、はい。……えーっと。今日、またワイバーンの襲撃があったじゃないですか。その話なんですが」
ラズール先生は顔をしかめて、「続けて」と言った。
「あの。……俺、昨日のバトルロイヤルで聞いちゃったんです。その――学院を襲撃したやつら、がグレンヴィルの封印を狙ってて、しかも、今日襲撃するって」
「なんと、それは誠か!……姿は見たのかね?」
「いえ、超聴覚の呪文を使ってたので。たまたま遠くで話してるのが耳に入った、て感じです。……それで、やつらはその隙に図書館を探索すると」
「図書館!しかし、ミランダからは特に何も聞いておらん」
「そのことなんですけど」
「……何かね?」
「あの、俺、襲撃の時に、図書館に行ったんです」
「馬鹿な!――いや、今それをとやかく言うのは詮無きこと。それで?」
「特に何も起きませんでした。俺は警報が解除されるまでずっと司書さんと一緒にいました。それで――」
「……ミランダを疑っているのかね?」
ラズール先生が俺の言葉を先取りした。俺は、「まあ、ちょっと」と答えた。
それにしても、普段の授業の時とは全く雰囲気が違う。なんというか、静かだ。
「うむ。確かに状況だけ見れば無理もない話かも知れん。――だが、ことミランダに限ってはそれはあり得ん!君は司書について知っているかね?」
「ええ、貴重な本とか、危険な本を守る番人だと言っていました」
「そうじゃ。そしてそれは、君が考えているより遥かに重い役割。この学院で司書を超える重い役割と言ったら、それこそ校長くらいのものよ」
えええ?
そんなにか。隣にいるベルも驚いた顔をしている。
「ミランダにはそれを任せるに足るだけの実力と――何より信頼がある。もし彼女がグレンヴィルの封印を狙う輩の手先だったとしたら、この学院の先生の全員がそうでもおかしくはない。特に何も起きなかったのは、ミランダを対策する計画か何かがあったが、失敗して撤退した、とかそんなところだろう」
な、なんじゃそりゃ。
「……まあ、他ならぬ君たちの言うことだ。それに、襲撃は実際にあった。気には止めておこう。――さて、話したいことはもうないかね?」
「あ、はい。大丈夫です。……失礼しました」
俺とベルはラズール先生の部屋を出た。
「……どう思う?」
「司書さんがあんなに信頼されてるのはビックリだな、本人も名誉ある仕事です、って言ってたけど」
「へえ、そうなんだ。……でもさ、どうなんだろうね。こう言っちゃあなんだけどさ、結局は信頼だけじゃないか。潔白を示したことにはならないよ。それに、ラズール先生の推測だって無理があるでしょ」
ベルが腑に落ちない様子でそう言った。
まあ、そうだよな。
しかし、ラズール先生があれほど強く、ありえないと断言したくらいだ。たぶん、先生たちからはすごく信頼されてるんだろう。
だけどベルが言うように、信頼はあくまで信じているだけ。絶対じゃない。もし司書さんがなにか心変わりをしてしまったなら、この学院はとんでもない獅子身中の虫を野放しにしていることになる。
――番人に一番必要なことは、自分が守っているものに、自分自身が誘惑されてしまわないこと。
司書さんから話を聞いた時に俺が考えたことが、頭の中でこだました。




