三十九話 雪中の狩人
ついに魔法競技会の五日目がやってきた。
今、俺はバトルロイヤルの選手控え室で待機している。
朝に学院各所の得点掲示板を確認したところ、ツバメ寮は総合ではやはり振るわない様子だが一年生のみの得点ではドラゴン寮をわずかに下回って二位の健闘を見せていた。まあ、すごいのはむしろドラゴン寮な気もするけど。
俺とベルで結構稼いだつもりだったんだが。これはバトルロイヤルを頑張らないとな。生き残るだけじゃなくて撃破スコアを稼ぐ必要がある。
「やあクライヴ。昨日の戦いは見せてもらったぞ」
きたきた。
今回の戦いで一番の脅威となる、ドラゴン寮の黒マッシュルーム、ルイス・ベルブックだ。
「実に見事な戦いだったがバトルロイヤルで同じようにいくとは思わないことだ。クライヴ、おまえは何日魔導書を使って練習した?――ぼくは毎日だ。父上に魔導書を手配してもらった」
へえ、そいつはすごい。
バトルロイヤルは確かに、あの特殊な環境に慣れているかがすごく大事だ。
まあその点俺は二日しかやってないが、大体のところはもう冬休みの間に両親に仕込まれてたからな。今日も天気は大雪、理想的な環境だ。
「クライヴ。おまえはぼくが倒す、むごったらしく。そうじゃないとイザベルが――」
はは、またボーヴォラークの話か。
どんだけ怖がられてんだよ、あのご令嬢!
「それを言うのはやめとけ」
俺がそう言ってルイスの言葉を遮ると、ルイスはキョトンとした顔をした。
「……?」
「同じことを言ったアレンは俺に負けたぞ。……お前が縁起をかつぐタイプかどうかは知らないけど」
「……フン。覚悟しておけ、今回はぼくがおまえを氷漬けにしてやる。オークスのように」
ルイスはそう言うと俺から離れていった。
はは、氷漬け、ね。
やれるもんならやってみな。
「――開始二分前です!選手の皆さんは中央の転移魔法陣の上に集合してください!」
お、そろそろ始まるようだな。
俺たちは控え室の真ん中で光り輝く転移魔法陣の上に集まった。
この魔法陣で俺たちは学院の屋外へとばらばらに転送させられて、試合開始だ。
「――それでは、魔法陣を起動します!選手の皆さんはそのまま動かないでください、……五、四、三、二、一!――」
魔法陣が一段と強く輝き、俺の視界が歪んだ。
しばらくして視界が元に戻り、俺は無事屋外へと転送されていた。
さて、まずはやることをやろう。
視覚と聴覚を強化し、消音の呪文を使い、魔法で生成した白い毛皮を被り、両足と左手をついて滑走の体勢をとる。
よし。
じゃ、いっちょいきますか!
現在地だが、オオタカ寮のすぐ隣、学院が建っている島の北端だ。
湖の方向を見ると、巨大な結界のようなものがうっすらと見えた。なるほど、あれが十五分ごとにどんどん小さくなっていくのか。
ざっと辺りを見渡して、耳をすませてみるが、近くに誰かがいる感じはないな。
できればルイスは早めに撃破しておきたいんだが。スコアを取られたくない。
まあ、とりあえず移動しよう。
普通なら物陰に隠れながら動くところだが、今は結構強い雪が降っていて視界がひどいことになっている。カムフラージュした状態なら適当に移動してもバレないだろう。
試合開始からしばらく経った。
俺はジグザグに大きく動いて索敵しながら、徐々に学院の中央棟に接近していった。
さーて、そろそろ何かが起きてもいい頃だが――おっと、足跡を発見!
俺はフェイクの可能性を考慮して、距離を取りながら足跡を追っていった。
すると、前方に姿勢を低くしながら雪の中を進む選手を発見。
まあ、普通に攻撃呪文でいっか。
じゃ、後ろから無音で失礼しまーす。……≪ウフェンデ フルティティル≫!よし、倒した。これで一人!
左腕をみると、十六本の線のうち一本が半分の長さになっている。まだ他の選手たちは戦ってないようだ。
突然、キュイーン、と甲高い音が遠くから響いた。
どの方向、とかはないな、全方位からだ。周囲を見渡すと、最初は島の端にあった結界がこちらに近づいてきていた。
なるほど、試合エリアが縮まったのか。
とりあえず索敵を続けよう。
試合エリアが縮まったことで選手の密度も上がったはず。これからはもっと遭遇の機会が増えるだろう。
「――≪ウフェンデ フルティティル≫!」
音もなく滑走して敵の後方から急速接近し、攻撃呪文を直撃させる。
敵は悲鳴をあげる間も無くバリアーを粉砕されて消失、控え室に転送されたようだ。
あれからちょっとして、俺の予想通り遭遇の機会が増えてさらに三人を撃破、合計で四人だ。
さて、生き残りの数はどうだ?
左腕の線を確認すると、残りは二十七人。誰か俺が倒した以外に撃破されてるな。
って考えてたら線が半分消えた、また一人やられたようだ。そろそろ本格的に始まってきたらしい。
「……」
また線が消えた。
今俺の撃破数は九人だが、生き残っているのは十七人だ。六人が誰かに撃破されている。
いや、誰かはほぼ明白だ。線が消えるペースは俺が倒すペースとほとんど同じ、たぶんルイス・ベルブックだろう。
くそ、あんまり獲物を取られたくないんだが。早くあいつと遭遇しねえかな。
俺の願いも虚しく、俺とルイス(仮)はどんどん撃破スコアを伸ばしていった。これじゃまるで競争だ。
しかも、やばい奴がいるらしいと感づいた他の選手は消極的になり、ステイペナルティを食らうギリギリまでじっとし、物陰から物陰へこっそり移動するようになった。
いくら超目が良くなって、耳が良くなってるからって、透視ができるわけじゃないし、無音は聴けん!
それは向こうも同じようで、俺たちはある時点から明確に撃破ペースを落とし、今は残り人数九人からしばらく動いていない。試合エリアもだいぶ縮まっているはずだが、本気で隠れられるとなかなかつらいな。
なんとか炙り出す必要があるな。
隙を見せるやり方はあんまり良くないだろう。今ルイス以外のやつは、バケモノがうろついてると思って消極的になってる。隙だらけのカモを見つけたとしても、そいつがバケモノである可能性を考えてスルーするかもしれない。
となると、逆のアプローチ、相手に向かって来させるんじゃなくて、相手を逃げさせる方が確実だろう。
とにかく動いてさえくれれば耳で察知できる。自分が今いる場所に留まるのは危険だと思わせ、そこから離脱を試みさせればいい。
うーん。とりあえず炙りだしてみるか、言葉通り。
まずは自分に耐熱の魔法をかけて、っと。
「……≪オグニ エルデ イト イクスプリカー レーティウス ルトゥンデー≫」
地面に垂直に向けた杖先から猛烈な炎が噴出し、円状に広がっていく。
≪レーティウス≫の呪文を使ったから、かなり広範囲に広がっていくはずだ。
流石に炎に炙られてじっとしていられるやつなんてそうそういないだろう。
さて、釣果はどうだ?
……おっ。一人慌てて駆け出したやつがいるな、追っかけよう。って思ったら音が消えたと同時に左腕の線も消えた。炙り出すどころか焼いちまったか。ともかく、これで十四人目だ。倒しにいく手間が省けた。
できることならこのまま焼き尽くしたいところだが、これほど効果が大きい魔法をバンバン使ったらすぐに魔力がなくなっちまう。ルイスと戦う頃にはガス欠です、なんてことは避けたい。節約していかないとな。
俺はさっき魔法を発動した地点からそこそこ離れていて、隠れられそうなところが多い場所を適当に見繕うと、そこで再びさっきの魔法を発動した。
さあ出てきたぞ、ヤマが当たった!
今度は二人だ。一人は逃げ切れず焼かれたようだが、もう一人はどうにか対処したらしい。まだ逃げている様子の音が聞こえる。
すかさず俺はあとを追った。
くそ、炎で雪が溶けて滑走の速度が出ないな。
それでも雪を踏み抜きながらノロノロ走ってるよりははるかに早い。俺は逃げる敵にすぐに追いつき、攻撃呪文で撃破した。これで十六人目!続けよう。
また別の地点にやってきた。
ここも建物と建物の隙間が多く、隠れるのには良さそうな場所だ。
さあて、もう一発いきますか。
「――ああ、湖は空振りだ。寒中水泳は楽しかったよ」
ん?
遠くからなんか声が聞こえるぞ。
「――もう目ぼしいところは探し尽くした。やはりグレンヴィル卿の封印は普通ではない場所に隠されているようだな」
――なんだって?




