三十八話 薄氷舞踏
泥水に覆われた試合会場を凍結させ、俺は続けて氷上を滑走するための準備を行った。
地味にこの準備の時間をどう確保するかは悩ましいところだったが、図らずも試合会場を凍結させた時にオークスの足を氷で封じたようで、オークスがもたもたしている間に準備を終えることが出来た。
俺は今、杖を持つ右手以外、つまり両足と左手を地面につけて四つん這いになっている。
別に両足だけで滑ってもいいのだが、こちらの方が安定感とか色々な面で楽だ。俺にとっては。
一瞬こちらの様子を伺ったオークスだが、すぐに攻撃を再開した。
怒涛の攻撃呪文が俺に飛んでくる。
が、遅い。
俺は横方向に一瞬で加速し、猛スピードで滑走して回避、オークスの攻撃呪文を置き去りにした。
もちろんオークスは攻撃を続けるが、高速かつ複雑な軌道で移動する俺には掠りもしない。
バトルロイヤルの練習の時は障害物も多く起伏があったが、ここはほとんど平らで何もない。だから全速力を出せる。
さて、動いてるだけじゃ勝てないからな。こっちも攻めるとしよう。
なかなか隙がなくて発動できなかったが、円陣魔法の出番だ。俺は高速移動しながらそこそこの威力のビームを放つ魔法陣を展開。勝手に照射角度を変えて扇型に薙ぎ払ってくれる機能付きだ。
まあ、一つ展開しただけじゃ大して怖くはないが、これが二つ、三つと増えてくると恐ろしい。俺はさらに魔法陣を展開して攻撃の密度を上昇させていく。
オークスはだんだんと苛烈になっていくビーム攻撃に意識が逸れている様子を見せるようになった。いいぞ、このままいけばいつか隙を見せる。
そしてその時がやってきた。
ビームに左右を挟まれて、逃げ場を失ったオークスが戸惑ったか、動きが止まった!
いまだ!
「≪ウフェンデ≫!」
俺の放った攻撃呪文は――よっしゃ、命中!
ついでにビームもちょっと掠った。欲を言えばビームも当たって欲しかったんだが、紙一重で避けられたか。立ち直りはさすが早いな。
だが、ようやく一発当ててやった!
態勢を立て直したオークスからの反撃が飛んでくる。ムダムダ、――って、危ねえ。
当たるところだった、今のはかなり危なかったな。
……ん!?
オークスの動きがいきなり機敏になった。身体能力を強化する魔法を発動したか。
くそ。これはすごいな、あらゆる動作スピードが五割り増しくらいになってやがる。
つられて火力も上昇している。明らかにガトリング攻撃呪文の密度が上がっている。
おいおい、こんな凄まじい強化だったのかよ!
ものすごい弾幕がこちらを襲ってくる。すぐに攻撃どころじゃなくなった。俺は自慢の機動力を全て回避に費やさなくてはならなくなった。
ええー。この滑走戦法、割と切り札的な感じなんですけど。そうですか、防戦一方ですか。
はーあ。結局、まともに戦えば撃ち負けることに変わりはない、か。
だが、俺はこの手の正攻法で戦っちゃいけない相手と一度戦ってるよな、ワイバーンだ。
やれやれ、また凍結戦法ですか。ワイバーンキラーの面目躍如だな!
おっと!また当たりそうだった。
こっちに飛んでくる攻撃呪文の精度も上がってきたな、オークスの目が慣れてきたらしい。あんま時間はない。
氷で動きを封じるには濡らしてやる必要がある。だけど≪エクア フルエ≫は躱されるだろう、となると雨――いや、もっと強力に、嵐を起こす必要があるな。
「――≪オンベル イクスキター フルティティル≫!!」
猛烈な嵐が吹き荒れる。
暴風でオークスの動きが止まった。いいぞ!
「≪フローゲー フルティティル≫!」
そして凍結の呪文を放つと、オークスの体が氷に覆われていく!
よし、これでトドメだ!――
「――≪ウフェンデ フルティウス≫!!」
≪フルティティル≫よりさらに強力に魔法を強化する呪文、≪フルティウス≫で強化した攻撃呪文がオークスに向かってまっすぐ飛んでいく。
凍結して思うように体を動かせない様子のオークスは防御の呪文を唱えたが、俺の攻撃呪文はそれを一瞬で突き破り、呪文はオークスに直撃した。
バリアーが粉砕された音。
宙を回転しながら吹っ飛ぶオークス。
「――そこまで!……デュエル一年生の部、優勝は――リオ・クライヴッ!!」
は、はーっ!
かっ、勝ったぁ!
「おめでとう、リオ!今だから言うけど正直負けるかと――あのオークスに勝つなんて!」
試合会場を出ると、すぐにベルが駆け寄ってきた。
「ベルも勝ったじゃん」
「いや、あの時は準備のための時間があったから。……それに、あの身体強化の魔法!あんなに強力だったなんて、僕の時に長引かなくて本当に良かった」
まあ、それはそうかもしれない。
マリーの時もオークスがあれを発動した直後に終わっちゃったからよく分からなかったけど、まともにやりあってみるとえげつなかった。
「――クライヴ君!いやあ、――言葉が出ない!何度自分の手をくじかれてもその度に新たに機転を利かせる!執念の勝利!堪能させてもらっ――」
通りすがりのウィロス大臣がお付きの人に引きずられながらお祝いしてくれた。
普段だとぶっちゃけ割とうるさいけど、今は素直に嬉しい!
ん?
向こうから人だかりが。
あ、うちの寮の人たちだ。――って、うわあ!
俺は寮の人たちの塊に飲み込まれた。
くそ、もみくちゃだ。俺はベルに助けを求める視線を送ったが、ベルは「僕の時もこうだったよ」と微笑みながら言った。
「これこれ。あまり乱暴をするでない!しかし、よくやったの。きみは我が寮の誇りだとも」
おお、ラズール先生にもお褒めの言葉をいただいたぞ。
「今は寮に戻って休むといい。……ふかふかのベッドがきみを待っておる」
ラズール先生の計らいで解放された俺は寮に向かって歩いていた。
それにしてもとんでもない相手だった、あんなのが隠れてたとは。
想起発動はマジで反則的だ。俺もちょっとは練習してたが、もっと力入れていかないとダメか、やっぱ。
「――クライヴ!」
うおっ。
噂をすれば影、後ろから声をかけられたので振り向くと、シャーロット・オークスがいた。
「想像以上だった、私の完敗――あれほどたくさんの呪文魔法を使う人は見たことがない、とても面白い戦い方。……氷上を滑る魔法、あれは雪上でも使えるの?明日のバトルロイヤルは楽しみにしてる」
言い終わると、オークスはくるっと踵を返して行ってしまった。
なんつうか、マイペースなやつだなあ。
俺は寮の部屋に戻るとすぐにベッドに潜り込んだ。
しかし、俺は結構疲れているはずだったが、戦いの熱がまだ引いていないのかまだ寝付けずにいた。
明日はついに最終日、バトルロイヤルだ。
強敵となるのは、ドラゴン寮のルイス・ベルブック。アレンと仲良くご令嬢の手下をやってる貴族様だ。
前に決闘クラブで戦った感じでは、アレンと同じくらいか、ちょっとルイスの方が強い気もした。今のアレンより多少強い程度なら問題にならないだろうが……撃破スコアを取られるのが怖いな。
考え事をしてるうちに眠くなってきた。
まあ、なにはともあれ、どうせなら一位を取ってやろうじゃないか。




