三十二話 ダークホース
「――それでは、礼!」
さーて、鬼教官の娘さんの実力は――って、おいおい。
「そこまで!勝者、シャーロット・オークス!」
もう終わっちまった。瞬殺だ。
もはや戦いですら無かったと言っていいだろう、オークスは杖を二回振っただけで勝ってしまった。
いや、勝負自体は最初の一振りでついていたかもしれない。オークスは一振りで魔法の閃光を三、四発放ち、相手は防御する間も無く殺到した攻撃に吹っ飛ばされた。おそらく普通の攻撃呪文のはずだが、あれは――
「リオ、今のって」
「ああ。――間違いない、想起発動だ」
呪文魔法において呪文を唱えずに、完全に“想起”だけで発動する高等技術。それが想起発動だ。
といっても、厳密には“想起”だけで発動しているわけではなく、呪文を頭の中で唱えながら“想起”することで発動するのだが、これも言うは易く行うは難し、ってやつだ。なにしろ二つのことを同時に考えなくちゃいけない。
「なんと!ジェラルドめ、あの年の娘に想起発動を仕込むとは!やりすぎだ、一体どれほどの――」
大臣がいつもとは違い、若干引いている様子で声を上げた。
まあ、無理もない。それだけ難しいことだからな、呪文魔法の想起発動、ってのは。
二つのことを同時に考える。ちょうど右手と左手で全く違う動きをするようなものだが、そのためにはどっちかを、それかどっちも無意識に動かす必要がある。
つまり無意識に頭の中で唱えるか、“想起”する。というより、どちらかを意識的にやったらもう片方が自動的に想像されるような状態にするのだが、こればっかりはものすごーく長い時間をかけて訓練するほかない。
俺も一応両親から訓練法を教えてもらって実践しているが、じっくりでいいよ、と言われている。
それを、あの子は。
「……勝てるかい?」
ベルが俺に聞いてきた。
「……想起発動は基本的に呪文一つに対して一から訓練しなきゃならない。だから流石にあれ以外に想起発動できる魔法はないと思いたいが、もしあったら無理」
ダークホースの衝撃デビューからしばらく経ち、俺たちは昼飯を済ませて午後を迎えた。
ベルはファイブオンファイブの試合ということで一旦別れたが、俺は相変わらず大臣と一緒だ。
「いやあ、今年の一年生のファイブオンファイブは見ものだ!ライゼル、ボーヴォラーク、そしてレオミュール、さらにオークス!スーパールーキーのオールスターだ!クライヴ君はどこが優勝すると思うかね?」
どこが優勝するか、か。
マリーもボーヴォラークのご令嬢もワイバーン襲撃事件の時にちょっと一緒に戦っただけで、詳しい実力はよく知らないんだよな。まあ弱くはないはずだし、こうしてエース扱いされてるところを見るに強いんだろう。
オークスはさっき戦いを見たが、攻撃力は間違いなく飛び抜けている。あの攻撃呪文はガトリングガンみたいなもんだ。どうにか動きを制限しないとあっという間になぎ倒される。
でも、チーム戦ならベルの円陣魔法は相当強力なはずだ。少なくとも支援能力で右に出るやつはいないだろう。それに、オークスの強さもさっき目の当たりにしているから、今頃対策を考えているはずだ。
「やっぱりベルのとこだと思います、円陣魔法がすごいですから」
「そうかね!……さて、最初の試合は早速ライゼルくんだ!相手はドラゴン寮!ボーヴォラーク嬢が相手だね」
ファイブオンファイブは学年ごとのリーグ戦で、各寮一チームずつが出場する。一番勝ったチームが優勝で、同じ場合は二つのチームの試合結果を見て勝った方を優勝とする。特に変なところはない。
試合の終了条件もどちらかのチームが全滅する事とシンプルだ。
にしても、大臣の言う通り確かに各寮トップクラスのやつのオールスターだ。
いいなー、俺もちょっと出たかったなー。なんてね。はは。
会場を見ると、もう二チームの選手が向かい合っている。
それぞれのチームの中央に、ベルとボーヴォラーク。あと知ってるやつは……あ、そういえばルークも出るっつってたな!いたいた。ドラゴン寮にはガネルがいる。
ブォー、と審判の角笛が鳴って試合が始まった。
さあ最初は――おっと、ドラゴン寮チームがベルに集中攻撃!
が、これは悪手だな。
ドラゴン寮チームの集中攻撃は案の定ベルの円陣魔法一発で防がれた。そりゃそうだ、あの程度じゃ攻撃力不足だろう。
そして当然、攻撃中は隙を晒していたわけで、ドラゴン寮チームにツバメ寮チームの他の選手たちからの攻撃が襲いかかる!
しかし、ドラゴン寮チームは各々が攻撃をいなしてノーダメージでやり過ごした。なるほど、確かにガネルやご令嬢以外のメンツもそこそこいい動きしてるな。
だが、こうして防御に専念した事でベルに時間を与えてしまった。ベルは予想通り、すでに魔法陣をドラゴン寮チームに向けて複数展開している。
ベルの魔法陣が強く輝く。さーて、ベル劇場の開幕だ。
そこからの試合展開は一方的だった。
ベルが次々と魔法陣を発動し、残りの生徒たちはベルを守るか、攻撃に加わる。ツバメ寮チームは暴力的な制圧能力と堅固な防御力を発揮し、あっという間にドラゴン寮チームを防戦一方に追い込み、時々攻撃の合間を縫って飛んでくる反撃を軽くあしらった。
どんどん増していくベルの魔法陣の圧力に耐えきれずに一人が倒れてからは総崩れだった。ボーヴォラークだけはかなり奮闘して、ツバメ寮チームの左翼に突撃して一人を撃破したがそこで討ち取られた。
ベルたちの勝利だ。
「なるほど、なるほど!初回の決闘クラブで見た時よりも遥かに成長している!凄まじく苛烈な攻撃だった、それにチームの連携も良い。ボーヴォラーク嬢の粘りも悪くなかったが、これは君の言う通りツバメ寮が優勝するかもしれんな」
会場の方を見ると、ハイタッチしたり抱き合ったりしているツバメ寮チームと、ぷんすか怒っている様子のボーヴォラーク嬢にオロオロしているドラゴン寮チームが退場しているところだった。
「次はイヌワシ寮チームとオオタカ寮チームの試合だ!オークスは恐ろしい相手だが、レオミュールの実力や如何に!?」
イヌワシ寮チームとオオタカ寮チームが入場してきた。
まあやっぱり、オークスはともかくマリーだよな。本人は文学少女、って感じで血の気の多い雰囲気じゃないしなあ。どれくらい強いんだろうか、実際。




