三十一話 魔法競技会
ついに魔法競技会当日がやってきた。
「おはよう。……この日が来てしまったね、まあ、お互い頑張ろう」
ベルと軽く挨拶してからエントランスに降りて朝飯を食べた。
普段、エントランスを包む喧騒はなりを潜めていたが、静かな熱意が渦巻いているのが感じられる。
朝食が終わったら、九時から大ホールで開会式だ。
「――では、これより第四百八十七回王立魔法学院寮対抗魔法競技会を開催する!」
エルドリッチ校長の宣言で開会式が終わった。
開会式は校長の開式の言葉に始まり、生徒代表の誓いの言葉、校歌斉唱、そして来賓席に当然のごとく座っているウィロス魔法技術大臣の来賓祝辞があった。
まあ来るよな、あの人は。絶対六日間ずっと居るだろ!何回絡まれることになるやら。
「やあ、お早う!クライヴ君、ライゼル君!やっとこの日が来たよ、君たちの活躍を見れるこの日がね!」
そらきた。
早速絡まれたぞ。護衛に囲まれてご登場だ。
「おはようごさいます、ウィロス大臣」
「ライゼル君は魔法陣ダンジョンアドベンチャーとファイブオンファイブに、クライヴ君はデュエルとバトルロイヤルに出るそうだね。全く、実に楽しみだ!今年はドラゴン寮も粒ぞろいだし、オオタカ寮には何と言ってもレオミュールだ!イヌワシ寮にも何人か注目している生徒がいる。綺羅星のようなルーキーたちの対決だ……。胸が躍る」
大臣はいつものようにお付きの人たちに引きずられていきながらまくし立てていた。相変わらずだな。
「まったく、嵐のような人だよ、あの大臣は……。ええと、リオはこれからデュエルの第一試合だっけ?」
「ああ。……じゃ、行ってくる」
「頑張れよ」
俺は一回戦の会場で相手と対面していた。知らない人だ。決闘クラブでは見たことないが、果たしてどんなもんか。
「――それでは、礼!」
審判の人の声で俺たちはお互いに礼をした。
「――≪エルケ≫!、≪ウフェンデ≫!」
俺は防御の呪文を相手に直接当てて、すぐさま攻撃呪文を放った。
開始直後のお決まりの動きだ。さて――
「……そこまで!勝者、リオ・クライヴ!」
え?
バックステップして後退しながら円陣魔法の準備をしていたら試合が終わってしまった。
相手を見ると、後ろに倒れて伸びている。
マジか、あれで終わりかよ。
「いやあ、一瞬だったね」
第一試合が終わってしまった俺に、ベルが話しかけてきた。
「ああいうこともあるもんだな。……にしても一発か、≪フルティティル≫唱えてないんだけど」
「まあ、呪文の威力上がってるからね……。入学した時とは比べ物にならないよ、今のリオの魔法は」
そうかな?周りも強くなってるから分からないのかもしれない。
「はぁ、しかしこれからヒマだな。俺、今日これで終わりなんだよね。……まあファイブオンファイブは見に行くけど」
デュエルの一年の部は六十四人のトーナメントなので、第一試合だけでもそれだけの試合がある。
だから、今日の俺の試合はさっきので終わりで、第二試合と第三試合は明日だ。
マリーが出るクイズ王は三日目で、ベルが出る魔法陣ダンジョンは四日目。今日の午後からはファイブオンファイブの第一試合があるから見に行くとして、これからどうしよう。アレンの試合でも見に行くか。
「――いやはや!瞬く間に終わってしまったが素晴らしい試合だったよ、クライヴ君!」
この声は!
ベルが「ヒマが潰せそうだね」と呟いた。
本日二度目の大臣だ、もうかよ!
「実に素早い杖さばきだった!あれをされてはたまったもんじゃない!……おお、ライゼル君!午後の試合は楽しみにしているよ」
「あ、ありがとうございます」
「ところで、クライヴ君はこの後時間があるかね?」
なんだって?
「え、まあ」
「なら、一緒にデュエルの試合を見て回ろうじゃないか!私が注目している生徒の戦いを見るといい」
まあ、そりゃ、願っても無い話だが。
しかし、この大臣と一緒か。ヒマだから行くけどさ。
「ライゼル君はどうだ?時間はあるかね」
「あ、大丈夫です。ご一緒させていただきます」
「よろしい!では行こうじゃないか!次の試合は――」
俺たちは大臣と、お付きの魔法使いたちと一緒にデュエルの試合を見て回ることになった。
それにしても、威圧感ハンパねー。
お付きの人たちは全員が手練れの魔法使いらしい。なんというか、こう、ラッドフィード先生がたくさんいるみたいだ。やべぇ。
「ミランダは元気にしていますか」
ん?
お付きの人の一人が、俺に話しかけてきた。
グレーの髪の女の人だ。つうか、ミランダって誰?
「ミ、ミランダ、ですか?」
「おや、ご存知ありませんでしたか。私はレベッカ・シーリー。学院の図書館の司書、ミランダ・シーリーは私の妹です」
……ああ!
そういえばあの人、お姉さんがウィロス大臣の護衛やってるとか言ってたな。
なるほど、そう言われてみると司書さんに似ている気がするな、この人。
「すいません、名前知らなかったんで。お姉さんが大臣の護衛やってることは聞いたんですけど」
「そうでしたか。手紙のやり取りはしているのですけれど。何せ何年も顔を合わせていませんから。図書館に行く機会がないもので」
えええ?
「そんなに図書館から離れないんですか?」
「ええ。司書になってから図書館の外に出たことはないのではないでしょうか。そういう仕事ですが」
ま、まじか。
仮に司書さんが三十歳だとしても卒業してすぐ司書さんになったら十年ちょい図書館にこもってることになるんだが。家猫か何かか。
「あなたとレオミュールの話が手紙に書かれていました。入学式の次の日からずっと図書館に――」
「――君たち、試合が始まるぞ!今回の試合に出るグレゴリー・ガネルはボーヴォラーク派閥の中ではマクヴァティやベルブックほどではないが有望な――」
「……試合が始まるようですね」
そうみたいだ。
しかし、この人と一緒に誘われたってことは。
「司書さんって強いんですか?」
俺がそう聞くと、レベッカさんは一瞬沈黙してから答えた。
「……ええ。強いですよ。司書を任せられるだけのことはあります」
なんだ?どことなく声のトーンが低いような?いや、気のせいか。
「――うむ。やはり悪くないが、上を見てしまうとどうしても霞んでしまうな。さあ、次も見ものの試合だ!君たちもよく知るアレン・マクヴァティが出る!」
おや、いつの間にかガネルの試合が終わっていた。
それより、次はアレンか。
あいつとは冬休みが明けてから戦ってないからな。どれくらい強くなっているか。
「――それでは、礼!」
試合が始まった。
アレンは右に大きくステップしながら攻撃呪文を唱えた。
あいつ、前は決闘が始まるとその場で攻撃呪文を唱えてたが、俺の防御の呪文に出鼻を挫かれることが頻発するようになってからは、ああやって左右のどっちかに動いてから撃つようになったんだよな。
相手はなんとか躱したが、アレンの攻めは止まらない。
飛翔速度が遅い炎を放ってから左に移動し、そこから攻撃呪文。炎に意識がいっていた相手は、アレンの攻撃呪文への対応が遅れて呪文を食らった。
まあ、早い話俺が地を這う炎で同時攻撃するのと似た戦い方だ。
その後もアレンは同じように、時間差を活かした同時攻撃で相手に攻撃を当てていった。
なるほど、相手が避けようと思ってる方へ先回りするのがうまい。避けようと思った先に常にアレンが待ち構えてるから、相手は泡食って足が止まるんだ。
それに、ワンパターンに見えてそうじゃない。炎を避けさせて呪文を当てる戦法かと思いきや、そのまま炎を操って当てたりもしている。
試合は順当にアレンが圧勝した。
「いや、素晴らしい!やはりマクヴァティは一味違う!獲物を追い詰める狩人のような戦いだ!」
「……どうだい?リオ」
ベルが俺に聞いてきた。
「なんとも。あれは本気じゃないだろうからな、最低でもさっきのガネルくらいのやつと戦ってくれないと」
決闘クラブで戦ってきた俺に言わせれば、アレンはこの試合では露骨に手を抜いていた。それで圧勝したんだから判断は間違ってなかったのだろうが、いずれにしてもまだ実力は隠されたままだ。
デュエルの試合は順調に消化されていった。
試合の間、ウィロス大臣は戦いを食い入るように見つめ、こいつは見込みがある、こいつはダメ、などとずっと呟いていた。
「――ううむ。今の生徒は悪くなかった。ガネルと同程度の実力はあるか?さて、次は――おおっ!ついにきたか!」
いきなり大臣が叫んだ。
「君たち、次に出る選手の一人はこの学院ではまだ無名だが、私は彼女の親を知っていて密かに注目しているんだ。――イヌワシ寮のシャーロット・オークス!彼女の父、ジェラルド・オークスは王国軍魔法教導隊隊長、つまりは鬼教官だ!娘の教育に手を抜くとは思えん」
ふーん。鬼教官の娘、ねぇ。
確かに、俺だって“闇の魔法対策委員会”の両親から手ほどきを受けてるしな。そう考えると結構強いかも。
俺は大臣が指をさしながらワーワー言っている、鬼教官の娘らしい女の子を見ながら、そんなことを考えていた。




