三十話 練習期間
「――これで六人目!信じられない」
頭の中で、テンションが上がっている様子の上級生の声が響く。
さて、バトルロイヤルの練習だが、おおむね順調だ。
冬休みに両親から仕込まれた雪中戦のやり方はしっかり身についているようだ。
こういう状況で一番大事なことは、いかに自分が先に敵を見つけるかということ、と両親は言う。
そのためには主に二つのやり方がある。
一つは、こちらの索敵能力を高めることで、俺は今、視覚や聴覚を鋭敏にする呪文を使っている。
もう一つは、敵の索敵から逃れることで、つまり隠れればいい。音については教えてもらった消音の呪文で消しているが、姿を隠すのは白い毛皮みたいなものを被って移動している。いわゆる迷彩、というやつだろう。「魔力の消耗が重い透明呪文は長期戦において必ずしも最適解にはならない」と教えられた。長時間にわたって常に身を隠したいときは、こういうプリミティブでローコストなやり方のほうがいい、ってわけだ。
さて、雪中戦できついものといえば、やっぱり寒さと雪だ。
寒さについては学院特製の高性能な制服のおかげで快適だが、雪に足が埋まる問題がある。移動速度は激減するし、何より足跡を辿られるのが怖い。
というわけで現在、魔法を使って雪上を滑走している。たのしい!
あまりスピードを出しすぎると雪が舞い上がって場所がバレるので控えめなスピードだが。というか、あんまりスピード出すと事故が怖い事の方が大きいな。
滑りゃいいじゃん、と口で言うのは簡単だが実際には死ぬほど難しい。ちょっとした起伏ですぐに加速したり減速したりするし、細かい動きが難しい。
なので俺が冬休みに滑走を訓練したときは、ある程度慣れるまでぶつかりまくって大変だった。ちょっと何かにぶつかったぐらいじゃもう動じないな、はは。
それでも歩くよりは全然早い。
雪に紛れ、音もなく滑走し、ものすごい遠くから敵を察知する。まあ、自分で言うのもなんだが、そりゃ強い。
また一人発見。
そーっと近づいて、足元に杖を向けて、≪フィル フルティティル≫で地面の雪ひっくり返して埋もれさせて、おらっ!≪ウフェンデ≫!≪ウフェンデ≫!≪ウフェンデ≫!――
「――おい、一体俺は何にやられたんだ?」
「気がついたら倒されてたんだけど」
「いきなり雪に埋もれて――」
俺はその後も先制発見、先制攻撃、先制撃破を繰り返してスコアを稼ぎ、十五人目を倒したところで俺一人になって勝利した。
競技が終わると魔導書から自動的に放り出され、俺たちは元いた練習場に戻ってきていた。
「あら、ヒツジたちが帰ってきたようね、お疲れ様」
俺たちが帰ってくると、上級生の女の人がそう言った。
「なんだと?ヒツジ?」
「何が何だか分からないようだから教えて差し上げるけど……戦いはクライヴが十五人倒して勝利。あなたたちのほとんどはこっそり近づいてきたクライヴに気づくまもなく倒されたのよ」
上級生の言葉に、練習に参加した人たちがどよめいた。
「俺はクライヴにやられたのか?」
「ま、待て!十五人だと?本気で言ってるのか?」
「本当よ、見てたんだから。――クライヴの動きときたらまるでヒョウか何かみたいよ!あなたたちはただ狩られるだけ」
「だからヒツジか」
「いや、しかし……。一年でこんな……」
ま。訓練だ、訓練。
「一年のバトルロイヤルはいただきか。……デュエルの方はどうだ?」
「私の代わりにうちの学年の選手になって欲しいくらいよ、まるで勝てないわ」
「そうか!……ライゼルの方もすごいぞ、円陣魔法で押し潰された。一人で十人分の攻撃をしてる」
「今年は期待できそうだな!……もっとやろう、魔導書を借りれるのは二日だけだ。まあ、俺たちがクライヴに稽古つけてもらう立場だけどさ」
俺たちは再び魔導書の周りに集まり、バトルロイヤルの練習を始めた。
両親の訓練も十分に厳しかったが、やっぱ実際にこういうことをすると違う。一回練習するたびに動きがブラッシュアップされ、この日の最高撃破記録は二十四人にまで上昇した。
「そういや、マリーは何に出るんだ?」
俺は競技会の練習が終わると、いつものように図書館に来ていた。
「えっと、わたしは、“学院クイズ王”と、ファイブオンファイブ、です」
知能系と実技系の半々できたか。
ファイブオンファイブはベルがいるが、もし当たったらどっちが勝つだろうな?そういえばマリーが実際どれくらい強いのかはよく知らないな。ちょっと戦ってみたい気もする。
「俺はデュエルとバトルロイヤル。ファイブオンファイブだったらベルと当たるかもな」
「ベル……?ワイバーンのときに、一緒に戦った男の人ですか?」
「あ、そういや面識ないのか。そうそう、そいつ。強いから。俺もわりと負けるし」
冬休みの訓練を終えた後でも、決闘クラブでベルと戦うと負けるときは負ける。ぶっちゃけ円陣魔法ってけっこうチートじゃね?俺も簡単なやつを使えるようになったから、ちょっとマシになったけど。
「た、たしかに、あの円陣魔法はすごかったです」
「だろ?あいつ発動早すぎんだよ、マジで。――」
競技会の練習期間はあっという間に過ぎていった。
あの魔導書は貴重なものらしく、「一応努力するが次はないと思ってくれ」との上級生の言葉通り、魔導書を使って練習ができたのはあれが最初で最後だった。
なので練習はデュエルのための決闘が中心だったが、たまにベルのファイブオンファイブの練習に付き合ったり、逆にベルが俺と決闘したりもした。
「ドラゴン寮の一年はデュエルにはアレン、ファイブオンファイブにはボーヴォラーク、バトルロイヤルにはルイスが出るそうだよ」
「へえ」
俺とベルは寮でもう明日に迫っている競技会について話していた。
ドラゴン寮のトップクラスはばらけた感じか。というか、ワイバーンキラーは俺以外全員ファイブオンファイブ出てるな。別に寂しくないが。
アレンとルイスとは冬休みが明けてから一度も戦っていない。
まあデュエルでは順当に強くなったアレンと戦うことになるだろうが、ルイスはちょっと未知数だな。どれくらいバトルロイヤルの対策を積んでいるんだろう。
まあ、何はともあれ、明日から六日間はついに競技会本番だ。
デュエルは大規模なトーナメントが初日から四日目にかけて行われ、バトルロイヤルの一年の部は競技最終日の五日の午前、六日目は表彰だけ。
せめて期待に応えられるように頑張りますか。
俺は明日に備え、早めにベッドに潜り込んだ。




