二十九話 魔導書の世界
魔法競技会っていうのは、確かに一大イベントに位置付けられているらしい。
競技会二週間前になるとなんと全ての授業が20分短縮になり、放課後に百分の練習時間が特別に設けられた。
というわけで俺もここ数日は放課後になると競技会の練習をしている。
まあ、もっぱら上級生を相手にデュエル――決闘をやっている。上級生とはワイバーンを倒して以来決闘クラブでも何度も戦ったが、意外と勝ててしまう。たまに強い人と当たると負けるけどね。
とはいうものの冬休み明けてからは、一回決闘クラブがあってそれからは競技会の練習でツバメ寮の上級生と決闘しているが、まだ無敗だ。合宿の成果が出ているな。
「うっ……!はぁ、全然勝てない!あなた本当に一年?」
「いや、まあ」
厳密にはちょっと違うかも知れない。でも、ベルだって強いし、別に前世の記憶があるからって特別ムチャクチャに強くなるわけでもないだろう。
「……ところで、ちょっと気になってるんですけど」
「なに?」
「バトルロイヤルの練習ってあるんですか?」
俺がそう聞くと、上級生は、うーん、と唸った。
デュエルはただの決闘だからこうして戦えば練習になる。ファイブオンファイブも人を集めて広い場所を借りればいいが、問題はバトルロイヤルだ。
なにせ会場が学院の屋外全体だ。そう簡単に練習できるものじゃない。
かといって練習無しでぶっつけ本番、ってのもひどい話だが。俺はともかく、普通一度やってみないと全然感覚つかめないだろ、バトルロイヤル。
「ないことはないわ、練習方法。まあ、それができるとは限らないんだけど――」
「――クライヴ!クライヴはいるか!?やったぞ、借りてきた!魔導書だ!」
突然、俺たちが練習しているところに古びた分厚い本を持った上級生が駆け込んできた。
「よくやったわ!今ちょうどその話をしてたところよ――さあ、クライヴ!バトルロイヤルの練習ができるわ!」
んん?
魔導書、ってのは、たしか円陣魔法の魔法陣をたくさん書き込んだ、魔法を発動するための道具だよな?
「何に使うんですか?」
「あら、知らないの?えーっと……いや、実際に使ってみるまで黙っておきましょう。それまでのお楽しみってことで!じゃあ、私たちは練習のために人を集めてくるから、待っててちょうだい」
そういうと上級生たちはさっさと散らばっていってしまった。
うーん、何に使うんだろ?
しばらくぼけーっと待っていると、上級生たちがぞろぞろと生徒を連れてきた。
「よし、集まったわね。じゃあ、魔導書を起動するわ。――みんな、魔導書の周りに集まって!もっとよ!……いい?いくわよ――」
俺たちはぎゅうぎゅうになって魔導書の周りに集まった。
そして、上級生が魔導書を開いた。
その瞬間、目が眩んだ。
視界がグニャグニャして、何も見えなくなった。
視界が戻ってきて、ものが見えるようになってきたが――
「――どこだ、ここ」
俺は雪の上に座り込んでいた。
辺りを見渡すとクリスマスツリーみたいな、いわゆる針葉樹がまばらに生えている。遠くにはなんだか砦?そんな感じの建物が見える。廃墟っぽいな。
「ハーイ!聞こえるかしら?クライヴ」
うぉっ。
上級生の声だ。しかしこれは、頭の中に直接響いているような感覚がする。
「今あなたは“魔道書の世界”の中にいるわ。そこは魔法陣によって構成された、そうね、別世界といったところかしら」
別世界。
円陣魔法はそんなことまでできるのか、すごすぎる。
「学院の敷地ほどは広くないけど練習には十分よ。――さて、クライヴ!バトルロイヤルのルールをあなたにレクチャーするわ」
ルール、か。
「バトルロイヤルは色々特殊なの。だからよーく聞いてね!まず一番大事なこと、この競技の勝利条件は最後まで生き残ることよ」
まあ、それは知っている。
「あっ、そんなこと知ってるよ、って思ったわね?確かに単純なんだけど、実はこれがすごく厄介なのよ。いい?バトルロイヤルは最後に生き残った人が一番得点をもらえる。じゃあそれ以外の人はどうなると思う?」
つまり、二位以下、ってことか?
「普通に上位者は順位に応じて得点を――」
あれ、なんか声が変だ。
「ふふ、それがね――ゼロ点よ。バトルロイヤルは一位の人しか得点を貰えないの」
そ、そうなのか。
いや、それより。声が変な感じになってるんだけど。
「気づいたようね。ついでに自分の姿も見てみたら?鏡を転送するわ」
上級生がそう言うと、俺のすぐ近くで、空中から突然手鏡が現れた。
俺はその手鏡を拾って自分の顔を見て、思わず手鏡を投げ捨てた。
「うわあぁっ!?」
改めて手鏡を拾って、自分の顔を見てみた。
顔がのっぺらぼうになっている。つか、髪の色も赤くなっている。俺、黒髪なんですけど。
「バトルロイヤルはあくまで生き残りを争う競技。でも三十二人の参加者はみんな四つの寮のどれかに所属してるでしょ、だから協力させないために色々なルールがあるの。その姿や声もそうよ。……得点は生き残りさえすれば獲得できるけど、敵を倒しても獲得できて、さらに四人倒すごとにボーナスが加算されるの。つまり、どんどん倒せ、ってこと」
なるほど。
得点を獲得できるのは生き残りただ一人だけ。
逃げ回ってもいいが、敵をたくさん倒した方が高得点を狙える。
そして顔も声も隠され、誰が誰なのかわからない。
全ては一人の戦いに追い込むための仕組みか。
「左腕を見てごらんなさい、十六本の線が刻まれてるはずよ」
俺は言われた通り、ローブをまくって左腕を見てみた。
ほんとだ。黒い線が一、二、三、……十六本!
「その線は今生き残ってる競技者の数よ。一人やられるごとに、その線が一本の半分ずつ消えていくの」
ふーん。
「あとね、長時間同じ場所に留まり続けると強制的に退場になるから!“ステイペナルティ”って言うんだけど、ちゃんと積極的に動かないとダメってこと。それと、十五分ごとに試合エリアが狭くなっていくから」
まあ、それはあって当然のルールだな。島の端っこにずっと隠れ続けられても困るし、残り人数が少なくなったらいつまで経っても見つからない、なんてことにもなりかねない。
「そんなところかしら。……さて、長々と引き留めて悪かったわね。もう戦いは始まってるわ。まずは好きにやってみなさい、アドバイスはあなたの実力をみてからね」




