二十七話 冬休み
「リオ、お茶が入ったわよ。……はい、父さんも」
「ありがとう」
やれやれ、これがいつか「コーヒーが入ったわよ」に変わって欲しいもんだ。
期末試験が終わって冬季休暇となり、俺は一旦家に帰っていた。
期末試験はほとんど中間試験の焼き直しのような結果に終わった。
俺は“初級魔法幾何学”と“魔法理論基礎”でいつくか減点をくらい、それ以外はほぼ満点という結果で再び六百八十点台をマークしたが、一位はまたしても六百九十四点という圧倒的な合計点数を叩き出したマリーに攫われた。ボーヴォラークは二度目の三位の屈辱に打ち震えたようだ。
ベルは相変わらず“言語技能”で大きく失点したが他の出来である程度挽回し、少し点を落としたルイス・ベルブックを抜いて四位、アレンは前回より結構伸ばして六位だった。
「学校はどうだい?って、順調だよな」
父さんが軽い調子でそう言った。
「順調ならワイバーンなんかに襲われないと思うけど」
「そうそう、聞いたわ!ワイバーンを氷漬けにしたんだってね、すごいじゃない。――ラズール先生が何回もあなたたちのことを自慢していたわ」
え?ラズール先生?
「学院に行ったの?」
「ああ、ほら。あの事件の後に調査、ってことで父さんと母さんは学院に行ったんだ。それで久しぶりに先生方と会ったよ」
なるほど。
つーか、父さんと母さんは“闇の魔法対策委員会”だよな。ていうことは――
――もしかして“黒の冠団”絡みか。俺がそう呟くと父さんは、しまった、という顔をした。
「別にいいじゃない。リオの予想が当たっただけだもの。何しろワイバーンと戦った当事者なんだから――むしろ知って警戒しておくべきよ」
母さんのその言葉に、そうだな、と父さんは重く頷いた。
「……何があったの?」
「校長室に何者かが侵入した形跡があったわ。荒らされてはいたけど何かが盗まれてたりとかはなかったようね。校長室は誰かが侵入すると警報が鳴るから、ワイバーンの襲撃は先生たちの目を逸らすためでしょうね」
なるほど。
何かを探していたが目的のものは見つからなかった、ということか。
で、何を探していたのか、というと。
「――デズモンド・グレンヴィルの封印?」
「賢い子だな、リオは。……学院には貴重なものなんて腐るほどあるけど、それでも強盗するにはリスクが大きすぎる。それこそ、ワイバーンを何頭もけしかけるくらいことをしないとできない。そうまでしたい何かがあるとすれば――グレンヴィルの封印くらいだろう、ってことだね。……でも、あくまで推測だ。それに、“黒の冠団”が関わっているのかどうかも分からない」
まあ、普通に考えたらそう思うよな。実際のところはともかく。
しかし、どこに封印されているか、と考えたらパッと思いつく場所の一つは校長室だろう。校長さえいれば一番安全なところだ。
だけど、そこにないとなるとどこだろう?
エルフェトリア湖の底とか?
黙りこくって考えていると、母さんは「考えても分からないと思うわよ」と言った。
「知恵で探り当てられるような場所にあるとは思えないけどね。そもそも存在すら知られていない、普通のやり方では行けないような、隠された場所――そんなところ、あの学院ならたくさんありそうだけど」
隠された場所、ねえ。
まあ、俺が探すわけじゃないからいいか。分かんなくても。
「……さて、と。それじゃあ、久しぶりに特訓でもしましょうか。勉強はよくできてるみたいだし実戦を中心にしましょう」
「ああ、“ワイバーンキラー”の実力を実際に見てみたいからな」
「それ、恥ずかしいからやめて欲しいんだけど……」
久しぶりの家庭教育は、母さんも父さんもだいぶ遠慮がなくなっていた。
二人はより激しく、より容赦なく、そしてより狡猾に俺と戦った。
現役“闇の魔法対策委員会”二人による戦闘訓練を毎日――あれ、普通に決闘クラブよりレベル段違いに高くないか?
俺の感覚はやはり間違いではなく、年末年始に少々ごちそうを食べ過ぎた、と思ったが体はむしろ引き締まり、腹筋はかつてないシックスパックを形作っていた。
杖の振りはより鋭く、狙いはより素早く精密に、呪文の“想起”はより鮮明になり、円陣魔法も数は少ないが、いくつか発動は容易ながらそこそこ便利なものを実戦レベルに仕上げた。
そして雪が降った暁には、いい機会だからといって雪上での戦闘訓練が行われた。魔法を併用した雪に足を取られない移動術、雪を利用したローコストな隠密術、雪の戦闘への活用、などなど。これ、冬休みっつうか強化合宿では?
いやいやいや、ちゃんと休みらしいこともしたけどね!ベルとかマリーとかと手紙のやりとりしたりだとか、近所の子供と遊んでやったりだとか、朝寝したりだとか!
それに、訓練自体も楽しかったし。特に雪の上を滑って移動する魔法は超楽しかった。慣れるまではぶつかりまくったけど。
おかげで年明けから一週間が経って学院に戻る頃には、自分で言うのも何だが、結構強くなってしまっていた。今なら雪上でなら一人でワイバーンに勝てるだろう。
雪上じゃなかったら――二人、いや、もう半リオ・クライヴくらい欲しいな。氷漬け戦法で戦えたらの話だが。ワイバーンの鱗をぶち抜ける火力はまだどうやっても出せない。
ともかく、俺は再び空飛ぶ馬車に乗って学院に戻ってきた。
粉雪が舞う寒い日で、氷に覆われたエルフェトリア湖はまた違った風情があった。
学生生活、再開だ。




