二十一話 中間試験
ついに入学してから最初の試験の時がやってきた。
寮は朝からどことなくピリピリしている。
みんな緊張した表情だ。
懐かしい感覚だ。日本ではちょうど高三で受験期真っ只中だったからな。あの頃を思い出す。
試験は三日間かけて行われるようだ。
一日目が“初級魔法幾何学”と“歴史”で、二日目が“言語技能”と“魔法物質とその性質”、そして“魔法実践”だ。
最終日の三日目が“魔法理論基礎”と“初等魔法言語文法”――うわ、重……。
最初は“初級魔法幾何学”だ。
朝から重いな!こういう時にこそコーヒーを飲んで頭のギヤを上げる必要があるんだが。
「ふむ、ふむ。逃げ出す愚を犯すものが出なかったのは幸いである。では、問題を配布する。……不正行為に対しては厳正に対処する。諸君らに誠実に試験へ取り組む良識と、発見された時どうなるかということに考えが及ぶだけの想像力を期待しよう。――では、始め」
試験開始の号令がかかった。一斉にみんながペンを持ち、カリカリとペンを走らせる音が響いた。
俺もサッと記名を終えて解答に入った。
さあて、どんなもんだ?
大問一.問一.
基層の図形を描け。
あ、これは最初の授業で俺が答えさせられたやつだな。厳密には違うけど。
さて、ちゃんとマス目があるからな。バーリスのことだ。ちょっとでもずれていたら大幅に減点を食らうだろう。
丁寧に作図して、俺は次の問題に進んだ。
大問一は基礎的な用語などを答えさせる問題のようだ。バーリスにこんな問題を出す慈悲があるとはな。それともガイドラインなんかがあるのか?
大問二も基本的なグラフの作図を求める問題で、特に苦労することなくサクッと解けた。
おいおい、こんなんでいいのかよ?
あとは大問三だけか。
大問三は――
……おおう。
大問三.問一.
十秒間三方向に光線を照射する魔法陣を記述せよ。なお、光線の角度および威力は問わない。
大問三.問二.
下図に示す魔法陣がどのような魔法を発動させるか記述せよ。
大問三.問三.
ある者が部屋の照明を意図し下図のような魔法陣を展開して発動させたところ、部屋全体が砂に埋もれてしまった。下図の魔法陣の誤りを指摘せよ。
大問三.問四.
下に示すような住宅において郵便受けに投函された郵便物を二階の自室に送る仕組みを魔法陣を用いて構築せよ。ただし転移を禁ずる。
曲者は問四だ。
俺やベルのように先の内容まで知ってるなら、んなもん転移させりゃいいじゃん、で終わりだが、これまで授業でやった内容だけではそれが出来ないし、ちゃんと問題文でも逃げ道を塞いである。
どうしたもんかな。これはまさしく応用問題だ。魔法幾何学の知識があるだけじゃ解けない。
結局俺が書いた答えは、郵便受けから自室の窓に飛行させて部屋に放り込む、というやり方だった。
郵便受けから窓への飛行ルートの設定、天候や風の考慮、窓の開け閉めなど、かなり想像力を必要とした問題だったが、それにしても見事に既習範囲で解けるようになっている。すげえな、これは素直に感心だ。
「解答やめ。それでは解答用紙を回収する。ペンを置きたまえ、これよりペンを持った場合不正行為とみなす」
バーリスは一人一人の解答用紙を回収していった。
俺のところに来たバーリスが、一瞬、俺の解答用紙を一瞥した。
何を思ったかはわからないが。
「……では、これにて本試験を終了する」
解答用紙を回収したバーリスはさっさと教室を出た。
教室はさながら通夜のような雰囲気に包まれていた。
ほとんどの生徒の首が自然と下に傾いている。
終わった、とか、無理じゃん、みたいなつぶやきがさざ波のように響く。
「どうだ、ベル」
「ああ、まあ、よく出来たんじゃないかな。……最後の問題、あれはひどいだろ、と思ったけどね」
「だよな。……次は歴史か」
歴史の教室に行くと、担当のクロウ先生がすでに来ていた。
教壇に突っ伏して眠っている。
一向に起きる気配がないな、と思っていたら開始五分前になって注意事項が勝手に動くチョークによって自動で黒板に書かれ、問題と解答用紙がひとりでに配布された。
そして、試験開始の合図すら黒板への自動筆記で行われ、クロウ先生は眠ったままだった。大丈夫なのか、あの人。
さてさて。問題問題、っと。
歴史は何の問題もなく解き終わった。
俺は日本では文系で世界史を取っていたから、歴史の勉強なんてのはお手の物だ。
一問一答も記述もつまづくことなくスムーズに全問回答し、試験時間を半分以上残して終わらせた。
そろそろ暇になってきたな。
三回くらい見直しをし終え、いよいよやることがなくなった。
俺も先生のように寝るかな。
そう思って机に伏したその時。
「うわああああああっ!?」
何だ?
突然、誰かが叫んだ。
声のした方を見てみると生徒が椅子からひっくり返っていたが、それよりもその生徒の解答用紙が燃えている。
何が起こったんだ、ありゃ。
教室の生徒全員があっけにとられた様子で見守る中、その生徒は浮かび上がり、同時に教室後方のドアが勝手に開き、浮かび上がった生徒は勢いよく吹っ飛ばされて教室の外に放り出された。
そして、ドアがぴしゃりと閉まった後、黒板に文が書かれた。
“不正行為には厳正に対処”
クロウ先生はその間もずっと眠ったままだった。
先生は試験終了になってからようやく目を覚まし、杖を一振りして解答用紙を回収するとよたよたした足取りで教室を出ていった。




