二十話 勉強会
学院に入学してからもう一ヶ月半くらい経ってしまった。
すでに中間試験は一週間前に迫りその足音はだんだん大きくなってきたが、学院生活にもだいぶ慣れて毎日順調だ。
授業は何も困ってない。四年半みっちり教え込んでくれた両親様様だ。
決闘クラブも、そうだな、とりあえず俺の相手になる一年はベルと――そうそう、例のアレン・マクヴァティくらいだろう。
やつは初回の活動で学習したらしく、ベルたちの派閥の目の届かないところで俺に絡んでくるようになった。一度やつの取り巻きに囲まれて多対一の戦いになったことがあった。
が、しかし取り巻きどもははっきり言って雑魚の部類で、俺の地を這う炎の呪文≪オグニ エルデ イト リーペ≫で甲高い裏声をあげながら逃げ惑うザマだった。
だが、ボス猿のアレンはベルのライバル面してるだけあって結構強い。あいつも、最初に第五演習場で戦った時はあいつなりに加減していた、ということだろう。
図書館では……情報収集よりもマリーと一緒に勉強していることの方が多い。
魔大陸の情報が現状、アンナ・ローの学生時代を知っていると思われるエルドリッチ校長に話を聞くしかない状況でどうしようもなく、戦闘訓練の方も決闘クラブがある。まあ戦い方の考察とかはたまにやるけど。
となるとコーヒー生産に関わる機械を開発するための情報収集だが、要は関連する専門魔法分野を勉強しなきゃならないわけだけど、それにはその前段階、基礎を固める、と言うことが必要なわけで、つまり今やってる勉強そのまんまでしかない。
というわけで俺が机に持ってくる本はだんだんとマリーと似たような物になり、じゃあ試験も近いことだし一緒に勉強しませんか、というわけで一緒に勉強することになった。
まあ、おかげで捗っている。ぶっちゃけ俺は一人だったらノー勉で突撃するつもりだったし。
さて、今日は週末の休日だ。
どこ行こうかな?
ちょっと前までは休日でも部屋にこもって図書館から借りてきた本をガツガツ読み込んでいたり、勉強したりしていたが、根を詰めすぎるとあんまり良くないことにすぐ気づき、先週から外でゆったりとやることにしている。結局やること変わらんのかい、って話だが。
ふーむ。ボートを借りてエルフェトリア湖の水上とか?透明バルコニーもいいな。あそこは下に見える庭園が綺麗だ。
「ああ、リオ。今日暇かい?手伝って欲しいことがあるんだけど」
俺が悩んでいるとベルが声をかけてきた。
「ん?まあ、暇っちゃ暇だけど……。何?」
「ほら、中間試験の一週間前だろ。寮の一年生が僕のところに押し寄せてきてるんだ、頼むから助けてくれ!」
なるほど、そういうことか。
わかんないところはわかってるやつに聞くのが一番だからな。
「そういやそうだな、はは、ベルアカデミーの特別講習か。いいよ、手伝おう」
「助かった、下に行こう。エントランスの一角を借りてる」
寮のエントランスに降りていくと、隅にたくさんのテーブルが並び、そこに寮の一年が集まっていた。
「ベルハルトが来たわ」
「リオも一緒だ、やった!」
これは――かなりの数がいるな、俺たち二人でこの人数をさばくのか?
「多いな、ほぼ全員じゃないのかコレ」
「だから言っただろ、僕一人じゃ無理だって」
「二人でも無理な気がするけどな。まあいいや、始めっか。……あ、分担とかどうするよ?魔法幾何学とかはベルが教えた方がいいと思うんだけど」
そう言うと、ベルは納得した顔した。
「それもそうだね。ええと、魔法言語文法はリオが教えた方がいいんじゃないかな?あと、悪いんだけど言語技能は僕もあまり自信が……」
言語技能か。
それなら楽勝だ、俺は日本じゃ文系だったからな。
「俺がやるよ、得意だから」
「本当かい?任せたよ。じゃあ、魔法言語文法と言語技能で分からないところがある人はリオに、魔法幾何学で分からないところがある人は僕のところに来て。その他はどっちに聞いてもいい。――」
すぐに俺たちを呼ぶ声でうるさくなった。
「リオ、この単語の使い方が分からないんだけど」
「ああ、これは対格を二つとるんだ。――」
「この図形ってどうやって式で表せばいいの?」
「こうするんだ。でも、例えばこういう場合は――」
「魔法理論が全くわかりません!」
「……このページのこの部分は分かるか?じゃあ――」
「主張ってどこに書いてあるの?」
「まず頭を見ろ、でもそこだけじゃ問題に答えるには足りないから――」
「“鋼綱綿”の性質ってこれで合ってる?」
「ああ、それは“針金綿”の性質だね。“鋼綱綿”の方は――」
「魔法使いの名前と業績が覚えられないんだけど」
「そこら辺のやつならいい覚え方がある。いくぞ?――」
「魔法当てるコツとかってあるの?」
「手首を絶対動かすな。ほら、ちょっと動いてる。ちゃんと力入れろ。――」
ああもう。
これがジーニアスバー、ってやつか。
くそ、手が足りん!
……あっ、そうだ。
別に他のやつにもやらせりゃいいじゃん。
「おい、ルーク!」
俺はルームメイトの一人、ルークに声をかけた。
「お前“魔法物質とその性質”は割とできるよな?いつも小テストとかでいい点取ってただろ」
「え?うん、まあ。リオたちほどじゃないけど――」
「試験範囲分かってりゃ十分だ、代わりに教えてくれ」
「えぇ!?絶対ムリだ」
「あぁ、最初はグダるだろうな、お前の思ってる以上に。いいからやってみろ、自分が意外と分かってないことが分かってむしろ勉強になるから!……今から“魔法物質とその性質”で分かんないとこあるやつはこいつに聞け!すげー出来るから!」
「ええー……」
その後も、俺は一個でもよくできてる科目があるやつを見つけては、そいつに教え役を押し付けた。
おかげで、昼になる頃には来ている一年のうち三分の一くらいが何かを教えることになり、俺たちの負担もだいぶ軽減された。
「リオが来てくれてよかったよ。僕じゃ人に任せることを思いつかなかったかも」
正午になったので、一旦休憩ということで飯を食っていると、ベルが声をかけてきた。
「まあ、ね。こういうのは教える側も勉強になるもんだろ」
「そうだね。僕も教わるよりむしろ勉強になると思ったよ。……おっと、もう結構時間が経ってるんじゃないか?そろそろ始めようか」
その後も勉強会は日が暮れるまで続き、図らずも一日ガッツリ試験対策をすることになった。
試験、試験か。
どんなもんかね、俺にとってはともかく、簡単なもんじゃないとは思うが。
それに、他の寮も気になる。ツバメ寮じゃ俺とベルのツートップだが、他所にはどんなやつが潜んでいるか。
ドラゴン寮のアレンはそこそこ出来るだろうし、オオタカ寮のマリーは本番でパニクらなきゃ間違いなくトップクラスだ。普段一緒にやってるからわかる。
ま、全ては一週間後に分かることか。




