第七話:面接
アリストンを先頭に一行はある場所へ向かい……
視線が……痛い、刺さる。勿論俺が周囲の人達と比べて明らかに違う事が、原因の一つではあるとは思う。アリストンさんは何というか、主に髪の毛の量からして比較的、年を取っていると思う。その上領主だそうだから、一般的な人よりも知識は豊富だろうし、色々なことを見聞きしてきた人なんだろう。その人が『見た事が無い』と言っていた。だから俺は、ダークエルフという種族は、相当に珍しい種族で……だから注目をされている、というのもあるだろうけれど。
「どうかしたかね?」
「あ、いえ、特には何も……」
「ふむ? いやなに、何か考え事でもしているのかと思ってな」
「あ、大丈夫です、有難うございます」
「そうか……まぁ、記憶が曖昧との事だからな。此処で何かキッカケでも掴めると良いのだが……疑問に思った事は、気軽に聞いてくれて構わんよ?」
「特に、今の所は大丈夫です。その……有難うございます」
「そうか。何か疑問に思った事があれば気軽に言うと良い。君には期待しているからな、出来得る限り、力になる」
「……有難うございます」
「うむ」
俺が考え込んでいたのを見たのか、振り返って話しかけてくれたアリストンさんはそう言うと、前を向き、何処かに向かって歩き出た。それに合わせて、周囲を固める護衛の人達も歩き出した。そしてその後ろを俺も、護衛の人達に囲まれながら歩き始める……。
種族もあるとは思う、けれどそれよりも此処まで厳重に、領主自ら先頭に立って、相当珍しい種族であり、見知らぬ人を連れて歩いている。そりゃあ領民の人達も注目するなという方が難しいだろう。ヒソヒソ声も、耳を澄ませば聴こえてくる。もしかしてアレってダークエルフ? 何処から来たんだ? 初めて見た! アリストン様が連れていらっしゃるという事は何か有ったのかしら? 等。特に悪い事はしていないから気にする事はないんだろうけれど……。ここまで注目された事なんてないから……まるで針の筵にいるようで……。目的地はまだかな……出来るだけ早く着いて欲しい。
それから暫く、相変わらず変わらない視線やヒソヒソ声を受けながら歩く事数十分、漸く目的地に着いたらしい。歩いている途中、何軒もの石で出来た建物を見てきたけれど、目の前の建物は別格だ。まるで要塞の様で……その様が、この建物が重要なモノなのだと語りかけてくる。アリストンさんが扉を開き、中に入る。それに続き俺も中に入ると、広くて高い空間に、大きな机と奥に五脚の椅子が、手前に一脚の椅子がポツンと置かれていて、既に奥の椅子には四人の男女が座っていた。護衛に固められたアリストンさんが奥側の椅子の中央に座ると、俺に手前の椅子に座るように促した。……状況は大して変わらないみたいだ……。
「彼が例の?」
「そうだろうよ。記憶が曖昧だと聞いたし、手早く済ませようや。その方がソイツにとっても、俺達にとっても良いだろよ」
「相変わらず簡単に言うね……とはいえ、今回ばかりはダンの意見に賛成さね。ウチには関係無いだろうからね」
「私にも……うん、今は関係無いでしょうね」
「一片に話すと彼が混乱するだろうに……。すまないな、何の事だか分からないだろう? ウチの連中はどうにも気が早くてな。そこが良いところでも有るのだが……」
「あ、大丈夫です……ただ何のお話をされるのかだけ、お聞きしたいな、とは思いますが」
俺が椅子に座ったと見ると同時に、アリストンさんを除いた四人の男女は、それぞれ俺を見ながら……品定めをするかのように話し合いを始めた。嫌な目では無いのが救いだ。何というか本当に、品定めをしている感じ。
「尤もな疑問だ。順を追って説明をする……となると時間が掛かるだろうし、ダン……坊主頭の彼が言った様に、君にとってもよく無いだろうから手短に。要は君に働いてもらう場所を決めようと思ってな」
「働く場所、ですか……?」
「うむ。私が治めるこのカーリーズ領は、他の領に比べるとそこまで広くは無いのだが、立地上、色々と難点が多くてな。それぞれが自由気ままに動いていたのでは、残念ながら維持する事が難しい領なのだ。そこで我々は部署を作り、それぞれ代表者を決め、それぞれがそれぞれの目的を持って日々を動いているのだ。此処までは良いかね?」
「要は立地上の都合で適当に動いていては土地の維持が難しいから、代表者を決めて……それぞれが目的を持って動いていて、その代表者の方々が今目の前に居る方々……という事で大丈夫ですか?」
「その通りだ。記憶が曖昧だと聞いていたから少し心配していたのだが、特に問題は無さそうだな」
しまった! と思ったけれど、アリストンさんは好意的に受け取ってくれたらしい。そもそも記憶喪失じゃ無いからなぁ……ボロが出ない様、気を付けないと……。
「で、だ、既に彼らの中では、ついでに言うと私の中でも、君が担当する部署は二つに絞られている。一つは田畑を耕してもらう部署、この部署の担当は君から見て右から二番目、ウィズという」
「初めまして、ダークエルフの人。私がこの領の田畑の管理などを担当している、ウィズ=プラタナンと言う。身体付きが立派だからな、良い戦力になるだろうと期待しているよ」
「もう一つの部署が魔物の迎撃や、魔窟の攻略を担当する部署。この部署の担当は先程話したが、坊主頭の、君から見て左端の彼だ」
「アリストンの旦那だってほぼほぼ坊主じゃねぇか……俺は戦闘で邪魔になるから剃ってるだけで、ハゲな訳じゃねぇよ……。あぁ、すまねぇ。俺が魔物関係の部署を担当してるダン=バルガスだ。……そのローブに着いてるのはゴブリンの血だろ? 是非ウチに入って欲しいもんだ。俺も期待してるぜ」
四人の中では一番年を取っているように見える人がウィズさん。で、綺麗に髪の毛を剃り上げているのがダンさん……か。魔物との戦いも森での一戦だけだけど、畑も耕した事はちょっと無いなぁ……。
「戦えるのならダンのところで良いんじゃないかい? 戦える人は多い方が良いよ」
「私もそう思いますね。勿論畑を耕す事も大事ですが、どちらも出来るというのなら、戦闘を担当してもらいたいです。備えあれば憂いなしとも言いますからね。一人でも多い方が良いでしょう」
「ふむ……ウィズ、君はどう思う?」
「ウチの部門も人手は多い方が良いですが……ダンの言う通りなら譲りますな。ゼフスの言葉をそのまま借りるわけでは無いですが、戦える人はこの領にとっては、間違いなく備えになりますからな」
「成る程……。あぁ、置いてけぼりにして済まないな。正直私もどちらかと言われれば、ダンが担当する魔物と戦う部署……魔物部署で働いてもらいたいのだが、どうだね?」
「えっと……確かにダンさんが仰る通り、森の中でゴブリンと戦闘はしましたけれど……記憶の限り、戦闘はその一戦のみなので、ご期待に添えるのかどうかは何とも……」
どの程度の魔物と戦うのか、どういう役割なのか……これはゴブリン達との戦闘で思った事だけれど、魔物と同様、人間も連携を取る必要があるし、どんな役割を任されるかで変わってくる。例えば俺に、魔法ゴブリンの様に支援を頼むと言われても出来ないし……兎に角求められているモノが分からない、これに尽きた。
「確かにいきなり言われても困り物か……ふむ……」
「此処で考えていても仕方がねぇんじゃねぇか? どうだ? 疲れてるとは思うが、ウチの若いのと軽い模擬戦でもやらしてみるってのは。対人と対魔物じゃ訳が違うとは思うが、此処で悩んでるよか良いんじゃねぇか?」
「ダンにしては良い案だね、良いんじゃないかい」
「そうだな……疲れている君には悪いが、そうしても良いかね?」
「あ、はい、大丈夫……だと思います」
茶色い髭をなぞりつつ、考え込むアリストンさんだったが、ダンさんの一言に、そしてダンさんとアリストンさんの隣の間に座る、女性の賛成意見も有って、アリストンさんはダンさんの意見を取った。我ながら流されている感が半端ないけれど、色々とハッキリするとは思った。この身体がどの程度のものなのか試したい、そんな気持ちが心の奥底にある。身の程を知れば、自分の身体がこの世界ではどの程度通用するのか知る、良いキッカケだと思ったから。そしてそれは、後々、間違いなく役立つと思ったから。
「良し! そうと決まれば早速準備をさせてくる! ダークエルフの兄ちゃんも、準備運動なり何なりしといてくれ!」
「分かりました」
「疲れているところ、すまないな。だが、君にとっても良い機会なはずだ。君の力を見せて欲しい」
「頑張ります」
ダンさんは言うなり、会議所を駆け足で出て行った。アリストンさんの言う通り、これは本当にいい機会だと思う。……全然だったらどうしよう……。
主人公は面接じみたものを受け、誰かと戦う事になった。