表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この不可思議な世界にて  作者: 三郎冠者
7/10

第六話:一筋の光

森を脱し、道筋を歩む主人公は……

 

 ゴブリン達との戦闘から少しばかりの時間が経った。今のところ仇討ちというか、魔物から襲われそうな気配は感じない。盾ゴブリンと石を投げていたゴブリン、そして魔法を使っていたゴブリンを逃したからなのかなと思っている。


 連携の取り方、そして弓ゴブリンが声を出した時に聞こえた音からして、彼ら魔物にも、独自の連絡網の様なものがあるんじゃないかと思えたからだ。厄介だったし、無傷だった訳でも無い。むしろあの時勝負に出ていなければ……と考えると、こういった状態なのは助かる。


「物量で攻められたらどうしようもないしなー……っと!」

 そんな事を考えつつ老人の足跡を辿っていると、漸くこの森の出口らしき場所まで辿り着いた。鬱蒼とした森とは対照的に、明るい光が見える。少しだけ気分を高揚させつつ森を出ると、足跡は無くなっていたけれど、整備こそされていないものの、人が通るものだと分かる道がある。


 どれくらいで人里へ辿り着けるのかも気になったけれど、それ以上に不安なのが、一切分からない上に話せない言葉の壁。……老人の対応は正直時間を置いて考えると、ある意味当然だったのかもしれない。恐らく友人だった人の、遺体の近くに居る謎の言葉を話す男。これを疑うなというのは流石に無理がある。仕方がないで済ましたくは無い出来事だったけれど……どうしようもない。


 問題はこれから行く事になるであろう人里でのコミュニケーションの取り方だ。言葉が話せない以上、ボディーランゲージでなんとかするしか無いけれど……流石に限界がある。敵意が無いと伝える事は簡単だけれど、相手に敵意が有った場合はどうしようもない。両手を挙げたは良いものの殺されました、ではただの間抜けだ。


「かと言って敵意むき出しで行くのもなぁ……」

 道を歩きながら考えはするものの、そんな事をすれば交流をする事が出来ない。最終的な目標は、この世界から元の世界に戻る事。自分一人、言葉も分からないまま、そんな事が出来るとは到底思えない。明かりが無く、道もあるかも分からない暗闇を歩こうとしている様なもの……暗中模索よりも酷い状態だ。だからこそ、これから辿り着くであろう人里では出来る限り友好的にして、情報を集めたい。贅沢を言えば、出来ればこの世界の言葉を習得したい。間違いなく、元の世界に戻る為の足掛かりになる。


「ま、その前にこの道が人里に続いているかどうかなんだけど……」

 不安な点を口にしたけれど、これに関してはこの道を信じるしかない。今の俺には、この世界の知識が無い。そして目の前には人が歩く様な道がある。ならこれを辿るしか無い、他に手はないのだ。食べ物が持つ内に、何とか辿り着きたい。魔物とかも……あれ、襲われる可能性を考えると休めないんじゃ……。


「強行軍かぁ……身体保つかなぁ……」

 寝込みを襲われて無傷、というのはまず無いだろう。他に仲間が居れば、交代で眠るんだろうけど……居ないし……。やっぱり不安だらけ……。いや、ここまで来ると逆に開き直れる。人里まで何日くらい掛かるのか分からないけれど、くたびれた旅人を無下に……しない様な場所だと良いなぁ……。


 いや、ポジティブに考えよう、一先ず休ませよう! と思わせる様に倒れるみたいな感じで行けば良いんだ! そう、それで行こう! ついでに言葉が使えないのも怪し過ぎるから、記憶喪失みたいな感じな絵を地面に描いて……。




「着いちゃった……全然疲れてないんだけど……魔物も出なかったんだけど……というか、眠気が全く来ないし、お腹も減らないんだけど、どうなってんだ……人外?

 そうなのだ。森から歩き続けておおよそ二日間。少し遠目に見える、何というのか城壁で囲まれた……そう、城壁都市に辿り着くまで、夜間に魔物に襲われるのは危ないからと不眠の強行軍。当然ながら、睡魔との戦いになるだろうと予想していたのだけれど、全く来なかった。全く、一切、睡魔というものを感じ無かった。


 夜間の移動も、暗い中を歩くのは……と不安要素だったのだけれど、これも全く問題無かった。普通に見える。何なら夜間の方が良く見える。その上お腹も全く減らない。ここまで来るとこの身体、俺はもしかしたら人外なのかもしれない……人の形はしているけれど。


 とはいえ、流石に精神的には辛かったので、明るい朝から昼の間に小休憩を取り、適度に食事や水分補給も取った。疲労も無いし、お腹も減らないけれど……気分的なものだ。何だかんだで警戒は怠っていなかったから、精神的には疲れていたし、必要だったと思う。


 少し気になるのは、道中誰とも会わなかった事。整備はされていないとは言え、道筋が有る、という事は誰かが定期的にこの道を通っていたという事だと思う。ただこの二日間、誰とも会わなかった。勿論、素性が一切分からず、言葉も通じないから会わなかった事は助かった事で有るけれど……少し不思議だ。


「それにしても、何というか……凄いな。魔物対策なのかな?」

 ひたすら歩き続けて到着したのは、岩で出来た壁に囲まれた城壁都市。流石に無警戒過ぎるだろうと、少し離れた場所から見ているけれど……それにしても立派だ。目を凝らせば都市への入り口なのか、門番らしき人が二人、入り口を塞ぐ様にして立っている。此方には気付いていない。さて、どうやって入ったものか……。


 当初の計画では、疲れ果ててボロボロで、言葉も忘れた記憶喪失の人として入れてもらおうと考えていたけれど、現状ほぼ疲れていないからそれは難しい。記憶喪失は……言葉を話せないという事で何とかなるかもしれないけれど……いや、此処で悩んでいても仕方がないか。


 改めて道へ戻り、都市へ向けて歩みを進める。そうしている内に、門番の一人が此方に気付いたらしく、此方に目線を向けてきた。勿論、警戒しているぞ、というもの。都市の門の前に辿り着く少し前に、門番の二人は手に持った鉄製の槍を此方に向け、何かを話し始めた。


「@%&*:>)*^@+|“*#^?&^@”<・_+*」

「@*&%^$#+“>*&$@+|@$^*%@$:<』”+_&%$#@^*()(*^^**&**&^%$%^&%$#^&*()(*&&」

 矢張りというべきか、言葉が分からないけれど、一応、此方からもコミュニケーションを図ろうとしてみる。


「警戒されるのも当然だとは思うんですけど、敵意は無いです。気付けば森の中に倒れていて……記憶が曖昧で……一先ず道があったので、それを辿って来たのですが……」

 本当は誰かの家の地下室だったけれど、あそこがどういった場所なのか分からない。更に、ある程度地理を知っている彼らからすれば、場所を特定される恐れもある。だから森で倒れていたという事にした、が矢張り通じていないのか、門番は二人して顔を見合わせた後、警戒を強めた様子。賭けではあったが、手に持っていた杖を地面に置き、両膝を地面に付け、両手を挙げる……。


「*&$#^&+』^%$?*&$%&(_\\=?」

「@#$%^&*@#$%^&*(@#$%^&*@#$%^&*@#$%^&*@#$%^*@#$%^&*(@#$%^&*」

「@#$%^&*!」

 彼らは少し話し合ったかと思えば、一人の門番が門を開け、中に駆け足で入って行った。同時にもう一人の門番からの警戒は強まったけれど……。一先ず、直ぐに殺されるという事にはならなさそうで良かった。後は一応、直ぐ逃げられる様に心構えだけはしておこう。逃げたところで行く宛も無いわけだけど。




 門番が去って暫く、再び門が開いたかと思えば、門番と、その後ろから五人ほどの護衛? に守られながら一人の男性がやって来た。服装を見るに、この都市の管理者だろうか……。


「@#$%^&*()@#$%^&*()_@#$%^&*()_+__)(*&&^%$#@!@#$%^&*()__+_)(*&」

 男性が何かを話したかと思えば、護衛の内の一人が、此方に何かを投げて来た。受け取ってみれば、リンゴに似た果物の様で、甘い香りがする。投げて来た人をを見返せば、食べろというジェスチャー……毒リンゴとかじゃ無いよな……?


「@#$%^&*()_+___)&^%$##$%」

 また男性が何かを話したかと思えば、果物を投げた男性が近づいて来て、俺が持っていた果物を取ると、一口かじってみせた。そして両手を広げ、なんともないだろう? というジェスチャーをし、再び俺に果物を投げた。ここまでされて、食べないのもどうかと思う。意を決して口にする……甘い、本当にリンゴみたいな味だ。


「どうだ? 言葉は分かるか、ダークエルフの者よ」

「っ! はい! 分かります!」

「そうか、ならば改めて聞こう。君は何者かね? ダークエルフ、という事だけは分かるのだが、何せ、聞いたことはあるのだが、見た事は無いのでな」

「俺は……いや、私は、気付けば森で倒れていて……記憶も曖昧で……。道があったので、取り敢えず道を辿って来たら、此処に辿り着きました」

「ふむ……」

 言葉が通じる事が、こんなにも楽だなんて! と感動する暇も無く、投げかけられた、当たり前の問い。どうやら俺はダークエルフという生き物らしい……ってよく考えたら、耳が尖っていて、肌が黒いと来れば確かにそうか。ただ相手の言葉を聞く限り、ダークエルフは珍しい生き物……いや種族らしい。


 男性の鋭い視線が此方の警戒心を煽る。ただ、此処は我慢のしどころ。相手に警戒されない様に、敵意は無いと分かってもらえる様に、少し困った様な表情で、相手の視線を受け止める。男性は、少しばかり考えた後、鋭い視線を解いた。


「素性は分からんが、私達に敵意は無い様だ。頼るところがないというのも事実であろう。我々としてもダークエルフである君が、我が領に入り、働いてくれるのなら助かるのだが……如何かな?」

「はい! 此方としても、何も分からないので、その様にして頂けると有り難いです!」

「宜しい……改めて歓迎する、ダークエルフの者よ。私はアリストン=カーリーズ。このカーリーズ領の領主だ。君が我々にとって、良い人材である事を祈るよ」


 男性、アリストンさんの言葉と共に、門番や護衛達の警戒心も少し解けた。アリストンさんを守る様に、護衛の人達が周囲を囲む。一人、俺に果物を投げかけ、そしてかじった護衛の人が、地面に置いた俺の杖を取り、門へ、カーリーズ領内へと進んで行く。座ったままの俺を見た門番達が、俺に付いて行く様に首で示した。


 慌てて立ち上がって、彼らに付いて行く。


 漸くだ……。漸く、人と交流が取れた。アリストンさんの言葉を考えるに、怪しいとは思ってはいるものの、何かの戦力として期待されているみたいだ。足掛かり、一歩前進、真っ暗だった暗闇に、一筋の光が差した……そんな気がする。これから先が、どれだけのものか分からないけれど、この世界から元の世界へ戻るキッカケを、此処で少しでもつかめる様に……。


 そんな決心を胸に、俺はカーリーズ領へと繋がる門をくぐった。


カーリーズ領に辿り着き、暗闇に一筋の光が差すのをみた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ