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短編集

怪盗の『てん職』

作者: ゆにろく

「……あぁ! もううんざりだっ!!」

『いきなり、どうしたんだレッド!』

レッドと呼ばれた男は、天井から吊るされた大きなモニターに映る相手へ向かってどなり散らした。

「辞めてやるっ! 怪盗!!!」

そう、この男、怪盗である。

怪盗レッド。 この名を聞いて知らぬものはいない、21世紀に現れた大怪盗である。

絵画から宝石、ありとあらゆる財をこの男は盗んだ。どれだけ強固なセキュリティを持っていても、どこからともなくレッドは現れ、手品のように宝を盗み、煙のように姿を消した。

世間の関心も彼は盗んだ。

被害にあったのは大抵が大金持ちで、彼に莫大な懸賞金を掛けて、血眼になって彼を探した。

傍観していた一般人は、様々な意見を持った。

フィクションのようだと彼に興奮を覚えるものもいれば、彼は義賊の一面もあったので、彼に救われ感謝するもの、ただの泥棒ではないかとバッサリ切り捨てるものもいた。

もちろん、マスコミも黙っていない。ニュースで大きく取り上げ、新聞の一面を飾り、ワイドショーでも特番を組まれた。

ともかく、彼は大怪盗として名を馳せた。

その彼が、怪盗を辞めるとはっきり言ったのだ。

今、レッドとテレビ電話をしている、盗品の仲介やら、手助けを行っていた男は青ざめた。

そして、すぐに顔を真っ赤にし、声を荒げた。

『何言ってんだ! お前!! お前は盗みの天才なんだぞ!!』

「うるせぇ!! お前は俺の苦労を知らないんだ!! 確かに俺は盗みの天才だ! でも、盗むのには下準備がいる! 知ってるか休日にチョキチョキ新聞切って予告状を作っていることを!!」

『それが理由か?!』

「確かに富は得た。 豪邸に住めるようになったし、夢だったライオンを飼うこともできた。 でも、もう疲れたんだよ。 俺は転職して別の人生を生きたい」

レッドは、元々貧乏な家で生まれた。その頃憧れた大金持ち。

成ってしまえばあっけないもので彼は現状に飽きていた。

「もう貧乏だった頃とは違う。 モチベーションが無くなっちまったんだ。 盗みもつまらない。 俺はもっと人生を楽しくいきたいんだよ」

『レッド……』

「お前には世話になった。 あとで金は振り込む。 じゃあな」


レッドは怪盗を引退した。


「さて」

彼には金も時間もあった。

何をしてこれから生きていくのかじっくり考え、思い付いたのが……

「絵描き、そうだ、絵描きになろう!」

彼は仕事柄、名画を生で見ることが多かった。その時、感動を覚えたことも少なくない。最初は、なぜこんな物にそこまでの値が付くのだろうと不思議に思った。しかし、盗み、実物を眼にしたとき、あぁこれは高価なものだと、心でそう理解した。

「あぁ、あんな絵を描いてみたい」

盗むという、美術品に対して最低なことを行っていたにも関わらず、その魅力に取りつかれた彼であった。


彼はすぐに画材を揃えた。

そして、彼の頭に浮かんだものを描き、その絵をコンテストに応募した。

彼には絵の才能もあった。初心者とは思えないような、プロ顔負けの作品が出来上がり、もちろん審査員の目にも止まった。

ただし。


『もしもし、世界油絵コンテストの物です』

「!」

『あなたの作品はとても素晴らしいです。 豊かな色使い、生き生きとした表情』

「ということは、もしかして受賞──」

『しかしねぇ、この絵には問題があるんですよ。 いやあなたに問題がね』

「え!? 問題?!」

レッドは狼狽えた。

もしかして、怪盗がバレたのか?

『似てるんですよ、「モヌリザ」という名画に。 あなたこれ()作でしょ?』

彼は悲しいまでに盗みの天才だった。

『転』職

『天』職

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