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それぞれの気持ち


「今すぐ出て行け! お前が城にいる必要は今度こそ本当にない!」


 怒りに満ちたハロルドが、感情を露わにし怒声を広間中に響かせる。


「いいか? 今日中に出ていかなければ――」

「待ってハロルド!」


 今まで部屋の隅で私より怯えた顔をして小さくなっていたリリーが、ハロルドを制止した。


「手紙読んだなら、わかるでしょう……マリアは家に帰ったところでどうなるかわからない……いろいろと準備が必要な筈……心だって。せめて今日だけは、マリアをお城に泊めてあげて。私がちゃんとマリアを見てるから、お願い」

「リリー……」


 内容を知ってるということは、マリアも読んだのね。あの手紙を。

 ハロルドはリリーからの頼まれごとに弱いのか、はたまた僅かに私への同情があったのか――それはないか。


「明日中に必ず出て行け。二度と大広間には入って来るな。ここからも今すぐ出て行くんだな。……そしてリリー様。こいつはリリー様に危害を加える恐れがありますので、今後決して近寄らないで下さい。ロイ、きちんとリリー様を見張っておけ」

「はい。もちろんです」


 ロイはハロルドに頭を下げ、リリーを連れて一足先に出て行った。

 リリーは何度も私の方を振り返るが、もう言葉すら交わす時間を与えてくれない。


 あーあ……リリーとのお別れがこんな寂しい形になるなんて。


「出て行けと言っている」


 立ち尽くしている私を威圧するハロルド。アルを傷つけた私のことが、ハロルドの目にはもう敵としか映らないんだろうか。

 くるりと背を向けて、私は顔色一つ変えずに歩き出した。

 喜怒哀楽何もない、無の表情を張り付けたまま。


「君の目的通りだよ――マリア」


 か細いアルの声が聞こえ、私の足が止まる。


「僕の心は、めちゃくちゃだ」

「…………」


 私は振り返らずに、そのまま大広間を出て行った。


 出た瞬間から、ギャラリーが私を見てヒソヒソ話をしている。

 一言も話したこともない令嬢達が、揃いも揃って私の噂話をしている。きっと大広間での会話が聞こえていたのか、どこかで勝手に話が回っていたのどちらかだ。

 慣れている。自分以外の噂話は女の好物。他人の不幸は蜜の味。

 陰口を言われたところで、私は傷ついたりしない。


 令嬢達の中に、ジェナジェマの姿を見つけた。


 しっかりと目が合ったのにも関わらず二人はサッと私から目を逸らし、私に近寄ろうともしない。

 それは、二人が私の取り巻きを卒業した瞬間と言える。


 ……当たり前だ。手紙がバレて私の城中の評判は地に落ちている。そんな奴と一緒にいてメリットは何一つない。

 どんなに楽しい会話をし一緒に時を過ごしたところで、私とジェナジェマの関係は“友達”にはなり得なかった。


 ただ、それだけのこと。


 部屋に戻りバタンと大きな音を鳴らしドアを閉めた瞬間、私はその場に崩れ落ちるようにして泣いた。

 ピンと張った糸がプツリと切れたように、一気に感情が溢れ出る。

 人前では決して見せない自分の弱さを、この一人きりになった部屋で出し切るように。

 

 せっかく自分らしく生きると決めたのに、私はこの世界でも前と同じ様に――いや、真莉愛の方がまだマシだった。

 あの頃は大嫌いだった男がいつも味方してくれた。でも今この世界で私の味方をする人間はどこにもいない。



「アルっ……アルっ……!」


 望んでいたのに。あんなにも。

 嫌われることを。


 鬱陶しいと、関わりたくないと。

 自分一番そう思ってたじゃない。


 これでよかった。念願の嫌われ人生。全員に嫌われて、よくやったじゃないマリア。


「う……っく……」


 止まらない涙を拭うこともせず、私は床を濡らし続ける。


 そしてやっと落ち着きを取り戻した頃、私の頭に重大な疑問が浮かんだ。


 ――そもそも、誰があの手紙を? 


 あの手紙は、私の部屋に入らないと絶対に盗めない。

 誰かが私を邪魔者だと判断し陥れる為にやったことなら、手紙を盗めたのは昨日私がアルと物置部屋に行っていたあの時間だけ。


「――リリー?」


 ジェマが言っていたことを思い出す。

 

『そしたらリリーがマリアの部屋の近くをうろついてたんだぁ~っ』


 リリーは、私の部屋に来て何をしていたの?


「……まさか、はは。リリーがそんなこと」


 それだけは考えたくない。

 リリーはさっきも私を助けようとしてくれた。これまでもずっと、私はリリーの笑顔を見るだけで幸せだった。

 アルに私が気に入られてるからといって、リリーはこんなことをするような人間じゃない。


「でも……もうどうでもいいか」


 考えてると、段々馬鹿らしくなってきた。

 一人で疑心暗鬼になって勝手に不安になったって、もうどうしようもないところまできている。

 私は明日になったら城を追い出され、もう二度とアルにもリリーにも会えないかもしれない。

 知らない世界で、また一から始める以外の選択肢は私に用意されていない。


 その時、私は城のある人物のの存在を思い出した。


「そうだ、ラナおばさんっ……!」


 この『もし運』の世界に来て初めて出逢った人。

 最後にもう一度会いたい。

 会って謝りたい。青い花をパーティーが終わる最後まで守り切れなかったこと。


 ――どうせなら最後にゲームの時みたいに好感度でも聞いてみようかな。今聞いたら全員最低最悪だろうし、その前にラナおばさんの頭にハテナマークが浮かんで終わりだろうけど。



「そうよ! グズグズしてる時間なんてない! 元気出せマリア!」


 たくさん泣いたなら、後から同じ分だけ笑えばいい。

 明日には城から出ないといけない厳しい現実を受け入れる為、私は散らばった服をまとめバッグに自分の荷物を詰め始めた。


 パーティーが始まる時間は、部屋の出入りが激しくなる。

 始まってからしばらく経って部屋から出れば、大広間に人が集中するから誰にも会わずにおばさんの花畑まで行ける。

『二度と大広間に入って来るな』というハロルドの言葉は、つまりパーティーに参加するなということで外に出るなとは言われていない。


 私は初めて目を覚ました時に着ていたドレスを手に取り、今日は精一杯自分を着飾ることにした。

 私がヘインズ家のご令嬢様でいられるのも、恐らく今日が最後。

 豪華なドレスを着ることも、宝石を身に着けることもなくなって、荷物の半分を占めている衣類のほとんどは売りに出してお金にしなければならなくなる。


 だったらせめて、お城で過ごす最後の日くらい魔法のかかったシンデレラでいたいじゃない。


 こうしてパーティーに参加しないとは思えない程ばっちりキメた私は、パーティー開始一時間後にこっそりと部屋を出てラナおばさんの元へ向かった。



****



 ラナおばさんの花畑に向かう途中、テラスの向こう側にある大広間の楽しそうな声が聞こえ私はおもわず立ち止まった。

 今、アルは間違いなくあそこにいる。


 ……一目見るくらいなら、許されるかしら。


 私は忍び足で大広間に近づき、開かれていた窓からこっそり中を覗いた。

 そこにはリリーの隣で楽しそうに笑うアルがいて、私の心臓はドクンと大きく脈打つ。

 見たくないものを見てしまった気分になり、私はすぐに大広間から離れた。


 アルは、きっとこのままリリーと結婚するんだ。


 私から見える今の二人はあまりにもお似合い過ぎて、お茶会の時にはちっとも現れなかった嫉妬という感情が今更顔を出していた。

 

 ――早くラナおばさんに会いたい。おばさんなら、こんな私を嫌わないでいてくれている。

 

「マリア! 心配したんだよ!」


 私の見る目は正しかったようで、おばさんはドレスを着て急に花畑に現れた私を見るなりすぐに駆け付け、私より小さな身体全身で温かく包み込んでくれた。



「……話、聞いたよ。政略結婚がどうとか。辛かったねぇ。マリアのせいじゃあないのに」


 今日は外は寒くなるから、とラナおばさんは私を部屋に招き入れ、またハーブティーを淹れてくれる。


「いいの。手紙は本当のことだから。最後におばさんに会えてよかった。それと――ごめんなさい。おばさんの花守る期間、短くなっちゃった」

「何言ってんだ。マリアには十分感謝してるよ」

「――おばさん、私ってね、最低なの。最低の女」

「マリア……」


「さっき――アルと笑ってるリリーを見た時、もしリリーがいなかったらって思った」


 そんな愚かな考えが自分の頭を過ったことが信じられなくて、私は罪悪感に苛まれていた。

 大好きな筈なのに、リリーのことが。でも思ってしまった。

 きっと……舞も私にこういう気持ちを抱いてたんだ。


 今にも泣きそうになっている私を見て、おばさんは全てを悟ったように言う。



「素直になりなマリア。まだ小娘なのに強がんなくていいんだよ。あんたが政略結婚目的じゃなかったことくらい、見てたらわかる」

「…………」

「好きなんだね。アルのこと」


 私は涙を堪えながら言葉に詰まり、首を縦に振ることしかできなかった。


「じゃあどうしてアルに嘘をついたんだい。アルならマリアが言ったら信じてくれたよ。他の誰が何を言おうと」

「だって、私はアルの相手じゃなかったから。リリーがいるから、私がアルと結ばれる未来なんて、元々なかったのに」


 おばさんにこんなこと言っても理解してもらえるわけないのに、私は自分の言うことを否定せず聞いてくれるおばさんに甘えてしまい、その後もずっと自分がアルの相手に選ばれる未来を否定し続けた。

 ずっと自己否定を繰り返す私を見かねてか、おばさんはそっと私の手のひらの上に自分の手のひらを重ねる。

 私を落ち着かせるように、手のひらから伝わるおばさんの熱が、私に「大丈夫だよ」と語りかけるようだった。


「マリア、今からもう一つ、マリアにだけ話したいことがあるんだけど……聞いてくれるかい?」

「……当たり前じゃない。どんな話?」


 おばさんは目を瞑ってふぅーっと時間をかけゆっくり息を吐き出すと、目を開けてまっすぐ私を見た。

 何かを覚悟したような、目をしていた。


「あたしねぇ……もう長くないんだよ」

「――え」


 鈍器で頭を殴られたような感覚に襲われた。言葉の意味はわかっても、頭が追い付かない。


「ど、どこか悪いの? 治らないの? 嘘だよね、おばさん」


 私は重ねられてたおばさんの手を両手で握り、祈るように問いかける。


「ずっと調子がよくなくてね……自分の身体のことだから、わかってしまうんだよ」

「そんなの今言われたって、信じられない……!」


 最後にラナおばさんと楽しく笑って、明日から頑張るつもりだったのに。

 こんな話を聞かされたらとても笑顔になんてなれない。ここに置いていく私の未練が増えるだけだ。


「どんなに大切な思い出も、思い出す人が誰もいなくなれば何にも残らない。……あたしがマリアに旦那と二人だけの思い出話をしたのは、きっと誰かに青い花の存在を覚えてて欲しかったんだ。そしたらそれは、マリアの思い出として生きていける」

「――っ」

「あたしはマリアに花の話をしてから身体がスッと軽くなったんだ。もうこの世界でやり残したことはない。残された時間を穏やかに生きていければいいんだよ。だからね――マリア」


 おばさんは私から手を離し立ち上がると、今度はその手のひらで私の頭を撫でた。


「後悔だけはしちゃいけない」


 おばさんの想いが、私の心の奥底に訴えかけてくる。

 アルとは違う温かさを感じるおばさんの手のひらは――例えるなら、お母さん。


 ラナおばさんは私にとって、理想のお母さんみたいな人だった。


「私、アルに会いに行ってくる」

「――はは! それでこそマリア。そんなおめかししてるのに男に見せないなんて宝の持ち腐れだよ」


 おばさんがずっと隠していた自分の身体のことまで打ち明けたのは、私にここで後悔を残して欲しくなかったから。

 そこまで背中を押してもらって動けないようなら、これから先だって後悔だらけの人生になる。


 私、決めてたじゃない。マリアとして生きるからには絶対に死ぬ時後悔しない生き方をするって。


 おばさんは、私にそれを思い出させてくれた。

 

 泣くことはいつだってできる。今じゃなくたって。


「あ、待って。私パーティーに参加しちゃいけないんだった」

「えぇ!? 元も子もないじゃないの。パーティー以外で自ら王子に会いに行くのは難しいどころか無理だろうしねぇ」


 覚悟を決めたものの、私には早速難関が待ち構えている現実。

 今まで私がアルと二人で会えたのは、全部向こうから来てくれていたから。

 簡単に自ら会いに行けていたら、他の令嬢だってあんなにピリピリしてなかっただろうし。


「もういいや。乗り込む。どうせ私は明日追い出される運命だし、だったら最後に本当にパーティーをめちゃくちゃにしてやるわ」

「そんな大胆なことしたらすぐ掴まって広間から追い出されるのがオチじゃないか」

「いいの。だってアルに一目会えればそれでいいもの」


 想いを伝えるかなんて、その時にならないとわからない。

 アルに素直な自分の気持ちを伝えてしまっても後悔するかもしれないし、伝えなくても後悔するかもしれない。

 私はまだ、それがわからない。


 だからアルに次会えた時、最初にこみ上げてきた感情をそのままぶつけたい。……いわばぶっつけ本番ってやつだ。意味はちょっと違うけど。


「……ねえおばさん。どんな形でもアルに会えたら、いやもし失敗しても、今日はここで一緒に寝ていい?」


 花畑の一番近くにあるおばさんの部屋。

 自分の部屋より、ここでおばさんと寝る方がずっといい夢が見られそうだし。


「マリアは意外に可愛いお願いをする子だね。新しいハーブティー用意して待ってるよ」

「やった! ありがとう! 夜はおばさんと旦那さんの話いーっぱい聞いちゃうんだから! じゃあ私行ってくる!」

「あ! マリア! 今日の夜は珍しく真冬のように冷え込むみたいだからそんな格好じゃ風邪引いちまうよ。あたしの上着を――」

「大丈夫だって! 城に行ってここに戻ってくるだけだから! ちょっとの距離くらいへっちゃらよ」


 私は上着を取りに行こうとしていたおばさんにそう言うと、薄着のドレス姿のまま外に出て大広間へと向かった。

 確かにさっきより随分と気温が落ちて寒い気もするが、これくらいの移動距離なら平気そうだ。


 さっきのようにテラスを抜け窓から入れば警備も薄そうだし上手く侵入できそうだと思いテラスの方へ行くと、見慣れた二つの人影が見えた。


「……ジェナ!? ジェマ!?」


 パーティー中の筈なのにどうしてこんなところに、と問う前に二人は勢いよく私に抱き着いて来る。


「マリアァ~! さっきは助けられなくてごめんねぇ~っ! ジェマ、マリアとあのままお別れなんてどうしても嫌で」

「私もですわマリア……貴女が心配で、とてもパーティーを楽しむ気分になんてならず……ああ、会えてよかった」

「……二人共」


 ジェナジェマには昼の騒動ですっかり愛想を尽かされたと思っていた。

 私のことなんて、使えなくなった駒と一緒だと――だから二人がまた私に会いに来てくれたことは驚きを上回るくらい、純粋に嬉しさを感じていた。


「私こそ、ごめん。二人にいろいろ迷惑かけたし……嘘も吐いてた」

「もういいのよマリア。何も言わないで。貴女の苦しみはわかっていますわ」


 ジェナは私がアルを好きになってしまったことを感じ取ったのか、いつものように追求することなく私に慰めの言葉をかける。


「ねぇねぇマリア、今から少しだけお別れ会しない? 三人で! 私達、最初からずぅ~っと一緒に頑張った仲間でしょ~? マリアと最後に思い出作って、明日は笑顔でお別れしたいもん……」

「ジェマ……ありがと。でも私、今は行かなきゃいけないとこが」

「マリア。ジェマはマリアの為に一生懸命探したのですわ。周りに見つからないで、三人だけでお別れ会ができる場所を……」


 ジェナが私の両肩を背後からそっと掴み耳元で言う。

 ジェマの方を見ると、私の腰をがっつり掴みうるうるとした瞳で私を見上げる。


 ――に、逃げられない。


 私の為にアルとハロルド大好きな二人がパーティーを抜けてまで一緒にいようと言ってくれる想いに、私は少しでいいから応えたいと思ってしまった。


「お別れ会って、つまり何をするつもりなの?」

「すぐ終わるよぉ~っ! 感謝の気持ちをじっくりマリアに伝えて、大好きのハグとキスをするの!」

「マリアは今城の人間に警戒されてますわ。だからあまり姿を見られるのは好ましくないと思って、あまり人目のつかない場所への移動を提案してるだけですわよ。私達がマリアの為を想ってのこと――」


 ジェナの言うことは間違っていない。私も私のせいでこれ以上二人に迷惑をかけるのは好ましくないし……私も取り巻きとして私についてきてくれた二人と仲良く終われるなら感謝を伝えて終わりたい。

 パーティーはまだまだ続くだろう。少しの寄り道が許されるくらいの時間はある筈だ。


「よし、じゃあ私をそこへ案内して」

「ふふ。さすがマリアですわ」

「じゃあジェマについてきてぇ~っ!」


 楽しそうなジェマが私の手を引っ張り、後ろからジェマが背中を押す。

 最初に出逢った頃のように三人ではしゃぎ、二人と“友達”にはなれなかったという私の考えは浅はかだったかもしれないという思いを抱き始めた頃、先頭を歩いていたジェマが足を止めた。


「着いたよ。マリア。ジェマね、一生懸命探したの」


 案内された先は、木が生い茂る中にぽつりと佇むボロボロの小屋。

 城の敷地内の中でも端っこだろうか。寧ろここは本当に城の敷地内なのかという疑問も湧いてくる。


「ずーっと使われてない、ただの物置小屋ですわ。さぁ、中に入りなさい! マリア!」

「きゃあっ!」


 ジェマがドアを開けた瞬間、背後にいたジェナが私の身体を小屋の中へと突き飛ばした。

 埃や錆――いろんなものが混ざり合った嫌な臭いが鼻をつく。

 灯りは外の光だけ――しかしすぐにドアを閉められ、私の視界は真っ暗になった。


「……何の真似? 冗談よね? ふざけてるだけなら、早く開け――」

「ふざけてるのわ貴女ですわ。マリア」


 淡々としたジェナの声が聞こえる。

 表情こそ見えないが、感情がないような物言いに怒りの感情が最大に現れているのが声だけてわかった。


「私はアル王子をずっと見ていた。だからわかるんですの。貴女を見る王子の瞳が特別だったことも。――やっぱり最初から、私達は敵とする人物を間違えていた」

「ジェナ、そんなこと」

「そしてさっきのパーティーで確信しましたわ。王子は貴女を忘れる為にリリーとの結婚を受け入れようとしている。私達なんて見向きもされない。いいえ、最初から視界にすら入れていなかった……!」


 初めて聞くジェナの叫びは、壁の木から吹きつける隙間風と一緒に冷たく私の身体を突き刺す。


「マリアは言ってましたわよね? 花嫁の座なんて狙っていないと」

「話しを聞いて。お願い。ここを開けて!」


 いくら頼んでも、二人がドアを開ける気配はない。


「私どうしても許せないんですの……自分は興味ない素振りを見せて、最後にちゃっかり幸せをかすめ取るような悪い女が」

「……自業自得だよマリア。手紙のことも、お姉様とジェマをここまで怒らせたのも」


 手探りでドアの周辺をいくら探しても中から開けられそうな鍵は見つからず、何度ドアを叩いても自分に手が痛むだけ。


「これが私達とマリアのお別れ会ですわ……さようなら。マリア・ヘインズ」


 ジェナの声を最後に、どんどん遠ざかる二人分の足音。

 

「待って、待って――!」


 声を上げ助けを求めながら差し伸べた私の手は、大好きだった二人の姿と同じように真っ暗な闇にのまれていった。



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