術師
亮平が部屋に戻る少し前。
高橋宗茂の屋敷の入口に10数人の男達が武器を持ち、高橋宗茂と問答をしていた。
『秀光を出せ!ココに居るのは知っているのだぞ!』
『秀実殿、貴方が秀光様の兄であっても今は出せませぬ』
宗茂は表情と言葉こそ平静を装っては居たが、怒りのオーラだけは隠し切れてないようだ。
『宗茂!貴様 俺の命令を聞かないと俺が国王になった時どうなるか分からんのか!』
『秀実殿、近い将来 貴方が国王になったとしても 私にとって今は秀光様と国王様が忠誠を誓うべきお方だ』
『フン…父など病に伏せて明日をも知れぬ身体だ。もはや俺が国王の様なものだ』
『…そんな事を言うべきではありませぬ』
『うるさい!俺の命令を聞かないのならば 力づくで秀光を連れて行くぞ』
『ならばそれを全力で阻止しましょう』
『良いのか?ルナイの兵が今 居ないのは知ってるのだぞ、それに比べて俺の兵は町の入口に100人程待機させてる』
『しかし見た所 秀実殿の兵は殆どが足軽の様だ、屋敷内には術師を控えさせて居りますが…お呼び致しましょうか?』
『術師だと?…それは嘘だな、ルナイの術師が前線に行ったのを確認している』
秀実が言う様に術師が屋敷に居ると言うのは宗茂の嘘であった。
上司である秀光を守る為とは言え、その秀光の兄を相手に好んで戦いたいとは思わない。
素直に引いてくれたら良いなと考えての事だった。
『さて どうでしょうな?』
この世界の術師は平均的な者でも兵10人と同等と言われ、凄腕の者となると兵100人分とも言われる事もある。
歴代最高の術師は万夫不当 一騎当千と言われ、その者が一人で戦場に立てば一万の兵で攻めても勝てないと言われた様である。
『フン…宗茂、貴様程の忠の男をココで殺すのは忍びないが これも俺の覇道の為だ、諦めろ』
『宜しい、では屋敷内の術師を呼び秀実殿の兵を片付けて進ぜましょう』
宗茂は腰の刀を抜くと大声で叫んだ。
『敵襲だ!出会え!』
秀実も刀を宗茂へ向けると負けじと叫ぶ。
『この不届者を成敗し、奸賊 秀光を探し出せ!』
その時だった。
ゴォォォっと轟音と共に空が赤く照らされた。
炎 いや炎の竜巻。
炎の竜巻が屋敷内から捲き上っている。
術と言うのはイメージだ。
見た事も聞いた事も無いものは想像出来ない。
『なんだ…あれ…』
『嘘だろ…』
この炎の竜巻は その場に居た宗茂や秀実 そしてその兵達も初めて見た。
(これは…まさか亮平殿か…?いや誰の術でも良い…)
宗茂は その炎の竜巻に圧倒されつつも 驚かないフリを続けた。
絶好のタイミング、絶好のチャンス。
逃す手はない。
『さぁ、秀実殿 覚悟なされよ!』
『ぐ…仕方ない 今日の所は退いてやる…宗茂!貴様 覚えておれ!』
この場に居る誰もが 伝説の術師の話しを思い出した。
それは伝説の中の話しだけだと思っていたが、目の前で凄まじい炎の竜巻を見せつけられると伝説でなく実際に居た者だったのかと思い込んだ。
ならば 仮に凄まじい術師ではなかったとしても今 戦うべきではない。
秀実が取る方法は戦力を整えて戦うか、政治力で潰すかだ。
『何度来られようと私の目が黒い内は秀光様は渡しませんぞ』
視力の届く所から秀実の部隊が消えたのを確認すると、漸く宗茂は刀を腰の鞘に戻した。
『ふぅ…何とか戦わずに乗り切ったか』
そう呟き 宗茂は屋敷内へと戻って行った。