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歴史の勉強(私怨入り)

 夜までまだ時間はあるが街を歩いてまわる程の時間はなく、仕方なく宿で時間を過ごしている時だった。


「シス、ちょっと歴史の勉強でもする?」

「えっ」


 あまりの暇さにゼビウスが耐えきれなくなったのか急にそんな事を言い出してきた。


「暇ならば冥界に戻っていたらどうだ。あそこならやる事は沢山あるだろう」

「冥界は今日も異常なし。ガルムも体調戻ってまた働けるようになったし俺がやる事ないんだよ」

「仕事はどうした」

「ケルベロスとガルムがやってる。問題が起きたら流石に俺が出るけど今のところそんな事なくて平和そのものなんだよな。ケルベロスとガルムがしょっちゅう喧嘩する以外は」

「…………」


 ゼビウスは基本仕事をしたがらない。

 働いては築いてきたもの全て奪われるというのを延々と繰り返していた為労働に対するやる気が完全に失われており、今はケルベロスとガルムに仕事を全部ぶん投げている。しかしその代わりに仕事以外の労力は全く惜しまないので上手くいっているようだった。

 事情を知っているケルベロスとガルムが自ら進んで仕事をこなしているのもあるのだが。


「ちなみに歴史ってどんなのなんだ?」

「この世界の事。ヒールハイが今の世界みたいに種族文化その他色々ごちゃ混ぜになってて面白いから丁度いいかなって」

「……ねえ、それ私も参加していい?」

「勿論。ムメイちゃんは歓迎するけど……何でお前そこにいんの」


 ムメイがシスの隣に座ろうとする前にトクメが間に無理やり割り込んできた。

 理由は聞くまでもなく分かるがトクメはどう考えても教えを受ける側ではなく教える側である。


「ここにいても教える事は出来るから何の問題もないだろう。ムメイも、聞きたい事があるならゼビウスではなく私に聞くといい」

「うわ……」

「ふむ、そなたがそこに座るならば妾はここじゃな」

「何で……いや、もういいか」


 ちゃっかりダルマもシスの隣に座り、ゼビウスは何か言いかけたが諦めたようにため息を吐いてから話を始めた。


「まずこの世界、新世界の始まりからな。始まりはカイウスが旧世界を滅ぼした所からなんだけど、この最初の時点でカイウスはやらかしてんだよ」


 本来世界と世界と間には次元の壁のようなものがあり簡単に行き来が出来ないようになっているのだが、カイウスが旧世界を滅ぼした時その壁に穴が出来た。


「なのにあの馬鹿は大した事じゃないと放置して世界の構築を優先させたから他世界の神が大量に押し寄せてきてそれぞれが好き勝手に世界を作り始めちゃったんだよ。ちなみに最初にやってきたのは当時はまだ豊穣の神だったベルゼブブ、バアル・ゼブルとベルフェゴールな」


 この時のバアル・ゼブルは純粋に神として人々に豊穣をもたらしたのだがそれが原因でカイウス以上に崇拝されてしまい、それに怒ったカイウスがバアル・ゼブルを汚物の山に埋めその結果誕生したのが蠅の王ベルゼブブである。


「じゃあベルフェゴールもその時一緒に?」

「いや、ベルフェゴールはカイネの美人局にあっさり引っかかって自分から悪魔堕ちしてる」

「つつもたせ?」

「あーと……カイネに一目惚れして熱上げて貢ぎまくってたら、カイネが既婚者でただ遊ばれただけと知ってショックで悪魔堕ち」

「そう言えばムメイは以前ベルフェゴールに絡まれていたな。もし次に会った時はカイネについて聞けばいい、面白いぐらいに取り乱して姿を消すだろう」

「そうなの? まあ、覚えとく」


 そしてベルゼブブへ必要以上に攻撃している間にも他の神が次々と侵入してきては好き勝手に振舞い、ようやくカイウスが事態の深刻さに気づいた時には世界は様々な種族、文化、言語が入り混じった状態になっていた。


 当然カイウスはこの事に激怒し侵入してきた神族と戦争、大方の神族を排除する事に成功するも完全には出来ず今もしぶとく居座っている神族との争いは続いている。


「といってもがっつり争ってんのは一種類だけだけど」

「今もこの世界にいる神族ってどれぐらいいるんだ?」

「うーんまだ割と残ってるからな……大きく分けると俺達含めて四種類。ヒールハイも丁度東西南北で分かれて街治めてるしそれでなぞると西が俺達でがっつり争ってんのが北。そうそう、シスの使う神通力は東の神族が使っている術ってのは知ってた?」

「他神族の力なのは聞いていたけど種類までは知らなかったな……」

「そっか、その神通力は北の野蛮神というか東の神族以外の神には効果抜群なんだけど、東とついでに南の神族は比較的温厚だからあんま反発していないのもあってカイウスも存在を許しているみたいだな。北がしつこいからそれどころじゃないってのもあるかもしれないけど。あいつら俺のところにも来るし」


 尚カイウスがいなくなり西の神族が全体的に弱っている現状に北の神族が気づけば再び戦争になるだろうが、神界は荒地のようになっておりわざわざ乗っ取ったところで何の意味もないどころか損しかないのでさっさと諦めるかこの世界から撤退するかのどちらかなので特に心配はない。


「あの馬鹿の事だからまた世界潰して最初から造り直すかなと思ったけど、もう一度やれば次元の壁が完全に壊れて更に厄介な事になるって馬鹿でも理解出来ているみたいだな」

「…………」

「……歴史を教えている内に過去の事を思い出し感情を抑え切れず、といったところじゃな」


 教えている内容は立派な歴史なのだがカイウスと北の神族への怒りと嫌悪が隠し切れておらず、歴史を教えたかったのかけなしたかったのかシスが反応に困っているとダルマがこっそり教えてくれた。

 心の中を読んだわけではないようだがゼビウスを警戒したのか小声で。


「ね、ねえゼビウス。私も聞きたい事があるのだけどいい?」

「ん? ああ、いいよ」

「ムメイ、聞きたい事があるのなら私に聞けと言っただろう」

「お前……」


 娘にいいところを見せたいみたいだが、会話に割り込んだ上にムメイを責めるような口調で言ってしまえば逆効果にしかなっていない。


「……」

「この世界にいる神族の詳しい数か? それとも神族同士の戦争の内容と勝敗か? 何が聞きたい、私が知っている事なら何でも教えよう」

「……旧世界」

「は?」

「だから、旧世界の事。よく旧世界の方が良かったとか言って懐かしがっている割には何にも言わないからどんな世界なのか気になったんだけど……」


 教えてくれる気あるの? と口にこそ出していないが表情でありありと聞いてくるムメイにトクメは何とも言えない複雑な表情で固まった。

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