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森の中の海の幸

 雲一つない青い空に青い海、船からは次々と人が降りてはまた別の人が乗り込み別の船では荷物を詰め込み、あちこちから指示を飛ばす声が聞こえ心地よい騒めきと活気に満ちている。


「戻ってきたぞえ! 妾はまたこの大陸に再び戻ってきた! さあ妾の子供は何処ぞ!? 必ず見つけてみせる故待っておるがよい! 名も顔も知らぬ我が子よ! ふはははは!!」


 しかしその騒めきもダルマの大声により一瞬で静まり返ってしまった。少しして騒めきは戻ったが、誰もダルマの近くを通ろうとせずあからさまに避けて通る為見事な円形が出来上がっている。


「……なあ、お前アレの同族だろ。ちょっと回収してこいよ」

「同族ではあるがアレと違い私には常識と羞恥心があるからな。断る」

「そなた達はいつ迄そこにおるつもりじゃ! 早う妾の子供を探しに行くぞえ!!」


 ゼビウス達も置いて行きこそしていないものの距離を取っていたのだが、ダルマにガッツリ声をかけられたせいで通行人の遠慮ないジロジロとした視線が痛い。


「よく言う。普段のお前もあんな感じだろうが」

「そうなの?」

「おい」

「あの笑い方とかそっくりだしやっぱ同族って似てるとこあるんだな。しゃあない、俺があいつ回収してくるからさっさとこの街出るか」


 腹いせにムメイには隠したがっていた普段のトクメの様子を教えるとゼビウスはダルマの首根っこを掴み、有無を言わさず街の出口へ向かっていった。


「……まあ、何となくは知ってたけど」

「なっ、いつからだ? そのような記述はどこにもなかったぞ!」

「…………」


 動揺したのかバサバサと何冊もの本を落とすトクメにムメイは軽蔑の視線だけをやると、何も言わずそのままゼビウスの後についていった。


 ******


 数時間後、ムメイ達は山の中にある小さな村に辿り着いた。


「何故こんな山中に来た?」

「心を読まれないよう無心で歩いていたらここに着いただけだ。意味はない」


 軽く見たところ村には高齢者が多く子供も殆どいない。

 人が少なければ当然騒めきなどもなく静かではあるのだが、こちらをチラチラと見てくる視線だけは先程の港町と同じぐらいうるさく、まだ何もしていないのに非常に居心地が悪い。


「ここにダルマの子供がいるの?」

「どうだろうの。それらしい事を考えている者はおらんがそもそも妾の子供だという自覚がなければどうしようもない故片っ端から調べるしかないの。まあ時間はある故しばらくここに泊まるとしよう」

「…………」


 嫌そうな顔をしている割に反対する気配のないトクメにゼビウスは違和感を覚えた。

 確かトクメは新種のチーズがあるかを探すついでにダルマの同行を許していた筈だが、どうも子供探しに協力しているように見える。


「お前何でダルマの提案に素直に従ってんの?」

「従っているわけではない。もう日も暮れるのにムメイを歩かせるわけにもいかないだろう、今日はここに泊まるのが最善と判断しただけだ」

「言ってる事と表情が一致してないんだよ。ここが嫌なら普通にさっきの港町、クツズだっけ? そこに魔法で戻れるだろ、それに泊まるっつってもこんな小さい村に宿なんて……」

「おや、旅人ですか。宿をお探しでしたら案内しますよ」


 話しが聞こえていたのだろう、タイミングがいいのか悪いのか一人の男性が話しかけてきた。

 ダルマが嬉しそうにしているので悪意はなく純粋に親切心からの行動らしい。


「…………」

「この村に不満があるわけではないのだろう。なら話の続きは部屋でするとしよう」


 やっぱりこいつ何か隠しやがんな。

 そう確信したゼビウスだが、こうなったトクメはこちらの聞きたい事をのらりくらりと交わし話の要点を次々と変えていき正直に話す事はまずない。

 そこまでの苦労をしてまで知りたいわけでもないのでとりあえず今は大人しく男について行く事にした。


 ******


 案内された宿は小さな村の割にはかなり大きく立派な造りをしていた。

 出された食事も森の中にも関わらず魚や牡蠣などの魚介類のみで作られている。


「こんな森の中で何で海の幸が……?」

「しかも干した魚じゃなくて生魚から調理されてるし。鮮度とかに問題はないみたいだけどそれはそれで問題な気がするんだよなあ」


 森の中にある高齢者しかいない村とは思えない程の豪華な海の幸にシスとトクメ、ダルマは普通に食べているがムメイとゼビウスは匂いを嗅いだり軽くフォークでつついたりとかなり警戒している。


「この村は他の場所よりも涼しいんですよ。だからクツズから仕入れた魚介類も新鮮なまま保存できるんです」


 ムメイとゼビウスの疑問に奥から宿の主人が現れ持っていた海藻のスープを置きながら説明しはじめた。


 昔からこの村は他に比べて気温が低い為野菜や魚といった食材が腐りにくくあまり食には困っておらず、それどころか今みたいに刺身など生で食べる食事を楽しむ余裕すらあるらしい。


 ただ利便性はないので若い者は村から出てしまっているが、この村の食材が腐りにくいという特徴は冒険者達には都合が良いらしくよく訪れるので意外と何とかなっているとの事だった。


「幸い近辺に魔物はいないようなので村の者が襲われる心配はないのですが、肉は手に入りにくく……なのでこの村はクツズから仕入れた魚をよく食べるんです」

「ふーん、食料が腐りにくいだけが特徴の魔物もいない村に冒険者ね。まあ、食べて大丈夫なら食べようか」


 主人の話に疑問は尽きるところか逆に増えたが、食事が安全と分かれば途端に腹が空腹を訴えてきたのでゼビウスは早速生牡蠣を口にいれた。


「確かに質はいいかな、身もでかいし。というわけでシス、牡蠣やるからタコとイカ半分貰うな」

「?」


 そう言うとゼビウスは返事を待たずに牡蠣をシスの皿へ乗せるとそのままタコとイカをフォークで刺し自分の皿へと移動させていった。

 ゼビウスも魚介類が好物だとシスは最近知ったが、だからといって交換とはいえこんな半ば無理矢理取るような事はしない。


「……もしかしてイカとタコも毒なのか?」

「玉ねぎ程じゃないしこれに関してはかなり個体差があるみたいだけどな。食べるなとは言わないけど少なめにして欲しい」

「…………」

「限度量調べようとするなよ?」

「っ! あ、ああ、分かった……」


 シスはそう言ってるが意識は完全にイカとタコに向けられているのでこれは多分試すだろうなと、ゼビウスはタコを食べながら対策をどうしようか頭を悩ませながら食事を進めた。


 最初こそ警戒したが匂いも味も問題なく、鮮度が保てる理由も分かれば普通に美味しい。

 新鮮な海鮮料理をトクメ達はもとよりムメイとゼビウスも存分に堪能した。


 そしてその日の晩、ムメイとゼビウスは見事牡蠣に当たった。



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