ようやく行動開始
「なあ、お前いつになったら雑用片付けんの」
ガルムへの説明に一日かかり、更にケルベロスへの説明(主にガルムへの誤解と仲裁)にも一日かかった次の日、地上に戻り朝食を終えたゼビウスの発言にまだチーズを堪能していたトクメの動きが止まった。
「……」
「絶対行かない」
「まだ何も言っていない」
「言わなくてもお前の目を見りゃ分かる。代価は払ってんだから俺は行かない」
うっすら漂い始めた不穏な空気にムメイ達は巻き込まれないようさり気なく距離を取り、相手の会話が聞こえないよう意識しながら雑談を始めた。
何となく相手にも声が聞こえないよう声を潜めながら。
「レヴィアタン、顔色悪いしいつもより口数少ないけど何かあったの?」
「……地味な嫌がらせしやがって全然寝れてねえんだよ」
「? ゼビウスは昨日冥界にいたしトクメも部屋で寝てた筈だが……」
「身体固定されて数分おきに額に冷水垂らされてたんだよ。数分おきっつっても時間バラバラだし冷水は一滴だけでくすぐってえのもあるし、他よりマシとはいえ堪えるもんは堪える」
「拷問よりはマシだろうが眠れないのは確かに辛いな……」
「…………」
シスは知らないみたいだがこれも立派な拷問である。
本来は長期間垂らし続け睡眠妨害と精神崩壊を目的としているが、人間より遥かに強いレヴィアタン相手に一晩だけという短時間では本当にただの嫌がらせにしかなっていない。
しかしわざわざ教える事ではないとムメイは黙って首を振ると、レヴィアタンも静かに頷いた。
ムメイやシス相手なら多少の軽口は叩けるが、背後にトクメとゼビウスがいる為あまり意に背くような事は出来ない。
特に今みたいにムメイに逆らいシスを困惑させたとあっては両者から容赦ない制裁が確実に待っている。
「そういえばレヴィアタンの住処は何処なんだ?」
「んあ? ああ、ここから……」
話かけた瞬間いきなり視界がぶれ、シス達が気づいた時には全く知らない薄暗い森のど真ん中に立ち尽くしていた。
「……え?」
「何ここ、森?」
「転送魔法? うわ、しかも魔界直とかマジかよ」
「シス、大丈夫か? 悪いな急に移動させて」
「ゼビウス。あれ……トクメは何処に行った?」
ゼビウスの転送魔法なら安心だがそれでも癖で周りを確認するとトクメの姿だけが見当たらない。
「あいつは今雑用片付けに行ったから、その間に俺達はレヴィアタンを返しに行くぞ」
「わ、分かった。……なあ、レヴィアタンが魔界と言っていたがここは魔大陸じゃないのか?」
「魔大陸だよ。魔大陸の中のちょっと次元がずれてる所にあるのが魔界と言えばいいかな。結構複雑だし今度トクメに真面目に聞いとく」
それでも現在ゼビウスが教えられる範囲でシスに丁寧な説明をしている後ろではムメイがレヴィアタンに魔大陸と魔界の説明を聞いていた。
「レヴィアタンは魔大陸と言っていなかった?」
「そこんとこは適当、俺は気にしてねえし。でも人間はもっと適当だぜ、魔大陸の奥だからとか人が住んでないからとか、あと強い魔物が現れたからここから魔界だとか。おかげでベルゼブブとベルフェゴールが怒ってたな、サタン並みにいい加減過ぎるって」
「え、サタンっていい加減な性格なの? 確か七大悪魔の、というか魔族の長じゃなかった?」
「実力主義だからな、強さじゃサタンが一番なのは確かだぜ。でも俺から見りゃいい加減なのはベルフェゴールでサタンはだらしないって感じだな。あとガサツ」
戦闘だけならサタンが頭一つ抜けて強いみたいだが、アスモデウスの色仕掛けに騙されたりマモンとカード勝負でイカサマを見抜けず負けたりと散々らしい。
ただ決める時は決めるので普段のいい加減っぷりは演技ではと他の悪魔から恐れられてはいるのだが、レヴィアタン達七大悪魔はたとえ決めたところで普段のだらしなさが演技ではないと知っているので何とも思っていない。
「まあでも怒ると冗談抜きで怖ぇから俺は怒らせたくねえな。アスモデウスはよくちょっかいかけてるけど」
魔大陸と魔界の説明の筈がいつの間にか話は逸れていき気づけば七大悪魔の話になっているが、ムメイはこっちの方が聞いていて面白いらしく楽しそうに聞いている。
「へー、ねえベルゼブブは?」
「っ、ベルゼブブは……」
「はいそこまでー。目的近づいてきたから終わり」
「うおわ!?」
ベルゼブブについて話しかけたレヴィアタンだが、いきなりゼビウスに杖で足を払われそのまま地面へ倒れた。
すぐに立ち上がろうとしたが、いつの間にか両手足を頑丈な縄で縛られ先はゼビウスが握っている。
「え、何で俺手足縛られて繋がれてんの? すっげぇ嫌な予感すんだけど」
そのままズリズリと引き摺られていくが、相手がゼビウスの為払われた足の痛みや地面に擦れる痛みを訴える事すら出来ず大人しく引き摺られるしかない。
それでも何とかならないかと必死の思いでシスに視線をやるが、黙って首を振られたのでレヴィアタンは諦める事しか出来なかった。




