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初めての街と現金は持たない主義

 

 ムメイ達のいた森を抜けた先にある街の名はターチェス。

 森の近くにある為魔物の侵入を防ぐ壁が特徴の、それ以外は特に変わった所はない普通の街である。


「おい! そこの黒髪の女!!」

「ん?」


 特に目的も決めていなかったトクメ達は全員揃って街中を歩いていたが、ムメイが一人の衛兵に呼び止められた。


「貴様奴隷でありながら首輪を外すとは何事だ!!」

「首輪? 何ソレ」

「奴隷の規定か。奴隷は皆、逃走防止の為国が定めた首輪を装着するらしい。他にも奴隷の種類によって首輪の形や素材が決められているみたいだな」

「え、なっ」


 いつかシスにしていたように、トクメは衛兵の頭から白い文字を引き出し奴隷の規定をツラツラと読み上げていく。


「お姉様、前から思っていましたがアレは何ですか。魔法ではないみたいですが……」

「特技みたいなものよ。相手の過去の言動全てを文字にして引き出すの。トクメの前では隠し事は一切出来ないから気をつけてね」

「コレクターマニアでもある上に、相手の過去全てを引き出して本にする趣味もあるから気をつけろ。ついでにソレをバラまいたり、読み上げたりその時の気分で色々やらかす」

「うわぁ」

「と、とにかく! どうやったか知らんが首輪を外したくらいで逃げられると思うな! すぐにお前の主人に連絡してやるからな!」

「何だ、私に用があるなら最初からそう言えばよいものを」


 衛兵がムメイに掴みかかろうとした手を、トクメが前に出てパシリと払った。


「お前がこの奴隷の主人か。ならば奴隷規定に従い首輪の装着をさせるように」

「何故だ? この奴隷規定によると首輪の装着は義務とも強制とも書かれていない。ならば着ける着けないはこちらの自由だろう」

「奴隷に首輪を着けないだと? そんなのを許す奴が何処にいる」

「お前の目の前にいるではないか。私は、ムメイに首輪を装着する事は許さない。それに、家出したところで行き先など調べるまでもなく分かる事だ」

「は?」


 ムメイがピクリと反応するがトクメは構わずパチリと指を鳴らした。


「その首輪は主に借金奴隷に使われている物だな。ならばその首輪はお前が装着した方がふさわしいのではないか?」

「なっ!?」


 いつの間にか衛兵の首には先程の首輪が装着され、衛兵は慌てて首輪を掴み外そうとしているが外れる様子は全くない。


「借金奴隷とは一定以上の金額を借りた者が期限を過ぎても返済出来なかった時に科される一種の刑罰だろう。お前は複数の相手から金を借りているみたいだが合計額はその規定額を満たしている上に一件返済期限を過ぎている。更には同僚や部下に権力と暴力を使い金も集っているとなれば、今のお前の状態を見つけたらどうするだろうな。その主の刻印をしていない、誰でもお前を奴隷に出来る今の状態を」


 己の状況を理解したのか衛兵の顔色が一気に青ざめていく。


「で、どうする。まだ特に義務でも強制でもない奴隷の首輪の装着について私と話し合うか?」

「貴様……覚えていろよ!!」


 衛兵はそう言い捨てると慌てて何処かへと走り去っていった。


「両親は上級官職で自身も出世を約束され、ギャンブルと酒に溺れ汚職にも手を出している……特に面白い事はないな」


 衛兵がいなくなってからも白い糸を読んでいたトクメだが、特に興味を引く事もなかったのか手を離すと同時に糸もパッと消えた。


 ******


「悪いけど、うちは奴隷を泊める部屋はないよ」

「ほう、ならば交渉しよう。いくら積めば泊める気になる?」


 日も暮れてきたのでそろそろ宿に泊まろうと適当に決めた宿屋は、ムメイが奴隷と分かるや態度を一変して宿泊を拒否してきた。


 しかしトクメがやる気に満ちた瞳で宿の主人に交渉を持ちかけた。


「いくらって、あんた金持ってんのかい?」

「あいにく私は現金を持たない主義でな。代わりの物なら……そうだな、宝石はどうだ? ムメイ」

「はいはい」


 トクメに呼ばれ、ムメイはカウンターに次々と宝石を並べていく。


「へっ、あ、ええっ!?」


 小指の爪程の大きさから始まりメロン程の大きさまでのルビーやサファイア、ダイヤといった高価な宝石に宿の主人は驚きを隠せず目を見開いている。


「まだあるけど出す?」

「いや、もう十分だ。それで、どれを出せば満足する?」

「そ、そうだね……何せ泊めるのは永久奴隷だし、そこの一番大きいダイヤをくれるんなら泊めてやってもいいよ」


 宿の主人の言葉にトクメはニッコリと笑顔になった。


「そうか、ならば交渉決裂だな。行くぞ」

「え?」

「それじゃ、お先」


 トクメの言葉にシスとムメイはさっさと宿から出て行き、予想外の事に固まっていたイリス達もムメイに促され戸惑いながらも出て行く。


「ちょいと待ちな! あんたここに泊まりたいんじゃなかったのかい!? そのダイヤを寄越せば奴隷でも泊めてやるって言ったじゃないか!!」


 最後に出て行こうとしたトクメに宿の主人が鼻息荒く引き止める。


「断ると言っただろう。私はどれぐらい積めば泊める気になるか聞いたが、このダイヤを渡してまでここに泊まりたいとは思わん」

「〜〜っ! 言っておくけどね! 奴隷なんかを泊める宿屋は何処にも無いからね!! せっかくあたしは泊めてやろうとしたのに!!」

「好意のつもりか? 笑えんな。交渉は決裂したんだ、これ以上ここに留まるのは時間の無駄だ」


 話を適当に終わらせ宿から出て行った直後、手に入る予定だったダイヤを逃した悔しさで叫ぶ宿の主人の大きな声が聞こえた。


「元々泊まるつもりなんて無かったくせに」


 次の宿屋へ向けて歩く途中、どこか笑いを含んでいるような声でムメイが話しかけた。


「あの宿は部屋の質はいいみたいだが対応が気に食わん」


 トクメは器用に片手でペラペラ本をめくりながら答える。

 最初から泊まる気はなく、宝石で注意をそらして相手の過去を引き出していたらしい。


「それにしても、あんな大きな宝石は初めて見ました。しかも大量に」

「トクメは集めるのが大好きだから……」

「そういえばお前、金は持たない主義だと言っていたが前は集めていただろう。何故今回は一切持たないなんて決めたんだ」

「前回夢中になって集めていたら、全て揃えてしまい世界の経済が止まったからだ」


 ピシリとイリス達の動きも止まった。


「アレは狙ってやったわけじゃなかったのね……」

「全ての通貨に製造番号や年数が記されているとついな。しかし私とて反省はする。二度と同じ過ちを繰り返さない為にも今後金だけは集めない事にした」

「……そうか。ちなみにその集めた金はどうした?」

「ムメイに渡した」

「押し付けたの間違いでしょ。まあ私の自空間にいる住民達の通貨に使わせてもらってるから問題ないけど」

「え……?」


 人や精霊など、魔物以外の種族は自分の魔力に応じた大きさの自空間を持ちそこに自由に道具や食料を詰め込める。

 魔力だけは膨大のムメイはそれはもう広大な自空間を持っていた。


「どれだけ規格外なのよ」

「文句はあいつに言って。私より遥かに大きい自空間持っているくせに図書館だけ作って本以外全部私の自空間に放り込んでいくんだから。世界樹とかも放り込むから根付いちゃったし、住民以外に魔物やらも繁殖して完全に新種が誕生したりしているの」


 ムメイの自空間には大陸や海があり、更には多くの魔物や住民が暮らしているあたりもはや別世界と言っても過言ではない。


「本以外ではない。ちゃんと管理者もいるし図書館に必要な物は図書館に置いている 」

「はいはい、じゃあ要らない物は全部私に押し付けているって事で。それより次の宿ってここ?」


 歩きながら話していたせいか、いつの間にか目の前に目的の宿屋に辿り着いていた。

 今度の主人は身分を見る力は無かったからか元々優しかったのか、小さなサファイア一つで快く泊めてくれた。


 しかも一泊では貰い過ぎるからとイリス達含めて六名全員を三日間泊めてくれる好待遇。


 ただし流石に部屋に余裕はなかったので大きめの部屋を一つで男女に別れる事になったが特に問題はなかった。女性陣は。


 金を持っていないシスはトクメの金で泊まるのを嫌がり野宿しようとしたが主人の強い勧めで同じ部屋に泊まる事になり、ウィルフも当然同室。

 トクメ自身はその事に全く触れず気にせずだが、シスと特にウィルフは宿の主人の優しさがただただ辛かった。


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