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出発前から問題大量発生

「これが人間……姿は変わりませんが何だか体は重く感じます」


 イリスとウィルフの手伝いもあって無事人間化できたルシアは手を握ったり開いたりしながら感覚を確かめている。


「人間になると実体を持つからどうしても重く感じるけれど、慣れれば気にならなくなるから大丈夫よ」

「ねえ、ちょっと……何か能力見てたら色々問題出てきたんだけど……」


 相変わらず宙に座っていた自由の精霊だが、その前には大量の文字が浮かび上がっている。


「何アレ!?」

「自分と……私達の特徴とかかしら。魔法の扱いに長けている人とか精霊って相手のある程度の事が分かるのだけど、あそこまで詳しく見られるのはそういないわね」

「相手って、勝手に私の見ないでよっ!!」

「喋らないだけマシでしょ。じゃあルシアは置いといて、私の身分が……」

「おい待て、お前ら名前がないぞ。あと色々おかしくないか」

「「「…………」」」


 全員、というかイリスとウィルフ、ルシアの視線が名無しの三名に集中した。


「……えっと、まず名前がないのはどういう事?」

「私はほら、あの名前にしてこの体に定着したら戻れなくなるし最悪その者になっちゃうから。とりあえず名前はつけるけど」

「私は元々名前という概念がない。しかし必要ならば適当な名前でも決めておくか」

「……俺も、名前という概念はないが……」

「真面目に話す事でもないし、ちゃっちゃっと決めちゃおうか。私は無名でいいや、ムメイ」

「なら私はトクメと名乗ろう」


 本当に思いついたのを適当に決めているようだが、黒い男だけは真剣に考えているのか顎に手を当てたまま動かないでいる。


「何だ悩んでいるのか、なら私が名前を考えてやろう。オルトなんてどうだ? もしくはロス?」

「うるさい黙れ。……シス、だ」

「シス? それならばドウやトロワの方が相応しいだろう」

「黙れと言っているだろう。とにかくシスだ」


 ギリギリと敵を見るように睨みつける黒い男改めシスだが、トクメは気にした様子もなく見下すような余裕の態度でいる。


「ねえ、名前決まったならいい? 私の身分が永久奴隷ってなってるんだけど。奴隷は分かるけど永久って何」

「最近新たに追加された奴隷階級だ。元々あった借金奴隷と犯罪奴隷、終身奴隷より更なる下……奴隷身分の返上どころか向上さえ許されない奴隷最下層だ。当然扱いは終身奴隷より悪く、また向上する事もない」

「うわぁ、あんた一体何したのよ……」

「……心当たりはあるけれど、私自身ではなさそうね」


 ムメイの言葉に周りの空気はシン、となりルシアはワケが分からずイリスの方を向いた。


「……身分の話は分かったからもういい。ええと、ムメイとトクメでいいんだな。お前達の運動能力が皆無とあるんだがどういう事だ? 特にトクメは改善の余地なしとまであるぞ、何かの間違いか?」

「ああ、間違いない。鍛えてどうこうなるものではないから無駄な事は考えるな」

「ねえムメイ、体力ないのに旅とか大丈夫なの?」

「問題なし。移動は大体転移魔法使ったり、今みたいに具現化させた魔力に座って動かしているから」

「そのトクメってのもあんたも、そういう魔力頼りだから体力どころか運動全般がダメなんじゃないの……」

「私の事よりも、そっちの方が問題あるんじゃない?」


 ムメイが指を鳴らすと今まで出ていたイリス達の情報が消えルシアの分のみが残った。


「え、何よ種族半魔って……半魔って……。しかも不器用、短気、未熟……な、何なのこの嫌な羅列は……」

「ルシアの特徴。見事に短所ばかり揃っているけど、特に不器用ってのが致命的ね。人間化もイリスやウィルフが手伝ったとはいえ、それが原因で上手くいかずに半魔になったみたい」


 更に説明するならこの半魔は魔族のハーフではなく、魔力を動力源に動く魔導人形の意味の半魔になっているらしい。


「お姉様……」

「と、特徴って変わるの? 種族は?」

「え、それは知らない。どうなの?」

「……基本は変わらんが、ルシアの場合は生まれからして不安定な状況なのが原因でもあるから努力で変わる可能性はある」


 トクメの話に安心したルシアとイリスは特性を変える為の話を始めているのを横目にムメイはトクメをジト、と見つめる。


「まさかソレで人間になったつもりじゃないわよね」

「違うのか? 大分似せているつもりだが」

「顔を全く出していないし完全球形なのはおかしいでしょ」

「仕方ない、これでどうだ」


 トクメが顔にある包帯を取ると、中から見事な銀髪と片目を包帯で覆った整った顔が現れた。

 トクメは片目が気になるのか顔を左右に傾けるが、その度にコロコロ目と包帯の位置が変わる。


「目の位置変えるのやめたら? こっちの目が回る」

「仕方ないだろう、穴は二つあるが私の目玉は一つしかないのだから」

「せめて片方に固定して。怪しまれるわよ」

「善処しよう。しかし偏った視界とは見にくいものだな」


 ウィルフはその様子を見ながら先程から全く話に入ってこないシスに話しかけた。


「……初めて、だよな。もう知っていると思うが俺はウィルフと言う。不安しかない旅だがこれからよろしく」

「……お前は何でこの旅について行こうと決めたんだ?」


 シスはウィルフの差し出した手をジッと見つめた後、探るような目でそう言ってきた。


「俺か? イリスがついて行く事を決めたからだ。不安しかない奴らの旅だからな」

「そうか……ならいい。シスだ、人間の生活は初めてだから色々迷惑をかけるかもしれない。こちらこそよろしく頼む」


 好意的な返事は返されたが差し出した手はそのままで、シスはジッと前方を見つめたまま何も話さなくなった。


「?」


 シスの視線を辿るとムメイとトクメがまだ何か話しており、それを睨みつけるように見つめている。


「シス、お前もしかして……」

「まだ出発しないなら……少し休んでいても問題ないよな」


 そのままシスはズルズルと木にもたれながら座り込んだ。

 その息は少し荒い。


 その姿を見てウィルフは思い出した。


 シスは最初トクメにより高所から地面に叩きつけられていた事を。

 ムメイには大丈夫だと言っていたが、そうでもなかったらしい。


「……大丈夫か?」

「あの野郎……いつか倒す」

「……そうか」


 先程の攻撃といい、トクメとは何かしら因縁があるらしいがウィルフは何も聞かない事にした。


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