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只今洗浄中

 依頼は終わった。トクメが街の近くまで送ったので移動する必要もない。


「折角だし泥落としていく? このままじゃ街にも商館にも入れないし」


 時間は十分過ぎる程あり、一際泥で汚れているシスとルシアの姿を見たムメイの提案に反対する者はいなかった。


「それは構わないのだけど、地面のままだとまた汚れてしまうわ」

「魔力、具現化」

「あ。そうだったわね」


 ムメイが両手を掲げると一瞬にして十メートルはありそうな円形のプールが現れた。

 イリスはそこに魔法で出した水を注いでいく。


「シスおいで。全身の泥落とそうか」

「いや、自分で落とせるからいい」

「私が洗いたいの。ね、お願い」


 キラキラと楽しそうに目を輝かせるムメイからのお願いにシスはかなり悩んだ。

 正直身体を洗われるのは恥ずかしい、相手がムメイなら尚更。しかしムメイからのお願い、しかもこんな見るからにワクワクしているのを断って悲しませたくない。


 あとは何気に背後から殺気を飛ばしているトクメもいるが、この場合断っても受け入れても結果は変わらないのでシスは無視した。


 むしろ何をしても同じ結果なら少しでも長く会話がしたい。


「……こ、今回だけなら」

「よし、ありがとう」


 早速ムメイはシスの全身を濡らすとシャンプーを取り出した。


「それは?」

「……従魔とか、動物達専用のシャンプー。最近従魔コンテストとか流行っているじゃない、だから毛並みを整えるシャンプーとかリンスがいっぱいあるの」

「ペット用か……」

「……毛並みはふかふかの方がいいかなって」


 流石にペット扱いは悪いと思っているのか目を逸らしたが、シスが何も言わず洗いやすいよう体勢を変えたので多少気まずい空気になりながらもムメイは気を取り直し、シャンプーを泡だて丁寧にシスの身体を洗っていく。汚れた水はそのまま水分だけを蒸発させ地面へ返しているのでプール内の水が汚れることはない。


 最初は自分についた泥を落とすのに専念していたイリスだが、シスがモコモコと白い泡につつまれていくと急にソワソワしだした。


「ね、ねえシス。私も洗っていい?」

「もう、好きにしたらいい……」

「ありがとう! 前から触ってみたいと思っていたの」

「痒い所とか苦手な場所あったら言ってね」

「それなら尻尾付近だけはやめてくれ」

「分かった」


 モコモコと楽しそうにシスを洗うイリスにウィルフは複雑な表情を浮かべながらも何も言わず、静かに泥を落としていく。


「……折角だからルシアも行ってきたらどうだ?」

「行きたいけどっ、まず自分の泥を落とさないと」

「そういえばぬかるみにハマっていたな。それに今回も大分課題が増えた」

「嘘!?」

「まず足元に注意していなかった為にぬかるみにハマり、次に沼からシスとブラッディダイルが飛び出してきた時に動けず固まっていた。後はそのぬかるみにハマった時やトクメが出てきた時に咄嗟とはいえ俺にしがみついたりイリスの後ろに隠れただろう。あれが敵ならイリスも俺もすぐに反応ができずに被害が大きくなる可能性が高い」


 次々と出てくる問題点にルシアがうなだれていく。


「どうしたらいいのよ……」

「とりあえず慣れる事だな。何度も経験していけば落ち着いて対処出来るようになるだろう。まずは驚いた時に誰かにしがみつくのだけは止めろ」

「とにかく魔物討伐の依頼を受けまくればいいのね」

「魔物の巣窟に放り込む方が圧倒的に早いのでは?」

「いいっ!!」


 急に声をかけられルシアはバシャンと転け、速攻でウィルフを壁にした。


「ルシア……」

「い、あ、これはっ、敵じゃないし! 物騒な事言われたからっ」


 慌てふためきながら言い訳しているが、壁にするのを止めようとしないルシアにウィルフはため息をついた。


 言われた内容を本当にやりかねないので気持ちは分かる。


「お前も入ったらどうだ?」

「泥がついていないので入る必要も意味もない」


 そう言いながらトクメは相変わらず元の姿のままムメイの造った壁にもたれている。

 どうも機嫌が悪いらしいが、先程までは上機嫌だっただけに何が原因なのか全く見当がつかない。


「泥がついていないと入ってはいけないわけでもないだろう」

「無理無理、何言っても絶対入らないからやめといたら?」


 水に入れば少しは機嫌もマシになるかと思いもう一度誘ってみたら遠くからムメイに止められた。


「水が苦手なのか?」

「包帯を濡らしたくないし、相手のいる所で取りたくないのよ。包帯巻いてるんだからその辺りは察してくれる?」

「待てムメイ。私はお前に包帯の事を話した覚えはないのにまるで知っているような事を言うな」

「ゼビウスが言ってた。誰に、何故そうなったのかも全部教えてくれたわ」

「ほう、ゼビウスが……」


 周りの温度が一気に下がったような気がしてウィルフは身震いしたが、ムメイは何ともないのかそのまままたシスの方へ向き直り泡を落としている。


 確かトクメの包帯の下には酷い傷跡があった事をウィルフは思い出したが、あの時トクメは酔い潰れておりおそらく傷跡を見られた事には気づいていない筈。

 いつかは気づかれるが、明らかに機嫌が悪いしばらくは言わない方がいいと判断し、何だかんだ嬉しそうなシスにも口止めしておこうとウィルフは強く決めた。


「あ。ウィルフ、ごめん……私、手に泥ついてた……」

「……しがみつく癖はすぐさま直す必要があるな」


オマケ


トクメの人型は作り物の身体に本体である頭を乗せているだけの簡単なものだが、たまに感覚も通した人型になっている時がある。


「あ、なあトクメ」


なので不意に後ろから声をかけると。


「なん、っゔ!?」

「どうした? え、まさか今ので首ツったのか!? トクメ!?」


振り返った時の勢いだけで首をツる時が稀によくある。


そしてシスは魔物なので、人についてまだよく分かっていないところがある。


「お客様? あの、何か騒いでいるみたいですがどうかされましたか?」

「あ、えーとトクメ……仲間?が首をつった」


なのでたまに言葉のすれ違いが起きる。


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