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旅に行こう

 精霊という種族は大きく二種類に分けられる。


 一つは火や水といったそれぞれの属性から誕生した者達。

 一つの属性に多く存在し精霊同士集まって村を作って暮らしたりと普通の人と似たような生活をしており、一般的に精霊と言えばこちらの属性から誕生した方を指す。


 もう一つはイリス達のような強い願いや感情などから誕生した者。

 こちらは一つの感情に一体しか存在せず、大体は誕生した感情にそった行動を取っている。


 例えば平和を願う心から生まれたイリスは戦いを好まないが、平和を荒らす者には容赦なくレイピアを向ける。


 正義を願う心から生まれたウィルフもまた同じだった。


 しかしその性質上規律や規則といったものも大事にし尊重していた為か、全ての行動思想を規律や規則で決めれば世の中から悪は消え去ると考え行動に移した結果、自由の精霊の逆鱗に触れ吸収取り込まれた。


「私も怒りで我を忘れていたから完全に取り込もうと思ったんだけど、丁度目の前にイリスがいて止めたのよ。でも本当に消滅寸前だったからルシアが生まれたみたい」


 空中で優雅に足を組みながら話す自由の精霊に、ウィルフは己の過去を改めて第三者から話される事に悶えてイリスに慰められている。


「このウィルフという男については分かったけど、何故今更復活したの」

「私が名前を呼ばれて引っ張られたから。私だけだったからウィルフは剥がされた、とでも言えばいいのかな。結構強引だったからかなり痛かったけど」

「それにしても、精霊は一つの感情に一つでしょう。消滅しかけたとはいえこういう場合はどうすれば……」

「そんな決まりは聞いた事ないわね。前列がなかっただけじゃない?」


 ドンドン質問してくるルシアに答える自由の精霊だが、いかにも適当といった感じの態度にルシアが怒りかけたのを察知したイリスは慌てて間に入った。


「落ち着いてルシア、自由の精霊だって全てを知っているわけじゃないの。あくまで憶測よ」

「そうですが……どうにもこいつと話しているとイライラして……すみません」

「今思うと何であんな愚行に走ったのか……アレこそ俺が最も忌み嫌う悪の行動そのもの……! ましてや最愛のイリスに剣を向けるなど……!」

「ウィルフ、私は気にしていないわ。それより、こうしてまた貴方と会えた方が嬉しいの」

「イリス……これからはどんな理由があろうともう二度とお前に剣を向けたりはしない、永遠に誓おう」

「!? っ!!? っっ!!!?」


 ウィルフがイリスと見つめ合った後、強く抱きしめたのをルシアは驚愕の表情で自由の精霊とイリス達を何度も交互に見やる。


「相思相愛って知らなかった? あ、知りようがないか。まあ、そういう関係だから邪魔しないようにね」

「えっ、ええっ、あれ……ちょっと待って。まさか、お姉様の目の前でウィルフを吸収したのは……」

「ワザとじゃないから。ウィルフがイリスに剣を向けていた時に私が来ただけ。むしろあの時イリスと対峙していなかったらそれこそウィルフは完全に消滅していたわよ」

「お前はいつまであの茶番を続けさせているつもりだ」


 また頭上から声が聞こえたと思ったら、あの白い男がいつの間にか自由の精霊の背後に佇んでいた。


「あっ! お前はあの時の!」

「また来たのか……」

「……あの白い男は何者なのですか?」


 白い男が来るやイリスとウィルフはすぐに離れ、ウィルフは軽い口調で話しかけている。

その様子にルシアはイリスの服の裾をクイッと軽く引っ張りながら小声で訪ねた。


 白い男の異様な姿と雰囲気に慣れないルシアは完全に怯えている。


「うーん、知り合い……知り合いが一番近いかしら。知り合い以上と言えなくもないのだけど」

「ただの名前を、いや名前すら知らないただの厄介な奴だ。絶対に関わるな」

「え?」


 何とも言えない微妙な評価にルシアは白い男と自由の精霊へと視線を向けた。


「何で来たの」

「ウィルフの復活を祝いに来たが、既にお前が終わらせたみたいだな」


 自由の精霊は先程までの笑みはなく、どこか不機嫌そうにぶっきらぼうな返事をしているが白い男は気にする事なく話を続けている。


「……祝い? いつ祝っていました?」

「私達の基準で考えない方がいいわ。向こうにとっては祝っていると捉えたみたい」


 イリスとルシアが小声で話している横で、ウィルフは何かに耐えているのかプルプルと体を震わせている。


「……あいつの祝いは、俺の過去を俺の聞こえる所で他者に話す事だ……。相手をからかいおちょくる事に全てをかけていると言ってもいい奴だからな……」

「…………」


 顔が真っ赤になっているウィルフにルシアは静かに視線を戻した。


「……お姉様。何となくですがあの男の性格が分かったような気がします」

「それだけじゃないから気をつけてね。言葉では上手く表現出来ないのだけど、とても難しい性格をしているから」


 そんな話をしている間に話は終わったのか、白い男は姿を消し自由の精霊はイリスの所へ戻ってきた。


 その表情は先程と変わらず不機嫌そうに見える。


「何か言われたの?」

「明日から旅する事にしたからついて来いって、人間になって。たまに顔を見せたと思えば無茶ばっかり言ってきて……鬱陶しい」


 本当に機嫌が悪いのかギリギリと親指をかじる自由の精霊に、ルシアは腰を引かせながらも話しかける。


「……あんたが素直に従うなんて何があったの」

「何も。あいつの言葉に私は拒否権がないだけ」

「え、もしかして主従関係なの? あんたが?」

「主と言えば主だけど、主従というか奴隷というか。道具が一番近いんじゃない」

「それより人間としてってどういう事? また前みたいに何かしようとしているの?」


 イリスが不安げに聞いてくるのを自由の精霊はとびきりの笑顔で答えた。


「言葉通り、人間の姿で人間みたいに世界を旅するということ。イリスとウィルフが時々やっていた人間ごっこと同じ」


『人間ごっこ』の言葉にイリスとウィルフの肩がビクリと跳ねるも自由の精霊は気にせず話を続ける。


「あと、あいつが前にやらかした事に私は関係ないから。むしろ後始末に走り回された方」

「あ、そうだったわね……ごめんなさい。……ねえ、その旅に私達もついて行っていいかしら」

「お姉様!?」

「正気かイリス!?」


 いい事を思いついたと言わんばかりのイリスの表情にルシアは驚愕の声を上げ、ウィルフはイリスの両肩に手を置き勢いよくガクガクと前後に揺らした。


「大丈夫、正気よ。ルシアには経験が必要だと思うの。魔力や魔法の使い方は教えるより実際に使った方が早いでしょ? それに人間の世界を見てまわるのもいい勉強になると思って」

「お姉様、私の為に……行きます! 是非行きましょう!」


 イリス信者のルシアは否定的だった反応をすぐに変えたがウィルフは食い下がった。


 人間ごっこは構わないが、白い男と同行する事だけは避けたい。


「理由は分かったが、わざわざあいつらについて行く必要はないだろう」

「だって、自由の精霊は人間として人の世界を旅するのは初めてでしょう、それに一緒に行く相手が……ほら、心配ないと言えばないけど心配じゃない……」

「いや、それはそうだが……まあ……イリスがそう言うなら……。……そうだな……俺も復活したばかりだから体慣らしに丁度いいかもしれんな……」

「ありがとうウィルフ、ルシア。そういうワケだから、私達も一緒に行くわ。よろしくね」

「え? ああ、うん、まあ、数指定していなかったしそういうの気にする奴じゃないからいいけど……相変わらずね」


 白い男の同行だけは避けたい。

 そんなウィルフの強い気持ちは惚れた相手の前であっけなく崩れ去った。


 そもそもイリスに剣を向けた罪悪感もあるため反対しにくく、このままだとイリスとルシアだけで同行を決めかねない。

 白い男の同行以上に避けたい状況を回避する為、ウィルフは己の意思をあっさり曲げた。


 そんなウィルフの心の葛藤を察した自由の精霊は笑いを堪えるのに必死で、いつの間にか苛つきは綺麗に消えていた。

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