ルシアとリンゴ〜イリス危機一髪〜
今この部屋にはルシアしかいなかった。
イリスはムメイと出かけてしまい、ウィルフも何処へ行ったのかここにはルシア以外誰もいない。
「……よしっ」
ルシアは気合いを入れると部屋に置かれているナイフとリンゴを手に取った。
リンゴは真っ赤に熟し大きさの割にズッシリと重く、何より見ただけで分かる程艶々しており質は申し分ない程上等。
ルシアは真剣な顔で持ったリンゴを見つめ、緊張からゴクリと一度唾を飲み込むとゆっくりリンゴの皮にナイフを当てた。
ルシアは壊滅的に不器用だ。
魔物を剣で倒す事は出来るが、それは勢いで斬っているだけだとウィルフに指摘され魔法も使える事には使えるが威力の加減が出来ず暴走してしまう。
慣れれば上達するとはいえ、ひたすら魔物を倒し続けるには限界がある。
その時に敬愛するイリスから教えてもらったのがリンゴの皮むきだった。
手先の細かい動きと絶妙な力加減を必要とするリンゴの皮むきは、今のルシアにピッタリの特訓だった。
しばらくはイリスが皮を剥くのを眺め、イリスに背後へまわってもらい手を重ねながら一緒に皮をむいたりと何度も練習し学んできた。
今回は初めてルシアだけでの皮むきに挑戦する為緊張でナイフを持つ手が震え、力が入らない。
「これじゃダメ、落ち着かないと」
一度深呼吸をして気を落ち着かせナイフを持ち直し、もう一度イリスの教えてくれたリンゴの皮むきの仕方を思い出す。
まず右手を人差し指と親指をLの形になるよう伸ばし、残りの指でナイフを握る。
次に親指をナイフの刃に先へ置くようにし、皮のむく部分をその親指で少しずつ引き寄せながら反対の手でリンゴを回して進めていく。
ナイフは刃の元に近い部分を使い、ナイフではなくリンゴを動かすよう意識しそれを右手の親指で補助。
決して力に頼ってはいけない、力を入れずナイフをすべらせるようにする。
何度も何度も復唱し目を閉じて頭の中でもイメージする。
「よしっ」
もう一度気合いを入れるとルシアは目を開け学んだとおりに、イメージした通りにナイフを進めた。
******
「〜っ! ああ、もうっ何で!!」
ダンっと怒りに任せルシアは拳にテーブルを叩きつけた。
やり方は分かっている。コツも教えてもらい何度も何度も確認してイメージも重ねきた。
なのに何度挑戦してもリンゴの皮が剥けない。思った通りに指が、手が動かない。
イリスと一緒にやった時はリンゴの皮は一本のリボンのように薄く長く続いていたのに、いざルシアだけでやるとリンゴの身が分厚くついてくる上に数センチむいただけでボトリと落ちてしまう。
何とか最後までむききったがどう見ても丸くなく、下手すると皮の方に身がついているような気がしなくもない。
部屋にあった三個全てのリンゴをむき終えルシアは途方にくれた。
これ以上は食べ切れないので練習が出来ない。
「何で……! 言われた通りにやっているのに何で出来ないのよっ!」
不器用だからなのは分かっている。
しかし言われた通りの事をやって出来ないのは納得できない。
「もう一回……でもこれ以上むいたら食べ切れない……でも……。……このむいたリンゴ、何か料理に使えないかしら」
リンゴの皮むきだけが全てではない。
料理だって手先を器用に使う特訓とも言えるんじゃないか。
確かお菓子に焼いたリンゴを使うだったかリンゴを焼いたお菓子があったはず。
上手に作れるとは思えないが、レシピを見ながら丁寧に落ち着いてゆっくり作れば大丈夫。
さっきはあまりにも思い通りにいかない事に怒ったが、まだ始めたばかり。
それもルシアだけの皮むきは初めて、出来なくて当たり前だと思わなくてはいけない。
必要なのは経験と慣れ。
その為にもまずはこのリンゴを上手く調理して食べ切らなくては。
ルシアは先程まで落ち込んでいた気分を追い払うように思い切り首を振った。
「リンゴと言えばアップルパイよね、早速レシピを調べて厨房を借りれるか聞かなきゃっ」
上手とまでは言えなくともせめて美味しくは作りたい。そしてお姉様に食べて美味しいと言って笑ってほしい。
その事だけを考えルシアは部屋を勢いよく飛び出した。
幸い丁度そこにイリスが帰ってきたので最悪の事態は回避され、一緒に作った焼きリンゴはルシアの願い通りイリスに美味しいと言ってもらえ笑顔ももらえた。




