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難しい親子

 「それにしても、ムメイとトクメが親子だなんて知らなかったわ。奴隷と言っていなかった?」


 人気のない浜辺に座りながら、イリスはムメイと一緒に海水から塩を作っていた。


 港町だと塩はそれ程高値では売れないが、海から離れた街へ行った時に売る為である。


 海水から塩を作るのは普通なら時間も手間もかかるが、イリスとムメイは魔法でドンドン作っていく。


 イリスの場合はまず海水を風で包み不純物を取り除き、後は水分を蒸発させ出来上がった塩を買ってきた紙袋に風を使って詰め込んでいる。

 それに対してムメイはイリスのように風で包んだりせず、具現化させた魔力で海水を紙袋の上まで運ぶと次の瞬間には真っ白な塩になってそのまま落ちていく。


「元々奴隷みたいなもんだからそう言ってたんだけどね。前にも言ったと思うけど、勝手に私の自空間にどんどん物突っ込むし、こうと決めたら問答無用で振り回されるし。私の意思が通った事なんて一つもない」


 トクメの話をするのが嫌なのか、ムメイは真っ直ぐ海面を見たままイリスの方を向こうとしない。思い出して苛ついているらしく、塩も紙袋に全て入らず周りにバラバラと散らばっている。


「……向こうも、娘だと思っていないからいいんじゃない」


 塩を作るのを止め、ポツリとムメイが呟いた。


「ここだと親子より奴隷関係の方が優先されるし、丁度いいとか思っていそう」

「そうかしら。結構気にかけているように見えるけれど」

「見えるだけ。時喰い虫いるじゃない、私の姉の」

「え、ええ」


 時喰い虫は見た目こそ少し大きいだけの白いイモ虫の姿をしているのだが、動物以外の物を見ると発狂して暴れ始め、無数に分裂を繰り返し辺りにある物全てを食べ尽くしてしまう。

 それこそ歴史を調べるのに重要な資料になる本や建物、植物さえも。


 時喰い虫という名前はそこから来ている。

 過去にこの地上だけでなく神界も荒らし、そのまま姿を消してしまったので誰かに討伐されたと噂されたが違ったらしい。


「トクメが時喰い虫を保護していたのね」

「誰が見ても分かる程にすっごく可愛がっている。いつもあいつの魔力に守られて、あいつの図書館にいるの。けれど私は……、流石にここまで差をつけられると嫌でも分かる」

「ムメイ、それは……」

「言ってたっけ? 私は魔法が使えないって」

「え?」


 イリスの言葉を遮るようにムメイが話題を変えた。

 そのままムメイの魔力が再び動き出すが、先程と違い海水を包んだままグルグルと動くだけで何も起きない。


「どういう事?」

「正しくは属性魔法が一切使えないんだけどね。地水火風の基本属性はもちろん他大陸のも何一つ使えない。出来るのは魔力の具現化と転移転送魔法だけ。この塩だって火や水を操ったんじゃなくて、魔力で塩の元だけを取り出して、それをまた戻しているだけ」

「十分できる事に入っているわ。そもそも魔力を具現化できる程持っている事自体が凄いのだから」

「その魔力だってあいつはこの世界全ての海水を持ち上げてそのまま数百年は余裕で保てるぐらいあるけど、私は持ち上げる事はできても一時間も保たないぐらいしかない」

「ムメイ……」


 ムメイが比べている相手はトクメだ。

 確かにトクメは全属性、他大陸の魔法全てが扱える上に魔力もムメイの倍以上ある。全てに於いてトクメが上。


 比べる相手が悪すぎる。


 ムメイも十分凄いのだが、側でずっと見てきた相手がトクメである以上イリスが何を言ってもきっと信じない。信じる事が出来ない。


「それを知っているのにあいつはわざわざ魔法見せびらかしてくるし、聞いてもいない事を教えようとしてくるし。この旅といい、何がしたいのよあいつは」


 見るからにムメイは苛ついている。

 トクメと比べて無力な自分を卑下しているみたいだが、今日見た感じでは姉である時喰い虫との扱いの差にも思うところがあるらしい。


 ムメイとイリスの付き合いはそれなりに長く、お互いの事情はよく知っている。

 たまにトクメが現れムメイと話しているのを何度か見た事はあるが、まさか親子だとは思いもしなかった。


 ムメイのトクメへの態度は親子故だろうか拗ねているように見えなくもないのだが、まさか直接聞くわけにもいかずイリスはどう声をかけるべきか悩んでいる内に気づけば大量の塩が出来ていた。


「話に集中しすぎた……」

「余分な分は海に返しましょうか」


 紙袋から溢れ地面に落ちている分を売るわけにもいかず、ムメイと一緒に作り過ぎた分の塩をせっせと海へ戻していく。


 戻しながら、イリスはこっそりため息をついた。


 この親子の溝は深い。

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