冒険者と遭遇
部屋から出ても速度は落とさずしばらく走っていると臭いもなくなり落ち着いてきたのか、ヴィルモントの髪や目の色が完璧とまではいかないがいつもの銀と茶色に戻りつつある。
「落ち着いた?」
「何とかな……だが私の空腹はどうにもならん。何処かで血を補給せねば……」
相当辛いのか話しながらも髪色は金色になったり銀色に戻ったりを繰り返している。
「……最終手段はやっぱり私の血かな。最悪飲み干されても精霊に戻れば何とか存在は維持出来るし」
「ムメイ……」
「それはあくまで最終手段だ。現状ではここの何処かにいる人間を狩るのが最良だな、似非よりも本物の方が私もいい」
「あ、そう……」
割と切羽詰まった状態でありながらも妥協しないのは気遣ってなのか本心か、判断に迷いムメイは曖昧な返事しか返せなかった。
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「おっ、丁度いいとこに! なあ、あんたら! ちょっとこっちに来てくれよ!」
ヴィルモントに言われた通り人の匂いを辿っていたシスはある部屋の前で足を止めると同時に声をかけられた。
部屋の中には冒険者と思わしき男性二人と女性が一人。
周りにはランプや丸めた紙などの道具が散らばっている。
「シス、ここでいい。中には入らないで」
何故か声を潜めたムメイに従い前脚部分だけ中へ入り、冒険者達の話を聞いた。といっても話をしているのはムメイで、ヴィルモントはかろうじて銀髪を保っているが少しでも気を抜くと本来の姿に戻ってしまうからかシスの背中に顔を埋めて動かずにいる。
「貴方達は冒険者?」
「ああ、これでも俺達はAランクなんだ、ほら」
そう言って真ん中の男が見せたのは確かにAランクと記されている金色のギルドカード。
「その冒険者さんが私達に何の用?」
「なに、ちょっとしくじっちまってな、簡単に言うと助けが欲しいんだ。ここにいるって事はあんた達も蠢くものの事は知ってんだろ、ここから移動しようにも足音で気づかれちまうし、ちょっと俺らもその魔物に乗せてくれないか? 出口までとは言わねえよ、せめて蠢くものが少ない場所まで連れて行ってほしいんだ」
「そうは言うけれど、シスに乗るには人数が多すぎるわ。それにそこの荷物も乗せる気でしょう? 重すぎて無理よ」
「そこを何とか頼むって。荷物なら引きずってもいいからよ、こういう状況なんだ、助け合うのが人の情ってもんだろ?」
割とまともな理由で断っているにも関わらず男は食い下がってきた。
それ程切羽詰まった状況なのだろうが、ムメイが言った通りシスに全員乗るのは不可能であり仮に乗れたとしても確実に動けなくなる。
「助け合い、助け合いねえ……私達も今ちょっと困っているのだけど助けてくれるの?」
「ああ、勿論! 戦闘になった時は任せな、Aランクの力を見せてやるぜ!」
「そっちじゃなくて。さっき蠢くものの毒にやられちゃってね、大量の血を流して少し動きにくいの。だから私が流した分の血をくれない?」
「え?」
「別に貴方一人からとは言わないわ。三人で合わせての量でも構わない、助けてくれるのでしょう?」
「いやいや、そんな事したら俺達が戦えなくなっちまうだろ。それは無理だ」
「戦えなくなる程要求はしていないのに? なら交渉決裂ね。それじゃ、私達は先を急ぐから」
「おいちょっと待て! 俺達も乗せろよ!」
ムメイに促されシスが部屋から出ようとすると男の表情が変わり口調も荒くなった。
それでもムメイは怯む事なく、それどころかどこか挑発するような笑みを浮かべている。
「こちらの要求を拒否しておいて何でそっちの要求を受け入れなきゃいけないの」
「だから戦闘は任せろって言ってんだろ!」
「私達が求めているのは護衛でも戦闘力でもなく血よ。それ以外はいらない」
「このっ……!」
「アレックス! そいつの後ろに吸血鬼がいるわ! こいつら吸血鬼の手下よ!!」
「!!」
とうとうヴィルモントが姿を保てない程弱ってしまったのか冒険者の一人に気づかれた。
しかしそれでもまだ理性は残っているのかヴィルモントは相手を襲うことなくシスの背中を掴んで必死に耐えている。
「シス! 走って!!」
「分かった!!」
「あっ、てめえ! その魔物をよこせ!!」
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「もう十分よ、ありがとうシス」
「まだそんなに離れていないと思うが大丈夫なのか?」
「蠢くものがいるから大丈夫、あいつらはあの部屋から動けない。それよりヴィルモントよ」
ムメイがヴィルモントを降ろし、シスも人の姿になり近寄ったがヴィルモントは完全に吸血鬼の姿となっている。
「さっきの人間を襲うべきだったか?」
「流石に三人相手は分が悪すぎる。私だって満足に戦えるわけじゃないし、あいつらニンニクを食べているからヴィルモントだって戦えないわ」
「あれ残り香じゃなかったのか……」
シスもニンニクの臭いに気づいていたが、さっきの部屋の臭いがまだ鼻に残っていると勘違いし、あの冒険者達がニンニクを食べていたとは気づかなかった。
恐らくヴィルモントはそれに気づいていたからシスの背中に顔を埋めて臭いを嗅がないようにしていたのだろう。
「ヴィルモント、大丈夫?」
「……少し、横にさせてくれ……」
今まで聞いた事のない弱々しい言葉といつもの白い肌が今は真っ青になっており、ヴィルモントはもう限界なのがシスでも分かった。
「もう人間がどうこう言っている状態じゃないわね、私の血を飲ませましょう」
「大丈夫なのか? これ以上血を失ったら……」
「倒れない程度に留めるつもり。それに言ったでしょう、最悪精霊に戻れば少なくとも消滅はしないって」
そう言ってムメイが再び腕を切ろうとした時だった。
「あの、大丈夫ですか?」
「……吸血鬼? もしかして空腹状態なんじゃ……」
ムメイ達が入ってきた部屋の反対側から二人の少年が入ってきた。




