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紺碧の絆  作者: 睦月心雫
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魔導師と騎士の複雑な上下関係

 俺はロイ・バードナー。

 このゴウネルス王国の守備を一任されている星鎖の騎士団の一員。


 そして、この団の団長は第一王女サァヤ様。王女だからと甘く見ると痛い目にあう、国でも指折りの剣士だ。


「ロイ、またサァヤ様のこといやらしい目で見てたっしょ」


 親しい友人バークスと騎士団の宿舎で昼食をとっていると、唐突にそんなことを言われ対応に困る。


「そんなこと言ってるお前がそういう目で見てんじゃねえの」


 そういってカレーライスをがっつく。


「⋯⋯お前、かなり年下の主人が出来てタメだと思わてる上にこき使われて毎日一人で泣いてんだろ。それで欲求不満になって⋯⋯」


 そういって泣きマネをしながら昼だというのにビールを差し出してくるバークス。


「お前⋯⋯それ何情報だよ⋯⋯」


 怒りを通り越して呆れてしまい、言葉を紡ぐのも忘れる。


 確かに新しくできた"ご主人殿"は俺のほうが十歳は年上だというのをまだ知らないだろう。

 バークスとはタメだが彼は充分大人に見える。

 しかし俺は⋯⋯

 そんな心境を見かねたようにバークスは二カリと笑って


「お前童顔だし、背ぇ低いしなあ」


「うっせ」


 そういってバークスを軽くこづく。


 ふと宿舎の入り口付近がざわついているのに気付き、そちらに目をやる。

 あの人のいようは、きっとサァヤ様だろう。


 バークスは俺がサァヤ様をいやらしい目でみているだとか意味のわからんことを言っていたが⋯⋯

 断じてそんなことはない。

俺はサァヤ様を尊敬はしているがいやらしい目でみたことなんて一切ない。

 そのはずなんだが⋯⋯。


「あ!いたいた!ロイくん」


 そういって人波をかきわけてこちらに駆けてくるサァヤ様。

 一瞬ドキリとして「可愛い」などと思ってしまうのだが⋯⋯。

 これは断じて「いやらしい」の部類には入らないよな?⋯⋯


「あのね、リィンのことで話があって⋯⋯」


 あの女のことでか⋯⋯と気分は一気にブルーになる。


「なんでしょう?」


「仲良く出来てるの?」


 母親のようなその口調にどこか違和感を覚えていると、サァヤ様が見かねたように微笑む。


「実はリィン、一人で勝手に外出してるらしくてね」


「え⋯⋯」


 俺がこの間王に下された命令は、リィンの部下となり彼女が外出する際付き従うこと。そしてなにかあった時には命懸けで彼女を守ること。だから、外出する時には必ず俺を呼ぶように、とあの女は言われているはずで⋯⋯。


 あのくそ女⋯⋯。


 サァヤ様の前でなければ声に出していたところだ。


「それ聞いて、仲良くできてるのか少し心配になってね」


 そういって苦笑するサァヤ様になんだか申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


「すいません。俺の責任です」


 断じて俺の責任ではないが、そういっておく。その方が好感度もあがるだろうというささやかな戦略。


「ロイくんは」


「サァヤ様!王様がお呼びです。」


「あ!はい」


 そう返事をして侍女と共に足早に去っていくサァヤ様。


 「ロイくんは」そういって細めた優しげな瞳が頭から離れない。


 その続きが聞きたかったが今はこのカレーを食べ終えてもうサァヤ様に心配をかけないようにあの女との関係をどうにかしなくては⋯⋯


「お前、幸せそうな顔してんなあ」


「うわっ!」


 サァヤ様のことばかり考えていて隣にバークスがいるのを完全に忘れていた。


「⋯⋯」


「図星かよ」


 そういってガハハと豪快に笑ってみせるバークス。


「なあ、バークス。あの女の件、どうすればいいと思う?」


「あの女?ああ、お前のご主人様な」


「その言い方やめろ」


「まあ、まあ。そうだなあ⋯⋯」


 そういって真剣に考えだした風のバークス。

 しかしこのバークスという男は冗談が大好きなおちゃらけた男なのであまり期待できない。


「ご主人様の部屋に住んじえば?」


「はっ?」


「おまっ⋯⋯すごい顔だな」


 そういって腹を抱えて笑うバークス。

 そんなに笑われるような顔をしているんだろうか。


「でもさ、これはガチめにいいと思うぞ」


「⋯⋯どこがだよ」


「なんかあった時すぐに対応できんだろ。いい加減宿舎からでて王宮住まいしちまえばいいんじゃないの」


「お前⋯⋯それ本気か」


「本気だ」


「⋯⋯」


「お前のご主人様は例のリオネス大王国からいらっしゃった。つまりは"魔法"を使える者だろ?この魔法のない世界ではそういうやつは兵器みたいなもんだ。つまり、もう手放せない、手放したくない存在。逃げられたら困るのはもちろん、地位だって高いだろ。そんな方の部下なら王宮住まいも当たり前だ。な、理にかなってんだろ」


「まあな⋯⋯」


「なんだ、お前〜。俺から離れたくないのか〜」


 ニヤニヤとこちらを見てくるバークスを冷めた目で人睨みするとちょうど鐘がなる。

 この鐘は午後からの訓練を告げる鐘で遅れればサァヤ様からの厳しい罰が与えられる。

 急がなければ⋯⋯。

 そう思って冷めたカレーを一気にかきこむ。

 バークスもちょうど日替わりランチを食べ終えたところでばっちり目が合う。

 ニカッと笑いあい、食べ終えた食器を迅速にカウンターに置くと駆け出す俺とバークス。


 朝食後、昼食後、夜食後、いつもお決まりのようになっているこの対決も、あの女のために宮殿住まいになればやっぱりなくなってしまうんだろうな⋯⋯。


 前だけ見据えて全身で風邪を切りながら走っているとバークスがどこにいるのかわからなくなる。

 振り返ってみると余裕顔で走っているバークスがいた。

 ちなみに今までの対決での勝率の割合はバークスのほうが若干上だったりする。

 こんな余裕顔して勝つんだもんな。ほんと、腹立つ。なんて考えていたらバークスが俺を抜かしていく。


「スキありっ」


などといって前を走っていくバークス。


「あのさ⋯⋯」


「んー?」


 俺の表情をみて、ランニングペースになって隣にやってくるバークス。

 俺も全力で走るのをやめてランニングペースになる。


「俺、やっぱりお前と離れたくないみてえ⋯⋯っていって!」


 全て言い終える前に思いっきり頭を叩かれる。


「ばーか。宮殿住みの騎士になったってなあ、宿舎には自由に行き来できんだろ。それに休みだってあんだから、いつでも会えんだよ。」


 そういってニカッと笑ってみせるバークスに笑みがこぼれる。


「⋯⋯そう、だよな」


「それにな、俺もいつか宮殿住みの騎士、星凰の騎士になってやんよ」


 最後に背中をバシッと叩かれて俺は覚悟を決めた。


 王宮に住み王族を守る役目を担う騎士のことを俗に星凰の騎士という。

 あの女は王族という訳じゃない。しかし俺は星凰の騎士ということになるんだろう。


 星凰の騎士は騎士団の中でも腕っ節の強いヤツだけがなれる。


 バークスの実力も相当なものだ。


「待ってる」


 そのたった一言で俺の言いたいことが全部伝わった気がした。




〜リィン〜

「むむむ⋯⋯」


 自室のベッドの上であぐらをかきながら、手に力を込める。

 しかし⋯⋯


「やっぱり何も起こんないや⋯⋯」


 ボフッとベッドに寝転がり手のひらを見つめる。

 本当に私、魔法の才があるのかな⋯⋯。

 確かにあの日、私の力で魔域ゲートはひらいた。

 でも、それさえも、今思うと幻のようで⋯⋯


 キラやナナミ、ユシルやトウヤの行方はいまだに掴めなかった。

 最悪の場合を考え出す頭を何度ブンブンと振ったことだろう。


 そこでふと、あることが気にかかる。


 王が私に「ロイを部下にする」といったあの日⋯⋯。

 王は突如としてロイを出現させた。ロイは驚いて王に文句を言っていたし、あれは王がやったことで間違いないだろう。

 しかしあんなこと、常人に出来るはずがない。


「王も魔法が使える?⋯⋯」


 となればあれも"魔法"でやったことになる⋯⋯。

 もしこの仮定があっているのなら私だってその"魔法"とやらは使えるはずで⋯⋯。


「みんなを呼び出せる⋯⋯」


 もしそれが出来たなら、どこにいるのか全くわからない幼なじみ達を一瞬でここに呼び出せる。


「それだ!」


 そういって立ち上がると私はとりあえず窓を開け放ち新鮮な空気を部屋にいれた。


 はずれている可能性の方が高いけどやってみる価値はある。


 スッと両手を前にだし左右共にサッと半円を描く。

 するとその半円を描いた跡が紫に光る。


 自然と手が動いていって⋯⋯。


 その円の中には自分でもよくわからないような紋様が描かれていた。


 そしてそれがスーッと床に移動して、先程もよりも強い力を放ちはじめる。

 最初はそよそよと吹いていた風も次第に激しさを増す。


「うっ⋯⋯」


 風がやみ今度は光が次第に強くなっていく。目がくらむ⋯⋯。


 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯。


 しばらくして、光が消えて、私はそっと目を開けた。

 そこに幼なじみ四人の姿があることを信じて⋯⋯。


「は?⋯⋯」


「え?⋯⋯」


 お互いに間抜けな声をだして固まる。

 そこにいたのは、一応私の部下にあたるロイ。


 剣の腕はいいんだろうけど、性格が難ありだった。

 同年代だというのにいちいち上から目線でものをいう上に総じて口が悪い。


 そして、なぜ、ロイがここに?⋯⋯


 まあ、答えはなんとなく分かってはいるんだけどね⋯⋯。


 失敗にしたってこいつをだすのはやめて欲しかった。というわがまますぎる願い。


「なんでお前が?⋯⋯。俺はてっきり王に呼ばれたと思ったんだが⋯⋯」


 そういってそっぽをむき、はねた栗色の髪をガシガシするロイ。

 顔は見えないけどきっとムスッとして怒っているんだろう。


 私はいちいちムスッとするこの男が嫌いなので、『外出時にロイをつれいくこと』という約束事を守らないでいたりする。


 今、改めて、こいつは嫌だなと思った。

 勝手に呼んどいて偉そうにって話なんだけど。でも⋯⋯


「なんか⋯⋯ご用ですか。⋯⋯ご主人殿⋯⋯」


 無愛想に紡がれたその言葉に驚く。

 しかもご主人殿って⋯⋯


「ご主人殿じゃなくてリィンでいいよ」


 クスクス笑いながらそういうと、ロイの瞳が驚きで見開かれていく。


「おま⋯⋯リィンも⋯⋯笑うんだな⋯⋯」


 さも不思議だと言いたげな様子のロイ。


「はあ?私だって笑うわよ」


 ムスッとしてそういうとロイは初めて私に笑顔を見せた。


「ロイも笑うんだね」


 ボソッとそういうと、ロイが立ち上がり頭をガシガシしてきた。


 ユシルに頭をポンポンされることはあったけど、こんな手荒く頭をなでられたのは初めてだ。


「俺だって笑うんですよ」


 ゆっくり顔をあげれば二カリと笑ったロイがいて。


「あ、あと俺、あなたより十歳年上ですから」


「え⋯⋯えええぇぇぇぇ?!」


 ロイは予想していたように耳をふさいでいる。


「ほ⋯⋯ほんとに?」


 無言で頷くロイに私は素早く頭を下げた。


「ご、ごめんなさい!今まで、その⋯⋯」


「いや、まあ、俺もあなたのこと誤解してた部分ありましたし⋯⋯」


「タメでいいよ⋯⋯じゃなくてタメにしてください」

 

そういうとクスッと笑って


「じゃ、リィンもタメで」


と言われる。

 先ほどまで同年代、もしくは少し年下かなと思っていたロイが急に年上の兄のように見えてきて素直に頷く。


「⋯⋯で、用事は?」


 そういわれてハッとする。

 間違って呼んでしまったと正直に言えばいい話だが怒られるのも嫌なので⋯⋯


「王様は魔法使いなのかなって不思議に思って、それを聞きたかったの」


 怒られない上に疑問だったことまでなくなる!ナイス、私!

 そう思いながらロイを見やれば悩んでいるご様子。

 ⋯⋯ん?⋯⋯これは⋯⋯


「知らねえな⋯⋯。確かに、言われてみればそうなんのかもなあ⋯⋯」


 な、なんと⋯⋯。

 単細胞というかバカというか⋯⋯。


「単細胞⋯⋯」


 ボソッといったのにそれを聞き逃さなかったロイ。


「あ?今、単細胞っつったか」


といってこちらを睨んでくる。


「そういうとこには敏感なのね。単細胞」


「あぁ!?今のははっきり聞こえたぞ!」


 そういって頭をこづいてくるロイ。


「いった!そうやってすぐに手がでるところも単細胞よね。あー、やだやだ」


「なんだと」


 バンッ


 そこで勢いよく戸があいて私もロイも驚いてそちらを見やる。


「もう、だめじゃない、二人共。仲良くやってるなぁと思ったら⋯⋯」


「え⋯⋯サァヤ?⋯⋯」


「サァヤ様!?」


 そこにいたのはムスッとした訓練途中といった体のサァヤの姿。



 サァヤは会った最初こそキラのような妹属性を感じていたが今はナナミのような姉もしくは母親のようなものを感じている。

 それくらい、実際はしっかりしていて頼りになって、とても同年代とは思えなかった。


 それに比べてこの人は⋯⋯とチラリとロイを見やれば頬を真っ赤にしている。どうかしたのだろうか。


「な、なぜサァヤ様がここに?」


 若干どもりながらそうたずねるロイに


「物資を取りに行くようロイくんに頼んだのに戻りが遅いからパパかなぁと思ったけど、パパは訓練中に呼び出ししないし、それ以外に魔法使えるのってリィンくらいだから気になって来たの」


というと私の方を向いて太陽のような笑顔を浮かべるサァヤ。


「リィン、成功おめでとう」


 サァヤとは夜によく"ガールズトーク"なるものをしていて、その時に「魔法がうまく使えない」と話していたのできっとこれを成功だととって駆けつけてくれたのだろう。


 実際のところ成功でもなんでもないのだがここは素直に「ありがとう」と言っておく。


「それにしても二人共仲良くなったねえ。私、入るタイミング見逃しちゃったよ」


というサァヤには苦笑いだ。


 あれ、見られてたのか⋯⋯。


 今思い返すとそれはほんとに断片的で、「君って笑うんだね」「ええ。あなたも笑うのね」「ああ。タメでいい?」「もちろん!」みたいな気色悪いものなのだが⋯⋯。

 それを人に見られてたとか、結構きつい。


 「いや、まあ、そうね」などと曖昧な返事をしようとするとロイに遮られる。


「サ、サァヤ様!あれは違うんです、なんていうか、その」


 モゴモゴと言い訳のようなものをしだすロイにため息がでる。


 なにか小言をいおうと思って口を開く。

 が、そこであることに気がつく。


「サァヤ、王様は魔導師なの?」


 そういうとサァヤは一瞬苦しげな表情で視線をはずしたがすぐに笑顔になって「うん、そうだよ!」という。


 でも私には空元気にしか見えなかった。


 王様が魔導師なのは当たっているかもしれないけど、それについては他人ひとに知られては困るなにかがあるんだろうか⋯⋯。


 トントン


 ノック音がして王にいつも付き従っている女騎士さんが部屋に入ってくる。


「王がお呼びです」


「わかったわ。じゃあ、また」


 そういってサァヤが部屋を出ていこうとすると


「リィン様とロイもです」

と言われる。


「あ、私達も!?」


「間抜けな声だしてないで行くぞ」


 そういって私の背中をバシッと叩き歩いていくロイの耳は若干赤みを帯びている。

 サァヤの横に並ぶとその色は一層赤みを増した。


「はっは〜ん。なるほどねぇ」


 ニヤニヤとそんなことを言いながら慌ててロイのところに行く。


「じゃっ、行こっか」


 サァヤがそういって、私達は玉座の間に向かったーー。


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