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紺碧の絆  作者: 睦月心雫
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燻る想いとはじまりの空

 ああ⋯⋯。だから、ここには来たくなかったのだ。

 でも、六年振りに再会した元好きな人から「大事な話がある」などと言われたら行かないわけにもいかなかった。

 一応、それくらいには乙女心も残っていたから⋯⋯。


「私達も行くよ」


 見ないうちに、キラは随分と大きくなったなあ。

 でも、大きくなったのはキラだけじゃない。

 キラの後ろで不安げにこちらを見てるみんなだって⋯⋯。


 何故か涙がこぼれた。


 また傷つくのが怖くて私はこの人達から逃げていたけれど、そのせいでこの人達はどれだけ傷ついたんだろう。


 ほんとに、私はバカだなぁ⋯⋯。



「なに泣いてるのさ。らしくないよ」


 困ったようにそういうユシル。


「⋯⋯うるさい⋯⋯」


 涙を拭いながらそういう。


「ほら、トウヤなんか面白いこといってよ」


 そういいだしたのはキラ。


「ええ!?俺!?」


「プッ⋯⋯」


 いきなりの無茶振りに戸惑うトウヤの様子がおかしくて、思わず吹き出してしまう。


 長年凍っていた心が溶けていくような気がして、誰にも話す気がなかったことをみんなになら話してもいい気がした。


「私は森を抜けて新しい世界を見つけ出すよ」


「え?⋯⋯」


 説明しても、私の思いを伝えても、国王直属の者に見つかればまたみんな記憶を消されてしまう。

 それを知っていても、言ってみようと思えた。


「『 リオネスの大冒険』では少年リオネスが多くの仲間を得て成長して国を作り他にあったいくつもの国を制圧し、このリオネス大王国が設立されたと書かれてるわよね」


「うん。そう習ったけど⋯⋯」


「でもそれは私達国民を騙すための手段にすぎない」


「どういうこと?」


「リオネスはなにを目的としてか、私達をここに閉じ込めているのよ」


「じゃあ、ここ以外にも国はあるってこと?⋯⋯」


「ええ。世界はもっと広いの。もっとも、何故ここに閉じ込められているのかは全くわからないけど⋯⋯」


 話し終えると達成感と共にどこか虚無のようなものがのしかかってくる。

 辛かったね。一人でよく頑張ったね。

 口を開かなくても四人がそういってくれてるのがよくわかった。


「じゃあ、ほんとに行くわ。今日はちょうど作戦を決行する日なのよ」


何年も調査してやっと見つけた、魔域ゲートの弱い区域。

 今日はそこに行く日だった。

 今までの調査とは違い長時間森に滞在するので、外に出られなければ王直属の者にに見つかって始末されるだろう。

 今日ここに来た理由にはそんな作戦を決行する前だったから、というのも意識してなかっただけであったと思う。


「ちょっと、リィン。ふざけてるの?」


 いつも穏やかなナナミのきつい声音にびっくりする。


「そうだよ。僕らだけこの閉じ込められた世界においてって自分は新世界にでてくつもり?それってひどいよ」


 ユシルのその言葉に必死に首をふる。


「違う!私、そんなつもりじゃ⋯⋯」


「わかってるよ」


 キラがニコニコの笑顔でいう。


「そうそう。俺ら、やっぱり五人一緒のほうが落ち着くよ」


 いつもの自信なさげな苦笑いでそういったトウヤにキラの蹴りがはいって、私はたまらず吹きだした。


「わかった。けど、本当にいいの?家も家族も全部置いていくことになるよ?戻ってこれないかもしれないし、万が一の時には⋯⋯」


「知ってるよ」


 優しい声と共にポンッと頭に手を置かれた。

 体がカッと熱くなる、どこか懐かしい感覚。

 いやいや、私別に今はユシルのこと好きじゃないし。なにが懐かしい感覚よ。そんなことないのに。

 そう心の中で言い聞かせるも体は素直で頬が上気してくる。


「と、とにかく!いくよ!今すぐ!」


 約六年ぶりにちゃんと五人で集まったわけだけど⋯⋯。

 全然そんな気がしない。

 みんな変わらない。この心地よい関係も。

 なにも⋯⋯かも⋯⋯。




「ここよ」


 森につく頃にはもう日も暮れていた。

みんな家族に向けて、「今までありがとう。さようなら」というような内容の置き手紙をおいてきたはずだから、そろそろ搜索願いを受けた警察が動き出す頃合だろう。

 国王直属の部隊と思われる奴らも長い間私達に好き勝手させてくれるとは思えない。

 とにかく、私達には時間がない⋯⋯。


「く、暗くない?⋯⋯」


「あったりまえじゃない!ここは悪者の基地なんだから」


「わ、わるもの?⋯⋯」


 キラからすると国の奴らは"悪者"になるらしい。

 キラキラした表情でトウヤに悪者の説明をしだす。


「キラ、早くしないと悪者が帰ってくるわよ」


「あっ、そっか!はやくしないとだ!」


 ナナミの上手な扱い方のおかげで夢中になっていたお喋りをやめハッとした表情になるキラ。


「じゃ、いくわよ」


 そういって私が歩きだそうとすると、長い腕が伸びてきて静止させられる。

 なんだろう、これは⋯⋯。

 そう、あれだ。

 デジャヴだ⋯⋯。


「女の子を先には行かせられないでしょ」


 私の顔をのぞきこみそういったその人の優しい笑顔が顔を背けても頭の中から消えてくれない。

 そんなボーッとした頭で私はユシルの後に続き歩き出した⋯⋯。

 "森"には変わった植物がたまに生えてるくらいで『リオネスの大冒険』に出てくるような化け物は一切いない。

 しかし、冷気の漂う恐ろしく暗い場所なので、化け物がでる、といわれたら誰でも信じてしまうだろう。


「うぅ⋯⋯寒い⋯⋯」


「トウヤ、あと少しだから我慢して」


 そういって私はもう一度地図を見やる。

 確かここら辺のはずなんだけど⋯⋯。


 六年前、みんなが記憶を失ったあの時、何故私だけ記憶が消えなかったのか。

 明確な理由はいまだにわからない。

 ただ、私には国の奴らが使った甘ったるい香りも効かなかったし、みんながループしているといった森でもきちんと先が見えていた。

 きっと私はみんなとは何かが違うのだ。そう、割り切ってこれまで調査してきた。

 その中で見つけた、唯一の⋯⋯。


「ここだわ」


 そういって私が目線をやったのは幹に若干爪痕のある木。

 ここから道なりに歩いていけば⋯⋯


「外に行けるんだ!やった!!」


 そういってぴょんぴょんと飛び跳ねるキラ。


「キラ、ここからは危険だからちゃんとみんなについてくるんだよ」


 ユシルがそういうと「はーい!」と大きく返事をしたキラは、待ちきれないのかその場で足踏みしている。

 私は苦笑して「さあ、行こうか」という。


「あ、でも⋯⋯」


 ユシルの先を行こうとしたら私にお声がかかる。

 私は困ったようにしているユシルに笑いかけ、


「大丈夫!それに今くらいはリーダー気取りさせてよね」

という。


 ユシルも、後ろにいるみんなもニコリと笑ってくれて、長らく"独り"だった私の心にすごく染みて⋯⋯。

 本当に、"独り"じゃないって嬉しいことなんだな、ってそう思った。




「みんな、もう少しだから」


 荒く息をはいて見るからに疲れた様子になってきたみんなにそういう。

 本当に、もう少しなんだ。

 魔域ゲートについたらどうしよう。

 遠くからそれらしきものを見ただけで実態もよくわからないし、どうやって突破すればいいのかもわからない。


 でも、きっとなんとかなる。

 今の私にはみんながいるんだから。


「私達には同じ道のりを歩いているようにしか見えないけれど、リィンには先が見えてるのよね⋯⋯」


 いかにも不思議だといった声音でそういうナナミに

「うん」

と答える。


「不思議なもんだなぁ⋯⋯」


 そうつぶやいた途端こけるトウヤ。


 どこまでも決まらないところが"らしい"


「あっ!見えてきた!ついたよ、みんな!!」


 ぼんやりと紫色に光る膜のようなもの。

 あれが⋯⋯!!


 バンッ


 銃声が響き、一瞬息がとまる。

 なんで?⋯⋯


「虫が入り込んでます」


 嘘でしょ?なんでこんな時に?

 あと、もう少しなのに⋯⋯!!


「いっ⋯⋯!」


 ナナミの白いブラウスにが血の色で染まってゆく。

 "呆然とする"まさにその言葉の通りの状況だった。

 だけどすぐに脳が動きはじめる。

 この場合、魔域ゲートを開いてしまえばこっちのもんだ。

 六年前と同じことにはさせない⋯⋯!!


「よく見つけたな」


 もう一人いたんだ⋯⋯

 しかも明らかに上手な⋯⋯。


「みんな、逃げて!」


「えっ?⋯⋯」


「とにかく行けるところまで走って!道をひらく!」


 私の言葉を理解するのに数秒かかった四人だけど理解してから行動するのはことさらにはやかった。


「なんだ、このガキ。ギャーギャーわめきやがって」


 また一人、チャラそうな奴がやってきて私に銃を向ける。


「殺れ」


 なるほど。私も幼い子供じゃないものね。でも⋯⋯。


「なっ!?⋯⋯」


 放たれた弾は私の目の前数センチ程にきてピタリと動きを止めコトリと落ちた。


「ごめんね。私、ただのガキじゃないから」


 そういってフッと微笑んでみせる。


「こんの、ガキャーーー!!」


「うるさいやつね。少し黙ってなさいよ」


 冷たい目でそういうと私はそいつらに背を向ける。

 みんなを救えるのなら私はどうなったって構わない。

 背後で何度か弾がポトリと落ちる音がする。

 そんな中、魔域ゲートに近寄る。

 歩いていて気づいたのだが、足がわずかに宙に浮いている。

 自分でもよくわかっていない力が溢れてくる。

 この力をこのまま魔域ゲートにぶつければ⋯⋯


「いっくよーーーーっ!!」


 大きな声でそういって私は全身から溢れ出る力をこめ両手を魔域ゲートの前に突き出した。


「なっ!?嘘だろ⋯⋯一体⋯⋯」


 後ろから驚愕の声が聞こえる。


「化け物だ⋯⋯」


 そんな、畏怖の声も。

 でも、そんな声気にならない。

 私はもうーー独りは嫌なんだ。

 やっぱり、みんなと一緒がいいよ⋯⋯!

 そのためにも


「ゔああああああああ」


 とても自分のものとは思えないすごい声がでる。

 それと共に力がもっと強くなっていって⋯⋯。

 魔域ゲートにピキっとひびがはいったようになって⋯⋯。

 消えていった。

 紫色の薄い膜はすべて消えていって⋯⋯。


 私達はみんな、初めて空を見た気持ちになった。

 深く澄み切った紺碧の空がどこまでも広がっている。

 それは私達の未来のようで、息をするのも駆け出すのも一瞬放けて忘れてしまった。

 それくらいに綺麗でこれからの果てしない未来を連想させる、美しい紺碧の空だった。


 そんな空に見とれているうちに紫色の薄いもやがかかってくる。

 どうやら私の力量では魔域ゲートを完全に消滅させることは出来ないらしい。


 私はみんなも外に出ていることを信じて後ろを振り返らずに駆け出したーー。


挿絵(By みてみん)

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