第三十一話 苦手意識
学校に着いた僕たちは、途中で出会うクラスメイト達にからかわれながら
華憐と二人で教室に向かった。
出会うたびに色々言われるのは面倒だけれど、皆がからかうのもわからないでもない。
誰もが目を瞠るほどの美少女と突然仲良くなる奴がいたら気になるのは当然だ。
普通なら嫉妬されてもおかしくないのだけれど、
僕と華憐は傍から見ると、同じ銀髪ということもあって兄妹のように見えるそうだ。
あと僕の友達がそういったことを牽制してくれているのも大きな要因だろう。
こういう時に、持つべきものは友達だなぁと心の底から思う。
そんなことを考えながら教室に華憐と一緒に入ると、
「……おはよう、七月」
「お、おはよう……」
扉を開けてすぐのところに仁王立ちしている友達が待ち構えていた。
……なぜだろう、何も悪いことはしていないのに思わず土下座をしそうになった。
僕を不機嫌そうな顔で睨んでいる彼女は叶野 三月
彼女は僕の小学校からの友達であり、最も仲の良い友達なのだけれど……
「…………」
「ど、どうかしたの三月ちゃん……?」
僕の言葉には答えず、無言で僕を見つめ続ける三月ちゃん。
三月ちゃんは僕より身長が高いので、必然的に上から見下ろす形になる。
そのうえ、戦女神と呼ばれるほどきれいな三月ちゃんの目は鋭く、
それに睨まれた僕は金縛りのように体がすくんで動くことさえできなくなっていた。
うぅ…こ、怖い……
「どうかしましたか、七月様?」
なかなか教室に入らないことに疑問を抱いた華憐が僕に話しかける。
それにより、三月ちゃんの視線が華憐へと移行し、僕の金縛りが解ける。
ほっとしたのも束の間、三月ちゃんから更に不機嫌オーラが放出された。
「………柊、いい加減七月のストーカーをするのをやめたらどうだ?」
「ストーカーとは心外ですね。これは恩返しの一環ですし、七月様が拒んでおられない以上、
叶野様が口出しすることではないと思いますが?」
突然、喧嘩腰で話し始める二人。
「七月はやさしいから言い出せないだけだ。知りあって二週間で、
登校の待ち伏せをするのはどうかと思うがな」
「七月様の身辺を無断で監視して、邪魔な女性を排除している叶野様の方が
よほど異常だと思いますがね」
「七月に害をなすものを排除するのは当然のことだろう。お前も例外ではないがな」
「七月様に、ではなく叶野様にとって害のあるものの間違いではありませんか?」
こ、怖っ!
というか僕を間にはさんで争うのはやめて欲しい。
間に挟まれた僕は、二人の放つとてつもないプレッシャーに押されて今にも気を失いそうだ。
僕の意識は次第に朦朧としてきて、二人が何を話しているのかもわからなくなっていた。
……あぁ……まず…い……いしき…が……
「周りの皆に迷惑だし、そろそろ醜い争いはやめたら?」
どこからか放たれた声が教室全体に響き渡り、教室が一時静寂に包まれる。
と、同時に二人のプレッシャーは霧散し、
三月ちゃんと華憐は、ばつが悪そうに互いに視線をそらした。
気絶寸前だったが、先の一声で復帰した僕は視線を教室内に巡らせた。
――――ん?
そこで目についたのは、一人のクラスメイト。
地面に付くかというほど無造作に長く伸びた黒髪が特徴の女生徒。
先程の声はおそらく彼女が放ったものだろう。
彼女は―――
「君は本当に情けないな。僕としてはもっと君にしっかりして欲しいんだけどね」
「ご、ごめん」
早速のダメ出し。
呆れたようにダメ出しをする彼女に、脊髄反射で謝ってしまう僕。
僕と目が合うなりダメ出しをした彼女は 神無 六月
彼女とは三月ちゃんより長い付き合いなのだが、友達というよりは姉と弟の関係に近いかもしれない。
僕は小さい頃から彼女のお世話になってきたので、彼女には全く頭が上がらない。
「………謝られても、ね。まぁ、いいや……それより二人とも、喧嘩をするのは自由だけど、
やるなら他の人に迷惑がかからない外でやってくれないかな?」
僕の返答はどうでもいいのか適当に流すと、億劫そうに二人に注意を促す。
あれだけヒートアップしていたのだからそう簡単には終わらないんじゃないかと
思っていたのだが、
「………いや、これ以上七月の前で醜態をさらす気はない。柊、その…すまなかった」
「いえ、私も言い過ぎました。ごめんなさい」
あっという間に仲直り?してしまった二人。まさに鶴の一声だ。
三月ちゃんは誰に対しても強気だけれど、六月には相談などを聞いてもらっているらしく、
僕と同様に頭が上がらないそうだ。
華憐も割と我を通す方なのだが、すぐに折れたところを見ると六月が苦手なのかもしれない。
……まぁ、六月を得意としている人なんて見たことがないけれど。
六月といると本当に同じ年齢なのか疑いたくなる時がある。
どこか達観とした雰囲気に、同年代にはない異様な落着き。
そのうえ、文武両道ときたものだ。今まで六月に勝てた試しがない。
けれど僕はそんな彼女によく似た人物を知っている。
僕は六月にその影を重ね、思わずじっと見つめてしまう。
そう……見た目ではなくて雰囲気が――――
「……七月、柊の次は六月か…?」
「七月様、気の多い男性は嫌われますよ。それとも……ハーレムをご所望ですか?」
何を勘違いしたのか意味不明なことを言い出す二人。
そんな訳のわからないことを言い出した二人を見て、六月が呆れたように溜息をついた。
その溜息には僕への不満も含まれているのだろうなと思うと、僕は無性に申し訳ない気持ちになった。
ほんと…学習しない人達ですいません……
…………
あと、へたれですいません………
新キャラ登場の三十一話です。
過去の変化によって、七月だけでなく周囲にもなんらかの影響が出ています。
それによって登場したのが今回の新キャラです。
もとい後付けともいいます。
一部では出てなかったけど、実は親しかった的なキャラは今後も出てくると思いますが、そこは深くつっこまないでスルーでお願いします。
次の話ぐらいまではなんとなく思いついた話があるので書けるとは思いますが、その次はほぼノープランなので更新がどうなるかわかりません。
更新は出来る限り頑張ります。読者様、ここまでお読み下さりありがとうございます。