第二十七話 作戦
夕日で染まる教室。ずっと話し続けていた僕はようやく一息つくことが出来た。
しかし、本題はこれからだ。
「……ここまで聞いてもらったら分かると思うけど、
僕は春野五月じゃない。春野七月なんだ。
その事を知っているのは今までは依緒だけだった。
依緒とはちょっとした事情があって話すことになったけど、
その原因について話すのは今回が初めてなんだ」
周りを見渡すが皆一様に口を噤んでいる。
でも、瞳を見れば皆が僕の話を疑わずに聞いてくれていたことが分かる。
なので、僕は構わず話を続ける。
「僕は話す前に、皆に命を賭ける覚悟をしてもらう必要があるって言ったよね。
今の僕の話を信じるのなら分かってもらえると思う。
……僕は自分の都合で皆を巻き込んだ。
責めてくれても構わないし、全てが終わったらどんな罰も受けるつもりだ。
でも、その前に皆の力を貸してほしい。
こんな脅すような形になって皆には申し訳ないけれど―――」
そんな僕の懺悔を遮るように三月が言葉を重ねた。
「七月。どうして私が君を責められようか。
原因は私に有ると言っても過言ではない。
むしろ罰を受けるなら私だけで十分だ」
三月は辛そうな表情で言う。
だから僕は今まで、三月にだけは知られたくなかった。
でも、これは三月だけが責任を感じる必要なんて無い。
「違うよ、三月。三月だけの責任じゃない。
五月にも責任はあるし、僕にも責任がある。
けど大切なのはそれを論じる事じゃない。
これからどうしていくかが重要なんだ。
そう、全てを終わらせるために」
今は、罪悪感で自己犠牲になろうとする時じゃない。
皆で力を合わせて戦うべき時なんだ。
「そうだよ、三月ちゃん。
私たちはやっと五、えっと七月君を苦しめていた原因を知ったんだよ。
だったら、やるべきことは一つだけだよ」
結は三月を励ますように激しく首をうねらせる。
「………!」
千早も励ますように肩を叩きながら頷く。
「……それで春野七月に聞きたいのですが、
その悪魔というものはどのくらいの強さなのですか?」
剣野は、皆も気になっていたのだろう質問をした。
「僕と千早二人掛かりで何とか出来る位の強さだ」
「ずいぶんと具体的ですね」
「以前に千早と二人で戦って何とか助かったことがある」
一週間程前、僕は千早に助けられ共に悪魔と戦った。
しかし、話を聞いた剣野は疑問に思ったようだ。
「悪魔と戦えるのは契約のことを知っている人だけで、あなたと悪魔の姿は見えないはずでは?
先程あなたは今回初めて話したと言っていましたが…?」
剣野の疑問ももっともだ。
しかし、僕もこの事についてはあまり理解していない。
「うん、そのはずだったんだ。でも、僕が危険になったとき
突然千早が現れて助けてくれた。悪魔は今回は特別だって言ってたけど…
ねぇ、千早はあの時僕の事が見えてたんだよね?」
僕の言葉に無言で頷く千早。
僕は悪魔の気紛れではないかと思っているけれど、真相は定かじゃない。
「……そうですか。分からないのならばとりあえずこの話は置いておきましょう。
それより、あなたは今日中に決着を付けるつもりですか?」
「うん。僕が皆に全てを話したことは、悪魔ももう知っていると思う。
戦うなら本当は朝が良かったんだけど、登校の条件は自宅からのスタートだから、皆バラバラで行かなくちゃならないんだ。
悪魔は鬼ごっこ中に命を奪う事は無いって言ってたけど、一人でも敗北条件を満たせば負けになる。
それに皆の命が掛かっている以上一回で終わらせたい。だから、日が暮れる前に始めたい。
僕はこのまま校門に向かいながら話すのが一番いいと思う。皆もそれで構わないかな?」
僕の言葉に皆が頷き、教室から出る。
歩きながらも会話は続ける僕達。
「先輩は何か作戦とか考えているんですか?」
「……いや、一切考えてない。
登下校中は危なくて逃げるので精一杯だから仕掛けも出来ないし。
外に僕が出かけると悪魔も付いてくるから何も出来ない。
作戦といっても戦うための連携くらいだけど、
今日いきなりで付け焼刃を仕込んでも逆効果になりそうだから」
まぁ、確かに今回のために色々準備出来たら良かったんだけど、
武器も気が付いたら悪魔に破壊されていて、結局諦めたんだよなぁ。
「つまり、ぶっつけ本番という訳か。
では戦闘隊形だが、前衛で戦うのは私と剣野で構わないな?」
確かに剣野は近接攻撃しか出来ないし、三月の耐久力と再生能力を後衛で腐らせるのはもったいない。
でも僕は?
「七月は……危ないから後衛だな。応援とかしててくれ。
三上と磯木はリーチを活かして捕縛に挑戦してくれ。
米良は見たところ戦闘要員ではないようだし七月のバックアップだな」
僕のバックアップって応援じゃん。
というか僕の配置が気に食わない。
「三月、僕は六年間ずっと悪魔と戦って来たんだよ。
悪魔に一番詳しいのは僕なんだ。だったら、僕も前衛でサポートが出来るかもしれない」
「ああ、そうだな。だが七月がいたら剣野が思い切り戦えない。
私は切られようが平気だが七月には致命傷だ。
それに七月が倒れたとなると私たちの士気にも関わる。
辛いかもしれないが後衛で私たちの事を信じて待っていてほしい」
なんだかうまく言いくるめられた気もするが、三月の言う事は間違っていない。
剣野の戦闘能力は僕なんかよりも遥かに優れている。
それを発揮できないのは痛いだろう。
けれども、結局人頼みにしか出来ない現状がとても歯痒い。
僕が終わらせるべきことなのに…
これで負ければ僕は大切な人が誰もいない世界で一人で生き残る事になる。
それが堪らなく怖い。
だからこそ、絶対に負けられない。
三月はああ言ったが、それでも皆が危なければ危険も顧みず助けたいと思う。
もちろん死ぬ気は無い。
そんなことしても誰も喜びはしない。
だから僕は、死なずに誰も死なせない決意をする。
そして、僕の願いを叶える。
それは、最高のハッピーエンドだ。
歩き続ける僕の視界に校門が映る。
あともう少しで最終決戦の地へ辿り着く。
僕達は校門の外まであと一歩というところで足を止める。
その時、何もない空間から桜の姿をした悪魔が現れる。
「……よく、来てくれたねお兄ちゃん」
これが最終決戦だ。
今日中に全て終わらせたかったんですが少し無理みたいです。
頑張って明日の昼までには書き終えるようにします。
しばし、お待ちいただけると嬉しいです。