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非日常は敵ですか?  作者: TS
第一部
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第二十五話 契約

 「―――私は悪魔です」


桜の口から発せられた言葉はにわかには信じ難いことだった。


けれど、死んだ筈の桜が動いていることや、

今の桜が普段と全く違う雰囲気を纏っていることから、僕はその言葉を疑わなかった。

非現実な惨状が僕の感覚を麻痺させていたことも一つの要因だっただろう。



「…その悪魔がどうして桜の中にいるの…?」


僕の言葉にはやや険が含まれていた。

ただでさえ理解の追い付かない現状なのに、悪魔ときたものだ。

自然と邪険になってしまう。



「ふふ、別に悪い様にはしませんから。


あなたは悪魔をどんな存在だと思ってますか?」


「どんな存在って…そりゃ悪魔って言うくらいだから悪いんじゃないの?」


少なくともいいイメージなどは無い。

正直、今話しているこいつもどこか胡散臭い。



「いえいえ、そんなことはありませんよ。


悪魔というものは契約を結ぶ存在なのです」


「契約…?」


「そう、悪魔は人の強い思いに呼ばれ世界に召喚されます。


呼ばれた悪魔は対価をもらい願いを叶えます。それが契約。


つまり、私は七月様の願いを叶えに来たのです」


僕の願いを?

もしそれが本当なら全て元通りに出来るかもしれない。


僕は藁にも縋るような気持ちで悪魔に質問する。



「ねぇ、桜はもう死んでるの?もし死んでるのだとしたら…


生き返らせることは出来る…?」


そうだ、桜が死んだという事実さえなければまだやり直しは利く筈だ。

それが可能なら例え僕の命を対価にしてもかまわない。



「今、桜様は私が中に入る事で死ぬことは免れています。


しかし私がいなくなれば、たちどころに死んでしまうでしょう。


それを願い事として回避することは可能です」


「ならっ!僕の命を対価に―――」


「……そんな簡単に投げ出せるものに価値など有りませんよ。


あなたは勘違いしているのかもしれませんが、


努力も無く願いが叶う程、世界は甘くありません。


願いには相応の苦労や苦悩、対価として相応しいものが必要なのです」


「じゃあそれを教えてよ!」


悪魔の回りくどい言い方に次第に腹が立ってくる。



「契約をすると約束して頂ければお教えします。


しかし、一度聞けばもう二度と後戻りできません」


「わかったよ!契約するっ!これでいいんだろう!」


悪魔の言葉に深く考えず即答する僕。


そして悪魔は、今後僕を縛りつける最悪の対価を提示する。



「あなたの大切な人の命です」


…いま、悪魔は何て言った?


大切な人の命?


それは―――



「つまり、五月様の命です。簡単でしょう?


あなたには一切危害は加わりません。


それではさっそく契約を―――」


「ま、まって!それ以外じゃ駄目なの!?僕何でもするから!」


僕の必死の制止に考える振りをする悪魔。

おそらく僕がこう言うのは予想通りだったのだろう。

にやりと笑って僕に代案を示した。



「では、私と賭けをしませんか?」


「賭け…?」


「賭けに勝てば命を奪わず願いを叶えます。しかし、負ければ五月様の命を頂きます。


これが私の出来る最大の譲歩ですね。さて、七月様どうしますか?」


良く考えればこれは破格の条件なんじゃないか?

普通なら対価が必要になるけれど、上手くいけば何も犠牲にしないですむ。

兄が対価なのは決定事項のようなのだし、断る理由なんて無い筈だ。


安直な考えで決断を下す僕。


どちらにせよ受ける以外の道なんて無かったのだけれど。



「わかった、その賭けに乗るよ。どうすればいいの?」


「私と鬼ごっこをしてもらいます。


もちろん、ただの鬼ごっこではありません。


賭けるのは、先程提示した条件五月様の命です。


それでは、鬼ごっこのルールについて説明させて頂きます」


悪魔なのに鬼ごっこというのに違和感があるが、

今は悪魔の言葉に耳を傾ける必要がある。

僕は一字一句も聞き逃すまいと悪魔の話に傾聴する。



「鬼ごっこは七月様の学校の登下校中に行います。


七月様の勝利条件は、私を鬼ごっこ中に十秒間動きを止める事。それだけです。


七月様の敗北条件は、一時間以内に学校に辿り着けない事です。


つまり、一時間以内に学校に着けば敗北は免れます。


鬼ごっこは七月様が勝利、もしくは敗北するまで行われます。


七月様、ここまでで何か質問は有りますか?」


僕の学校は比較的近いので、大体十分程で着ける。

つまり悪魔を捕まえるのに固執して、時間に間に合わないという事なんだろうか?

それに他の人にそんな姿を見られたら不審に思われたりはしないのだろうか?


僕がそう疑問に思い、質問をする。



「七月様には言い忘れておりましたが、鬼役は七月様だけではありません。


私も七月様を捕まえて学校に行くの妨害する鬼役なのです。


あと、鬼ごっこ中は他人に視認される事はありません。


七月様も私も、誰にも見られず安心して鬼ごっこに専念が出来ます」


悪魔の言葉に愕然とする僕。


僕が捕まえるだけならばまだ希望もあったが、

悪魔が妨害するとなると可能性は限りなく低くなる。

それに他人に見えないということは、誰かの協力も仰げないということだ。

そもそも、この悪魔の力が未知数な時点で既に絶望的なのかもしれない。


僕がそう思っていると


「ああ、また言い忘れていましたが、


私との契約の事を知ってもらえば、誰でも鬼ごっこに参加して頂いても大丈夫です。


ただその場合、その人たちも契約に組み込まれます。


つまり、敗北すればその人たちの命も対価として頂きます」


悪魔は何でもない事のように言い放った。



結局、誰の力も借りられない。


僕一人でやり遂げるしかない。



「では七月様、いきなり始めるのでは七月様には不利でしょう。


ですので、これから一週間程はお試し期間を設けます。


これは私との鬼ごっこの練習のようなものですので、敗北条件は有りません。


ただ勝利条件は有効ですので、この期間に可能ならば達成して頂いて構いません。


準備が終わったら呼んで下さい。特別な空間に移動させて頂きます」


これはチャンスなのだろう。

悪魔も油断している筈だし、ひょっとすれば可能かもしれない。


僕は決意し悪魔に話しかける。



絶対に勝ってやる。







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