第二十三話 覚悟
夕日で赤く照らされた教室の中。
そこにいるのは僕を含め六人。僕、三月、結、千早、剣野、依緒の六人だ。
僕は結だけではなく他の四人にも放課後に残って欲しい旨を伝えていた。
強制では無かったが、全員残ってくれたようだ。
「皆、僕の願いを聞いてくれてありがとう」
皆を見渡し、頭を下げ礼を述べる僕。
「三月の願いだ。私はどんなことでも聞くぞ?」
おどけた様に言う三月。
「そうだよ、五月君。…でも二人っきりだと思ってたから少し残念かな」
照れたように言う結。
「……」
無言ではあるが、当然だとばかりに頷く千早。
「相談して下さいと言ったのは私ですから、話を聞くのは当然です」
淡々と、けれども嬉しそうな表情で言う剣野。
「そんなに畏まらないで下さいよ。先輩と私の仲じゃないですか」
無邪気に笑って言う依緒。
依緒の発言に皆の目付きが鋭くなる。
…はぁ、今はそんな事をやってる場合じゃないのに。
僕は、そんな皆の気を逸らす様に大きな声で話す。
「えぇ〜っと、皆にはこれからとある話を聞いて欲しいんだ。
多分、それは皆が気になっていたけれど聞けなかったことだと思う。
皆は僕が何かしらの悩みを抱えていると思っている。それは間違ってない。
でもその悩みは最近始まった事じゃないんだ。その発端は今から六年前に有ったとある出来事。
それをまずは皆に知って欲しい。構わないかな?」
そう言ったあと、一度口を噤み皆の反応を見る。
……どうやら、特に異論は無いようだ。
それじゃあ話そう。あの日の出来事を…
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
とある所に三人兄弟がいた。男の子が二人と、その妹が一人。
男の子二人は双子だったけれど、三人とも等しく仲が良かった。
男の子の一人は何でも出来て頼りになる子。
妹も色んな事を上手にこなせる器用な子だった。
でも、もう一人の男の子はそんな二人とは違って苦手なものばかりだった。
だけど、二人ともそんな男の子に優しくしてくれた。
いつしか、その男の子はもう一人の男の子を兄として慕う様になった。
実際は幼くして両親が亡くなったためどちらが兄かは分からなかったのだけど、
男の子にとっては憧れの存在であり、兄のような存在だったからだ。
三人の仲はとても良かったが、次第に男の子は二人から距離を置くようになった。
よくできた兄や妹に劣等感を感じ、自らを卑下する様になったから。
それでも二人は変わらず男の子に接してくれる。
男の子はそれで十分だと思った。
こんな自分に優しくしてくれる人がいるのなら、それ以外はいらないとすら思った。
でもある時、男の子に優しくする女の子が現れた。
その女の子は男の子と友達になりたいと言った。
男の子はもう何も望むまいと思っていたが、
前からその女の子の事が気になっていたので、それに快諾した。
その女の子は兄と妹とも仲良くなり、
男の子の世界はその三人を中心に回るようになった。
男の子は幸せだった。
だから、気付けなかった。
いつのまにか自分の世界が歪んでしまっている事に。
歪みの中心は男の子であり、兄であり、女の子でもあった。
男の子は気付かなかったが、兄は女の子の事が好きだった。
そして、男の子は信じなかったが女の子は男の子の事が好きだった。
それに気付いていなかったのは男の子だけであり、兄も妹も気付いていた。
兄は表面上変わらず男の子に接していたが、内心では憎んでいたのだろう。
やがて、その感情が爆発する。男の子を憎むあまり、兄が凶行に走ったのだ。
兄は刃物を持ち男の子の部屋に押し入り、男の子の女の子に対する感情を詰問した。
しかし、自らの世界を守りたかった男の子は、兄に協力しようと思った。
女の子の気持ちが兄に向う様に手伝う。そう兄に言った。
しかし、男の子が良かれと思って言った言葉は兄のプライドをいたく傷つけた。
自らが心から望むものを易々と手放す男の子に兄は激昂した。
男の子に呪いの言葉を吐きながら切りかかってくる兄。
男の子は恐怖のあまり逃げ出した。
そんな時、不運にも妹が家に帰ってきた。
妹は兄の凶行を見て咄嗟に止めようと間に入る。
兄はそれに気付かず、
そのまま―――
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ずっと話し続けていたせいか、喉に焼け付くような痛みを覚える。
若干乱れた呼吸を整え、再び皆を見渡す。
異様なほどの沈黙が場を支配していた。
誰一人言葉を発せようとせず黙り込んでいる。
皆、僕の言葉に固唾を飲み待っている。
しかし、僕はそんな皆に確認することが有った。
「皆。ここからの話を聞くためには皆に覚悟をしてもらう必要がある。
自らの命を賭ける覚悟。
それは、冗談でも誇張でもなく実際に命を落とす可能性のあるものだ。
一度話を聞けばもう後戻りはできない。それでも、皆は知りたいか―――?」
僕の脅すような言葉に皆は薄く笑みを浮かべた。
まるで、それがどうしたと言わんばかりの顔。
皆もこれが比喩的表現で無いことは分かっている。
その上での満場一致での同意だった。
ならば、僕も覚悟を決める必要があるだろう。
皆の命を預かる決意。
そして、僕は語り出す。
これまで、誰にも話した事のない話を。
「ねぇ、皆は
悪魔って信じるかい――――?」
もう後戻りはできない。
毎日更新と言っておいて遅れてすいません。
忙しいというのよりも、この「非日常は敵ですか?」を書くことに抵抗感があるからだと思います。
前は楽しんで書いていたはずなんですが、今では自分でもよく分かりません。
シリアスが終わったあとには、すっきりとした気持でラブコメを書けるように頑張りたいです。
一応シリアスは後数話続く予定ですが、もう話しの流れは決まっているので早めに投稿していきたいです。
読者様、ありがとうございます。