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非日常は敵ですか?  作者: TS
第一部
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第十二話 運命に抗う者達(前編)

 

 剣野に背負われたまま教室にインした僕。

結果、教室中の剣野ファンの女子達から凄い目で睨まれました。

結や千早も剣野ファンだったのか…


もはや、休み時間は僕にとって一切休める時間ではなかった。

隣のゴリラ。後ろの要。最近機嫌の悪い結。なぜか切りかかる剣野。三月の存在自体。

それらが休み時間に襲ってくるのだ。心安らぐ暇もない。


今の僕の救いは教室には無い。

そうだ、お外に行こう…


この学校は基本どの場所にも、時間に関わらず必ず誰かがいるのが常識だ。

しかし、その唯一の例外を僕は知っている。

疲れ切った身体を休めるため僕だけの楽園エデンを目指す。

そう、屋上ならきっと…


階段を上り切り屋上の扉に手を掛ける。

一思いに扉を開けはな



「あっ、五月君!奇遇


つことはなく逃げ出す僕。


神は死んだ。


もはや、僕に安息はない。


楽園エデンは、悪い蛇に毒されてしまったのだ。



僅かな希望をも失い、ふらふらと当て所もなく歩く。

廊下の曲がり角に差し掛かった時に、ふと思い出すことがあった。

この先には確か開かずの間があったはず。

当然開かずの間な訳だから人がいる筈がない。

いっそ扉を破壊して


「五月先輩?」

突如、背後から声をかけられる。


「はいっ!すいません、そんなこと全然思ってません!嘘です!」


「・・・えっと、何のことですか?」

思わず驚きで訳の分らないことをのたまった僕を訝しげに見る少女。


僕を先輩と呼んだ事からも分かる通り、少女は一年の後輩だ。

名前は 米良めら 依緒いおだ。当然火が出たり、爆発したりはしない。

小さな身体に似合わない大きめの胸と、長めの茶髪を左右に括っているのが特徴だ。

僕にとっては特別な後輩であり、気の置ける存在だ。


「今のはね、僕以外には見えない精霊達とお話をしていたんだ」

何とか誤魔化そうと僕お得意のメルヒェンボケを炸裂させる。

抱腹絶倒のボケに笑いすぎた後輩は記憶障害を起こすこと間違いなしだ。


「あはは、先輩は今日も面白いですねぇ〜」

間違いだらけだった。

しょうがないなぁ先輩はもぅ、的な感じの笑いだった。

所謂、愛想笑い。

なんだよ、精霊って…小人さんにしておけば良かった。



「ところで、先輩はどうしてこんな所にいるんですか?

この先には開かずの間ぐらいしか無いと思うんですけど…」

反省していた僕に依緒が不思議そうに尋ねる。

別に依緒なら話しても問題ないと判断した僕はこれまでの経緯を話す。


「なるほどぉ〜。あっ!それなら一緒に行ってみませんか?

ひょっとしたら開いてるかもしれませんよ」

普通はそんな都合よく開いてるはずはないが、

丁度いい時間潰しになりそうなので依緒の案に乗っかる僕。


そのまま開かずの間を目指した僕たちは、

少しだけ期待しながら開かずの間の前に立っていた。


「なんだか、ドキドキしますねぇ〜、先輩。

それじゃあ、開けてみましょうか」

そう言って扉に手を掛ける依緒。

固唾を飲み見守る僕。

依緒が力を入れそのまま



…開かないな。


「う〜ん、ここで開いたら面白かったんですけど。

あはは、そんなに都合良くはいきませんよね」

そうは言うが依緒は少し残念そうだ。

斯く言う僕も若干期待していたのは否定できない。


いつまでもここにいても仕方ないので依緒に帰りを促し


扉が開く。



驚き、顔を見合す僕と依緒。

僕たちは一切扉に触れていなかった。なのに扉は独りでに開いたのだ。

開いた扉の先は靄が掛かったように全く見えない。


これは中に入れということなのか…?

開かずの間には様々ないわくがある。

別の場所に転送するための装置であったり、異世界への扉などとも囁かれている。

もっともポピュラーなのが扉が開いた時、中に入ればどんな願いでも叶うというもの。


…そんな都合のいいものが有る筈がない。

人の身の丈を超えた願いには必ず代償がある。そう僕は思っている。


それなのに、今の僕は扉から目が離せない。

確かめたいという欲求が抑えられない。


しかし、何が有るかわからない危険なところに依緒を連れていくのは


「行きましょう、先輩。」

躊躇の一切ない言葉。


その眼は扉の先を見据えており、どこか楽しげだ。


「…何が有るかわからない。それでもいいのか?」


依緒はおそらく止めても聞かないだろう。

いつも、己を信じ、自らの意思を貫く。それが依緒という存在だった。

だから、これはただの確認であり、情けなく卑怯な僕の免罪符だった。

僕は依緒に確認をとったのだから、これは依緒の意思なのだと。そう責任逃れをするための。



だけど、依緒に傷ついて欲しくないと思う僕がいるのも確かだった。

以前、妹との事で塞ぎ込んでいた時に僕を励まし立ち直らせてくれた少女がいた。


その少女こそが依緒だった。


僕は知っている。依緒は一度決めたことを曲げようとはしないということを。


僕は知っている。依緒が己の実直故に苦しんでいることを。


僕は知っている。依緒が僕と同じ叶わぬ願いを抱いていることを


だからこそ、傷ついてなんて欲しくなかった。


それが、偽りだとわかった時、依緒は傷つくだろう。


それなのに依緒は僕に笑いかける。


「もちろんです。…それに、私は先輩と一緒なら怖いものなんてありません!」


僕を勇気づけるように


安心させるように


力強く笑う。


本当は不安で一杯なくせに。




…本当に困ったものだ。


こんな僕が依緒の笑顔を見て思ってしまった。


この真っ直ぐで優しい強がりな後輩を



僕の手で守りたい。と


この手で小さな後輩の笑顔を守りたい。そう思ったんだ。



だから、僕はもう躊躇わない。



「いくぞっ、依緒!」  「はいっ!先輩!」


互いに手を取り扉の向こうに足を踏み入れる。



もう、卑屈な僕はいない。


二人が繋いだのは手だけじゃない。


繋いだのは二人の想い。


たった一つの想いだけ。


でも一つで十分なんだ。


それだけで僕は無限にもなれる。




君を守りたい。ただそれだけで。








僕達の冒険はこれからだ!とか書いたらすごい打ち切りっぽい引きですね。

思ったより長くなったので一応前後にわけました。

初めはエロい話書いてたんですけど、気が付いたらシリアスっぽくなってました。

たぶん、明日には更新できると思います。

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