第九・五話 春野 五月
シリアスです。ラブもコメも一切有りません。
お読みになる方はお気を付け下さい。
ゴリラとのハプニングイベントにより限りなく零となった僕の体力。
本当に今日は鬼ごっこがなくて良かった。もし有ったら確実に逃げきれなかっただろう。
早く家に帰って、その後はシャワーを浴びてご飯を食べて、すぐに寝よう。
そう考え少し足を速める。
沈みゆく夕日。僕を背後から照らし僕の分身を伸ばしていく。
時が経つにつれ段々と夕日が沈みゆき、生まれる闇が僕の分身を消してゆく。
それが、僕に嫌な連想をさせる。必死に拭い去ろうとするも消えはしない。その幻想。
まるで、見えなくなった影が助けを求めるかのように。
気がつけば走り出していた。それは最早不安ではなく確信。
僕の半身が呼んでいる。助けてくれと。
家が見えてくる。靴を脱ぐのすらもどかしく、そのまま七月の部屋へ。
「七月っ!!」
僅かに開いた扉から地面に横たわる七月の姿が見える。
最悪な事態が僕の脳裏に浮かぶ。
そんなはずない!信じるものか!
「七月!おいっ七月!!」
僕の必死な声に七月の体が微かにだが反応する。
僕は近づき七月を抱き起こす。
体が冷え切っているが、無事なようだ。
一先ずは安心だ。
「・・・ぁ・・ぅ」
苦しそうに呻く七月。
「七月?大丈夫か?しっかり・・・しろよ・・・お前に死なれたら・・僕は・・・」
安心した所為か今まで抑えていたモノが溢れそうになる。
心に秘めたものは何一つとして七月に言う訳にはいかないというのに。
そんなことを考えていると七月が口を動かし何か話そうとしている。
あまりに小さな声に耳を近づける僕。
「な・な・・つ・・き?だ・・れ?」
不味い。不味い。不味い。
本当に最悪の事態になりかねない。
「しっかりしろ七月!お前はこの僕、五月の双子の兄の七月だろうが!
そんな、大切なことぐらい覚えておけよ!この馬鹿!」
絶望で泣きそうになる。こんなところで終ってしまうなんて
そんなこと許せるはずがない。
僕のせいなのか?
出来もしないことを一人で背負った気分になって
結局大切な人も守れやしない。
僕の視界が歪む。
だめだ。ここで諦めちゃだめだ。
だけど、あの時一度心折れてしまった僕は、もう僕足りえなくなっていた。
そうだ一人では何も出来ない、昔の
「・・ない・・て・・るの・・・か?なか・・ない・・で・・くれ・・・
お・・・れの・・・だ・・いすき・・な・・さつ・・き」
ずるいと思った。
普段は情けないのにこんな時だけお兄ちゃんになるんだ。
もう、大丈夫だった。一人じゃないってわかったから。
背負うものの重さを思い出したから。
もう二度と負けたりしない。
「・・・誰が泣くか、バーカ・・・苦しいんなら寝てろよ。
・・・僕はもう大丈夫だから・・さ」
僕がそう強がりを言うとすべての力を使い果たしたかのように
七月の身体から力が抜け、規則正しい呼吸に戻る。
どうやら眠ったようだ。
七月をベットに横たえた僕は自分の部屋を目指す。
家に入った時からずっとあった気配。
その気配はずっと僕の部屋に留まっていた。
僕は七月を優先したが、元凶に会っておかなければならない。
僕のくだらないミスでこんな事になってしまったんだ。
久しぶりの平穏な日常に安堵し確認を怠った僕。
二度と失敗しないよう確認しなければならない。
部屋の扉の前に立つ。
ゆっくりとドアノブを回し扉を開ける。
そこに立つのは一人の天使。
「桜…」
「…うん。会いたかったよ」
今にも泣きそうだけれど、笑顔を無理やり作り僕に笑いかける桜。
「…どうして、こんなことになっちゃったんだろうね…?
皆、好きな人の事を一途に思っていただけなのに。
どこで、その歯車が狂っちゃったのかなぁ…?
やっぱり全部、桜がいたからだよね…桜がいなければっ…」
いまや笑顔を作ることさえできず、必死に泣くのをこらえる桜。
僕はそんな桜を見るのが辛かった。
「…お前だけのせいじゃない。結局何も出来なかった僕も同罪だ。
桜だけのせいである筈がない…」
これは嘘ではなく僕がずっと思っていたことだ。
弱い僕が全ての元凶。七月も桜も被害者だ。
「…桜はね、ずっと、ずっと思ってたの。
桜の大切な人を傷つける存在なんていなくなってしまえばいいって。
そう桜は思ってたんだよ…」
顔を俯かせ、神に祈るように指を組む。
「だから、ずっと、ずっと桜はお兄ちゃんが憎かった。殺したかった。
お兄ちゃんもお兄ちゃんが憎いよね?ころしたいよね?
わたしはしんでしまうべきだとおもうよ。あんなことをするひとは。
あんな、ひどい
「だまれっ!!」
言葉を遮り、僕は睨みつける。
僕は桜の姿に言葉に気を緩ませてしまった。
こいつの話に耳を傾けては駄目だった。
こいつはもう僕の知っている桜じゃない。
甘言を弄す存在。僕の敵だ。
「明日からはまた賭けの続きだ。賭けに勝ったときの約束はわかってるな?」
先程までの話を切り上げるため強い口調で話す。
「そういうおにぃちゃんも、わかってるよねぇ?もしまけたら…うふふ」
心の底から楽しそうに笑う。僕の神経を逆撫でする表情。虫唾が走る。
「…ああ。負けるつもりは毛頭もないがな」
これ以上こいつと同じ空間にいるのは耐えられない。
僕は踵を返し部屋から出ようとする。
「そう。じゃあ、あしたたのしみだねぇ。やめてもいいんだよぉ?」
「っつ!」
ふざけるな!そう言おうと振り返ったが既に影も形もなくなっていた。
「ふざけるな…僕はもう諦めない、二度と諦めたりするものか…!」
誰もいなくなった部屋で一人決意する。
前以上に強い決意を。
強欲だと言われようが僕が全て元通りにしてやる。
もうあの時の僕とは違うんだ。
泣き虫で無いものねだりをしていた僕じゃない。
春野 五月はそんな弱い存在じゃない。
例え死んだとしても、何度でも蘇ってやるさ。
僕が勝つその日まで。
どうしてゴリラのすぐ後がシリアスっぽい話なんですかね。勢いと思いつきだけで書くとこんな感じになります。
二話でシリアスっぽく書いたせいで、今、物凄く困ってます。
更に新しい連載始めたので更新がもっと遅くなるかもしれないです。
本当に飽き性ですいません。一応完結目指して頑張ります。