第八〜九話裏 お嬢様
早朝のとある道をワタクシ 剛田 五里子は優雅に歩いていた。
両脇には由緒ある名家に生まれたワタクシの気品に惹かれた二人の騎士。
ワタクシレベルになると、男性は何も言わずともワタクシに従い傅き守ろうとする。
ふぅ、ワタクシの美しさはもはや罪ね・・・
「お前が良き指導者になるためには足りないことが有る。それは下々の者達を理解するということだ」
そう仰ったお父様は、ワタクシを下々の通う学校に転校させることにした。
お父様の仰る事に間違いなんてある筈がないけれど、
それに納得いかないのはワタクシの未熟さ故かしら?
そんな今日の空は雲ひとつなく青く澄みきっている。
遮るもののない太陽の陽光が降り注ぎワタクシの肢体を暖めていく。
そんな太陽の光は体だけでなくワタクシの心をも明るく照らしていく。
なんだか鼻歌でも歌いたい気分だ。自然と頬は緩みそうになる。スキップでもしてみようかしら?
まぁ、高貴なワタクシがそんな、はしたない行為をする訳がないけれど。
それでも、なんだか今日はとてもいいことが有る、そんな予感がする…
ワタクシがそんなことを考えていると前方からスキップをしながらこちらへ来る少年が見えた。
見た目通りの子供じみた行動に思わず笑ってしまいそうになる。
そんな少年とすれ違う瞬間、後ろから何かが軽く当たる感触。
どうやら、少年の服の裾が少しかすったようだ。
心優しいワタクシは態々そんなことに目くじらを立てたりはしない。
しかし、それを目敏く見つけた騎士達には違ったようだ。
「おい!ガキ!何うちの兄貴にぶつかっておいてシカトしてんだよ!」
兄貴とはワタクシのこと。
以前に沢山の屈強な人達に囲まれていた彼らを助けて以来そう呼んでいる。
何度、お嬢様と呼ぶように言っても聞かないから、今では諦めているけれどね。
「え?え、えっと、その…すいません」
少年は怯えながらも、納得いかないように謝った。
…なんだか、ちらちらとこちらを見ている気がする。
ひょっとして、一目惚れかしら?
「謝ってすんだら、警察はいらないんだよ!」
確かにそうだけれど、警察沙汰に成る程のことではないわね。
「おいくぉるぁ!!こんがきゃぁどこ見て歩いてんだよ!あぁん!!」
「餓鬼だからって容赦すると思ったら大間違いだぞ。ゴラァ!!」
しつこく少年に絡む騎士達。
…そろそろ止めないと不味いわね。
(ちょっと!貴方達、もうお止めなさい!)
「うぉぅうぃ!ぬぅわぬぅぃいスィクァトゥすぃとぇんどぁよぅ!!」
「俺が容赦するのはお年寄りだけじゃぁい!!なめんなよ!!」
…全然、ワタクシの話を聞いてないわね。
怒ってはだめだ、心を落ち着けよう。
ワタクシはバナナを取り出し食べ始めた。
高貴な者のみ食べることを許される果物バナナ。
それを食べることで、自らの気品を高め、心を穏やかにする。
「△△△△×!△△××△!!」
「俺のおじいちゃんはすごいんだぞぉ!!ゴルァ」
…まだ、心が落ち着いてない気がする。
もう一本食べましょう。
そうやって、夢中でバナナを食べていると、
突然、騎士が宙を舞った。
何事かと思い、バナナから目を離す。
ワタクシの周囲から音が消えたように感じられた。
そこのいたのは銀髪の少年。
何か呟いた後、少年はゆっくりと俯いていた顔を上げる。
ぶつかった少年の美しい緑の光に、心臓を鷲掴みにされたような錯覚に陥る。
「うざいんだよ!!このゴミどもがぁ!!」
そう、恫喝して騎士達に立ち向かう少年。
戦う少年の流れるような動きは舞を踊っているかのように美しかった。
少年の一つ一つの動作に目を奪われ、瞬きすら惜しまれる。
「くっ…こいつ強ぇえぞ!?」
見惚れている場合ではない。騎士達のためにも止めなければ。
(…待って!!)
「!!ア、兄貴!……わかりました、不甲斐無くてすいやせん…」
何か通じていない気もするけれど、下がってくれたので問題ないだろう。
とりあえず、少年には非礼をお詫びしよう。
部下の不始末の責任は上に立つ者がとるべきだから。そう思っていると、
(ええええぇぇぇぇ!!)
いきなり接近してくる少年。
天使のように整った少年の顔が近づき、ワタクシの胸が高鳴る。
そのまま、少年は
ワタクシの膝に足を乗せ、
顎に膝蹴りを加えた。
衝撃に薄れる意識の中、初めての経験になぜか心昂っていた。
意識を取り戻したワタクシに心配そうに寄ってくる騎士達。
彼らは少年に報復しようと勧めてくる。
しかし、ワタクシはそれをきっぱりと拒絶した。
ワタクシはいままで、蝶よ花よと育てられ大事にされてきた。
だから、少年に傷つけられたとき、痛みだけでなく見えたものがあったのだ。
それが、きっとワタクシに足りないもの。
ワタクシは思う。もう一度少年に会いたい。
そうして、少年の傍にいればワタクシはもっと高みを目指せる。
少年とならどこまでも…。
とりあえず、学校が終わったらすぐに少年を探そう。
そのためにも、こんな学校でぐずぐずしている暇はない。
転校先に着き、騎士達と別れたワタクシはそのことだけを考えていた。
「あ〜、もう知っている奴もいるかもしれないが今日は転校生がいる。
それじゃあ、入ってきていいぞ」
教師の言葉に応じ教室に入り、中を見渡す。
(うそ…)
いた。今朝の少年がそこに。
少年は驚いたような表情でこちらを見ている。
でも、ワタクシは少年に驚いたことを悟られたくなくて、無理に笑顔を浮かべた。
胸の鼓動が治まらない。
(ワタクシは 剛田 五里子と申します。これから、よろしくお願いします。)
教師が自己紹介を進めるのに応じる。
しかし、この言葉はたった一人に向けられている。少年への宣戦布告。
「じゃあ、席はあそこにいる春野の隣だぞ」
少年の名前は春野というのか。
少年に近づこうとするが緊張で足が震えそうになる。
なんて、話しかけよう…
こんなのは初めてだ…
でも、嫌な気分じゃない。
むしろどこか心地よくすらある。
この不思議な気持ちはまだわからないけれど、
負けたくないと思った。
この気持ちにも、少年にも。
だから、その思いを少年に伝えよう。
たった一言で十分だ。
(これから、よろしくねっ!)
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「・・・なに・・これ・・・どうして、ゴリラをそんなに優遇してるの?他にもヒロインがいるのに
一番最初の裏話がゴリラなの?もう、ゴリラルートで確定なの?そもそも、ゴリラがお嬢様キャラって、
五月君視点じゃ殆ど生かせない設定じゃん・・・。しかも、話の流れがメインヒロインみたいな扱いに
なってるよね・・・。そりゃさ、男のヒロインよりは女の子の方がいいのはわかるよ。でも、ゴリラじゃん。
ヒロインゴリラじゃん。別にゴリラを馬鹿にしてる訳じゃないけど、ヒロインにゴリラ抜擢はどうなの?
・・・もう・・いいや・・どうせボクには出番なんてないんだ・・・。・・・もう・・・・いっそ・・・」
「は、早まるな!要。これは十話じゃないから、チャンスはある。諦めちゃだめだ!」
「…そう言っておきながら、春野君もゴリラの方がいいんじゃないの?お金持ちみたいだし…
ボクのことなんてどうでもいいんでしょ・・・?ゴリラまで魅了するなんてもてもてだね…」
「いやいや!僕の尊厳のために言わせてもらうがゴリラは対象外だから!」
「…ボクがどうでもいいってのは否定しないんだ…」
「ち、違うって!僕、要の事気になってるから!」
「ほんと?しんじて・・いいの・・・?」
「ああ」(いつか、飛び降りとかしそうだし)
「は、春野君…」
「…ガンバ」(僕ガンバ…)
初めはもっとぶっ飛んだヒロイン沢山出そうって思ってたんですけど、現段階で既に収拾のつかないことに・・・
三月とか、とりあえず適当に処理しとけばいいや的扱いになってますね。