56 出会い
タイトルを追加することにしました。
これで読み返ししやすい(誰かが読み返すとは言ってない)
時は少し戻るが、かの『神拳』バーンと出会った芳樹達が街へ戻り数日たった頃のことである。
芳樹はバーンの戦いと強さ、そしてその恐ろしさを肌で感じとぼとぼと歩いていた。
あの後、街に戻るとSランクとAランクの冒険者、エリックや蒼窮の若草のパーティはギルドマスターに呼ばれ事情を説明した。
芳樹達は報酬を貰うとあったことを口外しないよう釘をさされ終わりとなった。
問題は、バーンとあの神らしき者との戦闘によって恐怖やショックを覚えた召喚者のクラスメイト達が多かったことである。
それまでは戦いと言ってもある程度の安全を確保した上での狩りであった。
だが、彼らが見たバーンの戦いはあまりにも鮮烈で、そして身近に「死」を感じさせたのだ。
それまでは何となくで冒険者をやっていた面々であったが、恐怖から街の外に出られない者やショックからぼんやりとした者まで様々であった。
恐らく再び冒険者を続ける者は少なくなるだろうと芳樹も思っていた。
「はぁ…………」
もちろん芳樹も何も感じなかったわけでは無かった。
しかし、辛そうなクラスメイトを見ていると彼らを何とかしたいと思いバーンについてのことは保留となっていた。
冴子や源次はクラスメイトのカウンセリングをし、側について色々しているようだった。
副担任の美香も周りを励まそうとして走り回っているようだった。
「あれ?」
ふと顔を上げると見知らぬ場所だった。
(しまった……道に迷った)
芳樹は周りを見回すと大通りを探して歩き始めた。
ある通りに差し掛かった時、横から衝撃を受け芳樹は尻餅をついた。
「うわ……!」
眼鏡を直し起き上がると、横の路地から走ってきた少女とぶつかったようだった。
「いったー……」
その少女は薄い金の髪をツインテールにし、ストライプTシャツに膝丈のフレアスカートといったラフな格好の少女だった。
アクセサリーは右手にしている金のブレスレットぐらいであった。
少女はぶつかった時に芳樹と同じく尻餅をついたようであった。
つまり、芳樹には白い三角地帯が見えている状況だった。
「わっわわわ……だ、大丈夫?」
芳樹は目をそらしつつ手を差し出した。
「だいじょうぶ……」
少女は芳樹の手を取り立ち上がった。
「その……ごめんね……」
「んーん……避けられなかった私が悪いし……こっちこそごめんなさい」
少女が勢いよく頭を下げた。
「いや……僕も考え事をしてたから……」
顔を上げた少女をよく見るとぱっちりとした青い目、ぷにぷにとした頬、小さめの口の上にちょこんとある鼻、をした12歳くらいの少女だった。
(かわいい……いや僕はロリコンじゃない!)
芳樹は、頭に浮かんだ白い三角形を頭から追い出した。
「ふーん?でも、この辺りはスラムも近いし気をつけた方がいーよ☆」
言葉の最後に星がつきそうなアニメ声で少女は芳樹に言った。
「その……道に迷って……」
「ふーん……じゃあ私の用事の後でいいなら案内してあげよっか?」
「えっと……」
(女の子に頼るのは情けないような……)
「いらない……?」
「おねがいします」
上目使いでしゅんとしながら言われると芳樹は断れなかった。
(僕は断じてロリコンじゃない!)
芳樹はことばを深く心に刻んだ。
「私、リリー……よろしくね☆」
「僕は、芳樹」
芳樹はリリーの後に付いて歩きだした。
「ところで、用事っていうのは?」
「この先の教会にちょっと寄付しに行こうかと思って」
リリーは臨時収入が入ったのとその薄い胸をはった。
芳樹はなんとも微笑ましい気持ちと共にこんな少女が臨時収入という言葉を言ったことに疑問を覚えた。
「お手伝いとかしたの?」
「違うわよ!
ダンジョンで偶々良いもの見つけたの」
「ダンジョン?冒険者なの?」
「そうよ。結構凄いんだから☆」
リリーは鼻を高くしている。
「危ないよ!まだ、小さいのに!」
「ちっさい言うな!」
「がふ……!?」
芳樹の横腹に綺麗に拳が叩き込まれる。
芳樹は現在Lv3になりいわゆる中の下程度の冒険者並の実力があった。
普通の少女の攻撃ではびくともしない程度の耐久力があったにも関わらずリリーの拳を受けた芳樹は悶絶し悶えるはめとなった。
(めちゃくちゃ力強い……)
「ついた!」
「う……うん……」
「じゃあちょっと行ってくるね☆」
「僕はここで待ってるよ」
リリーは教会の中へと入って行った。
芳樹はリリーが戻ってくるまで座っていることにした。
ふと視線を感じそちらを見ると教会の影に隠れるようにして子供達が芳樹を見ていた。
芳樹は懐をごそごそと探るとチョコクッキーを取り出した。
宿を出る時に冴子が元気出せと渡してくれたものであった。
ちなみにこの世界ではお菓子の類いは案外安く、元の世界より少し安い程であった。
理由はダンジョンで取れることと、保存のアイテムなどが大量にあるからであった。
「お菓子!」
「クッキーだ……!」
「でも……」
子供達はちらちらと芳樹を見ていた。
芳樹はクッキーを子供達に差し出した。
「ねぇ、いっしょに食べない?」
子供達はわっと集まって来るとクッキーを受けとり嬉しそうに口にした。
「おにいさん誰?」
「何処から来たの?」
「あそぼー」
芳樹は子供達に囲まれいっしょに遊んでいると教会の扉が開き、リリーが出てきた。
「随分仲良くなったみたいね☆」
「用事おわった?」
「うん、行こっか」
芳樹は子供達に別れを告げ歩きだした。
「そういえば何処に出れば分かるかな?」
「それなら大通りに出れば多分……
リリーは少し暗い芳樹の様子に声をかけた。
「何か悩んでるって言ってたけど何かあったの?
もちろん嫌ならいわなくていいけど、言うだけでも軽くなることもあるかもよ☆」
微妙に上から目線のリリーに芳樹は微笑ましく思い少しだけ話すことにした。
「その……少し前にショックなことがあってさ。
友達が塞ぎ込んだりしてるんだ。だから元気付けてあげたいんだけどどうしたら良いかなって……」
「そうねぇ……気分転換に観光とかはどう?」
「観光かー……いいかもしれない」
「帝都にはダンジョンにも関わらず敵の出ない綺麗な所があるの!
そこに友達を連れて行ってあげればいいんじゃないかな?」
そうこう話していると大通りに出た。
「それじゃ私もう行くね☆」
「うん、色々ありがとう」
「いいってことよ」
えっへんと胸を張るさまは偉そうというより背伸びした子供にしか見えない。
「本当にありがとう。がんばってみるよ」
芳樹はリリーと別れ宿へと向かった。
ー◇ー
リリーに紹介されたダンジョンは帝都内にあり、ダンジョンマスターも討伐され居ないというダンジョンであった。
名を『春の洞窟』と呼ばれている。
階層は3つ程で5km四方程度の空間に花が咲き、木々が静かに揺れるダンジョンであった。
芳樹は早速宿に戻ると冴子に話す。
「う~ん。確かにいい案ではあるが……まぁ希望者だけ連れて行くか……」
「じゃあ、俺は宿で残りの見てますね」
源次は居残り組の側についていることになった。
次の日、芳樹達はクラスの半分程を連れて『春の洞窟』へ向かった。
入り口は大きなドーム状の建物の中にあり、入場料もかからない為、結構な人数が出入りしていた。
芳樹達は手続きをしてダンジョン中に入ると息を飲んだ。
「わぁ……」「ほぅこれはなかなか……」「すげぇ」「きれい」「まぁ……」
見渡す一面が花畑となっており遠くには森というほど深くない人の手が入っているような林があった。
空は明るくとても広い為、解放感があった。
芳樹達と同じ観光に来たと思われる人があちらこちらで思い思いに寛いでいた。
気分の沈んでいたクラスメイトもゆっくりと体を伸ばし花畑に寝転んだり、林の間を歩いたり、ベンチに座っていた。
少しリラックスした表情のクラスメイトを見て芳樹はほっと息をついた。
芳樹は完治、大河と遊んでいると栞が一人本を読んでいることに気がついた。
「栞さん、その……つまらない?」
「いえ、楽しいわ」
栞はパタンと本を閉じると芳樹の方を向いた。
「そっか、よかった」
「…………?」
栞は少し首を傾げると再び本を読み出した。
芳樹は邪魔をしないように離れると適当に歩いていた。
林の中を歩いていると声が聞こえた。
「おーい」
「なんだ?」
「おーい」
「どうしましたー」
「たすけてくれー」
芳樹が声の出ている場所を探すと木の根から人の足が生えていた。
「たすけてくれー」
よく見ると、どうやら木の根と地面の間にある隙間に男が嵌まっているようだった。
「なんでこんなことに……」
「キノコがあってね……取ろうとしたらこのザマさ」
「はあ……」
芳樹は男の足を掴んだ。
「ひっぱりますよー?」
「ゆっくり頼む」
「はーい」
「あいたたた……」
「わっ……すいません」
芳樹が引っ張ると男は痛がり抜くことが出来なかった。
「うーん、僕一人じゃどうしようもなさそうなので友達を呼んできますね」
「すまないが頼む」
芳樹は遊んでいた完治と大河を呼び手伝ってもらうことにした。
「どうしたの?」
「栞さん……その……男の人が木の根に挟まってるんだ」
「そう、私も手伝うわ」
芳樹達は男の所へ行くと未だ男は木の根に挟まっていた。
「おー助けてくれー」
「なんか間抜けだな」
「完治、そういうのは言わないどこうよ」
「食べ過ぎ?」
「いやこの状況でそれは無いでしょ」
「なんだかひょうたんザルみたいね」
「栞さんまで……」
「いいから助けてくれー」
男の足を掴むと4人で引っ張り始めた。
「どっちかってぇと大きなカブって感じだな……」
「カブ……お漬け物」
「二人とも真面目にやろうよ」
「えんやこらー」
「栞さんも楽しんでる?」
「少し……」
暫く引っ張っているとスポンと男が木の根から抜けた。
「うわっ……」「おととと」「きゃ……」「おっと……」「ん……抜けた」
男は顔に少し泥を付け赤いキノコを持って笑った。
「いやー助かったよ」
「それはよかったです」
「なんでこんな所入ったんだ?」
完治は男の出てきた木の根と土の間を眺め疑問を口にした。
「ああ、それはねキノコが生えてたからね」
「そんなに珍しいキノコなんですか?」
芳樹は男の持つ赤いキノコを眺める。
「さぁ?」
「さぁって……」
「いやぁ春にキノコって生えるのかな?不思議だな~って取ろうとしたらこのザマだよ。ハッハッハ」
「これは、ハルシメジに似ていますね。そうなら赤くないはずですが……」
栞はそのキノコを見て呟いた。
「君はこのキノコを知っているのかい?」
「いえ、似たものを見た気がするというだけです」
「そうかい?」
男はまぁいいやとキノコを腰の袋にしまった。
「あぁ自己紹介がまだだったね。ぼくはアイザック……一応、詩人になるかな?」
アイザックは土のついた顔でニコッと笑った。