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進化先の選択肢がおかしい件  作者: 紫扇
3章 目玉と理不尽
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48 強すぎる敵

作者氏、背後で物語を動かしているのを忘れていたため主人公サイドとの矛盾を出さないように苦労する。

 少女は純白で潔白で何者も介さない白であった。


 少女に与えられたのは一本の剣と純粋さ。


 白く、白く、ただ白くと。


 何も知らず教えない。

 故に少女は自らで学んだ。

 学び、探し、掴み取った世界は汚泥で汚れ少女の居られる場所では無かった。


 故に少女は染め上げる。


 白く、白く、降り積もる処女雪のように、全てを凍らせる氷雪のように、世界を染める。


 精神は漂白する。


 ー◇ー


「強制クエスト?」

「はい、パーティの『大葉』宛に強制クエストが出ております」


 次の日、冴子さえこ達が冒険者ギルドへと入るとカウンターの方へと呼ばれそう言われた。


「どういうことだ?」


 冴子は胸の大きな鳶色の髪のギルド受付つまりリーシャに鋭い目を向けた。


「えー……我々も不明なのですが、国から『大葉』のパーティに期待しているから手伝わせて欲しいと要請がありまして……」

「なんだと……」

「ううぅ……今回のクエストは依頼者の半分が国なので無下にはしにくいんです……すいません」


 リーシャは胸の前で指をつんつんしながら謝った。


「チッ……姑息な真似を……」


 冴子は昨日聞いた芳樹達の小競り合いを聞いていたので大体の事情を察した。


(まぁ直接、暗殺者を送ったりされるよりはマシか)


「それで?内容は?」

「この後、出発する盗賊退治のクエストとなります」

「盗賊退治だと?」

「はい、移動はギルドの裏にある魔車で行います。本来ならば飛び込みで参加するようなクエストでは無いのですが……今回はご容赦下さい」

「チッ……」

「そのかわり、今回のクエストの報酬は上乗せをさせて頂きまして基本報酬として一人50万Ash(アッシュ)を払わせて頂きます」

「え……マジで?」

「ふえぇぇぇ」


 生徒や副担任の美香などから驚きの声が上がる。


「また、盗賊を捕まえた場合、盗賊を犯罪奴隷として売りその売り上げの6割が冒険者の取り分となります」

「ふむ……」


 本来ならばこういったクエストでは相手の強さで報酬が変わる。

 Cランクになったばかりの者へ来る依頼としては20万Ash(アッシュ)程度が基本である。

 基本報酬が50万Ash(アッシュ)というのは破格と言えた。


「仕事の内容も基本的に他の冒険者の後詰となっており逃げた盗賊を相手にすることが主な仕事となります」

「もし断った場合はどうなる」

「ランクの降格となるか、最悪の場合は冒険者資格の剥奪となります」


 冴子は仕方ないと溜め息を一つ着いた。


「わかった。しかし、参加するかどうかは個人に決めさせる」

「わかりました。用意が出来たら再び声を掛けて下さい。魔車まで案内します」


 冴子は生徒を集め再びこのクエストに参加するかどうかを生徒一人一人に決めさせた。

 結果、全員がクエストに参加することとなった。


 ー◇ー


 ガラガラと走る魔車の窓から小さくなっていく帝都を見つめ考える。

 自分達はこれから人を殺すことになるかもしれない……そう思うと麗華れいかはとても憂鬱な気持ちになった。


「麗華様……」


 そんな麗華を見て立夏りっかは胸を痛める。


「麗華様、ゲーム借りてきました」

「麗華さん……混ぜてもらっていいかな?」


 何処かへ行っていたかおるが委員長の諏訪(すわ) 美奈穂(みなほ)を連れて戻ってきた。

 薫の手にはボードゲームらしき物が握られていた。どうやら魔車に備え付けていたものらしかった。

 長い旅の間の暇潰しである。


「ええ、かまいませんわ」

「ありがと」


 4人はボードを広げ覗き込んだ。


「人生ゲーム?」

「そのようですわ」


 それは駒とサイコロのある双六であった。四角い箱のようなものを開くとマスが飛び出しサイコロを振る箇所は少し窪みとなっていた。

 魔法と科学を組み合わせた無駄に技術の高い人生ゲームである。

 麗華達は少し驚いたものの異世界の変わったゲームに胸をおどらせプレイしていた。

 マスに止まる度に立体映像で行われる戦闘やドラマなどは憂鬱な気持ちを忘れさせてくれた。

 そしてゲームが中盤に差し掛かると美奈穂はポツリと言った。


「麗華さん、本当に嫌だったら今から止めてもいいんだよ?」


 麗華が美奈穂を見ると真剣な表情をしていた。


「他の子も皆が行くって言ってるから着いて行ってるけど怖がってる子だっている。それに冒険者以外にも生き方はきっとある筈だから……」


 それは沈んだ顔をしていた麗華を心配してのことだった。麗華は少し笑った。


「心配ありませんわ」

「本当に?」

「ええ、(わたくし)のスキルは強いですし立夏や薫もいますもの」

「そっか……」


 美奈穂は肩の力を抜き安心する。


「それに……」

「?」

「お友達を見捨てるような者は竜胆(りんどう)にはおりませんわ」

「ふふっ……何それ」


 麗華は心を新たにする。


(そう、(わたくし)は竜胆の娘この程度で音を上げるわけにはいきませんわ)


 それは例え異世界であっても誇り高く……否、自らを知る者が居なくても尚強くあろうとする少女の決意であった。


 ー◇ー


 亮太(りょうた)正太(しょうた)(みのる)のオタク三獣士は落ち込んでいた。

 それは訓練の時に解った新事実、自分達のスキルに関することである。

 亮太の『経験値上昇』はそもそも経験値を得ることが命がけであるという事実、そして正太の『無詠唱』は魔術の取得が困難であるということである。

 稔の『無限魔力』はチートかと思われたが体内に無限の魔力を通せるスキルであることが判明し撃沈した。


「はぁ……」

「あーー」

「………………」


 三人は魔車の席に座りボーっとしている。皆が行くというので着いて来たがあまりやる気は無いようである。


「魔術があんなに難しいとはなぁ……」

「まぁ簡単なのならイケルでしょ……」

「…………」


 魔術がどれくらい難しいかと言われるとダンスと思ってくれれば良い。簡単な魔術はその現象を理解し魔術名を言ったりポーズを取ったりすることで発動する。

 そう言った魔術を起こす為の行為を魔術儀式と言うが、魔術の難易度が上がるほどにそれが複雑化していくのだ。

 上級魔術などになればダンスしながら数学の因数分解を解くようなものである。慣れれば大したことは無いが、慣れるにはたゆまぬ勉強と努力が必要である。


「……おまえらは良いよ」

「ん?」

「拙者は、魔力も無いのに無限に魔力が通せるとはこれ如何に!」

「落ち着いて下さい」

「他から魔力を持ってくれば良いと言いますが、そんなの何処にあるんですぞ」

「どっかに、あるある……知らんけど」

「クッ……こうなれば美少女を召喚するしか……」

「それこそ何処からするんですか……」

「崖っぽい所で空を眺めるんですぞ」

「3秒で支度しな」

「ハードモード過ぎるだろ」


 彼らは案外、元気だった。


「まぁ必死でやればチートスキルになる筈ですよ……多分」

「本当に死にものぐるいになりたくは無いな」

「その通りですぞ」


 そう言って3人は再び溜め息を着くのだった。その後はアニメの話で盛り上がったりしながら魔車に揺られていた。


 ー◇ー


 盗賊がいると思われる目的の森の近くまで来ると全員魔車から降り適当に並んでいた。

 一番前に魔車を背にして台の上に男が立ち話の準備をしていた。


 芳樹はその間魔車を何の気なしに見ていた。


(改めて見てもすごいよなぁ)


【魔車

所有者:帝都バルンディア冒険者ギルド

付与:空間拡張Lv3、対物理障壁Lv2、対魔法障壁Lv2、衝撃緩和、防水、自動修復Lv1、悪路緩和】


 芳樹の鑑定スキルには魔車の壊れ性能が見えていた。魔車は普通の屋根着きの高級馬車と同じような外見で本来のものより少し大きかった。

 また、左右と後ろに両開きの扉が着いており、前面には人一人分程度の横開き戸があるのも特徴と言えた。

 中は空間拡張のお陰で大きくなっており生徒と冒険者合わせて60人ほどを乗せることを3台で可能としていた。

 1台でおよそ20人程と言うとどれほど凄いか解るだろう。


 またこの魔車を引くのは様々なものだが今回はゴーレムを使用していた。

 ゴーレムは馬の形を模しており、体の各所に数々の装甲が付けられていた。そんな重そうな外見に関わらず、速度は時速50km程でここまで難なく走破してきた。

 どう見ても壊れ性能である。

 また、馬車内部にはゴーレムの整備士が常駐しており壊れても直ぐに直せるそうだ。源次が子供のように整備士の人と楽しそうに話していた。


 そんなことをとりとめも無く考えていると前に立った全身鎧の冒険者が話を始めた。


「あー、俺のことを知っている者も多いだろう新人のテストや昇格試験の試験官をしているエリックだ。一応Sランク冒険者になる」

「おお……エリックさんだ……」

「マジかよ『鉄壁』のエリックがいるのか」


 芳樹はSランクになれば二ツ名が付くとベイス司祭が言っていたのを思い出した。

 多くの冒険者にとって二ツ名とは誇らしいものらしいものであった。ちなみに有名な人物は冒険者で無くても二ツ名が着くことがしばしばある。


「さらに今回はたまたま帝都に来ていた『蒼窮の若草』のメンバーもいる」

「おいおい『蒼窮』か!」

「豪華なメンバーだな!」

「これなら今回は楽勝だな」


 エリックの隣には4人の男女が並んでいた。


「あたいはソニアだ。よろしくな」

「ルーアニスです~」

「マーカスです」

「ボルク」

「それじゃあ作戦を説明するぞ」


 エリックによると盗賊は森の中の廃村を利用して砦を築きアジトにしているとのことだった。人数は30人ほどで結構な大所帯とのことである。

 作戦と言っても難しいものでは無く砦としている廃村を五方向から囲むように襲撃するということであった。


「本来は騎士の仕事なんだろうが今手が空いてないらしくてな……俺たちが駆り出された」

「仕事しろよ騎士~」

「まぁ騎士は騎士で色々あるんだろう。最後に気をつけて欲しいのは恐らく魔術師と騎士くずれらしき者がいることだ」

「強さはどの程度でしょうか」


 エリックへマーカスと名乗った魔術師風の男が聞いた。


「精々Bランク相当だと思うが注意するのに越したことは無い」

「そうですね」

「それでは各自それぞれ言われた班で行動するように」

「「「おう」」」


 芳樹はマーカスの班に振られていた。勿論、完治と大河も同じ班である。

 班分けをする時に冴子がエリックへと身内を数班に分けるからそこから分けて欲しいと交渉したためである。

 同時に涼宮(すずみや) (しおり)も同じ班にいた。『大葉』のメンバーは1班6人程度で分けられていた。

 一班の人数は10人程度であるため半数は『大葉』の者となる。


「君たちは随分大所帯だね。旅団か何かかい?」

「いえ、ただ同じ所で生まれたというか……同じ所から来ただけです」


 芳樹はマーカスから急に話しかけられてビックリした。


「へぇ……珍しいね。町ぐるみで冒険者パーティを作るなんて」


 マーカスも又芳樹の発言に驚いていた。冒険者パーティの多くは目的を同じにした者達が集まるからである。

 同じ村や町出身は珍しく無いが同じぐらいの年齢の者が30人近く集まってパーティを作ることは稀であった。


「いえ……そんな」

「む……どうやら敵の行動範囲内に入ったようだね。皆気を付けてくれ」


 マーカスは軽く周囲に目を走らせると警戒を強めた。

 芳樹達は周囲を見たが何処にそれらしい痕跡があるのか分からなかった。今までと同じ森の中に見えたからである。


「えっと……」

「なんでわかんだ?」

「おう、ボウズ共教えてやるよ」

「オッサン詳しいのか?」

「まぁな」


 レンジャーらしき男が芳樹の隣へ来て言った。


「ほら、あれだ、あの花だ」


 それは鈴蘭のような小さな青い花だった。


「あいつはなブルーベルってんだ。触ると鈴みてぇな音がするんだ。んでな、ありゃ北の花でなこの辺には生えてねぇ花なんだわ」

「へーよく知ってますね」

「へへっ、まっレンジャーだからな」


 芳樹はマーカスの後ろ姿を見てふと思った。


「あれ?マーカスさんって魔術師じゃねぇの?」

「そりゃ『蒼窮』の人だからな……その道のプロだぜ?」

「プロ?」


 男は首を傾げた。


「知らねぇのか?『蒼窮の若草』って言ったら伝説の草の一つだぜ?」

「その話、詳しく教えて貰えますか」


 栞が男に聞いた。


「ああ、いいぜ『蒼窮の若草』ってのはな天上に生えると言われてる幻の薬草だ。その薬草を使えばあらゆる病や怪我が治ると言われてる。まぁ奇跡の薬草だな」

「そんなものがあるんですか?」

「まぁあると言われてる。だがな……元は天空大陸にあると言われてたらしいが魔女どもが無いと言い切ってるからな……」


 芳樹が後ろをちらりと見ると栞が目を輝かせて話を聞いていたが芳樹と目が合うといつもの澄ました顔へと戻った。


「すず……栞さんってもしかし」

「無駄話はそこまでです。見えて来ましたよ」


 芳樹達の前には木で作ったと思われる壁があった。壁の所々にに槍のように木々が刺さっており上るのは困難に見えた。

 また、壁の前には堀が掘られており簡単には侵入出来ないようになっている。盗賊のアジトにしては随分大がかりであった。


「合図があったら全員で突入します」


 芳樹達はこくりと頷いた。

 その時、砦の正面辺りで大爆発が起こる。それは闘気を使った剣撃によって砦正面の扉が爆発したおとだった。


「流石エリックさん、それじゃあ行きますよ」


 マーカスは片膝と両手を地面についた。


「【我は大地の担い手】」


 マーカスが両手を左右へと広げるとそこに文字が描かれ、広がっていった。それは円を描くようにして大地にぼんやりと浮かびあがる。


「【ロックジャベリン】」


 魔方陣から一抱えほどもある石で出来たトゲが現れる。それは切っ先を砦へと向け半分ほど出現するとズドンと音を立て砦の壁を貫いた。

 それは一本ではなく何本もズドンズドンと飛び出し芳樹達の前にあった砦の壁を破壊した。

 動揺に反対では砦の壁が持ち上がり倒れていた。


「ふふっボルクも張り切っていますね」

「あれボルクさん何ですか?」

「そうですよ?彼は力持ちですからね」


 芳樹は戦慄した。丸太を突き刺し作られた壁を倒す人間、これでAランクの冒険者である。Sランクとは一体どれ程の強さなのだろうか?と。

 だが、『蒼窮の若草』は限りなくSランクに近いAランクであることを芳樹は知らなかった。

 彼らは戦争などには出ないのでSランクになるには功績が足りないだけであった。


 戦闘は問題なく進んでいった。

 途中『大葉』の生徒達は気分が悪くなった者や吐いた者がいたが、人殺しが始めてなので仕方が無いと周囲の冒険者は上手くフォローしていた。

 そして、盗賊の残りを囲み込み砦の真ん中辺りへと集めることに成功していた。


「もう終わりだ。投降しろ」


 エリックが声を張り上げ残りの盗賊へと言った。盗賊達は丸く固まるようにして冒険者に囲まれていた。

 これ以上抵抗しても勝てないことは明白であった。


「クソッ……」

「………………」


 盗賊達の中にも諦めの気配が漂っていた中それは起こった。


「くくく、潮時だな」

「!? 全員逃げろ!!」


 エリックの叫びと共に冒険者は盗賊達から距離を取った。その時、盗賊達の一人、ローブを来た男を中心に爆発を起こし盗賊達を肉片へと変えた。


「うあああぁあぁぁぁぁぁ」

「いてぇいてぇぇぇ」

「足が……足が無い……ああああぁぁぁ」


 辛うじて生き延びた者も火に巻かれ動かなくなっていた。

 その中心に浮かぶようにしてローブの男がふわりと存在していた。


「お前、何者だ!」

「私かね?」


 エリックは全身に闘気を張り巡らせる。ローブの男から漂う気配は既に人のものでは無く纏う魔力も先程までとは桁が違っていた。

 エリックでさえ全身から汗が吹き出し恐怖を感じる程であった。


「邪神……」


 芳樹はポツリと呟いた。


「邪神……だと」

「クックック、何だ鑑定持ちが居たか、ならば見えているだろう貴様らの死が」


【フェリウスLv7

 種族:邪神族

 HP 5159

 MP 3234

 STR 1841

 VIT 4082

 DEX 1756

 AGI 2604

 INT 1598

 スキル:不明

 称号:異界の神、侵略者、堅固なる者】


 芳樹は鑑定によって見えるステータスはレベルが上がる度に表示される数値に対し補正が上昇することを神教国にいる時に教わった。

 つまり、Lv1のHP1000とLv2のHP100が同じと言えば分かりやすいだろう。


 男のローブが燃え上がりその姿を露にした。

 泡立つ灰色の硬質な皮膚が全身を覆い、鋼のようなあるいは岩のような角がおでこから背後へと伸びている。

 全身が鉄骨のように太く、腕の外側や足の脛には刃のような刺が流れるように生えていた。

 その姿はまさに鋭い岩石を人型に押し込めたかのようだった。


「我こそは偉大なる神フェリウス、さぁ死ぬが良い人間共、この世界は我が貰ってやろう」


 フェリウスは自らの前へ立つ人間達を睥睨して言った。


「全員今すぐ逃げろ!!」

「逃がすと思っているのか?」


 誰よりも速く邪神フェリウスは動き弱そうな者を殺そうと腕を降り挙げた。その腕の先にはオタクの三獣士の一人稔がいた。


「ヒッ……」

「…………」


 ヒュンと音がし、腕が降り下ろされる。だが、腕と稔の間に影が飛び込み腕を受け止める。


「ぐ……おおおおぉぉぉ」


 稔の前に現れたフェリウスの腕を受け止めたのはボルクだった。受け止めた大楯はへこみボルクの腕からバキバキと音が漏れる。


「テメェ!!」

「【その身を癒せ】【ヒーリング】」

「【砕け雷鳴】【サンダーショット】」

「おおおおおおおお」


 剣にまで闘気を纏ったソニアとエリックが飛び込みその隙を作るようにマーカスが雷の魔術を飛ばす。


「フン、雑魚どもが」


 フェリウスはそちらを見もせず腕を振るっただけで魔術を消し飛ばす。

 エリックやソニアが振るった剣はフェリウスに傷一つつけることが出来ずフェリウスの体の上を滑るだけであった。


「速く行け!!」


 その声を聞き、周囲の冒険者達はハッとし恐怖に固まっていた体を引きずり逃走を開始する。


「おい、行くぞ」「でも……エリックさん達が……」「バカ野郎帝都に戻って速く報告しねぇと被害が増えるぞ」

「死にたくねぇ」「うああぁぁぁぁ」


 ルーアニスの魔術で腕が辛うじて動くようになったボルクも混じりエリック達はフェリウスへと攻撃する。


「無駄だ」


 フェリウスは拳を握りエリックを打つ、その速度は速くエリックをして目で追えるかどうかであった。

 エリックは攻撃を受けるのでは無く受け流すようにして回避したが、フェリウスの腕に生えた刃にぶつかると硬質な音を立て大楯が削れていた。


(おいおい、勘弁してくれよ。ドラゴン制だぜ)


 必死に攻撃を避け時間を稼ぐエリック達を横目に冒険者達は『大葉』の生徒達を引きずる。

 生徒の中には盗賊との戦闘で張り詰めていた緊張が切れたのか泣き出す者もいた。


「もうやだ……お母さん……おがあさん……」「きっと夢だ……すぐ目が覚める」「おええええぇぇぇぇぇ」


 数人の冒険者が先行して帝都へと向かうために走り出す。


「おっと【刺の丘(ソーンヒル)】」


 走り出した冒険者達を串刺しにし刺が天高く起立していく、それはここに居る者の逃げ場を完全に塞ぐように周囲に展開された。


「クッ……」

「フハハハハ、雑魚共が無駄な足掻きをするからああなる」


 『大葉』の生徒は完全に戦意を喪失しへたりこんでいた。冒険者達も矢を飛ばしたりするが避けるそぶりすら無く当たっても欠片のダメージも与えられなかった。

 マーカスは援護をしながら踊るようにして足で地面に陣を描く。


「【我は雷、我は貫く者、我は天罰の代行者】」


 マーカスのローブから大量の符が飛び出しフェリウスの周囲へと張り付いた。


「ほう」

「あああ、固ったいね!!」

「エリックさん時間を稼いで下さい。アレならそいつの体を貫けるかもしれません」

「まかせろ、得意分野だ!」


 エリックはマーカスの魔力を感じ時間を稼ぐためにフェリウスに肉薄し行動の邪魔をしようとする。

 拳を流す度に余波でミシミシと音を立てる大楯と腕に力を込めエリックは時間を稼ごうとする。


「【我は破壊の代弁者】」


 マーカスの放つ魔力は上級といわれる魔法の一撃を上回っていた。

 マーカスの周囲に大量の符と魔法陣が浮かび上がり発光する。

 それは符術と刻印魔術を合わせたマーカスのオリジナル魔法であった。


「【悪を裁き、敵を滅す】」


 その様子を見てもフェリウスはマーカスを狙うでも無くまとわり付くエリック達を相手にしていた。

 そして、マーカスの魔法が完成する。


「【ルビド・ルーチェ】」


 攻撃の瞬間を悟ったエリック達はフェリウスの周囲から瞬時に避難する。

 次の瞬間、マーカスが宙へと描いた魔法陣から太い丸太のような雷の槍が飛び出しフェリウスを貫いた。

 轟音を響かせ、大地を炭化させながら放たれた雷はフェリウスを貫き背後の刺の壁へとぶち当たる。


「フン、こんなものか?」


 大量に巻きあがる煙の中から現れたフェリウスは全身から軽く煙を上げるだけで大したダメージは見てとれなかった。


「そんな……」

「マジでバケモンだね……」


 絶望的な強さを前にエリックは再び剣を握りしめ闘気を纏う。


「まだだ、まだ諦めるには早い」


 エリックの声に皆が再び気力を巡らせた時だった。


「面白そうなことやってんな!!!」


 その声が響いた。

 それはズドンとエリック達から少し離れた所へ落下し、立ち上がった。


「まぜろよ」


 そう言ってハリネズミのように髪を逆立てた青年は笑った。


「『神拳』」


 だれかがポツリとこぼした。


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