04 消された記憶と追跡者
メイド服のオッサンは言った。
「いいかお前達転生者の記憶は消されている」
「記憶を?それ、意味あるのか?」
「記憶と言ってもな生前獲得した知識なんかは問題ない……文字どおり個人的な記憶のみ消去されてんだ」
「へぇだから名前は思い出せないのか」
「そういうことだ」
オッサンは顔を近づけて来た。オッサンにされてもサッパリ嬉しくない。
「それで……だ。精々100年程度じゃ得れる知識には限界がある。まぁどこぞの悪魔と契約をした変態とかは例外だがな……そうでもなければ異世界へ行ってもあまり役には立たん」
「そうなのか?」
「転生者は多いからな出来ることは大体やりつくされてんだ。レールガンーとかリニアーとか大気の元素がーとかな」
「よく聞くやつだな」
「確かに科学技術が始めはほとんど無かったがこれだけ転生者がいればいくらでもヒントはあるからな。どの世界でも同じだ」
「エイリアンが来た地球も大きく発展したみたいな展開あるしな」
オッサンはニヤリと笑って言った。
「そういうことだ。だからこそユニークスキルは重宝されてんだ」
「技術では限界があっても生物なんかには無いか……」
「まあな」
「ごしゅじんさまー」
ゴロゴロ
「メイドへの愛を忘れるな……メイドは最高だ」
オッサンが何だか大きくなっている気がする。
「ごしゅじんさまー」
ゴロゴロゴロゴロ
いや、確実に大きくなってる。というか後ろからなんか音がする……。
振り向くと巨大なキュクが転がってきた。
「ちょ……なんだこれ」
「ごしゅじんさま。ごしゅじんさま。ごしゅじんさま……」
キモいことを言い出したオッサンへ向き直るとオッサンは見上げるほど大きくなっていた。
ゴロゴロゴロゴロ
後ろから転がる音が近づいてくる。オッサンも包容するように近づいてくる。
「!?体が動かない」
「ごしゅじんさまー」
「ごしゅじんさま」
そして俺はキュクとオッサンに挟まれ潰された。
オッサンの胸板は固くゴリゴリしている。キュクはプニプニしていた。
はっ!?
そこで俺は目が覚めた。動こうとすると重みを感じる。
上へ目だけ動かして見ると(ほとんど目しかない)キュクが涎をたらしながら俺を抱き枕にしていた。
「うぇへへへへ」
昨日の夜は森の中を適当に歩いて安全そうな木の根の隙間で寝たのだった。
「ごしゅじんさまー……むにゃむにゃ」
もう少しこのままにしておくか……こうして俺はメイドのいる朝を迎えた。
「おはようございます。ご主人様」
おはよう。一ついいか
「なんなりと」
ご主人様ではなく名前で読んでくれないか?
オッサンが出る悪夢を見たしな。
「!!……よいのですか?」
……ああ、別に問題ないだろ?
キュクは何かに衝撃を受けたようにして目をさまよわせている。
「ではロプス様と……呼び捨てはまだはやいかな」
ああ、それでいい
後半聞き取れなかったとかは無いが触れないでおこう。難聴系じゃないし空気は読めるほうだからな……多分。
「それででロプス様どこへ向かえば良いでしょうか」
そうだな……
俺はキュクに抱き上げられながら考えた。
この世界の生物は強い。それは転生者が多いからでもあるだろうが単純に周りが強いから自然と強くなった感じか。
そうだなまずは強くならないとな。
「それでは…………!!」
何かを言いかけてキュクは素早く身を木陰へと隠した。
どうした?
「…………空の探索者に見つかりました」
空の探索者?
空を見上げると何かがキラリと光った。よく見ると直径10cmくらいの珠が空を飛んでいた。
「あれは人間などの冒険者が使う索敵アイテムです」
説明しながらも足を止めず木陰の間を縫うようにキュクは走って行く。
「補足された以上どこかに身を隠す必要があります」
そう言い素早く目を周りに走らせている。
すると、しばらく行った所に大きな穴が口を開けていた。
嫌な予感しかしないがあそこしか無いな
「残念ながら他に逃げ切れそうな場所はありません」
キュクは空から追跡してくる珠から逃げるように穴へと駆け込んだ。
二人は後ろを振り向かぬまま走った。
背後で何かがしまる音を聞いた。
キュクとロプスは暗い穴へと身を踊らせて行く。未熟な二人はまだ何も見えない。