22 月間神通信
キュクと町へと入ると喧騒の中を進んで行った。
俺はなぜキュクが単眼メイドでは無くメイドとして町の中に入れたかを思い出していた。
俺達が町へ入るのは無理じゃないのか?一瞬でバレるだろ?
「ふふふお忘れですか?私にはメイドとしての技能があります」
いや知ってるけど……。
「メイドは主人が高貴な方や有名な方だった場合上手く町へ行く手段をもっています」
キュクは少しタメを作って言った。
「【メイド式隠遮術】と【メイド式変装術】です」
おお、名前から大体分かるけどどんなのだ?
「これはメイドスキルの一つとしてメイドになるならば覚えるべきスキルと紹介されるほどのスキルで【メイド式隠遮術】はステータスを任意で隠すことができ【メイド式変装術】は外見を完璧に変えることが出来ます」
おお、名前のままだな……。
あと紹介ってどこでだよ……。いや予想はつくけど。
「メイドスキルの素晴らしいところはメイドスキルとして全て纏まっている所です。これも全ては世界にあまねくご主人様のため又奉仕の魂ゆえと言えるでしょう」
やっぱりメイドは最高だぜ!
ロプスは何かが再発した。
「ちなみに『月間神通信収録フジタのメイド魂コーナー』引用です」
何その紹介……しかもやっぱりオッサンじゃねえか。
というか『月間神通信』ってなんだよ。
「選ばれた者の前に突如落ちてくる神々の暇潰し……もとい娯楽雑誌です」
エー落ちて来るってどういうことだよ。
「初めの一冊は落ちて来ます」
キュクはスッと懐から水晶玉を取り出した。
水晶から光が出てテレビの画面のようなものが空中へ浮かび上がった。
そこには通販番組にでも出てそうな二人組がいた。
一人はアメフトでもしそうなマッチョに金髪碧眼の男性であった。
もう一人はエプロンをしたダークブラウンの髪に同じ色の目をした細身の男性だった。
「ようこそトニー」
「Heyマイク今日はなんだい?」
「ねぇトニー最近新しい情報を仕入れるのに苦労してないかい?流行とかはすぐに変わってしまうからね」
細身のエプロンをした男マイクはアメフトでもしてそうなマッチョの男トニーに向かって言った。
「そうだね最近流行りの神器やオシャレ、後は流行の話を集めるのは大変かな。ネットで聞いても情弱乙とか言われて笑われるだけなんだ」
「そうだろう。そうだろう。普通に調べるにもオシャレなんて興味無さそうだしね」
「おいおいなんで分かるんだよマイク」
「そりゃあ……そんなハートのシャツを着てたら分かるさ」
マイクはトニーのシャツを指差して苦笑した。
「おいおいこいつは彼女の趣味さ」
「そいつは悪かったね。ペアルックかい?」
「いや、俺だけだよ」
「…………」
マイクは取り合えずと言った調子で話を続けた。
「まぁ、いいやトニーそんな微妙な服と彼女を良くしてみたくないかい?」
「胸のサイズでも変わるのかい?お願いするよ。小さいって言ったら殴られたんだ」
「WAO女性の胸には触れちゃいけないよ……僕には触れる機会もないけどね!
そんな彼女に悩む君にはコレ『月間神通信』」
そう言って一冊の本を取り出した。
それは薄めの厚さの本に月間神通信と書かれたものだった。
「『月間神通信』ってなんだいトニー?」
「HAHAHAそれはね神々が作った神器の一つさ」
「神器だって?こんな雑誌がかい?」
「そうさ、色々な神の恩恵を受けて作られているからね。
内容は流行りのファッションから生活知識果ては子供にも見せられないようなものまで載ってる凄い雑誌さ」
「WAOそいつは凄いね。これで彼女に毎回殴られずに済む。今すぐ彼女にプレゼントするよ。
どこに買いにいったらいいんだい?
でもどうせ高いんだろう?」
「それがそうでも無いのさ」
細身のエプロンをした男は大袈裟に肩を竦めこう続けた。
「これは半分娯楽だからね。無料で配布されてるんだよトニー」
「FUUUUUそりゃあ嬉しいね。でも俺は持ってないよ?どこで貰えるんだいマイク?」
エプロンの男マイクはニヤリと笑った。
「気になるかい?気になるよね?こいつは無料配布だけど配布も娯楽みたいなもんなのさ。
つ、ま、り、雑誌を作ってる奴等が気に入った相手に送るんだよ」
トニーは片手で顔を覆い頭を振って言った。
「マジかよ。信じられない。俺の所に来てないってことは選ばれてないってことかい?」
トニーはマイクへとズイッと近づいて言った。
「どこで作ってるんだい?俺にだけ教えてくれよ。チョット貰いに行ってくるよ」
「HAHAHAそんなことはしなくても良いのさトニー」
「どういうことだい?」
「今日紹介したこちらの『月間神通信』」
そう言ってマイクは『月間神通信』を見せた。
「今日はなんとこちらの商品を竜金貨1枚で必ずお届けします」
「WAOそいつはお得だね。でもさマイク”月間”なんだろう?」
「毎月買ったら高いって?そんな心配いりません。なんとこの商品毎月の始めに中の内容が更新されていくのです。」
「つまり一冊買えば来月の雑誌は買わなくてよいのです」
「そいつは凄いや」
「さらに、この雑誌神器なので剣で切ろうと魔法をぶち当てようと女神の嫉妬で刺されても大丈夫となっております」
マイクは剣を取りだし雑誌を切ろうとしたり魔法を当てたりしたが雑誌は無傷だった。
「FUUU彼女に会いに行く前には必ず持っていかないとね」
画面の下の方に※一部女神の嫉妬攻撃は防げないので浮気も程ほどにしてください、と書かれていた。
まるで誰かに宛てたメッセージみたいだ。
「さらに!さらに!」
「これ以上がまだあるのかい?」
「今回に限り内容保存機能のついた本『神通信内容保存本』をお付けします」
マイクは薄めの装飾の豪華な本を取り出した。
「神通信内容保存本?」
「トニー見たい内容が次の月には見えないのは不便だと思わないかい?」
「確かに何度も見たいページとかあったら保存しておきたいね」
「そんな悩みもこの本があれば大丈夫神通信の見たいページを開きこうしてサッと手を振ると……ホラッ」
マイクが本を開いて見せると先程開いていた神通信のページが書かれていた。
「FUUUUUこいつがあればあのページもバッチリ保存できるね」
「そうだろう?
今日はこれらの商品が全部ついて……」
キュクは映像を消し水晶を懐にしまった。
「ネイビーの持ち物にありました。保存の方はなかったので恐らく空から落ちて来たのではないかと思われます」
マジか。凄いなダンジョンマスター。神にも認められるのか。
というか水晶の映像は何なんだ?
「あれは天界TVのT&Mという通販番組です」
天界にチャンネルが繋がってるのか……。
「いえ繋げ方を知っていたので繋げました。メイドならばこれぐらいは当然です」
やっぱりメイドは最高だぜ。
ロプスは錯乱している。
「ロプス様他にすることがあるのでは無いでしょうか」
そうだった。
キュク、スキルを使って見せてくれ。
「ではサッとお見せしましょう」
そう言ってキュクは瞬きをする間に肌色が白から普通の白っぽいはだになっていた。
「ロプス様ステータスを見てください」
【ロプス
目玉
生命力980
魔力101】
おお!変わってる。
しかし、俺には自分のステータスしか見れないのでキュクのステータスがどうなっているかは分からなかった。
「ロプス様、私のステータスを見るようにイメージしてください」
【ロプス
目玉
生命力980
魔力101
キュク
メイド
生命力1012
魔力435】
見れた……だと。
「私はロプス様から派生した者なのでロプス様に閲覧出来ない訳はないのですが……言うのが遅れました」
いや、いいよ。
それにしてもこの姿や目はどうするんだ?
肌だけじゃ意味がないだろ?
「それこそ目を閉じこうしてそこに目を生やせば良いのです。そうですね念の為【異常の魔眼】にしておきます」
【異常の魔眼】は相手に状態異常を誘発することができる魔眼だ。
確かにこれなら相手に幻覚でも与えればいろいろ誤魔化し誤魔化し易いかもしれない。
俺がキュクをよく見ても普通の少女以外に見えなくなった。
そんな手があったのか……。
だが俺の姿はどうするんだ?
「スライムボディを使いましょう」
あーアレな。なんかプヨプヨするやつ。
「スライムボディならば形を変えることも出来るのでスライムのフリをすれば少々変わっていてもユニークモンスターで片付きます」
スライムはどんだけ変な生き物として認識されてるんだ……。
「スライム程種類の多い生き物はほとんどいません」
すげーなスライム。
俺はスライムボディを使い目玉の浮かんだ黒いスライムの姿になった。
進化:胴体の便利な所は姿が変わる所だろうか。
それで、どうするんだ?メイド+スライムでも十分アヤシイけど。
「いえコレぐらいならメイド姿のテイマーと言えば問題が無いでしょう」
いやいやいや、問題しかないだろ!
「ロプス様、冒険者はこの頭のオカシイ世界を喜んで渡り歩く頭のオカシイ者しか居ないのですよ?」
キュクは遠い目をしていた。
そして俺達は無事町へと入り込む事に成功したのだった。
俺はその時の事を思い出しまさかうまく行くとは思わなかった。
キュクは暫く歩き門が遠ざかると横道へと入って歩き始めた。
横道へ行くのか?
「はい、人が多いとボロが出る可能性もありますので」
キュクはスライム状態の俺を器用に抱き上げた。
「はぁはぁ、ベタベタしてる」
…………。
ダンジョンに向かうんじゃないのか?
「はい、ダンジョンにはギルドで発行している冒険者カード等で身分を証明しないと入れないようになっています。本来はギルドへ行き登録したい所ですが流石にギルドに行けばバレますから」
冒険者以外の商人みたいなのでも無理なのか?
「ダンジョンに入るのに問題はありませんが商人や狩人などギルドに備えられている鑑定のオーブは門の物より強力なので恐らく見破られます」
よく転生チートでどうこうってあるが無理なのか?
「その転生チートが作ったオーブですから」
納得した。
じゃあこれはどこに向かってるんだ?
「狂信者のダンジョンは元々村に作られたと言いましたね」
ああ、村人が作ったんだろう?
「地下に行くとき大事なものは何か分かりますか?」
地下……空気か?
「それも大事です。それに加え必要な物は水と食料です」
そういえばそうだな……。
「村人は井戸から水を引いていました。そこを使います」
井戸……地下水脈か!
「はい、狂信者は地下水脈から水を引いていたのですが井戸もまた地下水脈に繋がっていました。つまりどこかでダンジョンに繋がっていることになります」
そう言いながら足を止めずキュクは裏路地を進んで行った。
やがて、古い車井戸が俺達の前に姿を表した。
そこは路地の奥まった場所にあり生活でたまに人が水を汲みに来る以外は人が寄り付かないような雰囲気の場所だった。
「もっとも誰も奥を探索できませんでした。理由はこんな所を進むには数々の難問があるのでここを進もうという酔狂な者はいなかったからです」
キュクは井戸の縁から中を覗き込んだ。
井戸の中は暗いが【暗視】を持つ二人の前には昼の草原のようにハッキリと中の様子が見えた。
底には水面が静かに揺れていた。
「やはり塞がれていませんでしたね」
勘だったのか?
「ネイビーの資料に考察としてはありましたが時間も経っていますから……ですが何となく大丈夫な予感がしたのです」
そういえば【超直感】とかの進化もあったな。
とぼんやりと俺は思っていた。
「ロプス様スライムボディを解除してください」
ん?溶けるのか?
「溶けはしませんが動きは鈍くなるかと」
なら邪魔だな。
俺はスライムボディを解除した。
「ねばねば……」
自分で言っておいて少し残念そうにするなよ。
「それでは、行きます」
キュクは井戸の縁に腰かけるようにするとそこから真っ逆さまに頭から井戸へと落ちて行った。
二人は二つ目の狂気へと挑んでいく。
「Heyマイク神通信に彼女の作り方は無いのかい?」
「HAHAHAいいい度胸だ。表へ出ろ」
アメリカナイズな喋り方は難しいです。