17 斥候のトマス
「やれやれやってらんねぇぜ」
この男はギルドの依頼で狂愛のダンジョンを見張っていた。
理由はここに珍しい転生者であろうモンスターが入り込んだからだ。
転生者の多くはロクな事をしないことで有名であった。
多くは普通の者だが稀に魔王や勇者といった存在が生まれてきては世界に混乱を撒き散らすのだ。
「はぁーエミちゃん何してっかなー」
この男は自分がこのクエストに選ばれた理由からやる気が無かった。
狂愛のダンジョンは男女のカップルなどや美女へと攻撃性を見せる事で知られている。
つまり独身でモテそうもなくそもそもオッサンのこの男が選ばれた訳である。
エミちゃんとは色町のお姉さんである。
この男はこのお姉さんに入れ込んでいるただのオッサンであった。いや、斥候であった。
この男がやる気も無くボーッとしていると突如ダンジョンの入り口に転移の光が現れた。
「!!」
途端、この男は真面目な顔になりそちらを凝視した。
この男がこの顔をするのは色町で女を選んでいる時と戦闘時のみである。
光が収まった時そこにいたのは報告にあった一つ目のメイドであった。
(報告と違って成長してやがる!)
この男はメイドのステータスを読み取った。
この男がこのスキルを使うのは戦闘と女のスリーサイズを計る時だけである。
【キュク
単眼メイド
HP50000
MP50000
B:ーW:ーH:ー
STR:ーVIT:ーDEX:ーAGI:ーINT:ー】
(バカな!ステータスがほとんど見えないだと!!何よりスリーサイズが不明とは……ありえん)
この男にとってスリーサイズが見えないのは強さが見えないよりも衝撃的だった。
かつて王都の姫と女王を見に行った時よりも最強と吟われる白銀の騎士を見たときにも強さに関わるステータスは見えなかったがBWHを見る事は出来たのだ。
ちなみにこの男ギルドの受け付け嬢にセクハラし過ぎて強制労働中である。
(まだだ俺の『三次元立体を計る眼』が敗れたとしても俺が自前で培った目は防げないはず……!)
男は自らのユニークスキルでは無く毎日道端で鍛えた自らの目を信じる事にした。
(あれは、BいやCか……だがそんなに簡単なものを俺のスキルで見えないわけが無いならばBに見えるDか!!)
クエストそっちのけで女の胸を凝視していた。
この男最低である。
男がバカな事を思っているとさらに驚く事態が起きた。
なんとメイドの周囲の草木が枯れ始めたのだ。
メイドが移動すると元に戻っている事からメイドがやっていると当たりをつけた男は戦慄した。
(環境を変えている……だと。HPやMP的にもかなり強くなっているようだな)
男はふざけているだけでなく仕事も出来るのだ。
暫くしてメイドは立ち去って行った。
「とりあえずギルドに報告するか」
男はメイドが完全に去ったことを確認すると町へと踵を返し走っていった。
足取りが軽いのは色町へ行くからではないと信じたいものである。