16 これが……美声!
しばらくして、俺達は部屋を探索した。
すると、さらに奥へと行く通路を見つけた。
通路を進んで行きしばらくすると扉が現れた。
扉は赤を基調としたポップな色合いをしていた。
扉に掛かった鍵は開いていた。
キィと軽い音を立てながら俺達は扉は開き中を覗きこんだ。
そこは、女の部屋だった。
ベッドや椅子、鏡台などダンジョンマスターの女が使っていた部屋だった。
キュクに抱かれたまま中へ入り部屋を調べることにした。
部屋の中を調べていくと奥にはもう一つ扉があった。扉には鍵がかかっていた。
鏡台やタンス等を調べたが鍵らしきものは無かった。
机の上には埃を被った写真立てがあった。
俺は触手で表面を軽く撫で埃を落としヌルヌルしている写真を覗きこんだ。
そこには照れた女と男の仲間が一緒に撮られた写真が飾られていた。
写真の中の男や女は皆楽しそうに笑っていた。
案外うまくやってたんじゃないか……。
「それでも譲れないものがあったのでしょう」
部屋を一通り調べたが普通の女の部屋といった物しか無く残すはベッドと扉の奥だけとなった。
それにしてもデカイベッドだな……。
ベッドは天蓋付きのベッドでカーテンが閉まっていた。
嫌な予感しかしないが仕方ないのでカーテンを開けるとベッドには男の死体が一つと女の死体が一つ寄り添うように横たわっていた。
キュクは素早く枕の下を調べると鍵を見つけた。
俺達は静かにカーテンを閉めると部屋の奥へと続く扉を開けた。
部屋の中には一つのクリスタルが静かに浮かんでいた。
それはこのダンジョンには似つかわしくないほど澄んだダンジョンコアだった。
俺達はダンジョンコアへと近づきコアを破壊した。
【ダンジョンコアが破壊されました。
称号『ダンジョン踏破者』を得ました。
称号『ダンジョンの謎を追う者』を得ました。
ダンジョンコアを破壊したことによりボーナスが付与されます。
『狂愛の魔眼』『経験値5万』『ダンジョンマスターの所持品』となります。】
おお、ダンジョンマスターの所持品ね……。どれどれ。
俺にはアイテムボックスとかのスキルが無いからか目の前にドサドサとアイテムが落ちてきた。
えーっと。髪……歯ブラシ……パンツ……うん……どれもいらないな。
恐らく生前まともな時はもっと使えるアイテムがあったと信じたい。いやあったはずである。
キュクと手分けして使えそうな物を分けていくと少しだけ使えそうな物を見つけられた。
『冒険者の鞄(中)』『冒険者の水筒』『冒険者の寝具』『魔法使いの帽子』『バスターソード』『ミスリルナイフ』……etc.
うん……遺品ダネ。
とりあえず執拗に使っていた冒険者の~は他の物より痛んでおり俺達には必要なさそうだったので置いていく事にした。
別に怖かったわけでは無い。無いのだ。
ミスリルナイフなど小物に絞って持って行くことにした。
「おまかせ下さい」
そう言ってキュクはゴソゴソと小物をスカートから出した手で拾いスカートの中へ仕舞っていった。
何処に入ってんだ?
「メイドの秘密です」
メイドさん万能鞄説が浮上する中俺は手にいれたポイントで進化することにした。
このダンジョンも後は出るだけなのでメイドを進化させることにした。
【メイドがLV6になりました。
メイドがLV7になりました。
メイドがLV8になりました。
メイドがLV9になりました。
メイドがLVMAXになりました。
メイドの限界突破をしますか?】
メイドに限界突破ってなんだよ。
まぁするけど。
【メイドが限界突破しました。】
…………え?これだけ?
残りのポイントで自分の強化をすることにした。
今回の戦いでは魔眼が役に立ったので魔眼を取ることにした。
1万ほど使って魔眼を取った時それは始まった。
【魔眼の数が一定数を越えた為能力を統合します。
『異常の魔眼』『狂魔の眼』『魔王の眼』『時計仕掛けの眼』『理を解く眼』を獲得しました。
他の魔眼が統合又は消滅進化しました。
称号『魔眼コレクター』を得ました。】
なんか勝手に進化した能力が統合されてるし……。
「ロプス様、退化も進化と言いますよ?」
スカートにアイテムを詰め終わったキュクが後ろにいた。
俺はキュクを見上げ……見上げ?
キュクはサイズが50cmほどから150cmほどのサイズへと成長していた。
メイドのレベルを上げたことにより身長も伸びたのだ。
俺も胴体とか進化すればぬいぐるみサイズから大きくなるだろうか?
良い機会なので俺も新しいことを試すことにした。
つまり、頭と胴体を一回ずつ進化してみることにした。
【胴体:草食獣の胴体を得た。
頭:甲虫の頭を得た。】
…………。
もう一回進化した。
【胴体:スライムボディを得た。
頭:肉食獣の頭を得た。】
よし、獣の頭が来てよかった。
草食ボディに肉食の頭だけどなんとかなるだろ……またキモいのが来たらどうしようかと思った。
これで一応獣のシリーズが揃った。
俺はキュクの腕から飛び出し全身を変化させた。
それはシマウマの体にチーターの足、頭はライオンで腕は熊であった。
うん……キモい……鏡は隣の部屋にあるが見に行くまでも無くキモい。
というか下手なキメラよりキモいってなんだよ……。
ポイントも残り少ないし感覚器官を取っておくか。
選択肢を改めて見ていると新しい選択肢が増えていた。
【進化→
・完全ランダム(ランダム)】
いや括弧内はいらんだろ。
というか完全ランダムって……まぁいいや。
【ランダム:発声器官を得ました。
ランダム:呪われました。
ランダム:呪眼を得ました。】
サラッと呪われたんだけど。
「ついにロプス様が話せるように……」
気にする所はそこだけなのか……。
まぁとりあえず声を出せるようになったんだな……。
ん、んん、すぅはぁ、よし。
「ギシャアアアアアアアア」
…………。
「ギシャアアアアアアアア」
な ん だ こ れ。
いや、待ってほしい確かに発声器官であって声が人の声とは言ってないがこれは無いだろ。無いわ。うん、無い。
「流石ロプス様期待を裏切らない美声ですね」
美声っていうか奇声な。
もういいや……多分頭とか進化しまくれば何時か普通に喋れるだろ。喋れて下さい。
あと、気になるのは呪われたって事だけど……。
久しぶりにステータスとか見てみるか。
【ロプス
目玉のキモいの
生命力50000
魔力40000
ドライアドの呪い】
何か呪われてる……。
生命力とかが凄く上がっていて嬉しいのだがキモいのって何だよ。ヒドくないか?
鑑定とかあったらどういう物か分かるんだがな……。
沢山取った魔眼の中に鑑定できそうな眼は無かった。
全て統合されてしまったがそういった効果は無さそうだ。
「ドライアドと言うと植物属性の女性型モンスターですね」
この世界でも女の子なのか。
「ええ、食べると美味しいといって一部の悪食家が食べたりしますね」
この世界生きにくすぎるだろ……。
「オークなどを食べているので忌避感が薄いのでしょう」
本当にブラック過ぎるな……。
俺は話ながら近づいてきたキュクに抱き上げられた。
今までと違い体に伝わる感触が適度に柔らかかった。
「ロプス様、少し大きくなっているようですね」
キュクに言われて気がついたが一回りほど体が大きくなっていた。
このまま大きくなったらキュクに抱上げられないほど大きくなるのだろうか?
「そうなったら乗せて下さいね」
メイドが主人に乗るのはいいのか……。
まぁいいや、そろそろダンジョンを出るか。
「はい」
キュクはどこからともなくクリスタルを取り出した。
これは先程降ってきたアイテムの中にあったダンジョン脱出用の使い捨て転移アイテムだった。
冒険者必須のアイテムと言えるものだ。
これを買う金が無いとダンジョンを歩いて帰るハメになる。
ダンジョンマスターが生きている間などは使えない事も多いのだが便利な物だ。
キュクはクリスタルを頭上に掲げた。
クリスタルから光が溢れ俺達が次に目を開けた時にはダンジョンの入り口の外側にいた。
転生者はこのアイテムを初めて使う時崩壊の言葉を唱えたりするらしい