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2015年/短編まとめ

『おめでとう』と『ありがとう』の日

作者: 文崎 美生

欠伸を一つしてから、ベッドから起き上がって伸びをする。

カーテンを開ければ洗濯物日和と言わんばかりの晴天で、朝から清々しい気持ちにさせられた。


パジャマのまま隣の部屋を訪ねれば、机に突っ伏して眠る彼の姿がある。

あぁ、寝落ちしたんだなぁ、なんて思いながらタオルケットを彼にかけた。

規則正しい寝息を立てる彼は、太い黒縁眼鏡をかけたままで寝にくそう。


「頑張ってたんだもんねぇ……」


聞こえるはずもないけれど、彼に向かってそう吐き出して髪を撫でた。

少し固めの黒髪に指を通せば、彼は小さく唸ってからまた気持ち良さそうに寝息を立てる。

そんなところも好き。

そんなところが可愛い。


朝から彼にキュンキュンしながらも、彼の目の前に置いてあるノートパソコンに目をやって、彼の頑張りを称える。

今日は私も彼も休日なので、ゆっくりのんびりだらだら出来るということ。

だから、まだ起こす必要はない。


もう一度だけ彼の髪を撫でてから、静かに扉を閉めて部屋を出る。

まずはシャワーでも浴びようか。

その後に着替えて朝ご飯を作ろう。




***




丁度朝ご飯が出来た頃に、彼が起きて来た。

眼鏡の奥の瞳は半開きでまだ眠そう。

その上クマがはっきりくっきり浮かび上がっている。


「……おはよ」


もにょもにょと口を動かして言った彼に、自然と笑みが溢れてしまう。

私も彼に「おはよう」と言って、コンロの火を止めた。


彼はのんびりとキッチンにいる私を歩み寄ってきて、背中にぴったりと張り付いて手元を覗き込んでくる。

「朝ご飯、何?」と彼が言うので、私はにっこりと笑みを浮かべて「カツカレー」と答えた。


その瞬間に彼の意識が完全に覚醒する。

指紋でベタベタになっているであろう眼鏡の奥の瞳を、これでもかってくらいに見開いて「カツカレー?」とオウム返し。

だから私も頷いて更にオウム返し。


「朝から重くない?」


「え、カツカレー好きだよね?」


話が噛み合ってないよ、と彼が眉を下げて苦笑。

私が首を傾げると「食べるけど」と結局かよ、な答えをくれる。

彼の好きな食べ物なんて網羅していて当然だ。

今日の朝はカツカレー。

お昼は肉まん。

晩御飯はピザだ。


そのことを彼に告げれば「高カロリーだ」と青ざめる。

どうにも彼はダイエットにうるさい。

いや、私達もお互いにどんどん年を食っていくので、健康維持のためにはいいことだけれど。

豆腐を食べ続けたり、一日八キロ走ったりと、彼は意外とストイックなのだ。

因みにそれで見事に八キロ落としている。


大好きなカツカレーもピザもなるべく食べないようにして、豆腐ばかり食べているのを見た時は、何だからこちらが泣きたくなったくらいだ。

そんな彼も勿論大好きなのだけれど。


「良いじゃない。だって今日は、誕生日なんだから」


ケーキだって手作りにするんだよ、プレゼントもちゃんと用意したんだよ、なんて子供の相手をしているように言えば、彼が笑う。

仕方ないなぁ、なんて口を開けて笑ってくれる。

彼の笑顔が好き。

温かくて包み込んでくれるような笑顔。


「食べるよ。全部食べる」


眼鏡の奥の瞳を細めて笑う彼に胸が高鳴る。

大きな口から白い歯が覗く。

彼は優しい。

ずっとずっと優しいまま。

愛しくて愛しくて仕方がなくなるから、私は寝癖のついた彼の髪を撫でる。


ありがとう、そういう気持ちで溢れる。

好き、そういう気持ちが増える。

愛してる、そういう気持ちが止まらない。


「じゃあ、明日から一緒にダイエットだ」


「ははっ!良いねぇ」


くるりと彼の腕の中で体を反転させて向き合えば、私の言葉に同意した彼が頷く。

私よりも高い身長に、私の頬を撫でる骨ばった手。

好きになって付き合って同居して、どれほどの月日が流れただろう。

それでも異性として愛しい気持ちは膨らむばかり。


「誕生日おめでとう」


「ありがとう」


額に瞼に頬に彼の唇が押し付けられる。

こうしてる間にもカレーはどんどん冷めていくんだろう。

でも大丈夫。

直ぐに温め直せるから。


「産まれて来てくれて、出会ってくれてありがとう。愛してる」


愛しい彼にHappy Birthdayを送る。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ラブラブな二人の姿が良かったです。こんな誕生日、いいですね。 [一言] ありがとうございました。
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