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平成武将伝  作者: 渚紗
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四百年目の再会







「ここぞ…」

「こちらだ…」


誰かが呼んでいる。


暗闇の中で。


誰だろう。




「もっとこっちに」

「早くこっちに」




声のするほうに行こうと歩を進めれば、声は更に急かす。


恐らく声のすぐ近くで止まった。


恐らく声のすぐ近くで止まった。


と、



いきなり巨大な炎が燃え上がった。


それに照らされて見えたのは、無数の、得体のしれない生物だった。



姿はよくわからないが、

今まで見た事のない生き物なのは確かだった。


目だけが、赤く光っているのがわかった。


化け物、と言うが正しいと思った。




 (なんだろあれ…?

…暑いな)




広い範囲で燃え盛る炎で、かなり暑い。



「ようやく叶うではないか」

「我々の望んだ事が」


そんな言葉が聞こえた後、一瞬、意識が途切れた。








*******







「暑い!!って…さむ゛っ!?」




松平康夫は、布団を跳ねのけてからすぐに布団にくるまった。


(暑いわけねぇじゃん!オレ何言ってんのー!?)


不思議な夢を見た。


内容は覚えてはいるものの、意味がわからない夢。


(化け物みたいのがいてー、我々の望みが叶うとかなんとか……)




とにかく、不思議な夢だった。


「こらー!!早く起きろ松平康夫ー!」






頭を巡らしているとき、いつもの聞き慣れた声が下の階から聞こえた。




「はーい!今行くー!!」




康夫はベッドから飛び降りて、慌てて学ランに着替えた。






今日は十二月二十三日。

クリスマスイブの前日。




又は、康夫の誕生日の前日。




しかも




血縁は遠いが、康夫の家の先祖である、徳川家康の誕生日前日でもあった。


そんな理由で、両親から徳川家康が奉られている日光の観光旅行をプレゼントされる日でもあった。




プレゼントとは言っても、商店街の福引きでたまたま当たっただけのものらしいが。






学校が終わったら共働きの両親はおいて、康夫と姉の二人で出発する。



そしてちょうど今日学校が終わったら冬休みになる。









康夫は部屋から出て、一階に降りて洗面所に向かった。



すると、洗面所から姉の裕奈が出てきた。




「もー、とっとと起きてよね!ちゃんと今日旅行だって覚えてるよね?!」

「そんな…そこまでボケてねぇし…」

「わかんないよ、あんたの天然さは天性のものだから」

「そんな…」


仕方ねえじゃん、と溜め息をついて康夫は洗面所に入った。




鏡に、整った顔が映る。


まだ中二だが、たまに成人に見られる事もあった。



姉とよく似た容姿だった。














「じゃあ行って来まーす」

「私もー」




似ている兄弟は、いつも二人で玄関を出る。




「うわっ、さむ!!」


裕奈が玄関を出た瞬間、裕奈は身を縮めた。

今日の朝は一段と冷える。


「そう?」

「あんたおかしいから!コート着ないとか!」

「だって邪魔じゃん」


康夫はあまりコートを着ない。




「そういう問題じゃないでしょ!!それがおかしいの!!あ、もう行かなきゃ!」

「お、うん!」




裕奈は大学に行く駅に向かって走り、康夫はその反対の中学に走った。












「メーン!」






パーン!




康夫は声と一緒に相手の面を竹刀で打った。




「勝負有り!!」


審判が、康夫側の白旗を勢いよく上げた。


「おおーっ!!」




周りから歓声が上がり、道場内全体に声が響いた。




康夫が、剣道の試合で先輩に勝ったのだ。










終業式が終わり、康夫は所属している部活、剣道部にいた。









「オメーほんとにスゲェな!」




練習が終わり、康夫が防具を外して片付けていると、同級生たちが走って来た。


「ん?ああ、うん」

「ああじゃねぇだろ!お前あの川越先輩を倒したをだぜ、

あの都大会第三位の高校の!!」

「そうだね…」


興奮している友人、杉田に、康夫は対応に困っている。


「まあどーせオメェはいっつも勝ってるからなー」


もう一人の友人、片平が言った。


「いつもじゃねぇよ」

「でもほとんど勝ってんだろ」

「まぁ…」

「勝っても大して嬉しくないよな?」

「あー俺もそれぐらい強くなってみてー」

「そーそー」


二人はわざとらしく声をな音量を上げた。



「はいはい…」




二人を無視して、康夫康夫はさっさと防具を片付る。




そこへ。






「強いね!」




と頭上から声が聞こえた。




顔を上げてみると、さっき康夫が試合で倒した先輩、川越が立っていた。




「あ、いえいえ!」


康夫は慌てて姿勢を正した。




川越とは、試合のあと挨拶をしたはずだったのに、何故来たのかと驚いた。




「いや、ほんとに強いよ。ウチの高校に来ない?」

「え!?」


突然の勧誘に、さらに驚いた。



「真面目な話、ウチの学校の剣道部員年々減ってってるんだ。だから入る気はないかな?」

「なんでオレ…」

「やっぱさー、こんなに強いんだから部活もそれなりのところへ入ったほうがいいよ」

「でも…」


康夫は高校を部活で選ぶ気はなかった。



部活だけで選べば、ほかの点で失敗するかもしれない。




「ほんとほんとお前と稽古やるときなんかオレ弱くてすげぇ悪いような気がするもん」

「なんだよ」


片平は横でごちゃごちゃとうるさい。



「ねぇ、高校ウチにしない?特別推薦で入れると思うし」

「いや…オレ高校のことはまだ全然考えてないしし…」



「あ!お前もう五時半になるけど五時から病院行くとか言ってなかった?」




何か言おうとしたところへ片平が時計を見ながら口を挟んだ。




「え?だああっ!?」

「忘れてたんかい…」

「ほんっと天然だな…」



康夫は部活以外にも地域で開かれている剣友会でも剣道を習っている。

昨日、その剣友会で練習があり、足を強く捻挫してしまった。時間が遅かったので近くの病院は閉まっていて行けなかった。


というわけで今日の五時半に近くの病院に予約を入れていたのだ。


只今五時半。


「すいません、オレ帰りますんで!さいなら!!」

「え…高校…」

「おーい!」

「アイツいっつもあそこの病院に遅刻してるから早く行かねぇと…」

「剣道強いのに…どっか抜けてておもしれぇ奴…」



二人は笑いながら言った。


「また今度誘ってみるか…」


ぽつりと川越は残念そうに呟いた。







(おーくーれーるー!!)



康夫は走っていた。



剣道で怪我をしたときにいつも行く病院にはいつも遅刻しており、毎回そこの看護師に怒られていた。




家から学校までが徒歩二十分。


病院は学校と家のちょうど中間地点ぐらいにあるから学校からは約十分。

部活で道着から制服に着替えた時間を含め、走れば遅刻は十分ぐらいで済む。


いや、遅刻自体がまずいのだが。







康夫は捻挫したこともわすれてひたすら走った。












「それで、今回は何で遅れたの?」




若い男が、苦笑気味に問う。




「えと…部活で高校から先輩が来ててー、その先輩と試合したら勝っちゃて…そこの高校に勧誘されてまして……」

「そう。それはよかったねぇ」

「はぁ…」



皮肉混じりに40代ぐらいの看護士は言う。


「もうちょっと早く来る事が出来ればねぇ」

「は、はぃ……」



病院の診察室。



予想通り、十分遅刻した。


いつものように年輩の看護士に怒られた。






「あの看護師、俺にもちょっと言ってくるからさぁ…なるべく遅刻しないで欲しいなぁ…」

「…はい…ごめんなさい。もう十回くらい同じこと言われてます…」

「まあ今日はすいてるからまだいいよ。


にしても…」


言いながら医師は眉間に皺を寄せた。



「ん?」

「確かに捻挫してるみたいだけど、大した事はないみたいだね」




康夫の担当医、相田は右足を診ながら言った。

二十代で、まだ若い医師は、剣道でよくドジる康夫とすっかり打ち解けている。




「ウソ?だって昨日剣道の先生に診てもらったら複雑に捻ってるから早めに病院行けとか言われたし」

「痛みは?」

「昨日はあったよ…」

「昨日?って、今日部活に出たの?」

「うん。病院にも走って来たし…。もしかしたら行かなくてもいいかなーって思ったんだけど予約してあるから」

「…おかしいよね…」

「そうだね」

「そんなあっさり…」




昔から康夫は、病気やケガをすることが珍しいし、回復が長引くこともなかった。


「まあ、いつもすぐ治るし」

「そうか…じゃあ、テーピングしたし、治療終わり…」


腑に落ちない感じで、相田は言った。




「ありがとう!!またきっとすぐに来るね!」

「あんまり来ないほうがいいんじゃないかな…」






康夫は椅子から立ち上がった。






「ちなみに診察料はいいよ」

「ええっ!?マジっ?!」

「うん。たいした治療してないし」

「いや〜いい先生だ〜」




嬉しそうに康夫は診察室を出ていった。




相田はそんな様子をほほえましく見つめていた。







康夫が出て行ってから少し経つと、相田は座っている椅子を回して体を後ろに向けた。




「もう出て来て来てもいいですよ。今日はほとんど患者は来ませんから」




康夫に優しげに向けていた目で誰もいない窓を睨んだ。


窓は、少しだけ開いていた。







そこから、黒いスーツ姿の男が窓から跨いで診察室に入って来た。






「…そんなところにいて…見つかったらどうするんですか…」

「心配ない。それよりも…今話していた事は本当だな?」




歳は三十代の半ばといったところだろうか。




相田はふっ、と息をつき、


「嘘の会話なんかしませんよ。

俺はこの病院に来たときからずっとあの子の担当医でしたが…通院する事はありませんでしたね。怪我や病気がすぐに治るんですよ……」

「そうか…これで確定だな」

「貴方がたの言っている事が本当なら、あの子は貴方がずっとそこにいたことに気付いていたんじゃないですか?」

「だろうな…まあ、近いうちに会う事になる。大して問題はない」

「…まぁ、とにかく…」



相田は優しげな端正な顔立ちを、強張らせて言った。




「康夫くんを傷付けるやり方だけはしないで下さいね」




はっきりとした声で言った。




「…ふん…。随分と大切な存在のようだな…」




男は、嘲るように笑った。


「あなた方に任せておくのが心配なんですよ」




フッ……。




男は鼻で笑った。


「あの、“化け物”にそんな心配をするか…」


「堤さん」




男に向かってそう呼んだ相田はギロリ、と男を睨んでいた。




「そんな顔をするな、すまん、悪かった…」


相田と同じぐらいの長身の男は、同じ目線にいても、鋭い目付きは相手を見下すようだった。




フッ……。




男は鼻で笑った。


「友達、か…あの、“化け物”が…」


「堤さん」




男に向かってそう呼んだ相田はギロリ、と男を睨んでいた。




「そんな顔をするな、すまん、悪かった…」




相田と同じぐらいの長身の男は、同じ目線にいても、鋭い目付きは相手を見下すようだった。







「では、帰る」

「そうですか。また後日」

「ああ、…」




男は窓から外へ出た。




「また情報があったり、康夫くんに何かあったときには連絡を下さい。」

「わかった。ではまたな」

「………」




男が去ったあと、相田は一人静かに溜め息をついた。




「これから何が起こるのやら……」




不安気にそう呟く。







ガチャ。




と、ドアが開く。




「先生!!」

「!?」




患者か、と思い振り向いたら、ドアの外に立っていたのは例のうるさい中年の女性の看護士だった。




「さっき頼んだ件ですが――」


看護士はいくつかの書類を持って入ってきた。


「あ!すいません忘れてました!!」


康夫のことや、堤のことで頭がいっぱいだったのだった。


「…!先生!!」




患者のいない静かな病院には、甲高い女性の声だけが響いていた。










康夫は、足速に家に帰っていた。

ケータイを見てみると、裕奈から、



『早く帰って来い』



とだけメールが来ていたのだった。



(早く帰んねぇと……。それにしても……)




先ほど――



診察室で感じた、誰かに見られていたような気配が気にかかる。




“見られた”というより“観られた”という感じだった。




じっ、と見られていたような感じ―――




(まあ、なわけないよな

……)




だがそのときは深くは考えずに、ただ急いで帰ることに集中した。







「ただいま帰りましたよー!」


息を切らせながら、大声で言った。




「やっと帰って来たー」




裕奈は居間で煎餅を食べながらテレビを見ていた。




「こっちは走って帰って来たってのに…」

「大学は早く終わるのー」

「あー疲れたぁー、なに見てんの?」




裕奈が見ているテレビから難しそうな言葉ばかりが聞こえてきたので何を見ているのか気になった。




「今、クローン技術はどこまで進んでるのか」

「へぇ…そう……」




裕奈は康夫には到底手の届かない頭の良い大学に通っていて、そういう難しいものも好きらしい。


「好きだねぇ…そういうの」

「アンタだって歴史オタクじゃん。異常に戦国時代に詳しいんだから」

「いや、オレは別に好きなわけじゃなくて、ただ知ってるってだけで…」



確かに康夫は戦国史には詳しいが、特に勉強したわけではなく、裕奈とは違う。



単に得意分野というだけだ。







「…ところでさ、もう六時になるけど…?」

「あ!じゃあそろそろ行かなきゃ!準備終わったよね?」

「あー…まだ着替えしか詰めてない」

「はぁ?!馬鹿!?帰ったらすぐ行くつったでしょ!!」

「…今すぐ済ませまーす!!」



荷物を詰めに自分の部屋へ走って向かった。






七時頃に家を出発し、夕飯は外で済まし、行く夜行バスで日光に向かった。









その夜、康夫は夜行バスの中で




今朝と同じ夢を見た。




誰かが呼んでいるような。



これから行く日光に、来いと呼んでいるような。







朝。




(…ん……?)




目が覚めて、馴れないバスの椅子で寝ている事に気付く。




(あ、日光に行くんだ…)




窓側の席だったので、カーテンを開けて外を見ると、




(うわぁ……!!)




外は雪がしんしんと降っていて、木々に囲まれた場所が真っ白だった。


目覚めたばかりの目に、眩しい。




(にしても…また同じ変な夢…見たな…)




夢について考えていると、間もなくしてバスが停まった。







朝食を軽く済ませ、二人は日光東照宮に行った。




「懐かしー!!小学校の林間学校依頼!」

「さむ゛っ…!!」




東京で着ているコートを羽織った康夫は元気だが、それよりも厚手のコートを着ている裕奈は震えている。




雪がしんしんと降り積もっている。




「今も寒くないの?!」

「うん。そこまでは」

「やっぱおかしい!今日いつもより気温が低いらしいのに!」

「へぇ」


そんな会話をしていると、




 「裕奈ちゃーん!!」




裕奈を呼ぶ女の声が聞こえた。




「ん?!誰!?」

水城ミキちゃん!!」





裕奈は後ろに思いきり向かって腕を振った。


(そういえば…

日光には、大学で日光に関するレポートが課題に出た姉さんの同級生が一緒って言ってたなー……)



裕奈が手を振っているところにいる二人を見て裕奈がそう話していたことを思い出した。


裕奈と同級生の女子大生と、康夫と同じぐらいの年の男子が立っていた。




(たぶんあれが同級生の弟とか…)




裕奈の友達は、康夫が男子一人になるので弟が康夫と同級生だからと連れて来ると聞いた。


その兄弟は康夫たちと同じで二人揃って美形で、大人っぽく見える。


姉弟なのがわかる。




「コイツうちの弟ね」




裕奈が二人に康夫を紹介した。


「こんにちは。」


ぺこりと康夫は頭を下げた。


「かわいいっ!?あたし石田水城ミキねっっ!弟は三成ミツキ、よろしくぅ。ねぇ、うちの弟と交換しよ??」

「いいねー!」




と、姉同士盛り上がっていた。




(声かけてみようかな…)


康夫はそう思い、三成に声をかける事にした。



「なんか…二人で盛り上がってるね」

「……ああ」




………。




(会話終了!?)


これではまずいと思い、いろいろと話しかけてみたが、

今と同じような反応しかしてくれなかった。




(以外と内気とか…?なんか真面目そうだしなぁ…)




常に三成の表情は真顔というか、強張っている。







「…なぁお前…」




どうしようかと、家康が悩んでいたとき突然、三成が口を開いた。




「!なに!?」




「……俺のこと見て…何も感じないのか?」



「………は…?」




そのときの三成は驚いた顔をしていた。




(な、なんの話し……??)




「…あの、なんの」

「わかんねぇならいいや……」




家康がなんの話しか尋ねようとするのを、三成は遮って、俯いた。




(えーなにそれ?!)






いきなりわけのわからない質問をされて困るのはこっちだ。


再び康夫と三成の間には沈黙が流れた。




「ごめんね康夫くんー、この子すっごい無愛想だからさぁ…初対面の人とかほんと何も話さないの…」




二人が気まずい空気の中にいるとき、申し訳なさそうに水城が言ってきた。




「あ、全然!平気ですよ別に!」

「…………」




三成は何も言わない。




「ごめんね〜…」







四人はツアーガイドの人に従って、他の観光客と一緒に東照宮内を見学した。


四人のうち二人は無言で。




日光には、小学校のときに林間学校で来たことがあり、懐かしいところだ。

だが康夫は三成の言ったことが妙に気にかかって、周りめのは目に入らなかった。




なんとなくだが、ずっと気に気になっていた。

「ここが家康の墓だね!!」


徳川家康の墓の前に来た。




「やっぱお墓はこんなもんなんだねー」

「この墓のためにこんなにすごいとこ造ってんだよねえ」




水城と裕奈はやはり楽しそうに話している。




家康は、東照宮には来たことがあるけど実際墓に来たのはは初めてだった。




ここが血は遠いが紛れも無い先祖の墓か、と思いながら墓を見ていると







『かこに家康はいない』




(?!)







どこからか、声が聞こえた。




はっきりと耳に。




どこかで聞いたことがある気がする。




あるような声が。




(え…?今のは…何!?)




「どうかしたの?」




横にいる裕奈が不思議そうな顔をした。



「あ、何でもない……」


康夫はまた墓を見た。


根拠はないが、声について一つわかったことは、



人間のものじゃない



ということだった。







(気のせい……?)




しばし時間が経って、もうなにも聞こえなくなったのであれは気のせいだったのか、と思い始めたとき、



ツアーガイドの人が歩き出したので着いて行こうとした。







『逃げるぞ!!』

『逃がすな!!』





(!?)




康夫が家康の墓から離れようとすると、またその声が聞こえた。


声は、どんどん近くになっているような気がした。


(なんだよ、この声…?!)


気味が悪い。





「おい!!」


「え!?」







いきなり声をかけてきたのは三成だった。




康夫を見る目付きは鋭いものになっている。




「聞こえたんだな」

「え…?」

「声が聞こえたのかって聞いてんだよ!」

「えっ!?あ、はい!!」

「…ここじゃまずい…」


言いながら、三成は辺りを見渡した。


「な、なにが…??」

「来い!」

「へ?!」




三成は康夫の腕を掴み、一目散に走り出した。




「な、何!どこ行くの?!」




裕奈と水城には気付かれていない。




「おいちょっと!!」



「…うるせぇよ」




康夫が声をかけると、怒りの混じった顔で三成は言った。


「な…だってどこ行くんだよ!!」


三成はそれを無視して、康夫を東照宮から連れ出したかと思うと、そのまま戦場ヶ原に行くバスに乗ったのだった。







「何でバスに乗っての…!?そろそろ説明してよ!」

「お前…本当に覚えてないのか…?」




眉間に皺を寄せて、三成は聞いてきた。



「だから!なんの話だよ!言ってる意味がわかんねぇのにその質問に答えられるわけねぇだろ!!」

「………」


三成は、再び何も言わなくなってしまった。


乗客が、二人のほうをチラチラと見ていて、康夫にはその空気が息苦しい。


「ねぇ、」

「着いたら教えてやる……」

「はぁ?!」




三成が黙っているので康夫が再び尋ねようとすると、三成は“戦場ヶ原”に着いたら教える、と静かに言ってまた黙ってしまった。




(なんなんだよ一体……)






康夫はどうしたらいいかわからなかった。









やがて、戦場ヶ原がある小田代ヶ原の手前でバスが停まった。

そこで三成がバスを降り、康夫も降りた。




「うわぁ…」


小田代ヶ原は辺り一面、日光の自然と雪がたとえようもなく美く、思わず康夫は声をあげた。




「超キレー…」

「んな事に感動してる場合じゃねぇだろ」

「え?」


三成が冷たく言い放つ。


「奴等がいつ襲って来てもおかしくねぇ。ボケッとしてる暇ねんだよ」

「あの…そろそろ状況説明を……」


三成は一向に説明してくれる気配がなく、康夫を急かしてくるから早く説明をしてほしい。


「あの声は何なの一体!?」

「………」


「あの……」

「これは…俺が教える事じゃねえよ。何とか自分で思い出せ」


「は……?どういう意味!?


しかもなんにしろあとで説明するとか言っといて今更自分で思い出せって……」

「…………」






そうこうしているとき、またあの声で不気味な呻き声が聞こえてきた。


「また来た…」

「来たか…おい!」


「へ!?なんでしょう…」

 「戦場ヶ原に行くぞ!!」

「戦場ヶ原に…!?」




小田代ヶ原はもちろん一面が雪。


とても誰かが入れるような状態には見えなかった。




康夫はまた三成に強引っ張られる。












戦場ヶ原の周りは、自然を野生生物に食い尽くされないように柵で囲まれている。







「ほんとに入るの…?」

「跳ぶぞ…」

「は?!」




思考がついていけないうちに三成は、康夫の腕を掴みながら、




助走をつけて柵を跳び越えた。







(!?)







何故か康夫は




三成に続いて跳び越えていた。






こんな柵を跳び越えられたら




オリンピックどころか







世界新記録だ。







「…………」




柵を越えてから、康夫は自分が何をしたのかわからなく、放心状態でいた。




「ある程度のことはあとで説明してやるから!

ボケッとすんならあとにしろ!!」

「え…」


三成は周りを警戒しながら言った。


「なんか…周りにあんの…?」

「いいか…オメェは動くなよ…」

「?」




そんな会話をしているうちに、呻き声はどんどん二人に近付いてきた。


「ヤバイんじゃ…」


康夫がそう言いかけたところで




ビシュッ!!




「……?!」




何かが、康夫の頬を掠った。




「痛っ!」


頬からは血が流れていた。


驚く暇もなく、すぐ真横にいる何かの存在に気付いた。




グルグルル…




「………」




康夫はその場で唖然とした。




人の二、三倍の大きさはある



鎧兜を身に着けた武者の姿



茶色いざらざらの肌



骨と皮だけの肉体



小手の先から跳び出した長い爪と


鎧の隙間から見える赤い目が光っていた。




 「………」


「ボケッとするな!!」

三成の声で康夫はハッとして我に帰った。




「いいか!危険なときは出来るだけ避けろ!それ以外は動くなよ!!」

「う、はい…」


曖昧に返事をして、康夫は三成の後ろに行こうと、動いたとき






ザッ!




「どわっ…?!」




康夫が動いたと同時に、化け物が持っている刀を振り上げ、康夫目掛けて振り下ろしてきた。




「っ……!!」




なんとか避けることはできた。




が、刃が左の肩に掠った。




「痛っ……!」




じわり、と服に血が滲む。




「…………」




「何やってんだ!っと……!」


ビシュッ!っという音とともに、妙な叫声のようなものが目の前で聞こえた。


「……?」




康夫が三成を見ると、三成の足元には康夫を襲ってきた化け物が倒れていた。




その周りには、


血と独特の臭いが漂っていた。




「なに、これ…」




三成は手に何かを持っていた。




白い光りで包まれた、細長いもの。


だんだんとそれは光りが消えていって、形もわかってきた。






日本刀だ。




康夫が見てもわかるほどその日本刀は立派で、たった今斬ったものの赤い血の色がよく映えていた。


艶のある光った刃に沿って、血がポタポタと滴り落ちている。


康夫はそれを見て、呆然とすることしか出来なかった。




斬られた化け物は、被っていた兜が外れ、その首は骸骨に肉をつけたもの、という感じのものだった。




「ちょっ、と…これ…」




三成に康夫を相手にしている暇などなく、すぐさま襲って来た次の化け物を



バサッ、



 と鋭い刃の日本刀で斬り裂いていった。




一匹斬ったかと思えば、すぐに別のものが襲いかかってくる。

無限とも言えるほど、その化け物の数は多かった。


驚いたのは、首を斬り落とさなければ、その化け物は死なないことだった。

首を落とされていない化け物は、自動的に元の状態に戻り、復活して再び襲いかかってくるのだった。


康夫は、そんな様子を見て相変わらず呆然としている。






自分は今、何をしているのか―――?






久々に日光に旅行に来て



日光東照宮に行って



とにかく楽しい観光旅行をするつもりだった。




なのに、今―――




戦場ヶ原。






前に聞いたことがある。






昔、この辺りの猟師の縄張り争いを大蛇と大百足に姿を変えた神々の縄張り争いに例えた話し―――



それを聞いたとき、神でも争いはするのか、と思った。


神でさえも争う場所だから、今ここで異様な戦いが繰り広げられているのだろうか。




「家康!戦え!!」







一人ぼーっと考えていると、苦し紛れの三成の声が聞こえた。






 ―家康―?




「何してんだ!ぼーっとしてねぇで刀だせ!!」



刀を、

出す?




「家康っ!」




この名を聞く度に心が揺れるようなのは何故だろう。



徳川家康。




聞いたことのない名前のわけはないが、そういうものではなく



何か、とても懐かしい名前。







ずっと前に、いつも、ずっとそう呼ばれていたような―――





「思い出せ!!」




また三成の声で、また現実に引き戻された。


化け物を斬りながらの切れ切れな言葉だった。


(思い出す?)




三成を見ると、三成も何箇所か傷を負っていた。




(あ……!)




今の自分には何もできない。




(でも…オレがやらなきゃいけないのかな…)




三成が傷付いたのは自分が戦えないせいかもしれない。




だが






(どうすればいいんだよ……)




康夫はだんだん何もできない自分がもどかしくなってきた。




(何をすれば…)




そういえば三成はさっき刀を出せと言っていたが



あれはどういうことか。






そこまで冷静に考えられるようになり、傷口を押さえたまま化け物がいる周り見渡していると






(!?)




鹿がいた。




「鹿が…」




思わず康夫は呟く。






「あ?!テメェそんな場合じゃ…」






康夫が伝えたかったのは、化け物の集団の中に入ってきて、危ない、ということだったのが




三成が気づいたときには遅かった。






痛そうな鳴き声が響いた。






「だめ……」







近くにいた一匹に、刀で軽く斬られた。






今の時点では生きているが、すぐにほかの化け物たちが留めをさそうと集まっていった。







「…オレの名前は……」




ぼそりと呟きながら、康夫は鹿のところへ歩いて行った。




「おい!どこ行く!?」




三成は引き止めようとしたが、化け物の相手で精一杯だった。




「オレの名前は……」




今度は少し声を大きくした。






「……お前の名前は…」




三成も聞こえ、康夫に聞こえるように言った。










「徳川家康だ!!」






三成は、今相手にしている化け物を刀で押し返す勢いで声を張り上げて言った。








「徳川家康……」







康夫がそう呟いた直後、頭上の真上から、一匹の長い刀を振り上げて、跳び下りてきた。




「家康っ!?なんとかしろ!!」




三成は自分のほうの化け物で精一杯で、

康夫のほうにはまわれない。






鋭く光る刃があと少しで頭につく。






「家康!!」






その瞬間。




三成には、二つの光るものが見えた。




バサッ、




ドサッ、ドサドサ。




地面に化け物が倒れた。


「徳川、家康………?」


思わず三成は呟いた。


三成の視線の先には、化け物の血を浴び、

血の滴る刀を持った康夫がいた。



「………」



そこに立っているのは、康夫のはずなのだが康夫とは違う者だった。




目付きが持っている刀のように鋭く、くっきりと大きな瞳は小さくなり、二つの目が黄金に光っていた。



真ん中だった髪の分け目は左側に移り、右目に後ろの髪がかかっていた。


目と髪型が変わるだけで、人はここまで変わるのか、と思わせられる。




「ガァァァァ!!」




化け物たちは、吠えながら一斉に三成から離れて、康夫に移っていった。




『現れたぞ』

『なんと』

『こんなに近くにいたとは』


!!


康夫に襲いかかろうとする化け物たちから声が聞こえる。








ザクッ、

ザクッ……



ボトボトボト……







次々と康夫が向かってくる化け物を斬る音や、化け物の肉片が落ちる音が戦場ヶ原に響いている。




「おっと!ぼーっとしてる場合じゃなかったな…」




言いながら、再び三成も、そこら中にいる化け物を斬り捨てていく。


化け物は、首を斬り落とさない限り復活を繰り返す。



しかし、二人ともほとんど一太刀で化け物の首と胴を切り離していた。




やがてある一匹が倒れている鹿に刀を刺そうとしてきた。






その刀を弾き飛ばし、康夫―家康はその一匹を一斬りで仕留めた。




そうしてその鹿は救われたのだった。













しばらくが過ぎ。




どれくらい時間が経っただろうか。




ふと顔を上げるとそこは、血の海だった。




戦場ヶ原は雪で真っ白い正に絶景だったが、化け物たちの血によって、真っ赤に変わっていた。




真っ白な風景に真っ赤な血は一段と映えた。







「随分派手にやっちまったな〜…」



三成が呟く。



「………」

「おい、聞いてっか?」

「………」



康夫――家康は俯いて黙っていた。




「おい!徳川 家康!!」


少し苛立ちを混ぜた声で三成が徳川家康に呼び掛ける。






「ん……あれ…?」

「!?」




顔を上げた家康は、もとの松平康夫に戻っていた。



「……どおかし…」



状況を飲み込めていないという顔をしていた家康は、そこまで言って言葉を止めた。






「ねぇ……何、これ?」




表情のない目で、家康は三成に尋ねた。




「何してって…!思い出したんじゃねぇのか!?」

「何を……?」

「………」




しばしの沈黙。




「オレの名前は」

「!」




家康の言葉で呆然としていた三成が顔を上げた。






「"徳川 家康"…なんでしょ?」

「ああ……思い出したのはそんだけか?」


家康は俯いた。


「うん…それだけだけど。でもあと、徳川家康っていうのは昔、前世の名前とかじゃなくて、今でもオレの本当の名前なんだよね…?」

「ああ。そういう事だ。しかし、記憶が戻んねぇのはダリィな…」

「ごめん……」




家康は、自分の真の名を思い出した。



何故そうなのかわからない。

何故忘れたのかもわからない。




徳川家康。




自分の家系の先祖のものでしかなかった名前。


しかし、それが自分なのだ。




確かに、自分がかつて徳川 家康として生きていたとうにのはわかる。







でも、それ以外は何もわからない。


謎はたくさんあるのだが、それは事実だ。







「さーてどうするか」




三成は一息ついた。




「あ、ねえ!!さっきの鹿は…」




家康は助けた鹿のことを思い出した。




「ああ…。さっき手当しといた。もうどっか行った…」

「そ…。よかった……」


家康は心から安心したように、体の力が抜けた。




「……去って行くとき、さすがに近づかなかったけど、ちゃんとお前に振り返ってたぜ…」

「え?」

「助けてくれた奴だって、わかったんだろうな」

「………」




「あ、遅れたけどよ、俺は石田三成ミツナリだ。覚えてるか?」




しばし間が空いてから、三成ミツキ三成ミツナリは自己紹介した。






「石田三成……ああ!!」

「とりあえず今はそれだけでいい…。あとのことはこれから思い出せ…」




三成苦笑して言った。




「うん……」




初めて見た三成の笑った顔だった。





「まあとりあえず、最低限のことは歩きながら教えてやるよ」

「うん…お願い…


あとさ……」

「あんだよ」

「さっきからずっとあのへんに隠れてる人だれ?」




家康は、ある茂みの方向を指差した。




「!!」

「あれ?まだ…敵がいるとか!?」




確かに、家康が指差したところには誰かがいる。

だが今までの戦っていないときの家康からは、そんな気配を感じ取れるとは思えなくて、三成は少し驚いた。




「おい!主人も不審に思ってるぞ!そろそろ出て来たらどうだ」


家康が指差した茂みに向かって三成は呼び掛けた。







茂みから人が出て来た。



「だ、誰…?」

「多分オメェと仲のいい奴だろうよ」

「え?!オレと?!」


茂みから出て来たのは




、二人と同じぐらいの年の男子だった。




同じぐらい、と言っても二人は歳よりも大人っぽく見える。




背は家康よりも少し高い三成と同じくらいでで、髪は前髪を上げてオールバックにして眼鏡をかけている。


モデルにでもなれそうな人だ、と家康は思った。




その人が、どんどん自分たちに近付いて来る。




「俺がコイツに色々と説明する前に説明しろよ。

何で俺らを"見張って"た?」




(“見張ってた”?!どういうこと!?)


やっぱり、この人も敵?


と思っていたとき。



男子は家康の目の前に来て立ち止まった。



「あの、えーとなんでしょう…?」




背は家康より少し高いので、家康は見下ろされている。




ちらりと三成を見ると、鋭い目付きで男子を睨んでいた。


男子はいきなり家康の前で姿勢を屈め、膝をついた。



「!?はい?」



まるで姿勢は家康に従う、という姿勢に見えた。


「あ、あのえっと…」

「お探ししましたよ」


「はっ?」


「ようやく見つけました。家康様、どうぞ御命令を。

なんなりと」


頭を下げて、恭しく男子は言った。


「は、はぁ……?」


家康の頭に、疑問符ばかりが浮かぶ。


「な、何この人??」



助けを求めるつもりで三成を見た。




「………」




相変わらず三成は男子を睨んでいた。


(な、なんなのさぁ、もう〜!?)




家康は、内心、そう叫んでいた。







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