ドラゴンになった小鳥と魔法使い
ある日突然、ドラゴンになってしまった小さな小鳥がいました。
小鳥は、ずっと大きな鳥に憧れていました。
でも、いざ大きくなってみると、うれしいより先に、こわくなりました。
「こんなの、ちがう……」
小鳥はすぐに、小鳥に戻りたくなりました。
小鳥は、同じくらい小さな友達と遊ぶのが大好きでした。
でも今は、近づくことすらできません。翼を少し動かしただけで枝がざわめき、みんな逃げてしまう。
ただ隣に並んで、ぴよぴよ鳴いていたあの頃。
思い出すたび、目からぽろりと涙がこぼれます。
さびしい。
そう思っていた時――
「こんにちは」
帽子をかぶった人間が、森の奥から話しかけてきました。
この姿になってから、初めての「声」でした。
小鳥は驚いて、飛び去ろうとしてしまいます。
「待って!」
小鳥は恐る恐る振り返ります。
「ごめんね。驚かせるつもりはなかったんだ」
人間は帽子をとり、ひざを曲げて挨拶をしました。
「僕は魔法使いのステューシー。ドラゴンと話すのは、ずいぶん久しぶりだよ」
そう言われ、小鳥は戸惑いながらも口を開きました。
「わ、わたし……人間と話すの、はじめてよ。……って、あれ?
なんで、わたし人間の言葉が分かるんだろう」
「そりゃあ、君はドラゴンだからね?」
小鳥は、言葉の意味をつかめないまま、まばたきをしました。
喉の奥で、小さく息がひっかかる。
「……さっきから、その……“どらごん”って、なあに?」
ステューシーは一瞬きょとんとして――それから、しまった、という顔になります。
「え、ああ……そうか。君、自分のことが分かってないんだね」
小鳥はこくりとうなずきました。
大きな影みたいな自分の体が、急にこわくなる。
ステューシーは慌てて声をやわらげます。
「ドラゴンっていうのはね……すごく大きくて、強くて、昔話にも出てくる生きもののことだよ」
「……むかしばなし?」
「うん。火を吐いたり、空を飛んだり、宝物を守ったり……人が“こわい”って思うくらい、強い生きもの」
小鳥は小さく肩をすくめました。
「……こわい、の?」
「こわい、って言う人もいる。だけど」
ステューシーは小鳥の目を見て、言い直します。
「いま、ぼくの前にいる君は、こわくない。泣いてる」
小鳥は唇をきゅっと結びました。
「……じゃあ、なんで……わたしが、どらごん、なの?」
ステューシーは言葉を選びながら、そっと答えます。
「――いまの君の姿は、ドラゴンだよ。
でも、君が“君”じゃなくなったわけじゃない。大丈夫。君は君のままだよ」
小鳥は目を見開いて、それから、ほんの少しだけうつむきました。
「……まだ、小鳥……」
「うん」
ステューシーはうなずいて、手をひらきます。
「名前、ある?」
「……ピピ。みんなには、そう呼ばれてたの」
「ピピ。いい名前だね」
ステューシーの声は、森の葉っぱみたいにやわらかかった。
ピピは、こわごわと自分の体を見下ろします。
爪は、枝を折りそうなくらい大きい。
息を吐くたび、胸の奥があたたかい。――火、っていうのは、こういうこと?
「……ピピ」
「なに?」
「……わたし、もどれるの?」
ステューシーはすぐには答えませんでした。
けれど、目をそらさずに言います。
「戻す方法が、絶対にある、とは言えない。でも」
彼は一度だけ息を吸って、続けました。
「君がひとりで泣く必要はない。いっしょに確かめよう。できることを、ひとつずつ」
ピピの胸の奥の、冷たいところが、少しだけゆるみました。
それでも、森はまだこわい。友達のいた場所は、もっとこわい。
ステューシーは帽子をかぶり直し、立ち上がります。
「森の外へ行こうか」
「……そとの、ほうが、こわくないの?」
「こわいよ。でも、火がある。屋根がある。あたたかいスープがある」
「……すーぷ」
「うん。君の体が大きいなら、大きい器で飲めばいい」
ピピは、思わず小さく笑いそうになって、あわてて口を閉じました。
笑っていいのか、まだ分からない。
ステューシーは、当たり前みたいに手を差し出しました。
「いこう、ピピ」
ピピは、その手を見ました。
追い払わない手。こわがらない手。
大きな爪を、こわごわと伸ばして――指先だけ、ちょん、と触れます。
ステューシーはくすぐったそうに笑って、指を握りました。
「大丈夫。ゆっくりでいい」
二人は並んで、森の外へ向かいます。
遠く、見慣れない煙が細く立ちのぼっていました。
人の暮らしの匂いがする場所へ。




