表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR

ドラゴンになった小鳥と魔法使い

作者: 小説練習中です
掲載日:2026/05/22

ある日突然、ドラゴンになってしまった小さな小鳥がいました。


小鳥は、ずっと大きな鳥に憧れていました。


でも、いざ大きくなってみると、うれしいより先に、こわくなりました。


「こんなの、ちがう……」


小鳥はすぐに、小鳥に戻りたくなりました。


小鳥は、同じくらい小さな友達と遊ぶのが大好きでした。


でも今は、近づくことすらできません。翼を少し動かしただけで枝がざわめき、みんな逃げてしまう。


ただ隣に並んで、ぴよぴよ鳴いていたあの頃。


思い出すたび、目からぽろりと涙がこぼれます。


さびしい。


そう思っていた時――


「こんにちは」


帽子をかぶった人間が、森の奥から話しかけてきました。


この姿になってから、初めての「声」でした。


小鳥は驚いて、飛び去ろうとしてしまいます。


「待って!」


小鳥は恐る恐る振り返ります。


「ごめんね。驚かせるつもりはなかったんだ」


人間は帽子をとり、ひざを曲げて挨拶をしました。


「僕は魔法使いのステューシー。ドラゴンと話すのは、ずいぶん久しぶりだよ」


そう言われ、小鳥は戸惑いながらも口を開きました。


「わ、わたし……人間と話すの、はじめてよ。……って、あれ?


なんで、わたし人間の言葉が分かるんだろう」


「そりゃあ、君はドラゴンだからね?」


小鳥は、言葉の意味をつかめないまま、まばたきをしました。


喉の奥で、小さく息がひっかかる。


「……さっきから、その……“どらごん”って、なあに?」


ステューシーは一瞬きょとんとして――それから、しまった、という顔になります。


「え、ああ……そうか。君、自分のことが分かってないんだね」


小鳥はこくりとうなずきました。


大きな影みたいな自分の体が、急にこわくなる。


ステューシーは慌てて声をやわらげます。


「ドラゴンっていうのはね……すごく大きくて、強くて、昔話にも出てくる生きもののことだよ」


「……むかしばなし?」


「うん。火を吐いたり、空を飛んだり、宝物を守ったり……人が“こわい”って思うくらい、強い生きもの」


小鳥は小さく肩をすくめました。


「……こわい、の?」


「こわい、って言う人もいる。だけど」


ステューシーは小鳥の目を見て、言い直します。


「いま、ぼくの前にいる君は、こわくない。泣いてる」


小鳥は唇をきゅっと結びました。


「……じゃあ、なんで……わたしが、どらごん、なの?」


ステューシーは言葉を選びながら、そっと答えます。


「――いまの君の姿は、ドラゴンだよ。


でも、君が“君”じゃなくなったわけじゃない。大丈夫。君は君のままだよ」


小鳥は目を見開いて、それから、ほんの少しだけうつむきました。


「……まだ、小鳥……」


「うん」


ステューシーはうなずいて、手をひらきます。


「名前、ある?」


「……ピピ。みんなには、そう呼ばれてたの」


「ピピ。いい名前だね」


ステューシーの声は、森の葉っぱみたいにやわらかかった。


ピピは、こわごわと自分の体を見下ろします。


爪は、枝を折りそうなくらい大きい。


息を吐くたび、胸の奥があたたかい。――火、っていうのは、こういうこと?


「……ピピ」


「なに?」


「……わたし、もどれるの?」


ステューシーはすぐには答えませんでした。


けれど、目をそらさずに言います。


「戻す方法が、絶対にある、とは言えない。でも」


彼は一度だけ息を吸って、続けました。


「君がひとりで泣く必要はない。いっしょに確かめよう。できることを、ひとつずつ」


ピピの胸の奥の、冷たいところが、少しだけゆるみました。


それでも、森はまだこわい。友達のいた場所は、もっとこわい。


ステューシーは帽子をかぶり直し、立ち上がります。


「森の外へ行こうか」


「……そとの、ほうが、こわくないの?」


「こわいよ。でも、火がある。屋根がある。あたたかいスープがある」


「……すーぷ」


「うん。君の体が大きいなら、大きい器で飲めばいい」


ピピは、思わず小さく笑いそうになって、あわてて口を閉じました。


笑っていいのか、まだ分からない。


ステューシーは、当たり前みたいに手を差し出しました。


「いこう、ピピ」


ピピは、その手を見ました。


追い払わない手。こわがらない手。


大きな爪を、こわごわと伸ばして――指先だけ、ちょん、と触れます。


ステューシーはくすぐったそうに笑って、指を握りました。


「大丈夫。ゆっくりでいい」


二人は並んで、森の外へ向かいます。


遠く、見慣れない煙が細く立ちのぼっていました。


人の暮らしの匂いがする場所へ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ