チン・コパンしかないパン屋
街の小さなパン屋さん。OLたちが人気のパンを全部買ってしまったあとのパン屋は、売れ残りの、ちんちんみたいな形をしたパンしかありません。
急げ!OLより早く!!
「あら、お嬢ちゃん、パンを買いに来たの?もうそろそろ閉めようかと思ったところだけどねえ」
パン屋のおばあさんは、小さな女の子にこう話しかけました。
街のパン屋さんの夕暮れです。
女の子が「食パンをください」と言うと、おばあさんはこう言いました。
「この時間帯はね。人気のあるパンはOLが全部買った後で、売り切れてて、変なパンしかないよ。チンチンの形をしたパンしかないよ」
女の子は、何も言わずに店を出ていきました。
その背中ごしに「お昼前とかに来てくれたら、いろんなパンがあるんだけどねえ」とおばあさんは声をかけました。
次の日です。
「あら、お嬢ちゃん、また来てくれたんだねえ。今は、お昼の二時半か。もうねー、OLたちが人気のパンは全部買っていくから、今は変なパンしか残ってないよ。チンチンの形をしたパンしかないよ」
そうおばあさんが言うと、また女の子は何も言わずに帰っていきました。
おばあさんは背中越しに「お昼前とかなら、色んなパンがあるんだけどね」と声をかけました。
次の日です。
「お嬢ちゃん、今は12時半だね。早く来てくれたけど、さっきOLたちが人気のパンを買っていったから、今は変なパンしかないよ。チンチンの形をしたパンしかないんだよ」
女の子は、黙ってうつむきました。
そして、また手ぶらで帰ろうとしました。
「午前中においで!!色んな美味しいパンがあるよ!!OLが買ってしまう前においで!!」
次の日です。
「あらお嬢ちゃん、10時半に来てくれるなんて、早いねえ。でも、いつもはこんなことないんだけど、OLが人気のパンを全部買っていってしまったんだよ。
今は、変なパンしか置いてないよ。チンチンの形をしたパンしか置いてないんだよ」
女の子は、首を傾げたあと、帰りました。
「基本的には午前中にきたら、美味しいパンがたくさんあるよ!!OLが買ってしまう前にね!!」
次のひーっひっひっひっひ。
「あら、お嬢ちゃん、店をあけた途端に来てくれたんだね。朝の7時から来てくれるなんて元気だねえ。しかし、いつもはこんなことないんだけどねえ。今日は朝の五時に1人のOLがシャッターをドンドンと叩いてねえ。美味しそうな焼きたてパンを全部二倍の値段で買っていったんだよ。
だから、こんな時間に来られても、今は変なパンしか置いてないよ。チンチンの形をしたパンしか」
女の子はこの店にきてから初めて口を開きました。
「いつなら普通のパンあるねん」
おばあさんは、目を細めてうっとりした表情で言いました。
「そうだよねえ。美味しいパンを食べたいよねえ。フカフカの、手で裂くと、豊かな小麦の香りが鼻腔をくすぐるようなやつね」
女の子は、イライラした様子で
「そんな高い次元のこと求めてないねん。普通のパンもないやないか。この店。変なパンばっかり」
「そうだよねえ。OLが買ってしまうからねー。お嬢ちゃんは、美味しいパンを食べたいよねえ」
「違うねん。美味しいパンって言うな。普通のパンを見たことないねん。この店で。味とか求めてない。まず、普通のパンがないねん。チンコみたいなパンばっかり置きやがって」
おばあさんは、背筋を伸ばしました。この子を子供として喋りかけてはいけない、と悟ったような表情でこう言いました。
「ごめんねえ。天然酵母で、無添加な、美味しい美味しいパンは、OLが買っていくからねえ。今は、変なパンしかないんだよ。添加物まみれの、チンチンの形したパンしかねえ」
女の子は、パンの棚を蹴りました。
「なんで、そんなに会話でけへんねん。普通のパンも見たことないねん。この店で!!!それなのに、なんで天然酵母とか、無添加とか、かっこつけるねん!!!」
おばあさんは、その激しい怒りを見て、ハッと息を呑みました。
そして、やっとこう言いました。
「普通のパンすら置いてないと、言いたいわけだね?」
女の子は、一瞬我慢しましたが、プッと笑ってしまいました。
しかし、すぐに怒った表情に戻りました。
「そうや!なんでこんな伝わるのに時間かかるねん。ほんで、なんで無添加にこだわって他のパン焼いてるのに、チンコのパンだけ添加物入れるねん!!
そういうのこだわる店は、全部のパンを無添加にするやろ!!!!!!」
「お嬢ちゃん、ごめんね。もう、どれだけ怒ろうとも、この店には、今、変なパンしかないんだよ」
「変なパンって自分で言うてもうてるやないか!いつも!!分かってたら、変なパンを焼くな!!その分を普通のパンを焼け!!
いつも売り切れてるやないか!!!お前の言うことを信じるとすれば、OLが買い占めたあと、お前、チンコのパンに埋もれて閉店時間まで何してんねん!!誰も買わへんのに!こんな気持ち悪いパン!!!」
女の子は、怒って出ていきました。
おばあさんはその背中に向かって声をかけました。
「チンチンのパンを添加物まみれにしてるのは、チンチンは危険だという意味を込めて!!男には気をつけなさいよ!という意味を込めて、そうしてるんだよ!!!!いつか君も恋をする!!!!!そして、ひどい男に捕まることもあるだろう!!!
その時に、このパン屋のババアのことを、思い出せ!!!
『あのチンチンみたいなパンに、添加物を入れていたのは!そういう意味だったのか!』と!!!」
次のひーっひっひっひっ!!!!いーっひっひっひっひっ!!!!あーっはっはっはっはああああ!!!
こいつあ、いいやあ!!いーっひっひっひっひっひぃ!!!!!!
「あら、いつもありがとうねえ。また全部買ってくれるのかい?もう計算しといたからね。はい、この金額だよ」
おばあさんがそう言うと、OLは「ここのパンは、無添加で本当に美味しくて、身体も喜ぶ感じがします」と微笑みました。
「たまには、どうだい?この変なパンも?」とおばあさんが指で指し示すと、OLは「いえ、もう男の人はこりごりです」と答え、パンを全部買って帰りました。
その10分後、OLの妹がやってきました。
おばあさんはいつものようにこう言いました。
「あら、お嬢ちゃん、また来たんだね。もう人気のパンは全部OLが買い占めてしまって。もう変なパンしかないよ」
女の子は答えました。
「お前、『いつか君も恋をする』って二度と言うなよ。腹立って、昨日寝られへんかった】
夕暮れは、街のパン屋さんをいつものように赤く染めています。
平和な平和な街並みでしたとさ。
おしまい。
芸人、ネタ作家、短編小説家。“理系の変な奴”は自分で髪の毛を切ります。それが私。ついでの用事が二個ないとお墓参りに行かないです。
Twitter、noteなど色々やってます。




