三段 薔薇門署決闘
ノックなしで薔薇門署に入った。
背の低い若者が金色の髪を揺らし、北方風の鮮やかな制服の埃を払い、軽く会釈した。鵜崎は盆を持ったまま凍りつき、お九龍は本能的に背筋を伸ばし、回は珍しく一言も発しなかった。鷽の如き媚を含んだ囀りのような声で、若者は言った。
「ご機嫌よう、諸君。百合一文字市より、警視庁所属、玄澤と申します。法の執行者たる者の名誉を汚す、ある微妙な事件の調査を命じられまして。」
玄澤が何の用で来たのか聞き取れぬうちに、お九龍が彼の前に飛び出し、回を遮るように立ちはだかった。彼の目はある種の熱意で輝いており、これが良からぬ結果を招くことは明らかだった。
お九龍は轟くように言った。
「玄澤殿! 同郷の者、歌川お九龍に、おれたちが最も秘匿された技をお見せすることをお許しください! これがあれば、おれたちをお頼りに出来るぜ!」
若者は青い着物を着た大男を見つめ、目を見開いた。何か言おうとしたが、喉に何かが詰まったようだった。お九龍自身も彼に一言も言わせず、稲妻よりも速く手を回し、何かの勝利のジェスチャーのようなものを披露した。
「二二が四!!!」
鵜崎は盆を床に置き、激しく鼓動する胸に手を当てた。彼女のことを意識的な人生を通して夢見てきた男から、彼女はこんなことは期待していなかった。回は内心で鼻を鳴らしたが、何も言わなかった。代わりに何かぶつぶつ独り言を言い、その場を去った。
何も疑わぬお九龍は、哀れな警視への“超攻撃”を続けた。
「五五二十五! 六六三十六、七七四十七……!」
「――四十九だよ!!!」
と、誰かのより高い声が唸り、その声が聞こえた同じ場所から、お九龍が縁側に置いていた彼自身の草履が彼の顔に向かって飛んできた。
顔を擦りながら、青い着物の向こう見ずは脇へ下がった。鵜崎が駆け寄り、彼の空いた腕に両手でしがみついた。玄澤は内心そっと息を吐き、
「やっと、黙ったな……」
と思った。そして、ちょうどそう思った時に……
「友の無礼、深くお詫び申し上げます。」
赤い着物に赤毛と顎鬚のより背の高い男が、若者に近づきながら言った。
「有能ではあるが、時折、俺自身が彼と一緒にどうして気が狂わないか疑問に思うほどの大馬鹿者振りを発揮するもので。」
玄澤は臆せずに首を振った。
「いえ、何でも……そちらが此処の長で?」
男は肩をすくめ、友好的な笑みで肯いた。
「あいよ。花中嶋チョウジ、薔薇門署の犯罪対策主任。」
「玄澤、百合一文字市よりの警視。ちょうど花中嶋さまにお会いしたく。」
チョウジは首をかしげ、注意を傾けていることを示した。玄澤は鞄から新聞を取り出し、広げた。
「ほら、花中嶋さまとその相棒を、誰かが卑猥な戯画に描いております。そして怪しげな条件を添えて、さらに十人がこの新聞を購読すれば、事態はさらに進展すると。」
玄澤が広げた新聞には、その戯画が載っていた――
そこでは、チョウジが裸の上半身で、胸を胸に、お九龍に押し付けられていた。お九龍は彼の着物を脱ぎ切れぬうちに、指揮官を切なげに見つめている。傷跡だらけの荒い手が相棒を壁に押し付けている。
二人の男の荒い息遣いが聞こえてきそうだった――チョウジの呼吸は長い走りの後のようで、お九龍の呼吸は洞窟全体に響く覚醒する龍の咆哮のようだった。
後ろに立っていた竹之助は黒い留袖の袖をまくり、新聞を手に取った。そりゃあね、と口笛を吹きながら、チョウジに言った。
「時々人の想像力ってすんごいね……。何であんたと歌川が結びつけられるのかな……かな……」
「そう、そう。僕が『お九龍は俺ん我が儘にきちんと従わずにくだらない事に対して厳罰を受ける』と云う時、その戯画に描いてあったあんな奴とは全然違う!」
「命令、だとおっしゃいましたか……」
と玄澤はそっと聞き返すと、
「いいや、我が儘じゃよ。」
と花中嶋は首を振った。こうして、北方の警視は黙って後頭部を掻いたが、続けた。
「花中嶋さま、この件の調査に私と共に当たっていただけますか。」
「勿論。どうされたいか、警視さん。」
「誰が描いたかは、現時点では分かりません。だが、それを明らかにするつもりです――そして、そちらの助けがあればと思いまして。」
これから、玄澤はチョウジと竹之助にお辞儀をした。チョウジは敬礼を返し、竹之助は留袖の裾を摘まんで、一種の跪礼のようなものを作った。
薔薇門は今日、可能な限り活気に満ちていた。
人々は着物姿で穏やかに通りを歩き、誰かが歌い、誰かが捨てられた十二単を踏み、夜着姿の少女がポルカを踊りながら通り全体に「知りたい、知りたい、知りたい――愛の呪文は!」等と歌っていた。太陽は輝き、鳥は咲き、花は囀り、夢遊病者たちは草地に倒れ……
そして、一面に天狗のドレス姿が描かれた新聞を置いた女は言った。
「さて、ここで全く別のコントを……請願書を持つお方様です。」
彼女は手に紙の束を持ったお九龍に肯いた。お九龍は回と鵜崎に、通り過ぎる人々の後を追わせた。山高帽を被った立派な紳士の肩を叩くと、彼は束を差し出して尋ねた。
「お請願書に署名せーんかい?」
紳士は英語でお九龍に離れるよう求めたが、鵜崎はただ肩をすくめた。
「ただ少々お待ちいただけますよう、お願いしただけかと存じます。もしかすると、おペンをお忘れになったのでは……?」
「鋭いぜ、鵜崎。」
とお九龍は彼女にウインクし、新聞を取り、最後から二番目の頁を開いた。
彼に声を掛けられた回は内心で舌打ちし、目を白黒させたが、新聞を受け取った。頁には、目を白黒させ、舌を出しているお九龍が描かれ、チョウジの荒い手が後ろから彼の首を絞めていた。横の文字は、さらに二十の購読と今では五枚の小判についての新たな申し出について述べていた。
回は独り言を呟くと、
「首を絞められるってそんなに気にするとは思わなかったぜ……」
鵜崎は口を手で押さえ、内心で鼻を鳴らした。お九龍は歯を剥き出し、彼から後退りながら、
「そん冗談、一番きめーんだよ……」
「だが、これが俺の唯一の台詞だ!」
回は叫び、子供たちが森で騎士ごっこに使うために拾うような棒を鞘から引き抜いた。
其処を通り過ぎた若い親王は、回の手にある棒を見つめ、そして――バシッ!――張り扇で彼の頭を叩いた。優雅そうな巫女は低身長の男を指差し、大きな声で嗤った。
玄澤は自身の額を手で叩き、ちょうど通り過ぎた睦海彦に駆け寄った。彼は制服のポケットから取り出した徽章――太陽か菊か分からない背景に金色の百合の花――を見せた。
「百合一文字市より、警視庁所属、玄澤です。少々お尋ねしたい事が……」
親王は肯き、若き警視を信頼して、
「茨宮睦海彦親王。ご用命を。」
玄澤は徽章をポケットに戻し、別のポケットから鉛筆付きの手帳を取り出した。
「さて、睦海彦様は『薔薇門有頂天新聞』をお読みになりますか。」
「ああ、時々。」
「その新聞が約束する“真実しか存在しない物”を得られたことは?」
と玄澤は訊くと、親王は後頭部を掻いた後、
「どれどれ……。『チーズ好きの鼠のための百の秘訣』とか『三十日で人参を育てる方法』とか『武士の名誉規律で痩せる方法』とか『五分で筋肉をつける方法』とか『平安期の貴族の未解決スキャンダル』とか『家庭で手近な材料から化粧品を作る方法』とか『妖精になる方法』とか『聚斂尼の予言』とか……そして『財政的投資なしであなたを誰も信じなかったがあなたは頂点に達し、今やあなたは自身の俳句とせいぜい五人ほどの購読者を持つ雑誌で王になるだろうという俳句を書く方法』とか読んでいて……それと数独と地口欄もあったかね。」
警視は挙げられた全ての記事のタイトルを書き留めながら推測した。
「では、未知の画家による薔薇門犯罪対策部隊の歌川と花中嶋を毒性のある関係を実践するように描いた戯画に出くわされた事は? どうお感じになりますか、睦海彦様。」
「彼らを知らんだけど、そうしたいから好きにさせておけば?」
「でもそれが問題で……」
と玄澤は訊こうとするが、親王は跡形もなく消えていた。そしてただ内心そっと息を吐き、手帳とペンをポケットにしまった。
「まあ、少なくとも一人は尋問出来た。……これで上出来、玄澤。」
親王が挙げた記事のタイトルを聞いた花中嶋チョウジは静かな恐怖に襲われた。竹之助が彼の考えを声にした。
「……マジであんな出鱈目エ印刷しとんの!?」
その間――お九龍、鵜崎、回は他の通行人の処へ走った。長く歩いたか短く歩いたか――曲馬団の大力士の処に辿り着いた。大力士は赤い半纏とダブダブの袴に着替え終え、その後タオルで顔を拭い、手で肩までの髪を乱していた。
お九龍は素早くお辞儀をし、新聞を差し出した。
「お前、この新聞を読んだのか?」
が、大力士は逆に尋ねると。
「……誰そ。まず名乗れイ。」
お九龍は神経質に目を走らせながら、何か一言でも絞り出そうとした。額に冷や汗がにじみ、新聞を持った手が震えてきた。幸い、鵜崎が前に飛び出し、大力士の前に跪いて窮地を脱した。
「あたしたち、薔薇門署の者でございます、旦那さま!」
大力士は好奇心に満ちた目で首をかしげた。
「警察か。もし警察なら、喜んでお手伝いするよ。今回は何ぞ。」
鵜崎は内心喜び、殆んど得意げな笑みで顔を歪めそうになった。床から立ち上がり、着物の埃を払うと、彼女はお九龍の手から新聞を受け取り、説明を始めた。お九龍が適切な言葉なく少女に反論する前に、
「実はあたしたちの新聞に、大変ご不愉快な絵が紛れ込んでしまいましたのです。あの……こちら、髪が少し乱れていらっしゃいます方、ご覧いただけますでしょうか?」
「あの顎鬚の男も見えるけど……」
「ええ……このお方が、あたしの……お約束をさせていただいている方でございます。いえ、つまり、髪が乱れていらっしゃる方があたしの大切な方で、顎鬚のお方がその方の……おっと、うっかり……失礼いたしました――その方はあたしの友人でございます。そして、この友人が、その方の……あら……つまり、あたしの大切な方を……! そう、あたしの方を……それで、その方があたしの大切な方のお首を絞めておいでで、その方の友人が……つまり、あたしの友人でもいらっしゃいます、顎鬚の男の方……で、その方はどうやって……」
「――私が見てみようか?」
と男は眉をひそめ、手を差し出し、鵜崎に新聞を渡すよう合図した。が、鵜崎は、適切な言葉を選べずに詰まっていた時と同じ声で言い、大力士の手を叩いた……
「いやよ、助け平。」
残念――鵜崎は大力士を叩いたその手を振り、彼の重い手について何か妙な音を立てた――まるでこのうっかりさんが知らなかったかのように。謝罪の鼻息を漏らし、大力士は新聞を受け取り、少女が説明しようとしていたあの絵が載っている頁を開いた。そして、お九龍はこの機を利用し、大力士を指差して叫んだ。
「こら、此奴が犯人だ!」
大力士はお九龍を馬鹿のように見つめた。
「どうしたんだい、急に。」
が、お九龍は噛みつき、木刀でテーブルを叩いた。
「どうしたもこうしたもねーんだよ、のっぽ野郎! てめーに不利なとても良い証拠がある! このクソ変態老いぼれ……すぐ刑務所行き!!!」
今や大力士だけでなく――他の一座の者たちもお九龍を馬鹿のように見つめた。猫虫に林檎を食べさせていた女が反論した。
「アンタが自分で彼に新聞を手渡したんじゃね!」
「知らねーよ、おれが野郎を逮捕する。鈍いガチムチ野郎が刑務所でどうなるか、知らせてやる。刑務所じゃあんな奴らがとても好かれるんだぜ……」
そして彼が新聞に手を伸ばそうとした時――
「――ストップ!」
チョウジの声が響き、お九龍と他の者たちの後ろに入ってきた。一緒に走っていた竹之助は鵜崎を見つめ、不満そうに腕を組んだ。
「こん冗談は最低だ、止めるのだ!」
「だが……おれは犯人を見つけたんじゃねーか!」
お九龍は言い逃れようとしたが、チョウジは彼を蹴り飛ばされて追い払った。その後、竹之助は一座に向き合った。
「同僚たちの無礼、お許しください、皆様方。僕達はお客様の依頼による特別調査を進めていると申し上げたかったのです。ある戯画家が、あの青い着物の安本丹のオタンコナスと、ここに来たこの赤い着物の豪傑の奇妙な絵を描いておる。」
「ありがとう、スイートハート。」
とチョウジは肯き、竹之助の黒髪を撫でた。そして続けて、同じ一座に向き合って、
「俺を恐れる必要無し。俺は花中嶋チョウジ、犯罪対策主任。」
猫虫は飼い主を見つめ、何か鳴いた、まるで彼女を「ママ」と呼んでいるようだった。女は珍獣の顎の下を掻き、愛らしく微笑んだが、その後より皮肉な表情でチョウジを見つめた。
「うちらね、そちらん相棒が何をしたか、気づいておるっすよ、セニョール花中嶋……」
大力士は眉をひそめながら彼に肯いた。チョウジは冷静に首を振り、彼らから数尺離れて立っているお九龍を指差した。
「彼奴等ア知らへん。」
この発言に、お九龍も回も鵜崎も地面に倒れた。
竹之助はその三人を無視し、一座の視野外の誰かを手招きした――そしてチョウジに金色の髪の美しい警視が近づき、徽章を見せた。
「百合一文字市より、玄澤。この件で薔薇門署に助けを請うたのは私です。これらの戯画が法の執行者を否定的な光で描く危険があると恐れて。」
一座は長い音を出し、全て理解した事を示し、互いに話し始めた。一座の大力士は北西を指差し、
「我々の相棒に鹿島灘と云う知り合いが一人いて、彼女はいつもあんな卑猥な内容の戯画で彼を悩ませていたかな。」
と云い、猫虫の女が続けて、
「かのぴっぴは完成した戯画を全て、手直しを手伝ってくれと頼んで渡したんだ。うちはロマンスに豊富な経験を持つ女だから、誰も何も気づかないような目立たないヒントを出すことにした。」
女が話し続ける間、猫虫は彼女の首の周りに生きたマフラーのように巻きつき、「ママ」の頬に顔をこすりつけ始めた。
玄澤は全てを書き留め、彼らに肯き、お辞儀をした。
「感謝します、ご一同。大変助かりました。」
去り行く一行に、大力士は手を振り、特にチョウジに呼びかけた。
「オイ、花中嶋、任務の後で一度俺と相撲を取るのは如何だ?」
「良かろう!」
とチョウジは手を振り返し、竹之助と玄澤と共に彼が指し示した方向へ走った。お九龍は、鵜崎に手を引かれた回の後ろで、最後尾を走っていた。
一面に天狗のドレス姿が載った号を持っていたあの女が通り過ぎた。彼女は隊を見つめ、次に一座を見つめ、
「楽しかったわね。さて、ここで全く別のコントを……請願書を持つお方様です!」
「もうやったよ!」
と一座は声を揃えて、
「ま、いいわ……」
と女性は肩を竦めた。そして髪型を整え、自身を正して、
「はい、ここで全く別のコントを。新世紀人間ドラマ『一歩と誰にでも必要とされる』。はい、どうぞ!」
東亰、平成某年。
黒白のセーラー服を着たおかっぱの少女は、足元の世界に悲しげに目をやった。車が活発に走り、人々が歩き、おしゃべりしていた――街は自らの生を生きていた。背後の柵がゆっくりと彼女を自由にし、彼女は鳥のように空へ舞い上がり始めた。目を閉じると、彼女は頬に冷たい空気を吹き付ける風を感じた。
「一歩……」
フラッシュの後、空は緑のスクリーンに変わり、少女は学校の教師たちが通常行くなと云う屋上に似た低い建物から降りた。それから彼女は校庭の、草にオレンジ色の塗料が撒かれた場所――オレンジ味のチェリオを思わせる色――に歩み寄り、そこに顔を伏せて横たわった。
「……と、ショックサイトのスターになる。」
再び、フラッシュ――
校長は門に出ようとしたが、少女に気づき、彼女に駆け寄った。彼の目は見開かれ、彼女の肩を揺さぶり、震える声で彼女を呼びながら、
「おっと、大丈夫か? き、救急車……ちょっと救急車を呼ぶか……?」
「平気、平気!」
少女は嬉しそうに答え、右手を上げ、人差し指と中指を広げて承認のジェスチャーを校長に見せた。
女性は鼻を鳴らし、同じ新聞のその戯画の載った号を最後までめくった。
「こんなのを忘れて……さて、ここで全く別のコントを――男性愛への病的な情熱を試みる戯画家のスキャンダラスな神秘劇。」
それは有り難い……
で、花中島チョウジ、十竹之助、警視玄澤とその他は、一座の言葉によれば戯画家鹿島灘が住んでいた区画にたどり着いた。彼女が住んでいた場所は――改善を必要としておった。家の周りは誰も掃除していないようだった……
引き戸は拳で破られたようで、その上の紙が破れ、大きな穴を残していた。壁には引っかき傷がついていた。爪のある獣が通り過ぎ、建物で暴れようとしたが、住民には触れまいとしたかのよう。屋根の茅が落ちていた――今でも茅の茎が屋根からゆっくりと滑り落ち、鼓草の綿毛のように、風に運ばれたり、舞うように地面に落ちたりしていた。
玄澤は深く息を吸い、内心肯いた。確信に満ちた足取りで、彼は英雄のように家に入り、既に彼の声が聞こえてきた。
「百合一文字市より、警視庁所属、玄澤。鹿島灘様、法の秩序を守る者の名誉毀損の嫌疑で御用です。どうぞ、私とお越しください。」
チョウジと竹之助は互いを見つめ合った。竹之助は肩を竦めた。
約一分後、玄澤は隊に戻った。鵜崎、お九龍、回も何を云うべきか分からず、況してや何をすべきか分からず、互いを見つめ合った。チョウジはついに尋ねた、警視の袖の折り目を直しながら、
「……如何。」
玄澤は何も隠さず、不満げに鼻を鳴らした。
「追い返された。余計なお世話、と。私は調査していると云ったが、聴くこともしない。そちらとあの奇妙な相棒を守りたいと云ったのに。」
竹之助は控えめに驚いて聞き返した。
「まさか追い返したの、彼女は? 良心の呵責なく追い返した……あのデンジャラスな呪言に……」
「何だよ、そのデンジャラスって言葉? ……が、まさにその通り。」
チョウジは拳で破られたようなドアの穴を通して家の廊下を見つめた。不満げに何か唸り、ドアを開け、警視に云った。
「なら俺に任せてください。セクシーコマンドーで――このあのお転婆娘を簡単に白状させますかな。」
玄澤は肯き、手を振ろうとした、もう好きにしろ、と云おうとした……が、聞き慣れない「セクシーコマンドー」に気づき、彼は首を振り、目を見開いてチョウジを見つめた。
「何のコマンドー?」
竹之助は若者の肩をポンと叩いた。
「ただ彼を信じて、玄澤さん。僕のチョウジは、皆んなを驚かせるように何とかするから。」
警視は不確かに肯き、チョウジと竹之助を見送りながら数歩後退した。約五秒が過ぐと、玄澤はやはり二人が何をするのかとても好奇心を唆られてから彼は中へ走った。
そして鵜崎、お九龍、回がそれぞれ自分の思考から離れ、家を見つめた時……
「まあ、どちらに?」
鵜崎が突然尋ねた、首を左右に振りながら。
そう、彼らは今やっと気づいた。チョウジも竹之助も警視も跡形もなく消えていた。まったくこの愚人たち。
……と、竹之助は膝の上の小さなテーブルに座っている少女を指差した。彼女は男の子のような乱れた髪型をしており、髪は燻る炭の色で、着物は緑で継ぎだらけ、帯の代わりに縄が結ばれていた。彼女の前のテーブルには二つの山の紙が置かれていた――より小さな山は白紙で、もう一つの山の紙は全てあのスキャンダラスな絵で埋められていた。
鹿島灘は独り言を呟いた。
「そうだ、そうだ……男同士にもっとドラマを! ……彼奴らが近所の食堂で会ったあの韓国人のイケメンたちのようじゃないのは残念だけど……でも無いよりはマシだ!」
チョウジは何か口笛を吹きながら、背中越しにちらりと見た。彼と竹之助の後を走ってきた玄澤は、全て大丈夫で、邪魔しないというジェスチャーを見せた。念のため。
そしてチョウジは絵の山に手を置いて、
「あなたが戯画家の鹿島灘さんですか。あなたの絵が『薔薇門有頂天新聞』に載っているか。」
鹿島灘は絵の紙から目を離した――そして彼女の息が止まったようだった。当然だ、自分がそんな絵を描いている相手に実際に会うのだから……
「あ……あなたはあの……花中……何だっけ……?」
玄澤は竹之助の背中に隠れ、何か不安げに呟き、神経質に制服の襟を直した。竹之助もまた、自分の大柄な彼氏を少し緊張して見つめていたが、それでも勇気を振り絞って警視に云った。
「安心……チョウジが今、この相手にセクシーコマンドーを使うから……」
が、云い終える前にチョウジは鹿島灘の絵の一枚を取り、友好的に笑いながら、
「こんなの描かないでくれんか。これらの絵は何か間違ってる、俺と相棒を怪しい風に描いてる。」
「あ、いいわよ。」
鹿島灘は肯き、筆をテーブルに置くと、竹之助と警視玄澤は十秒か十五秒、何を云うべきか分からず、その場に立っていた。
しばらくして、竹之助は我に返り、額を手で叩き、絵の山に走り寄った。
「これはちょっと没収するから。」
鹿島灘は神経質に唾を飲み込んだが、何もしなかった。ただ手を振り、没収を許可した。チョウジは玄澤を呼び、三人は戯画家の家を出た。
が、チョウジは走って戻り、彼女に少しお金を渡した。
「これ、俺から紙の代償が要れば。」
「ありがとう。」
と鹿島灘は肯いた。
署への道中、玄澤は訊く事にした。
「処で、あれは……君のあの何だ。私は何か真剣な戦いか、そんな類のものを期待していた。」
チョウジは笑い、赤い顎鬚を手で撫でた。
「そりゃ、やって来て、ただ礼儀正しく頼む事。十中八九上手く行ける。残りは――もし相手が刀を持った狂人なら、だから。」
傍を歩いていた竹之助は首を振ったが、彼女の目には慣れ親しんだ寛容な優しさが輝いていた。
「彼はいつもそうだし。カリスマと率直さは時間と労力を節約すると云う。」
と、彼女はチョウジを一瞥し、
「時には、彼にもう少し形式張った事をして欲しいと思うけどね。」
玄澤は黙って肯き、まだ起こった事を消化していた。待ち伏せや尋問のある複雑な作戦として期待していた調査は、一つの礼儀正しい頼み事で終わった。彼は軽い失望を感じた、安堵と混ざって。
竹之助は、山から最も「劇的な」絵を取り、注意深く調べた。
「と云う訳で、あの鹿島灘はお九龍を実際より可愛く描いとるね。」
翌日、薔薇門署には珍しい平穏が訪れた。お九龍は鵜崎が入れた茶をすすりながら、チョウジと竹之助が書類を整理するのを見つめ、回に九九の確認をさせようとしていた。
しかし、書類の中に、警視玄澤が残したメモが紛れ込んでいた。チョウジが手に取り、まさに読もうとした時、鵜崎が尋ねた。
「そういえば……玄澤さまは――玄澤さまは、どちらへいらっしゃいましたの?」
「彼がちょうどメモを残してくれた。今読むから。」
其処にはこう書かれていた――
『前略、
花中嶋さま、あの……そちらのあの何かに……ただただ驚かされました。そんな風に皆を混乱させる事、そちらにしか出来ないでしょう。そちらと一緒では、確かに退屈することはありません、これからもそう続くなら。
そして、私がどこに、どこへ行ったか尋ねたがっているなら……私は百合一文字市へ帰りました。どうあれ、私はそこで働いていますから。しかしそちらと仲間たちとは楽しかった。
そちらとの再会をとても楽しみにしております。
――百合一文字市署より 警視 玄澤
恐々謹言』
一瞬、署に沈黙が訪れた。
チョウジはただ内心そっと咳払いをし、メモを折りたたんだ。彼の視線が突然遠くを見つめた。竹之助はそれに気づき、
「何を見てるの。」
チョウジは応えて軽い笑みで手を振った。
「別に。ただ心の中で、あの警視に幸運を祈っているだけ。彼は良い奴だぜ――女の子の心にどのように印象づけるか誤解した傲慢な煩わしい奴じゃなく、本当に普通の、退屈しない奴だ。」
「つまり、もう彼と自分であの戯画を描けばいいと?」
と彼女は歯を見せて冗談を云ったが、
「否や。」
お九龍は彼の長であり友に肯き、手を上げ、拳を握りしめた、全てが順調以上であることを示すジェスチャーのように。鵜崎はお九龍に近づき、彼の肩に寄りかかった。回は――回は彼はただ肩を竦め、鼻を鳴らした。しかし三人とも、今日の件についての結論を口にした。
「俺たちは何も学ばなかったぜ!」
「……だそうだ。」
チョウジと竹之助は内心で鼻を鳴らした。
そして、彼らの考えが一致したことに気づき、彼らは互いを見つめ合った――眼の煌めき、想いの嵐、狂わす程……
……とは云え、此処でドラマを起こす必要ないと思うから、彼らが互いを見つめ合ったように、また背を向け、馬鹿げた笑みで肩をもう一度竦めたけど。




